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試験前夜

 薙いだ刀がサイの側頭部に迫る。

 腰をかがめ、ギリギリのところで躱し、そのまま懐に潜り込もうとするが、ハクバの踏みつけるような前蹴りが迫っていた。

 両手の刀でそれを受けつつ、後ろに転がりながら勢いを殺し立ち上がるが、その行動すら予測していたのか、ハクバはぐんと距離を詰め、大きく踏み込みつつ、刀を振り下ろす。

 完全に殺す勢いだ。

 竹刀ならまだしも、今回使っているのは、刀身の八割が斐綾鉱(マダイト)で構成された強度と重みのある特殊な刀剣『斐釼(マギ)』である。

 而術(リュニ)を使うのを前提に刀剣のため、斬るということには向かないものであるが、何の防護もなく生身に受ければ当然内部にまで深い傷を負うような代物、頭部であれば骨ごと脳を叩き割れるだろう。

 そんな危険な武器でハクバはサイに躊躇なく振るってくる。

 幸いなことに振り下ろしたハクバの一撃があまりに大振りだったため、避けるのは簡単だった。

 通常ならそのまま攻撃に移る所なのだが、サイは一旦距離をとることを優先した。

 

(ハクバってこんなに強かったのか……)


 五メートルほど距離をとると、ハクバは深追いすることなく、サイを睨みつける。

 さすがに疲れているのか、肩で息をしている。

 だがそれはサイも同じだ。

 ハクバの鬼気迫る猛攻に、サイは必死に身を守る選択しかできなかった。


 ハナナサケの森での一件から一週間経った頃、改めて卒業検定が行われることになった。

 急遽開催されたものであるため、検定内容は実にシンプルなものになった。

 ①自身の資質に合った而術(リュニ)を見せること。

 ②而力(リューン)を使わない一対一での剣戟勝負

 この二項目で一定以上の評価を受ければ無事、中等部に進学が可能になる。

 ①の試験については全員が規定以上の評価を受け無事に終了した。特にバンビについては、手持ち鳴槍(ナルサ)を自慢げに使い、試験官を大いに驚かせていた。

 そして現在は剣戟勝負。一定以上の基礎体力と運動能力、騎士として最低限の基礎戦闘能力が認められれば合格となるので勝敗は関係なく、試験とはいっても多くの同級生にとってはほぼお遊びのようなものだった。

 しかしサイとハクバにとってはそうもいかない。

 ナハト賢王修学院への推薦入学の残り一枠を争う二人にとっては、この剣戟勝負の結果が全てと言ってもいい。

 而力(リューン)の量や、而術(リュニ)の扱い、また学問においても現時点ではハクバが一回りも二回りも上だ。。

 総合的に見ればハクバが推薦枠を確保できるはずなのだが、剣戟や実技においては圧倒的にサイが勝っている。

 一対一の剣戟においては、同学年ではバンビも含めて一度としてサイは負けたことがなかった。

 この一点において推薦枠をどちらにすするべきか、学校側は大いに悩んでいるとの噂は学内の隅々まで広がっていた。


「サイ……私との剣戟勝負ではお互いに斐釼(マギ)を使いたい」


 ハクバがそう提案してきたのは試験前日の夜のことだった。

 突然、一人でサイの自宅を訪ねてきたハクバは、話があると真剣な顔で口にした。

 すでに日は落ちていたためか、母のスナンが「今日は泊まっていったら?」とハクバに声をかけ、黙ってそれに頷いた。

 食事や入浴等も終わり、侍女がゲストルームを準備していたのだが、ハクバは「サイの部屋で問題ないです」と固辞したため、仕方なく自分の部屋に招き入れた。

 そのタイミングでハクバはサイに提案してきたのだった。


「いや、而術(リュニ)は使わないとしても危ないだろ。試験官だってそんなの認めないはず」

「それに関してはもう根回し済だ。あとはサイが了承してくれれば実現できる」

「根回しだなんて……真面目で堅物なハクバからそんな言葉が出るなんて」

「これが……最後の手合わせになるかもしれなくてな。こっちも必死なんだよ」


 サイは何も言わず、ハクバの話に耳を傾けた。


「先日の森でのことで、俺は心底自分の無力さに気づいた。正直あの場に一人しかいなかったら俺は為す術もなく死んでいたと思う。だがサイは……一人でもきっと勝てていただろう」

