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第十四章 阿修羅の章3 闇に消える


 翌朝、早朝からのざわめきに、私は目を覚ました。明日の調印式に向けて、既に城は慌ただしい空気に包まれていた。私はぼんやりした頭を冷たい水で無理やり覚まし、いつもの麻の単衣(ひとえ)を身に纏う。習慣になった胸に布を捲くのも忘れない。


 調印式か。私は誰にでもなく、独り言ちた。この国の役人も軍人も民も、これで全てが終わったと安堵し、歓喜の中心にいる。だが、私はそこから一人外れたところにいる。この平和が長く続かないこともそうだが、ここが自分の国だという想いが希薄だ。私はここまで何のために戦ってきたのだろう。


『私と共にこの世界を駈け抜けてみないか?』


 あいつはそう言った。ここはまだ中間地点ですらない。ここで足踏みする気はない。そう気持ちを奮い立たせてみても、なぜか空回りする。砂に取られた車輪のようにカラカラと音を立てて回っている。



「阿修羅! マガダの連中はもう、アネヴァイネーヤまで来ているらしい。明日の朝早くにはここに着くだろう。モッガラーヤからの使者が先程ついた」


 昼前、シッダールダが私の部屋にやってきた。あいつも明日の準備で忙しそうだ。椅子に腰かけようともせず、うろうろと(せわ)しない。


「そうか。こんな騒ぎはさっさと終わりにして欲しいな。ところで、スッドーダナ王の具合はどうなのだ? 明日の調印式には出席されるのか?」


 私は気になっていることを聞いた。シッダールタはやや目線を落とし加減にしたが、すぐに柔らかい表情で答えた。


「心配してくれるのか? 一昨日はどうなることかと思ったが、安定している。明日の調印式には出席されるだろう。まだ父上には、印度統一国の王として即位してもらわないといけないからな」


「もういっその事、おまえが即位したらどうだ?」


 冗談ではなく、私は真面目な提言としてそう言った。


「まだ嫌だね。私はおまえと戦場に出たいからな。王子の方が何かと便利だ」


 シッダールタは笑みを湛え、事もなげに言う。何かと便利か。それはそうだが……。


「ああ、そうだ、阿修羅。式に用いる剣を出すように兵に言っておいた。私の物とおまえのものだ。取って来てくれ。武道場の隣室に出してあるはずだ」


 何も答えないうちに、次の用事を言いつけられた。剣も式用のがあるのか。正直げんなりする。


「ああ、わかった。行ってくる。おまえは?」

「私はこれから式の練習だよ。何かと面倒でな。あ、ちょっと待て」


 背を向けて、先に部屋から出ようとする私をシッダールタが呼び止めた。


「今夜、私の部屋に来てくれ」


 それが何を意味するのか、分からない私ではない。心臓がトクンと跳ねる。体が熱くなる。だが、同時に冷たい何かがそれを冷まし固めていく。


「気が向いたらな」


 私は半身だけ振り向き、そう応えると足早に部屋を出た。



 部屋を出ると、騒然とした空気がより一層明瞭になる。人々が狭い通路を小走りに行き交っている。

 既に疲れを感じながら城の者たちにぶつからないよう歩いていると、どこからか私を呼ぶ声がした。その方に顔を向けると、中庭の向こうにリュージュがいる。何だろう。まあいい、どのみちそっちに行くつもりだ。私は中庭を突っ切ってあいつのところへ行った。


