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「ニホン人は誰も知らない驚愕の真実。就職、転職ビジネスの闇に迫る!」

「自己分析なんて、絶対にしちゃだめですよ!!

転職のプロとしては、絶対にオススメできません!!」


桜井は受け売りの言葉を、我が物顔で自身満々に披露した。


いや、勢い余って披露“してしまった”のだった。自分の余計な一言がどのような結末を迎えるかも知らずに。


桜井は大学卒業後、転職エージェントと呼ばれる、転職活動を支援する会社に就職し、5年ほど勤務していた。業界でも大手の企業に勤めていたが今月から社長しかいない零細エージェントに転職したばかりだった。


今の会社に入って初めての転職希望者との面談で、何より社長に褒められたい、という気持ちが相まって、身の丈に合わない大きな背伸びをしてしまったが故の失言だった。


目の前にいる飛び切り美人の女性は、その大きな目を更に大きく見開いて、面談室の外に響き渡るほど大きな声で食いついてきた。


「どういうことですか!??

大学でも、ネットでも、仕事探しをするときは自己分析から、って教えてくれましたよ!!」


その剣幕で、桜井はの視野が更に狭くなっていった。


「それはですね、、、自分のことは自分では見えない、と言いますか、大いなる陰謀と言いますか、、、」


先ほどとはうってかわって、小鳥がさえずるような小さな声になってしまった。自信のなさを見逃さず、目の前の美人は更に食いついてきた。


「陰謀ってなんですか!?」


ひと際大きな声が会社中に響き渡った。


また余計なことを言ってしまった。自分の悪い癖である。「わからない」や「ごめんなさい」を言うことが怖くて、ついつい余計なことを話してしまう。


しばらく沈黙が続いたが、美人はなかなか次の言葉を発してくれない。無言によって更に自分を追い込んでくる。


最悪のデビュー戦だ。せっかく自分を拾ってくれた社長に申し訳ない。


そう思えば思うほど、どんどん頭が真っ白になっていった。



「コンコンコン、、、ガチャリ」


面談室の扉が開く音で、我に返った。


社長の石原がいつも以上にやさしい顔でほほ笑むのが見えた。


「ご面談中恐れいります。株式会社GEAR、代表の石原と申します。」


そう言いながらネームプレートをちらりと見せた。石原は美人の様子を伺いながら言葉をつづけた。


「金城様、桜井がご迷惑をおかけしておりましたら申し訳ございません。

よろしければ私の方でお話を伺わせて頂きます。」


「迷惑とかではないんですが、訳のわからないことをおっしゃるので困惑していました。」


「それは大変申し訳ございません。どのようなお話でしたか?」


「それが桜井さんが自己分析をするな、って言ってきたんです。私は自分がやりたいことがわからないので、相談にのってほしかっただけなのに。」


「ご不快な思いをさせてしまい大変申し訳ございません。私の指導力不足です。」


「いえ、不快な思いとかはどうでも良いのですが、どうして自己分析をしてはいけないのかが気になるんです。なのに桜井さんは理由を教えてくれなかったのが気になって気になって仕方がないんです。」


金城は人一倍、探求心が強く、気になることがあると寝られなくなるタイプだった。


「承知いたしました。それでは桜井に変わって私からご説明いたします。金城様、本日はお時間はまだ大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫です。」


「では早速ですが、金城様は今回初めてのご転職活動とお見受け致しますが、間違いございませんか?」


石原は金城の履歴書と職務経歴書を見ながらあらためて確認をした。


「ええ、間違いないです。これまで会社を辞めようと思ったことは何度もありますが、実際に動き始めたのはここ最近です。」


「承知いたしました。ちなみに今回は他の転職エージェントもご利用になられましたか?」


「はい、他には大手のエージェントさんと3社ほどこうして面談をして頂きました。」


「そうでいらっしゃいましたか。そのようなご状況で今回、弊社のような小さなエージェントにもご面談の機会を頂けたのはどうしてですか?」


「大手のエージェントさんにも相談したんですが、、、

求人の情報はたくさんいただけたのですが、自分のやりたいことがわからないと伝えると、更に多くの求人を案内されるだけで、余計にこんがらがってしまって、、、

言葉にできない違和感を感じた、と言いますか。それで今度は会社紹介をしっかり読み込んで、相談するエージェントさんを探していたところ御社に出会ったんです。」



【*転職の裏側 豆知識】

転職希望者(求職者と言う)と、転職エージェントの出会いの大半は、求人サイト(エージェント目線では人材データベース)と言われるインターネットサイトを介してとなる。サイトによってまちまちだが、数十社から数百社のエージェントが登録しているケースが多く、各エージェント企業の紹介文(アピール文)と、そこで働く各コンサルタントの紹介文が掲載されている。


転職エージェントからのメール(スカウト活動)からやりとりが始まるケースと、サイトに掲載されている求人情報や会社情報に応募することから始まるケースがあり今回は後者のパターンになる。



「数あるエージェントから見つけて頂いてありがとうございます。ちなみにどの文章にご興味をお持ち頂けましたか?」


「転職の裏側を伝える?でしたっけ。他のエージェントさんとは全然違う視点で書かれていたのが気になって。あと代表の方自身も転職エージェントを利用されたときの失敗経験から会社を作られた、というエピソードも興味がありました。」


「ハハハ、お恥ずかしい限りです。ありがとうございます。そうですね、私自身えらそうなことは言えないのですが、10年以上前ですが自分自身が大失敗をしていましてね。たまたま転職した先が人材会社だったので、なぜ自分が失敗したかを知ることができたのと同時に、自分と同じ過ちを犯してしまう方の多さに直面したことがきっかけで、この会社を立ち上げたんです。」


石原はそう言うと照れくさそうにはにかんだ。


桜井は同業他社の前職で学んだ常識と、石原が体現している常識があまりにも違うことに衝撃を受けたのと、石原のこういう人間臭さにも惚れ込んで、一緒に働かせてもらいたいと思ったのだった。そう思い返しながら石原のことをじーっと見とれてしまっていたが、石原は気にも止めず話をつづけた。


「金城様、ひょっとして大手のエージェントからは、やりたいことなんてわかっている人はほとんどいませんよ。それよりもせっかくの機会なので色々な会社に応募しましょう。良い求人は枠がすぐに埋まる、早い物勝ちだから短期決戦で少しでも多くの求人に応募しましょう、と言われませんでしたか?」


「そうなんです!!どこに相談しても同じように急かされて、、、でも自分の中で整理が追い付かなくて怖くなったんです。」


「やはりそうですか。私も同じ経験をしたのでお気持ちはよくわかります。この辺りもからくりがあるのですが、まずは気になって頂いている自己分析のところから、お話をしていきましょうか。」


金城はそのからくりも気になるけどな、と感じていたが、石原はそれを見透かしてか、


「もちろん、このからくりも後程ご説明しますね。」


と言葉を足してくれた。


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