燃えない炎
「厳密にいうと、俺と同じでサイの赤は普通の赤じゃねぇのよ」
稽古終わりで全身に汗まみれで息も切れ切れのサイに向かって、ゴウマはあっけらかんと口を開く。
みっちり一時間ほど休憩なく動き回っていたのに、こちらはほとんど汗をかいていない。
「……よく、意味が分からないんだけど」
「赤っつーのは、単純に火を出すっていうだけの而術なんだよ。而力でそのものを火に変換するだけの而術。まぁ紫系統の而術使う奴の中には可燃性ガスを出して似たようなことするのもいるけどさ。まぁどっちにしてもただの火っつうわけだ」
「僕とゴウマの赤は通常の火ではない別の何かをだしてるってこと?」
「そりゃそうだろ。現に今俺が握ってる竹刀が燃えていないことがその証拠だ」
ゴウマが握っている竹刀の刀身全体を火が覆っているが、竹刀自体は焼けて黒く変色もしておらず、煙も出ていない。
しかしそこから伝わる熱のようなものはサイ自身も感じてっといた。
……燃えているけど燃えていない。
矛盾しているがそう言い表すことしかできない。
「ゴウマの赤が特別だっていうのはわかったけど、僕の赤は普通に燃えるよ」
「そりゃ意識して使ってないからだ。俺の赤だって当然……燃える!」
その瞬間、ゴウマの名の中にある竹刀から一気に炎を吹き上がり、一瞬にして消し炭となった。
「燃える炎と燃えない炎。分類ができないからどちらも赤而第壱號の壱になってるけど、俺の赤は二種類ある。そしてサイもそれが使えるはずだ。お嬢を助けたときの赤がまさにそうだ」
ゴウマには、バンビが誘拐された時に起きた琴を全てを話していた。
確かにあの時はゴウマの赤をイメージしており、実際に自分とバンビは火の影響を受けなかったが、そんな器用なことをしている自覚がサイにはなかった。
「よし、試しにサイがもっている竹刀でやってみるか」
「やってみるかって……竹刀だってタダじゃないよ。ゴウマは普通に燃やしたけど」
「金持ちがケチくせぇこというなよ。さっさとやれって」
これはやらないと終わらないなと、サイは仕方なく竹刀に向けて赤を使うことにした。
とりあえずイメージとしてはバンビを助けた時のように、竹刀も自分の体の一部というイメージで行うことにした。
「……赤而第壱號ノ壱――赤」
サイの手のひらからゆっくりと火が浮かび上がり、竹刀全体を包んでいく。
今のところ形が崩れるということはなく、竹刀自体が燃えていなかった。
しかしそれを維持することは難しく、プツンっと何かが頭の中で切れる音がすると、火はフッと跡形もなく消えた。
この感覚にサイは身に覚えがある。自分の而力が完全になくなったサインだ。
「おー! 一発で出来てるじゃねーか!」
「うん……でも」
できたところで何になるんだというのがサイの本音だ。
竹刀には焦げ一つついていないので、自分にも燃えない炎は使えるのだろうという確信はあったが、それを使う場合、而力の消費が通常時よりもはるかに大きい。
而力が極端に少ないサイにとっては無用の長物でしかない。
「この調子だ。もう一回、もう一回やってみろよ」
「いやいや、無理だよ。だって僕の而力はもう――」
そう言いかけて、サイは自身の体の異変に気付いた。
どういうわけか全身に而力が満ちているのを感じた。。
しかも、自身の力量を遥かに超えていた。
あの時――バンビを助けたあの瞬間に感じた万能感に近い。
「……もう一回やってみる」
サイは再び、竹刀に対して赤を使った。
今度は竹刀に火が回り、煙を上げながらパチパチと音を立て崩れていく。
「今度はダメか……まぁこういうのは繰り返しやって感覚を掴むしかないから気にするな」
「いや……別にそれはもうどうでもいいよ。でもこれってどういうこと? 普通の赤は単純に火を出すだけなんだよね」
そういってサイは竹刀を握っていた手をゴウマに向けて伸ばした。
その手は炎をに包まれている。
「今ね、普通の赤を出してるんだよ。僕の手は熱くないし燃えないんだけど、竹刀は見てもらった通り燃え尽きた。これってどういうこと。赤は術者には影響しないってこと?」
「いや……普通の赤なら術者だろう何だろうがが、触れれば熱いし燃える……」
ゴウマもまた驚いており、目の前で起きてる事象を説明することができなかった。
だがサイの中には一つの答えが浮かび上がっていた。
「ねぇゴウマ……この手を握手してもらっていい?」
「え、この燃えてる手を……か?」
サイは大きく頷いてゴウマの目を見つめる。
ゴウマもここは茶化していい雰囲気ではないと察したのか、燃えているサイの手を強く握った。
「なんじゃこれ……全然熱くない」
ゴウマの反応を見て、サイはゆっくり赤の発動を止めた。
「僕もゴウマと同じように通常の赤の炎が使えるみたい。ゴウマは燃える炎と燃えないが熱がでる炎。でも僕の場合は、燃える炎と燃えないが熱の出る炎と……『自分だけ燃えない炎』」
「はぁ? 自分だけ燃えない炎ってなんだよ。今の握手は俺も燃えてなかっただろ」
「うん、だから正式には僕と、僕の体を介して使った而力の対象者は燃えない炎なんだと思う」
「はぁ……? 言ってる意味が全然分からん。俺にも分かるように簡潔に説明しろ!」
サイは一度大きく咳払いしてゆっくりと口を開いた。
「多分僕は……他人の而力を使うことができるみたい」