「なんだ。おまえも忙しそうだな」


 リュージュに声をかけ、私はそのまま通路を進む。あいつは私に半身を向け、なぜか行く手を阻もうとした。


「阿修羅、大事な話があるんだ。落ち着いて聞け」


 いつになく真剣な顔している。大事な話? なんのことだ。


「長くかかるのか? 夜にしろ」

「だめだ、時間がないんだ」


 私は怪訝に思ったが、仕方なく立ち止まった。

 だが、急ぐと言ったあいつは私ではない何かを見ている。そして軽く舌打ちをして、「しまった、こっちに来る」と小声で呟いた。


「急ぐのではないのか、おまえ……」

「スッドーダナ王に気を付けろ」


 リュージュは声をひそめて、たった一言、そう告げた。私はその言葉に一瞬で凍り付く。


「ディーパ殿! どうされましたか?」


 固まる私を残し、リュージュは突然大声を出すと、走るように去っていった。ディーパ……。昨日の老兵。リュージュはそいつを見ていたのか。


 『スッドーダナ王に気を付けろ』


 私の頭の中は、リュージュの針を刺すような忠告が何度も繰り返し再生された。


 ああ、そうか。そうだったのか。


 今まで不足していたパズルのピースが一挙に揃った。それはまだ(いびつ)で、色も形も不揃いだったけれど、組み立てることができそうだ。


 なぜ、気付かぬふりをしたのか。シッダールタの父上だからか? そんなことで、そんな感傷で、私は判断を鈍らせていたのか。それとも恐れていたのか? 真実を知ることを。


 だが、私ははっきりと思い出した。カピラ城のいたるところで見かける『天の山の印』。決して忘れえぬ日々、幼い私を何十日にも渡り、砂漠まで追いまわした奴ら。兵士達(やつら)の武具についていたのだ。ルンピニーで見たバサラの武具と同じように、『天の山の印』が。あの忌まわしい記憶が今、ようやく(よみがえ)った。悲しいほど鮮やかに……。


 私はゆっくりと振り返る。既にリュージュの姿はない。城の喧騒(けんそう)がずっと遠い異次元にあるようだ。私はまた、ここにいながら何処にも存在しない感覚に陥っていった。




 夜の(とばり)が城に下りて、虫の声がまるで呼吸をするように時を刻む頃、私はスッドーダナ王の私室に向かっていた。予想していた通り、王から呼び出しを受けたのだ。武器の帯同は許されない。私は胸に短剣を忍ばせた。さあ、鬼とでるか蛇とでるか。


 人々は一日中立ち働いた疲れで、ぐったりと寝入っていた。大事を明日に控えたカピラ城は、しんと静まり返った闇の中、いつもと変わらずに佇んでいる。


 長い廊下の果て、王の私室の前で立ち止まる。私は軽く息を吸って声をかけた。


「阿修羅です」

「おお、よく参った。疲れているところをすまんな」


 王はいつものように笑みをたたえ、私を出迎えた。一昨日倒れた王は顔色こそまだ優れなかったが、声には張りが戻っていた。 


「いえ……。何か」


 座を給仕していた女官が私を席に誘う。私は勧められるまま、王の正面に据えられた座にかけた。王は高座に座り、右手に杯を持っている。私の席の前には酒と軽い食物が置かれてあった。女官は私が座るとすぐ、部屋を出て行ってしまった。部屋には王と私の二人きりになる。


