それでも世界は回り…それでも僕は生きていく
初めて書いた短編小説です。
なので、おかしい所や、文章が稚拙な所があるかもしれませんが、最後まで読んでいただけると嬉しいです!
「おい!何度言ったらわかるんだ、御子柴!!」
「すみません…」
僕の目に映る全てのものが、白黒のモノトーンに見えるようになったのはいつからだっただろうか…
「なんでこんなことも出来ないんだよ!!」
「すみません…」
自分を含めた全ての人や者に、興味を持つことが出来なくなったのはいつからだっただろか…
「たった1ヶ月で俺は何度お前の"すみません"を聞けばいいんだ?あぁ?」
「……すみません」
生きるのが辛いと…つまらないと思うようになったのはいつからだっただろうか…
「はぁ…もういいよ、御子柴。お前はクビだ!」
「……わかり、ました……お世話になりました…」
いじめを受けていた、子供の時から?
事故で両親を亡くした時から?
長年続けた仕事をクビになった時から?
「何自問自答してるんだろうな…もう分かりきっていることなのに…」
そう…いつから?なんて、そんなの分かりきっていること。
それはーーー
「また仕事クビになったよ…僕ももういい年なのに、何やってるんだろうな……本当にどうしようもない人間だよな僕って…なぁ、君もそう思うだろ?花火…」
幼なじみを…大切な人を……助けられなかった時からだ………
僕、御子柴 優人は久しぶりに一枚の擦り切れた写真を取り出し、その写真に写っている女性を見ながらそう呟き、空を見上げた。
僕と夜桜 花火は、幼なじみだった。
家が隣同士で親同士が仲が良かったため、僕と花火は何をするにも常に一緒だった。
小さい頃は、風呂や寝るのでさえ一緒だったくらいだ。
「ゆ~う~ちゃ~ん!!あ~そ~ぼ~!!」
「花火うるさい…」
花火は何をするのにも元気で、僕はよく振り回されていた。
でも、それを迷惑だなんて思ったことなんてない。
花火が遊びに誘ってくれた時も、小学生の時、親に内緒で花火に無理やり家から連れ出され、夏祭りに行った時も、面倒くさがったり、嫌な顔をしたりしてたけど…内心はいつもドキドキしていて……そして嬉しかったんだ。
花火が僕を誘ってくれるってことが。
花火が僕の隣にいてくれることが。
恋というのが分からない歳だったけど、僕はもう、この時には花火のことが…大好きになっていたんだと思う。
「ねぇ、優ちゃん…なんで私を避けてるの?」
「…別に……避けてなんかないよ」
「避けてるよ…私は優ちゃんのことなら些細なことでもわかるんだよ?ねぇ、なにか悩みがあるなら、私に…」
「うるさいなぁ!!ほっといてくれよ!!」
「………優ちゃん………」
「ッ!?」
「優ちゃん!!」
中学生になると、花火は全校生徒の注目の的に…人気者になった。
美人で、可愛くて、元気で…当たり前の結果だった。
それでも花火は、ずっと僕の隣にいてくれた。
男子から遊びに誘われても、僕が行かなければ行かない…と言ったように。
周りからすれば、僕は邪魔者だったんだろう。
だから、僕は……いじめられた。
でも、どうってことなかったんだ。
なぜなら、省かれたり無視をされたりしても、我慢できたし、机に落書きされても、トイレで水浸しにされても、本を破かれても…家で一人泣いたりしたけど、我慢できたんだ。
なぜなら…花火が傍にいてくれたから。
花火が僕に笑顔を向けてくれていたから。
でも花火は僕の少しの異変に気づいた。
親にも気づかれなかったのに、僕が無理をしてるってことに気づいた。
とても嬉しかった。
だけど…花火には相談できなかった。
いや、しなかった。
何故しなかったのか…理由は考えればいくらでも浮かんでくる。
その中で、一つだけ挙げるとするならば…ただ花火にとって相応しい男になりたかったから。
いじめなんかに負ける弱い男だと思われたくないという、みっともない男の意地…
それが邪魔をして、花火には相談できなかった。
「…は、花火!?」
「おはよう!優ちゃん!」
「な、なんでいるんだよ!というか、何してるんだよ!!」
「何って…優ちゃんの机の落書きを消してるんだよ?」
「なっ!?」
ある日、僕が理由は机の上の落書きを消すために、いつも通り朝早く学校に登校すると、そこには花火がいた。
花火は、必死になって…汗を流しながら、落書きを消していた。
その時、一番知られたくなかった人に、知られていたという事実を…隠したかった人に隠しきれていなかったという事実を知った瞬間、ものすごい恥ずかしさが込み上げてきた。
だから僕は言ったんだ。
