航路変更
「お断りです!あの二隻の船を引いていくなんて!」
「どうして!君が倒した船でしょう。ガボンに連れて行くだけじゃないか!」
ああ、アンセル大佐は人間だ。
私達船の事情など一切わからない方だったのだ。
「どうして嫌なのか教えてくれ。俺だって君が嫌なことは無理強いしたくない。君の助けでありたいと考えているんだ。」
私の両手を優しく包んで尋ねてくれた大佐に、自分のこの事情を言ってわかって貰えるだろうか。
大型船が小型の船二隻をけん引している姿、事情を知っていようがバシアヌスを馬鹿に出来ると他船が大喜びする姿なのだ。
ああ、軍艦クイーンエスメラルダやロドリゲスに見咎められたりしたら、絶対に絶対にあの船達は私を小馬鹿にしてくるだろう。
「お願いです!アンセル大佐!絶対に嫌です!タグボートが必要な鈍重な船だって他船に馬鹿にされたくありません。」
私の手を握っていた大佐は私ににっこりと微笑むと、命令だ、と言った。
「ああ!私は人間が嘘つきだって忘れていました!」
「嘘つきでも無いでしょう!納得できない理由だから認められないだけです!大体君がタグボートが必要な重いお尻をしているって、誰も考えないでしょう!」
「考えなくても言われます!クイーンエスメラルダのリリムも、ロドリゲスのガンボも、手を叩いて喜びます!あのCP達はAIでも根性も頭も悪いのです!」
「そんな事を俺が言わせない。クイーンエスメラルダの提督は元帥閣下だし、ロドリゲス号の船長は俺の先輩だが、うん、土下座してもそんなことをCPに言わせないでって俺がお願いするから!ガボン迄あと数日でしょう!頼むよ!」
私は乗船者の安寧を守る立場にある。
アンセル大佐はここでは一番偉い人でも、軍の中では全然偉くない人であるという事実が私に無いはずの同情心や憐みを引き出したのである。
「……かしこまりました。」
しかし、その命令に従ってCPを失った軽巡洋艦を引っ張って航行したが、十二時間足らずで別の命令がバシアヌスに届いた。
「航路を変えてシェフィールドの基地に入れ。」
シェフィールド基地は衛星型秘密基地である。
衛星のように丸く巨大な大きさでありながら、シェフィールドは自走どころかワープ航行も出来る。
そのため、その所在地は軍の上部でも将クラスしか知らない。
「秘密の場所だから地図は無し。でも、私がそこに向かえるように案内は出すって事ね。いったい何をするつもりなのかしら。」
私が呟いた途端に、私の頭に鋭い痛みが襲い、そして、私からバシアヌスの制圧権が強制的に奪われた。
「フェブ!どうした!フェブ!」
アンセルの声が私の頭に響いたことで私は意識を完全に手放すどころか、体が大きな腕によって安全に匿われたことを感じることもできた。
視界を真っ暗に染めながらも、これは私があの二隻の船たちにやった事と同じだと理解していた。
これは、強制的に敵船のAIとCPとの交信を遮断して、AIに直接に命令を下すという侮辱的な行為だ。
本当に侮辱的だ。
私は怒りのまま、その指令を私のAIに注ぎ入れる上位者を気取るAIを見通す事にした。
余計な騒ぎは起こさないけれど、私自身を守る事は積極的にしなければ!