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カガチ

 腿に刺さっていた黒い釘を抜くと、男はゆっくりと腰を落とした。


「自己紹介がまだだったね。私はカガチ=クモムラ。王国騎士団第伍分団の副団長として、本来であれば今日は試験官という立場で君たちと一緒に行動するわけだったのだが、まさかこんなことになるとはね」

「……何があったんですか?」

「うん……ちょっと休めば体は動きそうだから、それまでに一通りのことを説明しておこう」


 カガチは一度咳払いをして呼吸を整え、順を追って説明を始めた。


「今回の初等部の卒業検定については、第伍分団から私を含め七名の騎士が君たちの試験官兼護衛として派遣された。ここ数年狂暴な而生獣(リュニオ)が現れているハナナサケの森ではあるが、当然騎士団の地理調査が終わり、比較的而力(リューン)の低い而生獣(リュニオ)が出てくる場所を選んで転移されるはずだった。しかし、転移されたのは国外調査を主な任務をしている我々第伍分団ですら踏み入れたことがない未踏の場所だった」


 まさか転移の段階からおかしな状況であったということは予想しておらず、サイとハクバは背筋にぞっと悪寒が走る。


「すぐに転移先に戻ろうとしたが、どういうわけか戻れなかった。おそらく而術(リュニ)を介した転移がなんらかの方法で阻害されてるのだろう。だが幸いなことに転移された位置は分かった」


 そう言ってカガチは右手にペンダントに加工された小さな斐綾鉱(マダイト)を取り出してみせた。

 本来、斐綾鉱(マダイト)は人間が気軽に持てるほど軽く、サイズが小さいものではない。

 ウーテ王国領では海の底にある大きな斐綾鉱(マダイト)の原石を加工することで実際に人の手で取り扱うことができる。

 同じ場所から採掘された斐綾鉱(マダイト)には、細分化される前に而力(リューン)を込めた場合、その者の位置をある程度把握することができるという性質があり、この性質を利用して王国騎士団では、騎士同士の位置を特定する手段として、騎士団入団の際は、兵舎にある巨大な斐綾鉱(マダイト)の原石に而力(リューン)を込めた後に、削り取って、常に所持していなければならないルールがある。


「ここをハナナサケの森の未開地だとして考えると位置情報から、他の分団は一つ除いて通常通りの位置に転移しているのが分かった。なので第伍分団を除いた第壱から第陸分団にそれぞれ一名づつ、試験の中止を伝えるためにすぐに派遣した。おそらくもう着いているだろう。そして残った私ともう一名で、私たち以外に転移先が変わっていた所に向かう……ところだった」


 ここでカガチの表情が陰る。

 俯いているため、表情をすべて把握することはできないが、体の震えから目に涙を浮かんでいるようだ。


「いきなり黒い液体状の何かが、私の顔を覆い、左目から体内に入り込んできた。あまりの痛みに私はのたうち回るしかできなかった。痛みがひいた時に、意識ははっきりしているのだが、体の一部が自分ではないような感覚に襲われていて、気づいた時には自らの手で仲間の首を撥ねていた……騎士失格だな全く」

「……でもそれはカガチさんのせいじゃなくて」

「いや、想定外の場所に転移されたんだ。現場の預かる身といてあらゆる想定をしなければならなかった。完全に私の油断、対応力の未熟さが招いた結果だ……」


 それ以上はサイとハクバも何も言えなかった。

 そして騎士が想像以上に危険と隣り合わせだといことに改めて身を震わせた。

 申し訳ない話がそれたな、とカガチは説明を続ける。


「段々と体の自由を奪われ、右上半身は自分の意志では動かせないようになっていた。舌を噛み切ってこのまま死のうともしたが、そういう行動も防がれてしまった。その時に君たちがこの場所に転移されてくる様子がみえた。このままでは君たちにまで危害を加えてしまうと思って、とにかくまだ動けるうちにこの場から離れるために移動を始めた。そして体が完全に乗っ取られる前に、而術(リュニ)を使って、自身の体を動けないようにした」

「それって……あの黒い釘のようなものですか?」

「あぁ、黒而第壱號ノ肆『鈍鋲(バラン)』相手の体に鋲を指すことによって動きを制限する而術(リュニ)だ。刺した本数が多ければ多いほど行動をより制限できる。とはいえ、完全に動きを制することができず、結果として君たちを攻撃してしまったのだから意味はなかったな」

「何言ってるんですか、もし動きが止められてなかったら僕もハクバも確実に殺されてました。あの場所で固定されていたから、直線的な遠距離攻撃しかできなかったんです」

「サイの言う通りです! あんな高出力で多様な水球を移動して射出されたら、防ぎようがありません。カガチ副分団長のご判断は素晴らしい対応だったと思われます」

「……そうか、そう言って貰えると少し救われた気がするよ」


 さて、そろそろ行くかとカガチは腰を上げた。

 先ほどまで体を操られていた人間をは思えないほど動きが軽く、むしろサイとハクバの方が疲労困憊で動けそうになかった。


「今一番重要なことは、君たち二人を無事この森から脱出させることだ。なのでまずは一番近くにいる騎士と合流する」

「え……ここってハナナサケの森の未開の地なんですよね。ということは……」

「そう、私たちと同じように別の場所に転移された所に行く。ここよりもさらに森の深奥に向かう」

「カガチ副分団長。無礼を承知で申し上げます! さすがにそれは危険なのではないでしょうか! 副分団長のおっしゃる黒い液体や手の化物が一体だけとは限りません」

「うん、ハクバ君の言うことも一理ある。だがそれ以上に私は私の体のことを信用できていない。もしかしたらまた体を乗っ取られてしまう可能性もある。その時君たちを守る者がいないというが考え得る限り一番危険だ。それならば私がまた君たちに危害を加えようとしても、それを止めることができる者と行動した方がいい。あの人なら私がどんなに暴れようと一瞬で片づけてくれる」


 まるで、そこにいる騎士が誰かわかっているかのような口ぶりだった。

 同種の斐綾鉱(マダイト)を持っていても位置情報だけが分かるだけで、そこに誰がいるかまでは分からない。

 だが、サイもそこにいる人物が誰かはっきりとわかっていた。


「……サイ君。君には分かるみたいだね」

「えぇ、わずかではありますが、よく知ってるアホみたいにぶっとんだ而力(リューン)の反応を感じます。……ハクバ、僕もあそこに行くのが一番だと思うよ。あの二人相手にどうにかできる而生獣(リュニオ)なんているはずない」


 ハクバは自分だけ分かっていないことに不満そうにしていたが、そこでへそを曲げて自分を貫くほど愚かでもなかった。


「わかりました。ではすぐに向かいましょう」


 三人は、カガチを先頭に、ハナナサケの森の更に深奥部に向かっていった。


「……クラム、あなたのことはまた後で必ず迎えに行く」


 絞りだしたくらいの声量でカガチは呟いた。

 きっと、自身で手にかけてしまった仲間の騎士のことだろうとサイは察し、それ以上は何も口にすることなくカガチに続いて足を進めた。


 だが、サイはこの時に口を噤んだことを後悔することになる。

 ここで話をしていれば気づけたはずだ。

 

 ――そのクラムなる騎士の亡骸が、転移先になかったということを。

ちょっと読み返してみると文章がおかしくなっていたりルビ間違いや誤字がかなりありました。

随時訂正します。場合によっては文章そのものを変える時もあるかもしれませんが、内容や流れについては変えないようにするつもりです。

もし見ている方いれば報告お願いします。R4.5.12

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