「そんな事、しなくていいよ!!…ほっといてくれって言っただろ!!だから、僕の事はほっといてくれよ!!お前、ウザイんだよ!!」
顔を羞恥に染めながら…
花火を突き放すように、キツイ言葉を投げつけた。
「ほっとかないよ。ほっとくわけないじゃん。私も言ったよね?私は優ちゃんのことなら些細なことでもわかるって」
「な、なにを…」
「あの時の優ちゃん…とても辛そうにしてた」
「は、は?つ、辛そう?僕が?そんなわけ…」
「あるよ。だって、優ちゃんは気づいてないかもしれないけど、優ちゃん…あの時、泣いてたんだよ?」
「!?」
「ねぇ、優ちゃん…もっと私を頼ってよ。辛い時ぐらい、私に助けを求めてよ!」
「……そ、そんなこと…」
「私は!…私は優ちゃんとずっと一緒にいたい。だから、優ちゃんにとって辛いことがあったら…私が優ちゃんを助けてあげる!!」
「ッ!?………は、花火…」
「なに?優ちゃん」
「……頼みが…あるんだ」
「うん」
「助けて…」
「うん!!もちろんだよ、優ちゃん!!」
突き放そうとしたのに、花火は逆に僕の心に入り込んできた。
そして、冷えきった僕の心を…花火は優しく包んでくれたんだ。
とても、暖かった。
涙が自然と溢れるほど、優しく、暖かった。
「ありがとう…花火」
「ん?」
「僕を助けてくれて」
「何言ってるの優ちゃん!解決してないから、まだ」
「いや、僕はもう助かってるよ…花火にたった今助けられたよ。だって…僕の心は今こんなにも…幸せいっぱいで、暖かいんだから」
「そっか!」
「ねぇ、花火。今度は…これからは僕が花火を助けるよ!だから、いつでも僕を頼ってくれ!」
「ふふっ!私はもうずっと優ちゃんを頼ってるよ!」
「……花火…」
この時に…僕は恋に落ちた。
「優ちゃ〜ん!遊ぼ~!」
「今何時だと思ってるんだよ…まだ朝の6時だぞ…」
それからは、幸せの毎日だった。
「優ちゃん!夏祭りに行こう!!」
「やだよ…人多いし…暑いし…」
「いいから!行くよ!!」
「お、おい!引っ張るな!」
結局、中学生活の間、いじめは無くならなかったけど…でも、そんなことどうでも良くなるくらい、幸せいっぱいだった。
「おぉ!優ちゃん高校の制服似合ってるね!!」
「そ、そうか?」
「うん!迷子にも衣装ってやつだね!」
「……それを言うなら、馬子にも衣装だ!」
高校生活も…
「優ちゃん…大丈夫?」
「…あぁ」
「……優ちゃん………」
「そんな顔するなよ!僕は大丈夫だ!!母さんや父さんは亡くなったけど…でも俺には花火がいる」
「!?」
「花火は…傍にいてくれるんだろ?」
「うん、うん!!もちろんだよ!!」
「なら、僕は大丈夫だ」
両親が事故で亡くなった時も…
花火が傍にいてくれたから僕は…ずっと幸せだったんだ。
告白しなくても…今はこれで満足だ。
そう思ってた。
でも僕は後悔することになった…
告白をしておけばよかったと…
あの時…あの日…花火を遊びに誘わなければよかったと…
「は、花火!?」
「ゆ、優ちゃん…」
「お、お前…ち、血が…」
「優ちゃん…怪我ない?」
「な、なんでこんな時まで僕の心配してるんだよ!だ、誰か!誰か救急車を!!お願いします!誰か!!」
「優ちゃん…私ね…」
「黙ってろ!今は喋るな!!」
「私ね……ずっと………ゆう…ちゃ……の……こと……が………………」
「!?お、おい!花火!花火!!」
通り魔に刺され…花火は死んだ…
通り魔を見て…通り魔の持っているナイフを見て…怯え動けなくなった僕を庇って。
「そ、そんな…う、嘘だ!花火!花火!頼むから返事してくれよ!目を開けてくれよ!頼むから……一生のお願いだから……僕を…一人にしないでくれよ…」
中学の時、今度は僕が花火を助けると…そう花火に言ったのに…誓ったのに……
助けられなかった。
それどころか…
「ぼ、僕のせいだ……僕の………僕が………」
花火を殺してしまった………
「久しぶりに君の写真を見て、昔の事を夢で見たからかな…自然と足がここに向かってしまったよ…」
そこは花火の墓の前。
花火が亡くなってから15年。
1度たりともここに足を運ばなかった。
花火の葬式すら、出なかった…いや、出れなかった。
おじさんやおばさんに恨まれてると思うから。
花火を助けられなかった…花火を見殺しにしてしまった僕に、涙を流す資格なんてないから…
「……なぁ、花火…君は僕の事恨んでるよな…僕になんてもう会いたくないよな……で、でもさ…遅くなったけど…謝る資格なんてないのは分かってるけど……ごめ」
「謝らなくていいのよ」
「!?」
