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試験内容

 教室に担任の教師が入ってくると、一番入口に近い席に座る児童が「起立」と声をあげた。

 席から立ち上がり「礼っ!」の声に合わせて「おはようございます」と教師に向かって挨拶をした。


「はいおはよう。座っていいですよ」


 その言葉を合図にクラスメイトが全員席に座ると、教師はゆっくりと口を開く。


「えーと出席をとらなくても、もうみんないますね。さすがに卒業検定の日に遅刻するようだといろいろ報告しないといけなくなりますからね……バンビさん?」


 ジロリとにらみつける先には、額からうっすらと汗を流すバンビがいる。


「あははは、やだもう先生ってば、私が遅刻なんてありえないですよー」

「そうですね、この前給食だけ食べて帰ったのも、たしか出席扱いになりましたしね。一応学長には直接報告したのですが……」

「あれー……そうだったかなぁ忘れちゃったなぁ」


 バンビはよく遅刻する。

 シンプルに起きれないという理由もあるが、面倒で学校に行きたくないと駄々をこねる時もある。

 なので実際には卒業に必要な出席日数を下回っているのだが、どういうわけか皆勤しているということになっている。

 噂では学長の弱みをバンビが握っているとかいないとかあるが、答えは単純に次期国王への忖度だろう。

 だが、出席していなくともバンビの勉学の成績は学内でもトップクラス。たったひとつ史学は苦手なのだが、それは転生しても引き継げない知識だからだ。


「まぁいいでしょう。とにかく今日は全員出席。では早速、卒業検定について説明させていただきます」


 卒業検定は毎年内容が異なり、児童には当日までどういった内容で行われるかの説明はない。

 前年度はクラスを四つのチームに分け、それぞれが隣町まで荷を運ぶ場所の護衛をするという内容だった。

 仕込みではあるが、盗賊や而力(リューン)を宿した生物、而生獣(リュニオ)を襲わせる等のトラブルを起こし、その時の対応力を見るものだった。

 前々年度は、クラスメイト同士で而術(リュニ)の使用を許可したトーナメント戦を行っている。

 形は違えど、個々の戦闘能力をみるのが卒業検定の大きな目的となっている。


「今年度の検定は、ハナナサケ旧街道の而生獣(リュニオ)の討伐だ」


 担任の発言に教室内が大きくざわついた。

 ハナナサケ旧街道はウーテ王国と隣国を繋ぐ流通の要であった。

 しかし、とある事件をきっかけに街道が敷かれているハナナサケの森から高い而力(リューン)を持ち、より凶暴になった而生獣(リュニオ)が多く出没することになった。

 安全性の確保のため、遠回りにはなるが、ハナナサケの森を避けるように新たに街道が作られた結果、ハナナサケ旧街道は事実上の閉鎖となった。

 このとある事件というのは・……七年前の王女バンビの誘拐事件だ。

 当然のことながら一般領民はバンビが誘拐されたことは知らない。

 しかし、あの日多くの領民がハナナサケの森から巨大な火柱が上るのを見ているのである。

 あの火こそが而生獣(リュニオ)の凶暴化の理由であることは、根拠はなくとも皆の知るところになっている。


「あらら、何の因果だろうね~サイ」とバンビはニヤニヤとサイの顔を覗き込むと、

「……うるさいな。バンビだって僕に物言える立場じゃないだろ」とサイはそれを払いのけた。


 そこうるさいですよと担任がバンビを指摘した後、言葉を続ける。


「まずはクラスメイトで二人、あるいは三人で組をつくり行動してもらいます。合計七つのチームで試験を行います。もちろんハナナサケの森は非常に危険な而生獣(リュニオ)が生息しており、現在においても森の中のすべてを完璧に把握しているわけではありませんので、そのチームだけで討伐に行ってもらうわけではありません。それぞれ第壱分団から第陸分団の討伐隊の一員として参加してもらいます」


「先生~! 壱分団から陸分団じゃ一組余りますよー。どういうことですかー?」

「いい質問ですねバンビさん。確かに一組余ります。なので特別にその一組……いえ一人には特別なパートナーを付ける予定です。ね、バンビさん?」

「え……どういうこと?」


 担任は咳払いをしてバンビの言葉を遮ると、続けて説明を始めた。


「ここでチーム分けですが特定の人物にはとある条件を付けさせていただきます。まずバンビさん……あなたは今回一人で参加してもらいます」

「えーなんでなんでなんでー! 私だけひどくない完全に差別じゃん! 不敬じゃん! まぢ万死なんだけどー!」

「理由は二つです。一つはあなたがとてつもなく高い而力(リューン)を持っていますが、コントロールが苦手だからです。場合によっては而生獣(リュニオ)ではなく、あなたの而術(リュニ)によってほかのクラスメイトに怪我をさせるしれないからです」

「それなら大丈夫だよ。私が組むのはサ――」

「二つ目はそのコントロールの悪さを補うためにサイくんに頼っていることです」

「……うっ!」

「バンビさんは、自分の而術(リュニ)をコントロールの補正をするために、サイくんに適性の低い黄系統の而術(リュニ)を覚えるよう強要していますね」

「きょ、強要だなんてそんな……」

「当人同士のことなのでとやかく言いませんが、今回は試験です。バンビさん、そしてサイくんの本来の実力を見極める必要があるので、卒業検定ではサイくんと組むことは認められません。いいですねバンビさん」

 バンビは「はぁい」と不満そうに声をあげるも納得はしたようだった。


「で……この流れで言わせてもらいますが、サイくんは組むクラスメイトをこちらから指定させていただきます」

 サイは小さく頷いた。確かに担任の言うように何の指定もなく、チームを組む場合、間違いなくバンビと組んでいたはず。

 それではサイ自身の本当の実力が計れないというのは目に見えてわかっていた。

 サイも、バンビの付き人のような形で評価されるのは望んでいない。


「サイくんと組んでもらうのは……ハクバくん」

「なっ――なんでこいつと一緒にっ! 俺は反対です!」

 

 ハクバは立ち上がり、大きな声をあげる。


「ハクバくん……これは命令です。これに従えない場合、最悪卒業検定不参加とみなし、もう一年ここで勉強してもらうことになりますよ……」

「ぐっ……わかりました」

 

 ハクバはゆっくりと席につき、サイをキッと睨みつけた。

 いや、そんな親の仇みたいな顔でみられても……。

 なんだか面倒なことになったなぁとサイは小さくため息をついた。

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