バンビの戦い②
「今すぐ而術のコントロールを上げるのも、而力を探知するのも無理だ。そもそもそんなの誰もできない。戦いの中で強くなる……つーことは、よほどの天才じゃないかぎりあり得ない」
森の中を駆けながら、バンビはゴウマのアドバイスを聞いている。
「……だから今の自分にできることをやる。それしかない」
「でも鳴槍以外使っちゃダメなんでしょ」
「それはそう。そうしないと試験にならないからな」
「…………」
バンビは黙ってしまう。
自分にできること。それは高い而力を活かした破壊力のある而術。
しかし第壱號の而術である鳴槍では、而力を込められる限度がある。
例えば連鳴槍であれば、鳴槍の本数を増やして而力の質量をあげて攻撃することが可能なのだが……
(そういえば今朝、サイとそんな話ししたような…‥)
サイが弟のセト妹のソニアの打ち込み練習の話を思い出した。
確かソニアは、連鳴槍で数十の雷の矢を自在に操っていた。
しかも矢それぞれに割り振る而力も調整し、結果サイに一泡吹かせたという。
(いや、本当に天才じゃんソニアちゃん。私が教えたのに完全に超えられてる……)
私にはそんな繊細なコントロールはできない。それなのにいい気になって教えてアホみたい……。
自身に対する情けなさが一気に押し寄せ、ただただ落込むばっかりで、バンビの頭の中には何の案も浮かばないでてこない。
そんな様子を傍らで感じ取ったゴウマは、「そろそろ着くぞ」と声をかけバンビの後ろに回り込んだ。
「而力ってのは而術の根源だ。だからこそ而力が多い方が有利なのは当然。そして万死ちゃんは常人じゃ決して辿り着かねぇ量を持っている。いくら無駄遣いしたって決して枯れることはない」
――だからどんどん無駄遣いしていけ!
そう言ってゴウマはバンビの背中を大きくたたいた。
その勢いでバンビは森の中を抜け、先ほどの沼地の前に飛び出した。
バンビの気配に気づいたのか、沼地から再びポコポコと気泡が浮かび上がり、泥人形が計七体がゆっくりと這い出てきた。
「無駄遣いって言われても……」
バンビはひとまず自分が込められる最大量の而力で鳴槍を唱えた。
サイズとしては長さが三メートル、直径五十センチメートルほど。
槍というより大砲や柱と呼んだ方が正確かもしれない。
おそらくこれが当たれば泥人形は吹き飛ぶはず……とバンビは先ほどの攻防からあたりをつけていた。
触れると爆発するあの攻撃をバンビはかつて経験していたからだ。
……あの感じはきっと而力膨張だ。
込められた而力に斐綾鉱が容量オーバーを起こし大爆発を起こす現象であり、バンビは五歳の魔力測定の際に自身でそれを引き起こしていた。
「ねぇそこの激臭泥人形さん……アンタ、その泥の中に斐綾鉱隠し持ってるでしょ。んでそれが動力源。それを壊せば動かなくなる……正解でしょ?」
泥人形は何も語らず、ただただゆっくりとバンビに近づいてくる。
「どういう仕組みかまではわからないけど、泥の中の斐綾鉱を壊せば私の勝ち。その前に障られたら私の負け。……じゃあ一気に終わらせてあげる……鳴槍っ!」
バンビは泥人形の一体に狙いを定め鳴槍を飛ばした。
泥人形が避ける余裕もないほどの速さで一直線に進み、そして泥人形の脇をかすめて、遥か後方の木々を薙ぎ倒し、地面に突き刺さった。
「……まぁそんな簡単にはいかないか」
どんな強力な攻撃も当たらなければ意味がない。
バンビの場合、一つの而術に而力を込めればこめるほど、コントロールが効か悪くなる。
ある程度狙いを定めて放つことができるのは、二メートルほどの長さを持つ細槍くらいの大きさである。
一般的には弓の矢くらいのサイズで扱われることが多いのだが、バンビの場合はそのサイズまで小さくすることができないので、結果、その大きさでしかコントロールできなくなった。
それも一本ならコントロール可能だが、二本になると途端に標準を合わせることができなくなる。
鳴槍を放った一瞬だけ泥人形の動きが止まったが、再びバンビに向かって距離を近づける泥人形。
バンビはある程度の距離を保ちつつ、逃げ回りながらどうすれば攻撃が当たるかの作戦を練る。
ある程度の大きさの鳴槍で貫けば、おそらく泥人形の中にある斐綾鉱は壊すことができる。しかし、大きすぎるとコントロールできなくなるので、そもそも当たらない。
近距離で鳴槍をすればコントロールに関わらず当たるだろうが、その時は而力膨張に巻き込まれてしまう。
「ゴウマは無駄遣いしていけって言ってたよね。当たるまでとにかく鳴槍を放ち続けろってことか」
とにもかくにも確実に距離を詰めてくる泥人形に、バンビは鳴槍を放ちながら逃げ回っていく。
これではきりがないと分かっていても、これ以外に選択肢はなかった。
(さっきと同じだ。私の足が止まったらそこで終了。而力は尽きなくても体力はなくなるっての。相手の動きをよく見て当てて削るしか)
バンビは泥人形の動きを注視する。
やはり私の動きに合わせて、ただただ一直線に向かってくるだけ……それが、六体。
……六体?
「――後ろだっ!」
ゴウマの大声が耳に届くとバンビは後ろを振り返る。
今にも自身に覆いかぶさろうとする泥人形が眼前にあった。
――避けられない!
そこからのバンビの行動は無意識によるものだった。
その場にたまたま落ちていた木の枝を右手で取り、その枝に而力を込めるように鳴槍を唱えた。
そのまま薙ぎ払うように枝を振ると、泥人形の上半身と下半身が二つに分かれた。
上半身は襲い掛かった勢いを殺すことができず、バンビの背後に飛んでいき下半身はそのままボタッっと形を崩して落ちていった。
ハッとしてバンビは飛んで行った上半身に目をやると、わずかに胸のあたりに斐綾鉱があるのが確認できた。
「あった!」
鳴槍を込めた木の枝を斐綾鉱突き刺すと、爆発することなく泥人形は人の型をなくし、動かなくなった。
ゆっくりと立ち上がりバンビは手に持った木の枝とそれを覆うようにまとわりつく鳴槍をみつめた。
「……そうか、鳴槍を持てばいいんだ」
バンビはさらに木の枝に而力を込める。
すると右手を覆っていた鳴槍はさらに大きくなり、バンビが作れる最大サイズにまで膨れ上がった。
ぶんぶんと振ってみたが、まるで重さを感じない。
これならば近づかなくても振り回すだけで相手に攻撃が可能だ。
「ふふ……ふふふふっ……キタキタこれよこれ! これが本当の鳴槍の使い方だったのね! こんな便利な使い道なんで誰も教えてくれなかったのよー! これならコントロールなんて必要ないじゃない!」
嬉々として鳴槍を振り回すバンビを、ゴウマは森の中から覗いている。
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。鳴槍を高出力でずっと維持するなんて……普通の術者なら十秒で而力が尽きるわ。そんな無駄づかい……クソデカ而力の持ち主である万死ちゃんしかできねぇんだよ」
できれば1週間に一度ぐらいのペースで上げていきたいのですが、また少し忙しくなるので遅くなるかも。読んでる方いらしたらのんびりお待ちください。
ブックマークとか評価とか感想とか誤字脱字報告とかも、あればよろしくお願いします。R4.5.25