「いや、そんなこと――」

「――分かってるんだよ。サイ一人でもあの水球をかわしながらでも近づくことができた。だが俺があの場に単独で残って標的にされた場合は守り切れないっ思ったんだろ。だからサイは自分の後ろに付いてくるように言ったんだ。そしてそれを感づかせないためにあえて俺に而術(リュニ)を使わせた……ふざけやがって」


 ハクバの指摘は完全に正解だった。

 実際にサイが一人だった場合は、攻撃をかわしながら敵に近づいて倒すつもりでいた。


「でも、ハクバがいなかったらもっと時間がかかっていた。そうしたらカガチさんだって助けられなかったかもしれない」

「それは結果論だ。というかあの状況で瞬時に最適解をだしたんだ、単純な戦闘能力だけじゃなく、戦術にも長けていて、対応力も実行力も胆力も……サイ、お前の方が遥かに上だ。これ以上言わせるつもりなら俺はもう……泣くぞ」

「……ごめん」

「……そんな自分よりはるかに優れた人間がいるのに、もし学校での成績だけで判断され俺が推薦枠を得たなんて、あまりに惨めすぎる話だ」

「……それで、あえて僕が得意な剣戟で白黒はっきりつけたいってことか。でもそれなら練習用の竹刀でいいんじゃないの?」

 

 ハクバは首を横に振る。


「これが最後になるかもしれんと言っただろ。勝っても負けても進学先が変わるのだから。であれば最後は命を懸けるような本当の真剣勝負がしたいんだ。とはいえ下手すればケガで済まない可能性もあるので無理強いはできないが……頼む」


 ハクバは大きく頭を下げた。

 本流ではないが王族としての出自からか、ハクバは一般国民に対してへりくだることはしない。

 それはプライドが高いからという意味ではなく、而力(リューン)が高く、而術(リュニ)の素養が先天的に高い王族は、かよわい一般領民を守るべき者だと捉えているからである。

 なので親が国を左右できるレベルの大富豪とはいえ一般領民であるサイに頭を下げるなど、今までのハクバからは想像すらできなかったことだろう。

 ハナナサケの森で起きた事件は、ハクバの人生観すら変えてしまうほどの出来事だった。

 

「ひとつだけ聞いていいか」

「……なんだ」

「ハクバはさ……俺に勝ちたいのか、それともナハト賢王修学院に入学したいのか……どっちなんだ?」


 ハクバは顔を上げて虚を突かれたような表情でサイを見つめる。

 そして一分ほど考えるような素振りをした後、ゆっくりと口を開いた。


「私の姉……王国騎士団第壱分団長であるハナエは……重い病気を抱えている」

「……え」

「別に今すぐどうこうなるものではないが、何の治療もせず、分団長として激務をこなしていれば十年後にはきっとこの世にいないだろう。だからこそ騎士団に入り結果を残し、姉がいなくても王国騎士団は無事にやっていけることを証明する必要があるんだ。だからこそ私は……ナハト賢王修学院で見聞を広め、騎士としてあらゆる技術を吸収したい」

「……」

「というのが俺の根幹にあるものだが、一度もサイに勝てていないことが、悔しくて悔しくて仕方がない……と思っている自分もいる。なので答えは両方だ。サイに勝ちたいし、勝ったうえで堂々とナハト賢王修学院に行きたい。それ以上の答えはない」

