平原の場合5
説明が終わるとちょうどプランツェの人事担当者の方から返信のメールが届いていた。訪問の日程を調整してくれた主旨のものだった。金城はアポイントの調整が出来たことをすぐに石原に報告した。
「石原さん、明後日の13時からのアポになりました。」
「そう、早めに会ってもらえることになって良かったね。」
「はい!平原さんも喜ばれると思います!」
「うん、じゃあ平原さんにも進捗だけ共有しておいて。」
「わかりました。あのぉ、それと当日ですが私は在宅勤務の予定の日だったので、現地集合で大丈夫ですか?」
金城は当たり前のように、石原も同行をしてくれるものだと思って待ち合わせの方法を聞いていた。その様子を見た桜井は、また受け売りの言葉を我が物顔で話し出した。
「金城さん、GEARでは基本的に訪問は1人で行くんだよ。」
「えっ?」
金城は自分にはまだ早いと勝手に思い込んでいた。実際にこれまで1人で訪問をしていなかったし、まだ自社の説明や他社情報、市場動向なども適切に行う自信もなかった。住宅メーカーの時は新入社員とは言え、2ヶ月以上の研修をして、現場に配属をされて1人で訪問をするようになったのは、更に2ヶ月後のことだった。それは中途入社をして来たメンバーもほぼ同様だった。だから入社して1ヶ月ほどしか経っていない自分がいきなり1人で顧客訪問をするなんて思いもしなかったのだ。だがここで金城は思い直した。これまでも色んな自分の思い込みが、石原の本質的な価値観によって見直されてきた。きっと今回もそうだ。そう確信することが出来た。
「金城s、、、」
桜井が金城に説明をしようとするのを、石原は口に人差し指を当てながら制した。そして小さな声で桜井にだけ聞こえるように伝えた。
「考える時間も財産。」
桜井はハッとした表情で石原の考えを理解すると同時に、自分の出番がなくなった残念さを顔に滲ませていた。それを察した石原は、
「後で桜井から説明してもらうから。」
と付け加えたことで、桜井も満足そうだった。そのやりとりの間も金城は頭をフル回転させて考えていた。そして自分なりの答えには辿り着いたようだったが、少しスッキリしない表情で話し出した。
「自信はないんですが、、、多分私の成長のために最初から1人で訪問をした方が良い、ってことですか?」
「正解!その通り。僕自身も経験があるけど、どうしても上司が同席すると、自分が話す機会も減るし、お客様から自分では答えられないような質問をされても、上司に甘えて自分事にならないよね。わからないことを自分で調べて初めて身に着くから、その機会を失うのはもったいないよね。」
「はい、その通りだと思います、、、」
正解をしたのに金城はまだ浮かない表情だった。それを察した石原は先回りをした問いを投げかけた。
「でも力不足の自分が1人で訪問することで、お客様の迷惑にならないかが不安、って顔かな?」
「そうなんです!お客様を大切にする石原さんがそんな方法をやらせるのかな、ってのが疑問のままで、、、」
「はい、じゃあここで桜井にバトンタッチね。」
そう言うと桜井は嬉しそうに、鼻息荒く返事をした。
「はいっ!!!」
ボリューム調節機能が壊れたテレビのように、場違いな声量で金城の体はビクっと震えたが、桜井はそのことを気にも留めずに、間違ったボリュームのまま話を続けた。
「金城さん!貴方のような(綺麗な)方が来て、迷惑と思う人はいないです!!」
と頓珍漢な内容で、更に考える余地(財産)を与えない説明に、石原はやれやれとため息をつきながらも、微笑ましく思いながら補足説明をすることにした。




