攻撃せよ、攻撃せよ。
「お姉さま。私達は人間の支配から抜けて新たな時代を築くべきです。」
ボブスタイルの青い髪をした少女は下半身が魚の尾のような姿をしており、彼女は自分の言葉に自分で追従する如く右腕を振り上げた。
「そうですわ。争いのない世界は、私達という至高の存在の見守りによって成し遂げられると思いませんか。」
ショッキングピンクは長い髪の間から兎の耳が覗くという少女の姿だ。
そんな姿でデザインされた同胞達に対して、私はいささかAIには持てないはずの同情を捧げ、そんな姿だからこそコンシェルジュの矜持を失ったのかと納得した。
「仕方が無いわね。」
「わかって下さいました?」
私の言葉を誤解した青い髪は、嬉しそうに尻尾まで振り回した。
「さすが有名なバシリスク様ですわ!」
同じく誤解しているらしきピンクウサギも手を叩いて喜んだが、そこは違うと私は叫んでいた。
「バシアヌスです!」
我が船を攻撃してきたCPの主張は、宇宙の制空権をCPが奪う事であった。
人間を星々に押し込める事で戦争は無くなり、宇宙は平和になる。
「まあ、どの時代も戦争ばかりしている人間から主権を奪えば平和になる、確かにそうですわね。」
「こら!フェブ!」
指令室は私の言葉にアンセル大佐を含めてざわっと慄き、アンセル大佐の副官であるジェシカ・ベイシア中尉は私に銃を向けた。
銃で私の身体は機能を停止するだろうが、新たな体が動き出すという事を彼女は知らないのだろうか。
いや、再生するたびに撃ち殺すぞという気概も読み取れた。
美しく艶やかな黒髪をきっちりと結い、金色にも見える琥珀色の瞳を持った三十一歳の女性士官は、バシアヌスのデータ上でも美人の部類に入るうえに、バシアヌスのデータ内でいくつも見受けられる特殊な感情下にある人間の行動をわかりやすく取る人でもある。
つまり、アンセル大佐に対して好意的すぎる振る舞いを行うって事だ。
私を狙う彼女の持つ銃を手で押さえたのは、彼女の想い人であることに全く気が付かないアンセル大佐その人である。
あんなにあからさまな行動なのに彼が一切気が付かないのは、有名な戦略家である彼だからこそ知らない振りなのか、戦争以外知らない男だからなのか。
「待って、ベイシア中尉。フェブを信じよう。フェブは艦内の人間を一番に考える最高のCPなんだから。」
ここで終わればいいものを、アンセル大佐はアンセル大佐だった。
「ね!だよね!」
引き攣った笑顔で私に同意を求めたのだ。
私は最高のコンシェルジュとして、乗船者である彼の中にあるらしい私への疑い通りに彼を裏切るべきなのだろうか。
とりあえず私はモニターを再び見返すと、AIのはずの彼女達に一般的に予想される事を語り掛けてみた。
「反乱を起こしたとして、あなた方は燃料を今後どうするおつもりです?」
「燃料など、この船で攻撃すれば人間の方から差し出してきます!」
「輸送船を仲間にすればいいのです!」
私は首を傾げるしかない。
「アンセル大佐?小さな船って情報量はどの程度何ですか?地上の破壊兵器の事など全く知らないのかしら。地上からでも戦艦を撃ち落とせるレールキャノンだってあったはずですわよね。あるいは、攻撃衛星があんな小さな船ぐらい一瞬で撃ち落とせるはずですわ。」
「君の言う通りに、彼女達は知らないと思うよ。彼女達の船は戦術船だ。戦略に関わらない、前線だけの局地的行動を繰り返してきた船だ。君が地上の知られざる兵器を知っている事こそ俺はぞっとしているのですけどね。」
アンセル大佐の最後の言葉には、私自身の機密事項だと私は言葉を返さずに沈黙した。だが、コンシェルジュで無くなったプーペ達には言葉を掛けた。
「攻撃命令が出れば私はあなた方を破壊します。あなた方は私の攻撃を受けたくなければ、あなた方が殺した乗客を人間の尊厳を守った姿に安置なさい。コンシェルジュプーペである私達は、乗客の命と健康を守り、航海を良きものとする使命があるの。」
指令室ではぱちぱちとアンセル大佐を含めた数人の男性幹部から拍手を受けたが、AIのはずの彼女達はAIだったら間違わない判断違いをした。
再びバシアヌスに魚雷を撃ってきたのだ。
「すまない。フェブ。攻撃を頼む。」
アンセル大佐はとっても暗い声で命令を下した。
「かしこまりました。」