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ゴウマとバンビ

「げっ……マジかよ」


 サイとハクバが決死の戦いに身を委ねる数分前。

 バンビもまたハナナサケの森に転移されいた。

 当然、本来の卒業検定が意図した場所ではない鬱蒼とした森の中であったが、バンビが問題視したのそこではなかった。


「お、やっときたな万死ちゃん。相変わらず俺の弟子をこき使ってくれてるそうじゃねぇの」


 バンビの目の前にいるのは王国騎士団総団長であるゴウマ=ロシエル。王国最強の騎士である。


「なんでアンタがいるのよ。私は卒業検定受けに来たんだけど。というか万死ちゃんやめろし」

「その卒業検定の試験官が俺ってわけよ。別に俺だってやりたくてやってるわけじゃねぇんだけど、頼まれちゃったからな」


 バンビはゴウマ苦手だった。

 昔からこの男だけはバンビに対してずっと子ども扱いで、ずけずけとデリカシーのない言葉と態度を示してくるからだ。

 なまじ王国騎士団の総団長という地位におり、それに見合うだけの実力を有していることから、王はもちろん国民からからの信頼は厚く、父であるガルニーデ王に抗議をしたこともあったが、その度になぁなぁで処理されていた。

 つまり、傍若無人なバンビにとっては唯一自分のコントロール下に置けない存在だということだ。


「最悪なんだけど、あぁ帰りたーい。もう試験は完璧だったって報告しといて、終わりにしない?」

「相変わらず自分勝手なお姫様だ。んなことだとサイにいつか嫌われてるんだぞ!」

「はぁ? サイがそんな風に言ってたの!」

「いや、嫌いって言ってたかどうかは忘れたけど、いろいろ強引に付き合わされてめんどくせぇみたいなこと言ってたような……でも、あいつ人の悪口言わねぇしなぁ……う~ん忘れた!」


 ゴウマのこういう適当でいい加減な部分もまたバンビの癇に障るところだ。

 何を言ってもまともに返ってこない。

 なのでバンビは基本ゴウマを避けるように努めていた。

 しかし今回はさすがにそうもいかないらしい。


「わかったわかった。じゃあさっさと始めましょ。この辺の而生獣(リュニオ)をぶっ飛ばせばいいんでしょ――というかここどこっ! 暗すぎない」


 バンビはようやく、自分がどこに転送されたかをは把握し、あたりをキョロキョロと見渡す。

 周囲は樹齢の高そうな大きな木々が生い茂り、足元にも大きな根を張って歩くのも困難な状況だ。


「いや、俺もここがどこかわからんのよ。事前に聞いてたところと違ってな」

「それってめちゃくちゃ大問題じゃん。即刻試験中止にして帰りましょ!」

「それも悪くねぇ提案だが、ダメっぽいぞ。さっき元の場所に戻るために転移してみようとしたんだけどさ、どうやら誰かに邪魔されてるみたいだ」

「誰かって誰よ?」

「んなの知らん」


 話にならないとバンビはため息をついた。


(典型的な昭和の亭主関白おやじだ。めちゃくちゃ嫌いなタイプ。よくサイはこんなのと一緒に修行できるわね)


「ん、なんか言ったか?」

「別に何も! というかどうすんのよこれから」


 ん~そうだなぁとゴウマは頭を掻いた。


「東の方向と西の方向に、強い而生獣(リュニオ)の気配がある。そいつを万死ちゃん単独で倒したら卒検合格ってことにしようか」

「わかった。じゃあさっさと行きましょ!」

「西の方のは近くにうちの騎士の気配がするから大丈夫だろ。なんで東の方に向かうぞ。こっから多分三キロくらいだな」

「え~、こんな足場の悪いところ三キロも歩くの? しんどー」

「うるせぇなつべこべ言わずに足を動かせ! 万死ちゃんもさっさと帰りたいんだろ」

「帰りたいし、それにこれ以上ゴウマと一緒にいるのも無理。あと万死ちゃん言うなし」

「それはお互い様だ――万死ちゃん!」


 キィィと甲高い声を上げてバンビは抗議するが、ゴウマはそれを無視して東に向かった。


 足場の悪い森の中を進むこと三〇分。

 ついた場所は草木が枯れ、広い沼地が現れた。

 大地を覆いつくす紫がかった汚泥が異常なまでの臭気を放っており、生命の息吹は感じられない。

 その場に立っているだけでもバンビにとっては苦痛だった。


「おぇぇ……くっさすぎるんだけどなにこれキモッ」


 思わず鼻をつまもうとするが、ゴウマはそれを止める。


「我慢しろ。臭いだけでも而生獣(リュニオ)がどういった生態で、どういう行動をするのかの判断材料になる」

 

 ゴウマの声が少し鼻にかかっているのは、自分の鼻をつまんでいるからだ。


「いやアンタも鼻つまんでるじゃない! ふざけるな!」

「俺はいいんだよ。而力(リューン)で相手の動きは探知できるし、あとすげぇくせぇから」

「私だって臭いっつーの!」

「うるせぇいいから黙って従え! これは試験だぞガタガタいってると留年させるからな!」

「うわ最低! 地位を利用した強制命令とか完全なパワハラじゃない、後でお父様に訴えてやるっ!」

「おぉおぉやってみろ。というかぱわはら? って知らない言葉だが、王女様の地位を利用しまくってる万死ちゃんには言われたくねぇな……というか、おふざけの時間はここまでだ」


 ゴウマが沼地を指さすと、中からコポコポと気泡が上がっている箇所がでてきた。

 その勢いは徐々に激しくなり、泥が盛り上がって、成人男性くらいの泥人形が数体現れた。


「うぇ……あれも而生獣(リュニオ)なの?」

「ん~泥そのものは而生獣(リュニオ)じゃねぇな……いや、ここで説明したら試験にならねぇか」

「つか試験やるの? なんかいろいろおかしなことになってるんでしょ?」

「……中止の連絡は来てないしな。やるしかないだろ」


 一瞬悩んだそぶりを見せたが、すぐにゴウマは「よっし決めた」と手をたたいた。


「万死ちゃん。とりあえず今目の前にいるあの泥団子お化けを全部一人で片づけろ。それが今回の試験内容にするわ」

「……なんか思い付きで決めた感すごいけど、私もこんな場所からさっさと出たいからやってあげるわ」

 

 やるぞ~と、腕まくりをしたバンビ。

 右手に而力(リューン)をため沼地全体に狙いを定めている。

 その様子を見たゴウマはさらに言葉を続ける。


「だが条件が一つ、使っていい而術(リュニ)鳴槍(ナルサ)のみ、それ以外使ったら即留年」

「……え?」

「万死ちゃんのクソデカ而力(リューン)で一気に終わらせたら試験にならねぇからな。じゃあ頑張れよ。まぁ負けそうになったら助けてやるから」

「えぇぇぇぇ!?」


 バンビは叫び声に反応し、泥人形が一気に動き始めた。

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