虹色
突然の雨。
ルート営業の最中、後輩の菊田くんと取引先のビルの軒を借りている。と言ってももう取引先ではなくなった。断られた。他にいいところを見つけたと。
最後はどこまでもあっさりなんだ。これを会社に帰って課長に報告しないと。
課長──。
「悪いが今日で終わりにしたい」
「え?」
「キミも妻帯者とこういう関係になったんだ。覚悟はしてたろう?」
してたんだろうか?
いつまでも続くと思ってた。
課長だって、奥さんと別れるって言ってたのに。
それにベッドの上で終わった後に言わなきゃいいのにね。
最後まで卑怯なんだ。
「はい……」
「これは少ないが、とっておいてくれ」
「はい──」
お金なんて──。
馬鹿にしてるよね。
20万円か。まあ課長にできる精一杯かもしれない。
6年か。6年の価値なのか。
課長は肉体的な満足を得たかっただけだ。
私はそれによる精神的な満足を得たかっただけ。
自分にウソをついてた。
これは愛なんだ、恋なんだって、思い込んでた。
ホントは分かってた。
利用されてるだけなんだって。
もうやめよう。
もうやめよう。
そしたら、向こうからやめるっていわれた。
ホントは──。
私がやめるって言ったら、すがって欲しかったんだ。
そしたら、課長の心に残れるって思ってた。
だけど──。
結局、私の心に課長が残っちゃった。
タイミング。
遅れちゃった。どこまでもバカなんだなぁ。
あーあ、冷たい。
雨ってこんなに、冷たいんだ。
肌に染み込んでくるよ。
雨なんて嫌い。
メソメソしてるみたいで。
「先輩?」
「なに?」
「運が悪かったっスね」
「まぁね」
どこまでも運が悪い。
重なる。こういうことって。
課長のことで泣きたくたって。
取引先のことで泣きたくたって。
雨にまで泣かれて。
もう、最悪。
「でも、まぁオレは運が良かったかなぁ──」
「──え?」
菊田くんの顔に赤みが差す。
それと同時に雲が晴れる。
隙間から暑い太陽の光。
みるみる雲が消えて、青い大空に変わっていった。
「なんだ。通り雨だったんスかね?」
「──かもね」
あはっ。
空はこんなにも。
簡単に笑えるんだ。
凄いね。
おすそ分けしてくれるんだ。
元気出せって。
あーあ。
なんか。
なんかな~!
そっか。そうなんだ。
「よし。菊田くん。飲みに行くか」
「あ、それなら任せて下さい。凄い旨い焼き鳥屋見つけたっす」
「ほーう。よくぞ私の好みを憶えてたな」
「知ってるっすよ。誰よりも……」
「よーし。朝まで飲むぞ!」
「いっすね。お供しまーす!」
うっし!
頑張るぞ!