「ささ、まずは杯を空けよ。明日はめでたい日だ。遠慮はいらん」


 私は杯に目をやる。既にそれには酒が満ちている。私が杯を右手に持ち、口に運ぶと、王の視線がその仕草に吸い寄せられていくのが見えた。


「王よ」


 私は杯を視線の直前で止めた。


「この杯に毒が盛られていないと、誰が言い切れる?」

「何……」


 青ざめた王の顔は、より一層血の気がなくなっていく。唇の震えがはっきりと見てとれた。私は杯を膝元に置くと、王の目を射るように見た。


「王、私は七歳になるまで、ここカピラヴァストゥにいました。しかしある夜、私と母の住むみすぼらしい家に、数名の兵士が襲って来たのです」


「な、なんの話をしておる」


 王は小刻みに震えだした。私が「昔話です。聞いていただけますか」と水を向けると、無言で頷いた。


「私は母の言うままに逃げ出しました。街を出て、見知らぬ国を渡り。だが、逃げても逃げても兵士達は執拗に私を追って来た。まるで、獣の狩りを楽しむように」


 残酷な兵士達の足音、今でも聞こえてくる。物陰に息をひそめて隠れる。足音が近づく前にその場を離れる。時には夜じゅう、月明かりの中を走った事もあった。


「私は殆ど飲まず食わずで逃げまどった。生き延びられたのが不思議なぐらいだ。いつしか砂漠に辿りついた頃、ようやく兵士の姿は見えなくなった。砂漠でのたれ死んだと思ったのだろう。まさに瀕死の時、私は盗賊に拾われ、九死に一生を得た」


 私はいつしか王の目を見ることなく、斜に構え、淡々と他人事のように話していた。窓の外で木々が揺れている。生ぬるい風が部屋をゆっくりと這い、額に浮かんだ汗を撫ぜていく。


「王、私は王がルンピニーの宮殿に来られた時、供の兵士達の武具がひどく気になった。天の山の印。どこかで見たような、そんな気がした」


 私はあの雨季の日のことを思い出していた。私との模擬試合を買って出た、大男。私はあの男の武具につけられた印ばかりを見ていた。私はふいに笑いが込み上げてきた。


「ふふっ。忘れるわけはないのに。おかしなものだ。気付いていたが、気付かないふりをしていたのかもしれない。信じたくはなかった。だが、思い出しましたよ、鮮やかに。あの幼い日。私を執拗に追った兵士達は、みな武具に天の山の印を付けていた。王、あなたの親衛隊だ」


 そう言い終えると、私は小さく体を揺らした。たんっと床を軽く蹴って、高座へと跳んだ。


「動くな」


 王の背後に回ると、短剣を喉元に突きつけた。王には瞬きをする余裕もなかっただろう。


「答えてもらおうか。私を殺さなければならぬ理由を。今はともかく、七歳の奴隷に何の用があったのかを」

「阿修羅……」


 首に短剣を突き付けられ驚きはしても、王は怯えてはいなかった。私に体を預けるようにしながら、重い口を開いた。


「私を殺すなら、殺せばよい」

「馬鹿な。殺したいのはそっちだろう」


「いや……。もはや、それを望んではおらん。酒に毒も仕込んでいない。阿修羅、私を殺したら、この城、この国から出て行ってくれないか。おまえをシッダールタの傍におく事は出来ない」


「私は王妃などには興味ない」

「それはわかっている」


「それを承知で何故だ。いや、それよりも私の質問に答えてもらおう」


 だが、王は唇にたががはまった様に黙り込んでしまう。動いてもいないのに肩で息をしている。知っているはずだ。あの連中は(きさま)の命令で私を追ってきた。なぜ何も言わぬ! 私は焦れた。短剣に力を籠め、王の体を締め上げる。「うっ」と短く喉の音が漏れた。


「王! 何故に私が邪魔か! 母一人、子一人、誰に知られることもなく、ただのたうちまわるように日々を重ねていた私が何ゆえに……」


「おまえは私の子だ」


 王の呻くような声が、私の怒号を(さえぎ)った。それは私の耳に意志を持った槍のように突き刺さる。


「な……、何と……言った。子? 子だと言ったのか?」


「おまえは私とシャリーンの子だ。シッダールタはおまえと血の繋がった異母兄(あに)だ。私の部下、ディーパに調べさせた。間違いはない」


 耳を疑った。頭がおかしくなったのかとも思った。シャリーンだと? どうしてここに母の名が? おまえは母のなんだと言うんだ?