「優人君…よね?」
「お、おばさん…え、えっと僕は……」
「良かったわ会えて…本当によかった」
「!?」
「大きくなったのね。しばらく見ない間に、もう立派な大人になったのね、優人君」
「え…あ………」
心臓が…バクバクと、ものすごい勢いで鼓動する。
周りの音は聞こえず、自分の心臓の音しか聞こえない。
会うつもりなんてなかったのに…
会う資格なんて、なかったのに…
こんな僕のことなんか…花火を助けられなかった僕のことなんか、目一杯罵ってくれればよかったのに…
それなのに、おばさんは僕のことを抱きしめ、優しく…とても優しく頭を撫でてくれる。
それがとても暖かくて…何故かとても懐かしくて…
「ぅぅ……お、おばさん……ご、ごめ…ごめん…なさい…ごめんなさい…」
「もういいのよ、優人君…もう謝らなくていいの…もう自分を責めなくてもいいの…もう…泣いていいのよ…」
「ぅぅぁ……うあぁぁぁぁぁ」
泣かないと決めていたのに…それなのに…僕は…大声で泣いてしまった。
35歳の大の大人が泣くなんてみっともないのは分かってる。
僕に泣く資格なんてないのは分かっているのに…涙が溢れて止まらなかった。
僕はこの日、15年分の涙を流した…
『これ、家に帰ったら読んでちょうだい』
『これは?』
『花火から、あなたへの手紙よ』
家に帰り、僕はおばさんに渡された、手紙を…花火からの手紙を震える手で手に取り、読み始める。
『拝啓~御子柴 優人君
お元気ですか?
って…こんな堅苦しいのは私っぽくないよね。
手紙なんて初めてだから、変かもしれないけど、最後まで読んでくれると嬉しいな。
優ちゃん、今優ちゃんは何してる?
私は何してるかな?
私がいつこの手紙を優ちゃんに渡せるか分からないけど、今優ちゃんが読んでるってことは、私の夢はかなったってことだよね?
小さい頃からの夢。
優ちゃんと結婚するっていう夢が…
そうだったら嬉しいな!
結婚してるのに、なんで手紙?って優ちゃんは思うかもしれないけど…私、恥ずかしがり屋だから、こうしないと私の気持ち全部素直に伝えられないと思ったの。
だから、手紙で許してね。
あ、でも、後でこの手紙の事で私自身をいじったり、手紙のことを根掘り葉掘り問い詰めたりするのはダメだからね!
私、恥ずかしくて死んじゃうから!!
おっと…そろそろ本題を書こうかな。
ねぇ優ちゃん…私ね優ちゃんのことが大好きです!
大大大好きです!!
ずっとずっと、私のワガママを聞いてくれてありがとう!
私を助けてくれてありがとう!
優ちゃんには、返しきれないほどの…伝えきれない程のありがとうが一杯で困っちゃうよ。
だからね…これから先、優ちゃんに恩を返しきれないかもしれない。それはごめんね。
でもその代わり、私はずっと優ちゃんの傍にいるよ!
私がシワシワのおばあちゃんになっても、優ちゃんがシワシワのおじいちゃんになっても。
もし…私の方が先に死んじゃったとしても…
ずっと…ずっとずっと私は優ちゃんの傍にいる!
大好きだよ!愛してるよ!優ちゃん!!
花火より』
この手紙を読んでいる間、僕はどんな顔をしていたのだろうか…
分からない。
分からないけど…でも流れてた涙は悲しみの涙ではなく、嬉し涙だったのは確かだ。
「僕も…愛してるよ花火…昔も、今も、そしてこれからも……」
僕の目に映る全てのものが、白黒のモノトーンに見えるようになったのはいつからだっただろうか…
自分を含めた全ての人や者に、興味を持つことが出来なくなったのはいつからだっただろか…
生きるのが辛いと…つまらないと思うようになったのはいつからだっただろうか…
それは、僕が僕の愛する人を助けられなかった時から…
見殺しにしてしまった時から…
この後悔は多分死ぬまで消えない。
僕は死ぬまで自分が許せない。
白黒のモノトーンに映る世界も、これからずっとそのままだろう。
自分を含めた全ての人に興味を抱くことも、できないだろう。
これからも生きることは辛く、つまらないだろう。
だって、君がいないから。
僕の愛しい人はもうどこにも居ないのだから。
でも………
それでも世界は回り…それでも僕は生きていく。
最後まで読んで頂きありがとうございました!!
もし、少しでも良かったと思っていただけたら、感想と評価の方をしていただけると嬉しいです!
また、もう一つの作品である、「好き勝手に生きてたら、勇者なのに魔王になってしまいました 」も、よろしければ読んでいただけると幸いです。
こちらは長編になる予定です。
リンクはこの下に載せておくので、よろしくお願いします!