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病院にて

 サイは意識を失ったまま二週間ほど過ぎた頃、何事もなかったかのようにゆっくりと目を覚ました。

 体にはなんの異変もなく、特に目立った傷跡や、記憶の混濁等もなかったが、大事をとって領内の病院にてさらに一週間検査入院をすることになった。

 目を覚ました翌日、家族と面会をすることととなった。

 心配そうな顔を浮かべる父シオと久しぶりに会う母スナン、そして新たな家族を目の当たりにした。


「サイ……あなたの弟と妹、セトとソニアよ」


 スナンに抱えられた二つの小さな命は、サイをじぃっと見つめ、そして息を合わせたようにケタケタと笑い始めた。


「そうか、僕はお兄ちゃんになるのか」


 実に不思議な気分だった。

 転生前は一人っ子だったため、弟や妹という存在を身近に感じたことがなかった。

 それが転生後には愛情を一心に注いでくれる両親と、可愛らしい弟妹。

 なにより、心から愛するあやるんがこの世界にいる。

 僕はなんて恵まれているのか……。

 サイは改めて自身を包む幸福をしみじみと感じていた。

 そんな中、ふと一人の少女の顔が浮かぶ。


「そういえば、バンビ様はどうなったの? 無事なんだよね」

「あぁ、サイとは違ってあの後すぐに目を覚まし、当初の目的であった誕生会を兼ねた而力(リューン)測定も行われたぞ」

「あぁやっぱり行われたのか」と、シオの回答にサイは、少しいたたまれない気持ちになった。

 バンビの本来の目的は而力(リューン)測定を避けること。

 しかしニニエロの意図せぬ策略により誘拐され、命こそ救われたものの、結果としてバンビにとっては最悪の展開になってしまった。


「あの、バンビ様は大丈夫?」

「あぁ怪我とかはなかったと思うが」

「いや……そうじゃなくて、而力(リューン)が少なくて王族としての立場を追われていたりしないか……」

而力(リューン)が少ない? 何を言ってるんだサイ?」

「……え?」

 

 戸惑うサイに、シオは嬉々として語りかける。


「いやぁあれはすごかったぞサイ。あんなことが起きるなんて、まさに歴史が変わる瞬間だったな。一つ悔しいことをあげるならば、我が社の而力(リューン)測定器では、その全貌を明かすことができなかったことだ。より高精度高耐久のものを提供できるよう、今開発を進めているところだ」


 シオは興奮のあまり少し早口になりききとりにくかったが、それ以外の理由でサイは状況が飲み込めていなかった。

 シオに問いただそうとしたその瞬間、その答えが目の前に現れた。


「いやっほーサイ! さっきアンタが目を覚めたって連絡があって、飛んできたわ!」


 バンビ、そしてニニエロが突如姿を現した。


「バ、バンビ様一体どうやって!?」

「へっへーこれこれ……」


 バンビが指で掴んで振っているのは小さな紐。これを持つものが近くにいる場合、転移の而術(リュニ)を阻害し、転移先をもう一つの紐がある場所へ変更することが可能。


「おぉ本当に飛んできたんですね。そういう仕組みになっているとは聞いていたのですが、目の前で見るとなかなかすごい而術(リュニ)ですね」


 シオが驚いて声を出したのをみると、どうやらシオが紐を所持していたらしい。

 おそらくバンビに連絡したのもシオだろう。

 だが、そんなことはサイにとってはどうでもいい話で、今一番確認したいことは、バンビの現況である。

 表情から見るに、而力(リューン)が少ないことで何かしらの被害を受けているわけではないのは判断できるが、隣にさも当然かのようにニニエロがいることが不思議でならない。

 ニニエロはバンビを殺そうとした盗賊とつながっていたのだから。


「えーと、家族団欒のところ申し訳ないんだけど、10分くらい席を外してもらえるかしら? サイと大事な話があるの」


 バンビがいうと、シオとスナンは生まれたばかりの双子を抱えたまま、部屋を出た。

 残ったのはサイとバンビ、そしてニニエロである。


「なんでこいつがここにいるんだ! 王女誘拐を仕組んだ張本人のくせに!」


 家族が部屋から出ると、怒りを隠すことなくサイはニニエロに怒声を浴びせるが、それを遮ってバンビが返答する。


「ニニエロについてはあの後いろいろあってね。ざっくり説明すると私の而術(リュニ)で隷属契約をしているの。私が死ねって言ったらすぐに死ぬくらいの重い契約なので、今後はこいつが裏切ることはない。でもまぁ正直万死でも足りないくらいの悪行をしたわけだから、私の私設護衛隊を新たに興して、第捌分団長の身分を剥奪しそこの隊長の身分を与えたわ。とりあえず盗賊に不覚をとって私たちにを険な目に合わせたへっぽこ分団長ってことにして、私のそばに置くことにしたの」

「……本来であれば極刑に処されても文句の言えない立場であります。バンビ様には二度と足を向けて寝られません」

「まぁ、実力や実績だけ見れば王国騎士団の五本指には入るから有能な騎士なのよね。まぁ納得できないし、許せないかも知れないけど、私の顔に免じて矛を収めてくれると助かるわ」

「……わかりました」


 実際に命を奪われそうになっていたのバンビである。

 バンビがそういうのであればサイはこれ以上何も言えなかった。


「あと、ニニエロは私とサイが転生者であることも教えたわ。なのでニニエロの前では別に堅苦しい言葉を使わなくていいわよ。同郷のよしみっていうのかしら」

「え、そのこともニニエロに?」

「そ、というかずっと違和感を持っていたみたいね。だから隷属契約と同じタイミングで教えたわ。大丈夫、ニニエロから漏れる可能性はないから」


 その隷属契約といったものがどういうものかは判断できないが、而術(リュニ)を介していると判断するとそうとう重いものなのだろう。


「転生者って知ってるのなら、この場での敬語はやめるけど、一つ質問いい?」

「何?」

而力(リューン)測定についてはどうなったの? 而力(リューン)が少ないって知られて、それで身を守る護衛としてニニエロを使っているってこと?」


 バンビはニヤニヤとサイの顔をのぞいている。

 その質問を待ってましたと言わんばかりのしたり顔だ。


「いいわ教えてあげる。誘拐のあった次の日。而力(リューン)測定のことを」

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