後悔
「ハクバ! またあの攻撃が来る」
「分かってる。というか邪魔だ交代しろ!」
サイとハクバはスピードを緩めることなく前後を交代し、目の前に現れた目から手の生えた何者かにまっすぐ向かっていく。
その間にもその手が生み出す水球は少しずつ大きくなっていく。
どうやら次の一撃で決めるようだ。
「あれは俺の天翼盾じゃ防ぎきれない。だから俺の而力全てつぎ込んで天翼ノ壁を使う。その隙に貴様はあの化物を倒せ!」
「え、而力使い切っちゃうの? それは困るんだけど!」
「知るか! 第参號の而術だ! ここで出し惜しみしたら押し負ける!」
「でもハクバの而力がないと――」
――その時、サイは敵の近くに別の而力の気配を感じ取った。
いや、正確には目から生える手と、その体から別個体の而力を感じ取ったというのが正しいだろう。
「……そういうことか。それなら多分いけるはず」
「何ボソボソ言ってるんだ! そろそろくるぞ!」
「分かってる! 全力で攻撃を受け止めてくれ――僕が必ず倒す!」
水球の大きさは既にサイとハクバの二人を大きく超えるサイズにまで膨れ上がっており、この距離ではどうやっても回避できそうにない。
……アァ……キタキタキタ……イクヨイクヨ……コロス!
放たれた水球はまわりの木々を薙ぎ倒しながら、サイとハクバの方へ向かっていく。
「白而第参號ノ弐『天翼ノ壁』」
ハクバが而術を唱えると、無数の羽が回りに浮かび上がった。その羽が幾重にも織りあい、巨大な壁となって水球を受け止める。
「ぐっ……長くは持たないから早く決めろっ!」
「まかせて」
ハクバが而術で水球を抑え込んでいる隙に、サイはさらにスピードを上げて敵に近づいていく。
その間も水球の圧力は弱まるどころか勢いを増していく。
しかしハクバはより負荷のかかるポイントに重点的に而力を振り分けつつ、壊れた羽根の補修や、追加をすることで何とかしのぎ切っている。
號が上がれば上がるほど、当然に威力、効力は跳ね上がるが、その分コントロールや消費する而力も比例する。
比較的高い而力を持つハクバであっても、もってあと数秒だろう。
それまでにサイは敵を倒さなければ、而力が切れたハクバに水球が直撃するため、ほぼ間違いなく命を落とすだろう。
別にハクバのことは好きではない。
何かにつけてちょっかいをかけてくるのでむしろ嫌いな方に入る部類だ。
だが、ともに一つの困難に立ち向かった仲間となった今、何としてでもその気持ちに応えたい自分がいた。
ハクバの命を助けたい。
そして――目の前にいるこの人も助けたい。
「……やっぱりそうだ」
サイはとうとう目から手の生えたなにかを眼前に捉えた。
顔だけ見るとあまりに異様で恐ろしい姿ではあるが、体の部分はごく普通の成人男性のもの。
そして何より来ている服装が騎士が有事に着用している戦闘服だった。
――第伍分団の騎士で間違いない。
あの手のような何かに体を奪われてしまっている。
サイがここに近づいてくる時に感じた悪意のない別個体の而力、それは体を奪われた持ち主の而力だった。
近くで見ると手の部分は水球に而力を込めているので、小刻みに動いているが、それ以外の人間の体の部分は完全に弛緩しきっていて、立っていることも不思議なくらいだ。
「お願い……殺して……ください……仲間に……手をかけて……しまった」
サイの気配を感じ取ったのか、先ほどまでの脳に直接届くような不思議な響きではなく、口から声を出していた。
動きは制御できなくても、意識があるのならまだ救える。
「そんなこと言わないでください……」
サイは左手で握った刀を、その目から生えた手に突き刺した。
サイは一瞬だが、バンビが誘拐された時のことを思い返した。
……必死だったし、あの時mp僕ではあの選択以外ではバンビを救うことはできなかった。
だがその結果、あの仮面の二人を巻き添えをしてしまった。
もちろん誘拐犯ではあるし、自業自得ではあったのかもしれないが、どういうわけかあの顔も分からない二人を心から憎いとは思えなかった。
だからこそ今、僕はここでその後悔を払拭する。
――救える命は救う。それが僕の選択だ!
「赤而第壱號ノ壱……派生其ノ壱『赦』」
サイが而術を唱えると、一瞬にして大きな火柱が立ち上った。