「う……嘘だ。そんな……こと」


 私の手から、短剣が滑り落ちていく。それを目で捉えながら、遠い世界の出来事のように感じている。頭の中ではスッドーダナ王の言葉が何度も何度も繰り返し響き渡っている。まるで意味のない記号のように。


『オマエハワタシノコダオマエハワタシトシャリーンノコダシッダルタハオマエノアニダ』





「嘘だ……」


 私の口からそれは無意識のうちに漏れ落ちた。人は予想もつかないことを言われた時、簡単に受け入れることはできない。筋道を立てるより前に心に壁を作ってしまう。


「嘘ではないのだよ、阿修羅。十年前、私は自分の子であるおまえを殺そうとした。そうだ、おまえの言うとおり。シッダールタのために、シャカ族のために、カピラ国のために。詫びたところでどうしようもないが、すまなかった」


 王が何かを言っている。

 どこかの偉い坊主が私は災いの種だと言ったとかなんとか。だけど、私の耳はその音を聴いてはいても頭も心も拒絶するのだ。


 殺そうとした? 私を? それは……知っている。母も知っていたのか? 王が私を殺しに来るのを? 知っていた? だから逃げていた。だから私には名前がなかった。


『イツカクルトワタシニハワカッテイタ』 


 あの苦しい日々をあなたは私のために送っていたのか? 華やかな舞台の上で舞い踊る母の姿が私の脳裏に浮かんでは消えた。酔った客が貴方を見る目が嫌だった。下品な口笛も、下衆な野次もみんな嫌だった。あなたはそれを一身で受け止めていた。鳴り響く楽隊の妖しげな音、鼓膜を揺るがす打楽器。


「おまえがルンピニーでバサラを倒したとき、私は気が付くべきだった。おまえの剣技は、シャリーンの剣の舞そのものだった」


 しんっと一瞬に音が消えた。何を言った? 私の剣、剣の舞、母の舞。そのもの? 

 『オマエニハソノ術ヲサズケテキタ』 そうか。そうだったのか。今、やっとわかった。


「頼む、阿修羅。同じ血を持つおまえ達が愛し合っているなど、私には耐えられん。私の過ちに対する罰ならば、甘んじて受ける。しかし、このままでは二人とも地獄へ落ちていく。その姿を見ることは忍びないのだ」


 渦巻く炎が強すぎて、私は王の懺悔(ざんげ)を半分も聞いていなかった。聞いたところで何になる。地獄? 今更何を言うのだ。もうずっと前から私はそこの住人だ。あまたの人の血にまみれ、(あや)めた魂が毎夜首を締めに来るのを楽し気に眺めている。それが私だ。

 シッダールタは……、ヤツは、私と一緒にいたいと言った。兄? だからどうしたというのだ。


 ソンナコトハカンケイナイカンケイナイトモニイキヨウトチカッタノダカラ


「王」


 私は口を開く。既に私の頭も心も容量を超えている。あふれだす何かを、私は吐き出した。


「随分と都合のいいこと言ってくれるな。母と私がどれほどの苦難の日々を送っていたのか、貴様には想像もできないだろう。地獄? 今更そんなものを恐れるものか。因果応報とはよく言ったものだな。私の忌まわしい運命が、貴様達父子に起因するならば、地獄へと道連れにするのも一興というものだ」


 目の前のこの初老の男が、父だと言われてもそれを受け入れられるはずもない。こんなことで私の行く道を阻むな。貴様の犯した過去の罪など、知ったことか! それを憂うのならば、地獄でもどこへでも行くがいい。私は何も恐れない!


「いいや、阿修羅。それは本心ではあるまい」


 王は静かに首を振った。そしておもむろに顔を上げ、私を見る。私の本心ではない? では、私の本心はどこにあるというのだ。


「阿修羅、シッダールタは心底そなたを愛している。本当に。それは恐らく、自分の命よりも大切なものだろう」


『愛している』……。あの(シッダールタ)は何度私に言っただろう。その甘く切ない言葉がどれほどに力を持っていることか。あいつは知っていたのだろうか。


「そして阿修羅、おまえも愛しているのだろう。シッダールタを、おまえなりに愛しているのだろう。妃とならずとも、共に戦い続けることがおまえの愛ならば、それもまた、命を賭けた激しい愛の姿のはずだ」


 私の? 私の愛の姿? これは滑稽だな。数えきれないほど人を殺めてきた私に愛が宿る余地などあるのだろうか。シッダールタを欲していたのは、ただ温もりが欲しかっただけだ。きっとそうだ。だから……。もう戯言はやめてくれ。貴様は自分の犯した罪をきれいごとに置き換えたいだけだ。私を体よく追い出して、シッダールタを守りたいだけだ。いや、自分を守りたいだけだ!