「……そっか。分かった」


 サイはハクバの手を取り強く握りしめた。


「では明日、本気の勝負をしよう。もちろん斐釼(マギ)を使った上で」

「ありがとう……恩に着る」

「別にいいよ。そんなことより早く寝よう。明日は結構早いしね」


 寝る準備は自分でしろよと付け加えて、サイはベッドの中にもぐりこんだ。

 ハクバは何も言わず寝具を準備した後、電灯を落として寝具の中に入っていった。


「サイ……私も一つだけ質問していいか」

「ん、何ー?」

「どうしてサイはナハト賢王修学院に行きたいんだ。失礼な言い方になるかもしれんが。サイはダマスカス開発の後を継ぐ身だ。もっと経済や商学に秀でだ学校を進路にするものだと思っていた」

「あーそれは……」


 本当のことを言うと、自分、ひいてはバンビが転生者であることがバレてしまうので言えなかった。

 だが自分の弱さも含めすべてをさらけ出してくれたハクバに対しては誠実でありたいとも感じていたので、含みを入れて正直に話すことにした。


「……愛する人と一緒に生きていくため、そのために僕はナハト賢王修学院に行く必要がある」


 サイはこの七年間、親のコネクションやバンビを通して王国の権力をも活用し、ウーテ王国領民を徹底的に調べ上げた。特に同時期に生まれた子どもについては継続的かつ定期的に調べていた。

 その結果分かったことは、自分とバンビ以外にウーテ王国に転生者はいないという事実だった。

 これ以上、転生者……正確には推しのあやるんの情報を得るには国内では難しい。

 そんな時にナハト賢王修学院の存在を知った。

 シンタイ大陸の各国か優秀な学童が集まる。

 サイもバンビも一般的とは言い難い特異な体質や特別な能力があるので、その同級生の中に転生者がいるかもしれない、少なくとも転生者の情報を持っている可能性は大いにある。

 だとしたらサイはこれ以外の選択肢はない。

 サイの目的は最初から最後まで――推しとの結婚。何においても優先すべきなのだ。

 ハクバは一瞬面を食らったようで固まっていたが、すぐに顔を元に戻して、少し寂しそうにつぶやいた。


「やはりそうか……サイもバンビ様のことを愛しているのだな」

「…………………は?」

「…………………え?」

「今、なんて言った?」

「いや、バンビ様を愛しているのだな……と」

「…………バンビってあの、クソデカ而力(リューン)傍若無人生意気プリンセスのことですか?」

「その言い方は大変失礼だが……そのバンビ様だ」

「…………違うよ」

「……え?」

「いや、僕が愛してるのはバンビじゃない」

「はぁ? バンビ様が好きだから同じ学校に行きたいってことじゃ……」

「いやいや違うよ。まぁバンビのことは好きっていえば好きだけど、それは友愛というか、腐れ縁みたいな感じのやつで、女性として好きとかそういうのじゃないよ……ていうかハクバは今『サイもバンビ様のこと~』って言ったよね! サイ『も』って!」

「――うっ」

「え、ハクバはバンビのこと好きなのー! そんな素振りしてこなかったじゃん! なにそれすごくびっくりしたー!」

「いや、好きとかそういうんじゃなくて、王族を引っ張る身としての高い而力(リューン)とか、それなのに親しみやすくて、誰にでも分け隔てなく接するところが尊敬できるというか――」

「いや顔真っ赤だよハクバ。完全に好きじゃん! 恋しちゃってるボーイじゃん!」

「な、なんだ急に馴れ馴れしい口調で!」

「そっかそっかーハクバはバンビが好きなのかー。もう告っちゃえよ! めちゃくちゃお似合いだと思うよ、うん!」

「うるさいうるさいうるさいっ! もう寝るぞ」」

「はいはいわかった。じゃあ俺に負けたら告白ってことでよろ」

「……覚えておけサイ! 明日は必ず叩きのめしてやる」


 こうして修学旅行の壱日目のようなテンションで二人は夜を過ごした。

一話だいたい2,000文字から3,000文字くらいでキリがいい所まで書いてるのですが、今回は4,000文字越えしてしまいました。実質2話分です。

もう少ししたら、全体の話としても落ち着くので、そうしたら

誤字脱字、ルビの振り間違え等を修正していきます。

気付いた方はご報告してもらえると助かります。

あと、ブックマーク登録や評価等をしていただければ嬉しいです。

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