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平原の場合2

 平原が希望したのは、プランツェ株式会社というメーカーだった。主に火力発電所向けの装置を製造販売している会社で、外資系企業でありながら、日本で100年以上事業を続けている会社だった。社員規模は100名ほどの会社で、石原も初めて聞く会社だったが、平原曰く、「プランツェのエンジニアはみんなイキイキとしていて、技術水準も高い印象」ということで、きっと良い社風の会社なのだろうと想定できた。平原との面談後、早速金城に新規開拓をしてもらうことにした。


「石原さん、こういう時っていきなり電話かけても大丈夫ですか??」


「うん、大丈夫だよ。だけどもっと良い方法があってね、、、」


 そう言うと石原は金城が持っていた平原の応募書類を指さした。


「それ、使わない手はないんだよね。」


「履歴書と職務経歴書、、、ですか、、、?」


「そう。ほら、さっきの面談で僕が平原さんに使って良いですか?って確認してたでしょ。」


 石原は穏やかな笑顔で、金城の気付きを待った。金城はしばらく考えると、すぐに答えに辿り着いたようだった。


「なるほど!いきなり人材の紹介をさせてください、って電話をするよりも、具体的にこれだけ優秀な方が御社に興味持っています、って先に伝えておいた方が、先方にとってもメリットがありますよね!」


「そう、さすが、理解力が高くて助かるよ。僕は自分に営業力がないのはよくわかってるからね。こうやって求職者の方の魅力も使わせてもらいながら、これまでも開拓をして来たんだよ。」


 石原はこの手法で求人の開拓を行って来た。実際にGEARが持つ求人で、桜井が持ってきてくれた求人を除けば、全てこうして求職者の方ありきで開拓したものばかりだった。業界内ではかなり異質な求人開拓の手法だった。通常は求人ありきで求職者を当てはめるため、先に求人を開拓してから求職者をスカウトするのだが、ここにも石原のこだわりが出ていた。金城がこうした石原の築き上げてきた仕組みのすごさに気付くのは、もうしばらく先のことだった。


「わかりました。じゃ平原さんの応募書類を送ってから、営業をかけてみますね。」


「うん、お願いね。あっ、それと念のため個人情報は消した状態で応募書類は使うようにしといてね。」


「はい!」


 そう言うと金城はパソコンに向き合い、手早く平原の応募書類のWordデータを修正し、プランツェのホームページを検索した。幸いにも採用情報のページに問い合わせ先のメールアドレスと人事担当者の名前が公開されていた。10回に2回くらいだが、こうしたラッキーがある。メールアドレスがないと、ファックスや、最悪の場合郵送で送らなければならなくなるので面倒だったのだが、今の金城にはどれだけ幸運なことなのかを知る由もなかった。


 金城は修正した平原の応募書類データと、自分で考えたメール文章を石原に確認し、いくつか修正点を直してから送信作業を行った。しばらく時間をおいてから電話でも連絡を入れようと考えていたが、思いのほか早く、先方の担当者からメールでの返事が届いた。しかも驚くほど丁寧な文面で、優しさや思いやりも伝わるような内容だった。金城はすぐに隣に座っている石原にもメールを転送し、浮かんだ疑問をぶつけた。


「石原さん、メール転送しました!」


「あぁ、今見てるよ。」


「こんなに早く、しかもこんなに丁寧な返信ってもらえるものなんですか?!」


 金城は住宅営業の時の新規開拓の難しさを基準にして今回も取り組んでいたので、拍子抜けするほど簡単にレスポンスをもらえたことに驚いていたのだ。


「いや、こんなことは珍しいよ。メールだと98%くらいは無視されるし、今回みたいに求職者情報付きの場合でも、90%以上は無視されるからね。」


「そうなんですね、、、ビギナーズラック、ってやつですかね。」


「そうだね、と言いたいところだけど、実はこれにはあるからくりがあるんだよ。」


「からくり、ですか?」


 石原の雰囲気を見て、金城はまた面白い話を聞ける匂いを敏感に嗅ぎ取っていた。


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