緑色の瞳
パーティルームだったところも、レストランも、喫茶室だって、従業員の憩いの控室までも、私が眠っている間にすべて破壊されていた。
乗客乗員を守るコンシェルジュがなんてこと!
一番最初に眉間を撃ち抜かれてブラックアウトしてしまったなんて!
再生して戻ってくるまで十五分。
たったそれだけで惨劇は終了していた。
私の船の乗員乗客の千五百二十名。
たった数人のテロリストによって殺されてしまったのだ。
私はテロリスト達の船外への撤退完了と乗客乗員の生存者が殺戮のあった現場には誰もいないと確認すると、意識を失うコンマ数秒で守りきれた人物の元へと走った。
広間のダストシュートに落とし込んだ彼を急いで救出しなければ!
千五百二十一人目の乗客。
密航者だった、彼。
出世払いで船賃を返すと私に約束し、私自身が選んだ初めてのカスタマーとなった彼だ。
茶色の肌に茶色の髪、服装も地味な茶色のセーターにツィードのズボンであるからか、彼は小さな茶色の影でしか無い。
ただし、彼の瞳は鮮やかな緑色で、まるで枯れた大地に初めて芽生えた双葉のように美しかった。
そんな彼はダストシュートに落とされた事で生ごみに塗れていたが、彼をこんなにも怖い思いをさせた私に苦情を申し立てるどころか、彼は私に謝った。
「ごめんなさい。僕がこの船に乗ってしまった、から。」
私は泣き出した彼を抱き締めた。
そんな一瞬、バシアヌスの横腹にバシアヌスを真っ二つにできる程の衝撃を受けたのだ。
衝撃波を受けた私達は、生ごみの中に突き飛ばされるようにして転がった。
「起きて!フェブ!」
私が目を開ければそこは指令室であり、私は誰かの膝に横たえられていたようであり、その誰かは泣きそうな顔で見下ろすアンセル大佐であった。
鮮やかな緑色の瞳は、あの日に私を見上げたあの子のように涙で潤んでいて、尚更に美しく輝いている。
「あ。」
彼は私が意識を取り戻した事を理解している筈なのに、私を見下ろしていたその表情から想定できる喜びの声を上げるどころか、私の頬を軽くだがぺしぺしとしつこく叩きはじめた。
「大丈夫か!頭はしっかりしているか!君はフェブのままか!」
「あら、あなたの認識では、私が変わってしまった、でしたよね。」
「君は!」
アンセルは真っ赤になると私を自分の膝から放り出そうとして、横になっていた私は彼の膝から落ちる事に対して反射的に彼にしがみ付いた。
指令室の司令官の椅子は偉い人だと一目でわかるように高台にあるのだ。
私は余計な怪我は負いたくない。
しかし、その私の反応がアンセルにはとても嬉しかったらしく、彼は急に声色も態度も変えて私を抱き締め直したのである。
「ああ、良かった。君は君のままだ。君はヒューゴに壊されなかった。」
「ヒューゴ?」
「シェフィールドのCPだよ。」
「あら、まあ。」
指令室の大きなモニターには、真っ黒な珠が映り込んでいた。