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最後のヲタ活(prologue)

 体のどこかが燃えるように熱い。心臓が早鐘を打ち、今にも飛び出しそうだった。

 自分でもこの熱の根源がどこにあるのかはわからない。

 だが、確かにこの熱は心体(からだ)を突き動かしていて、彼女を目の前にすると、どうにもこうにも抑えることが叶わない。


「あ、サイさ~ん。今日も最前にいたねー」


 手招きする彼女に誘われるがまま、にやにやしながら近づき、差し出された手をぎゅっと握った。

 力が入りすぎていると帰った後にいつも猛省するのだが、どうしても彼女の前では力が入ってしまう。


「あ、あああ……あやるんっ! 今日のライブもっ――最高だった! 特にダンスがいつもよりキレッキレで、いつもより躍動感がすごかったっ!」

「はは、やっぱりサイさんはよく見てるねー。今日は普段より動きのキレを意識してみたんだ。ありがとね」


 お金で買った僅か数秒のふれあい。だがこの時間こそが僕のすべてだった。

 この時間をもっと多く……なんなら永遠に続いてほしいと願う。

 もちろんそれが叶わないのはわかっているし、そこに触れるのはルール違反だということもわかっている。

 だが、今日はどういうわけか想いがあふれて止まらない。


「あのさ、あ、あのあやるんっ! おおお俺とさ……けっ、けっこ……」


 彼女は不思議そうに俺の顔を覗き込んでいる。

 天然なのか、それとも僕がこんな言葉を口に出すとは思っていないだけなのか、それはわからない。

 言ってはいけない。これまでの信頼関係を崩してしまう、でも……でも……。


「け…………来世っ!」

「……来世?」

「そう来世! もしあやるんがよければだけど、来世で僕と結婚してほしい。今はアイドルとそのファンという立場だから、これ以上のつながりとか、ましてや結婚なんて無理だし、そもそもあやるんはパートナーとして僕を見ていないのもわかってる!」


 多少は理性が働いた、でも十分に気持ちが悪い発言をしている自覚はある。


「次生まれ変わったら、すごいお金持ちでイケメンで、どんな奴からもあやるんを守れる最強の男になるから……来世で僕と結婚してほしい!」


 怒涛の告白に、彼女はいつもより目を丸くして見つめていた。

 ……やってしまった。完全にひいている。


「あ、ごめ……ん。今のは忘れ――」

「――わかった。じゃあ来世で結婚しようね」


 え、今なんとおっしゃいました?

 時が止まったように回りの雑音がなくなり、呆けた顔で彼女から発する言葉にだけ意識を集中した。


「あーでも。来世のことだから私がどんな姿になってるかわからない。日本じゃないかもしれないし、もしかしたら人間じゃないかもしれない。ゴキブリとかかもしれないよ?」

「あやるんがゴキブリになるわけないじゃない! それに日本じゃなくてもきっと王女様とかにしか生まれ変わらないよ! 仮に人間じゃないとしたら天使だね! 間違いない天使天使っ!」


 彼女は焦ってフォローする俺を見て笑っていた。


「うん、じゃあ約束ね。私がどこにいて、どんな姿になっていてとしても……」


 一呼吸おいて、僕の手をより強く握り返した、


「必ず……見つけてね」


 急に視界は白くぼやけ、意識がゆっくり遠のいていく。

 そこからは何も覚えていない。

 ただただ体のどこかが熱い。

 その根源は結局わからないままだった。

 

 

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