平原の場合4
しばらくして冷静さを取り戻した桜井も片付けに参加した。3人でやるとあっという間に片付けることができた。床がタイル調の防水仕様というのも不幸中の幸いだった。そして片付けが終わると桜井は石原を問い詰めた。
「僕がいない間に、2人で何してたんですか???」
その恨めしそうな顔を見て、また全てを察した石原は経緯を説明した。桜井はパラダイムシフトのことはあまりピンと来ていなかったようだが、自分が心配するようなことではないことは理解したようで、安堵の表情を浮かべていた。金城はそんなことよりも早く自分の疑問を解消したかった。
「それよりもちゃんとした正解を教えてください!」
「そうだったね。話の途中だったもんね。じゃあちょうど良いから桜井から説明してもらおうか。」
自分の活躍できるチャンスがやってきた!と桜井は意気揚々と話し始めた。
「任せてください!今回返事をもらえたのは、プランツェの方が優秀というよりも、プランツェという会社自体が、人財に対して優しく、誠意のある会社で、尚且つそこで働くスタッフの方々も優秀な方が多いから、だと思われます!」
完全に石原の受け売りだったが、桜井は満足そうに金城に説明をしていた。金城はまだ完全には理解していない様子だったので、桜井の補足説明を待ったが、すっかり満足しきっている桜井からはそれ以上の説明はなさそうだったので、石原は付け加えることにした。
「僕はね、人事担当者の方が、僕らのような外注業者に対してどう接するか、ということがその会社の社風を、その実態を如実に表しているんだと思うんだよ。」
「社風の、、、実態ですか?」
「そう、僕らは人事担当者の方から見たら、採用の手伝いをする外注業者だよね。会社によっては下請け業者と表現されることもある。でも会社によっては大切なパートナーとして扱ってくれることもある。」
そう聞いて金城は住宅メーカーと建材メーカー、設備メーカーとの関係性を思い出して深く頷いた。
「一般的には圧倒的に上下関係として見られて、僕らは下の存在として扱われてもおかしくない。表面的には丁寧に扱っている風の会社でも、実態は下に見ていることも多いんだ。」
石原の目が、一瞬深く深く、暗さを帯びていった。そしてすぐにいつもの目に戻った石原は続けた。
「このことからね、人事担当者の方が僕らにどう接するか、ということが、その会社の上司部下の関係性を示唆している、と僕は考えているんだ。」
「なるほど。でもそんなに綺麗に当てはまるものなんですか?」
「うん、僕の経験上、かなりの確率だと思う。というのも人事担当者というのはその会社の人材戦略を支えるとても重要なポジションだからね。会社の顔とも言える方はその会社のロールモデル、象徴とも言うべき人財を据えることになる。」
「逆に人材戦略を大切にしない、社員を大切にしない会社は、人事担当者の人選も適当ですよね。」
桜井がしたり顔で説明に入ってきた。
「そうだね。桜井も人材業界が長いから色々見てきたよね。」
「えぇ、人財を大切にする会社の場合、会社の顔とも言える人事担当者の態度は、驚くほどその会社を表しますし、逆に人材を大切にしない会社の場合はそれほど参考にはならないですよね。」
桜井が自分の受け売りの言葉を完全に自分のものにしていることは、ある意味では良いことだと思っている石原は、そのことには触れずに説明を続けることにした。
「桜井の言う通り。人財を大切にする場合、そしてそうでない場合、いずれの場合にしても、こちらからのアプローチに対して、真摯に対応してくださる場合は安心できる社風である可能性が残る訳だね。しかも今回は平原さんからの現場社員の情報も加味すると、かなり良い社風であることが想定できるかな。」
「逆に人事担当者の方が横柄な方だとすると絶望的ですよね。この場合はどちらに転んでもその会社は大切な人にはお勧めしづらい会社になりますよね。」
「そうだね、よっぽど自分も偉くなったら横柄にしたい、という方でなければオススメはできないし、個人的にはそういう人たちの支援はあまりしたくないから、断ってしまうけどね。」
ここまでの説明で金城は初めて桜井を見直していた。伊達に人材業界を経験していないのだ。