「シッダールタを愛しているのなら、王子の前から姿を消して欲しい。もちろん、そなた自身のためにも」


 それなのに、こいつの魂胆はわかっているのに、どうして言葉が出て来ないのだろう。どうして私は、この男のいう事を黙って聞いているのだろう。どうして、涙が溢れてくるのだろう。


「さあ、私を殺すがよい。おまえにこれほどの苦しみを味合わせたのは私だ。当然の報いだと思っている。私を殺しても、後はディーパが上手くやってくれる。おまえを追う者はいない。阿修羅、これが私の精一杯の償い、愚かな父の愛だと思ってくれ」


 オロカナチチノアイコロセコロセコロセ―― 


 私の目に、膝元に落ちている短剣が写った。それをそっと右手で拾い、ゆっくりと握ってみた。王を殺す? 私と母を苦しめた父を殺す?


 私は短剣を王の首目掛けて振り降ろした。王は微動だにしなかった。目を閉じ、両手を握りしめ、その時を待っていた。


 私は王を貫くことは出来なかった。


「ふふ……」


 いつしか笑い声は涙声になっていく。胸が苦しすぎて息ができない。深い水の中に沈んでいく。手を伸ばしてももう這いあがれない。息が……できない……。


「阿修羅」


「王、もういい。もういいのだ。なにもかも……」


 私はもうこれ以上、(あがな)えなかった。憑き物が下りたように、私の意志は無気力で無色透明になっていった。運命は流れていくだけだ。私もそれに身を任せよう。


「王、私がこの城を出た後、シッダールタに今のこと全て話せ」


 私は短剣を胸に収め、立ち上がった。


「あいつのことだ。私が出て行けば、死にもの狂いで私の後を追うだろう。そうさせないためには、真実を言うしかない。王、貴方の口から。それができるか?」


「わかった。約束する。そなたの言う通りだ」


「出家の道を選ぶかもしれない。それでもいいのだな」


 唐突に、数日前に見た夢を思い出した。あいつは『仏陀』として私に会いに来た。そういう未来もあるのかもな。そんな風に思えた。


 スッドーダナ王は驚いたように目を見開いて私を見た。だが、私の言葉を反芻(はんすう)するように、二度三度と頷いた。小さく、そうだな。そうかもしれん。と呟いている。


 王の姿に私はほんの少し唇の右端を上げた。言い様のない寂しさに、胸をかきたてられながら。乾ききらない涙が睫毛を束にしていて瞼が重い。


「では、王、お元気で」

「阿修羅!」


 退室しようとしたとき、王は私に駆け寄りひざまずくと手を握ってきた。痩せてしわがれた、しかし暖かい手だった。


「許してくれ。阿修羅。このような父を許してくれ」


 私の手を自分の頬に充て、王は何度も何度も詫びる。白々とした感情がどうしようもなく湧き起こってくる。貴様を許したわけではない。いや、私に許す権利もないか。だが、(すが)られてもどうすることもできないのだ。私はその手をゆっくりと外すと努めて優しく言った。


「心配はいらない。王、私には最初から父はいない。盗賊 “流沙の阿修羅” それ以外の何者でもない」

「阿修羅!」


 王の声が背中を追い越していく。私は既に透かして向こうが見えるほどに薄っぺらいものになっている。心に闇を抱えながら、さらに暗い闇へと消えていった。







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