敵の船にもコンシェルジュプーペはいる
王子様か騎士様カテゴリーのアンセル大佐が軍人である事が変えられない事実のように、軍人を必要としている世界には覇権争いをしている勢力図があるというのは当たり前の話だ。
アンセル大佐の故郷はドラローシュ星であり、その星は民主主義と資本主義をかかげた連合に加盟している。
そして、戦争相手はその連合に加盟しない星々だ。
民主主義なのに他者の主義主張を認めない所に私は人間とはと首を傾げるが、バシアヌスが集めた情報から導き出された答えが、人間とはそんなもの、だ。
私はCPでしか無いのだから、粛々と乗船者だけを守ればよい。
さて、バシアヌスの情報では敵船は二隻であり、それらはバシアヌスよりも小型の船であり、哨戒艦の役割をしているだろう高速の軽装備のものであった。
バシアヌスの大砲を受ければ粉みじんの存在である。
バシアヌスは一度は大破されて宇宙の藻屑となった。
許せないのが、バシアヌスは単なる客船であったにもかかわらず、他国の軍船によって攻撃を受けたという事だ。
私は大事な幼い客をコールドスリープ付き脱出ポッドに入れて、彼の母星方向へと射出する事が精いっぱいだった。
あの子はまだ八歳なのに状況に脅えるどころか私に約束させたのだ。
「絶対に僕はフェブの船に戻ってくる。だから、フェブ。絶対に絶対にこの船を沈めないで!」
なんて素晴らしいカスタマー。
私はあの子を再び乗せて航海をするために、決して沈んではいけないのだ。
「バシアヌス!全大砲を敵船に向けなさい。敵船を破壊せすべし!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。フェブラリー様。バシアヌス!キャンセル!攻撃はキャンセル!」
私の命令をキャンセルしたのはアンセル大佐だった。
大破したこの船は軍に接収され軍艦に仕立て直されてしまったので、私もバシアヌスも軍属のものであり、そのことによって彼の旗艦となっているので、彼がその気になれば私よりも彼の命令の方がバシアヌスに対して有効性を持つ。
「攻撃は最大の防御です。」
「領空侵犯はこっちかもしれないでしょう。ちょっと、交渉してから。ね、ね。それから心置きなく攻撃しよう。」
確かに。
プログラミングされている航路を進んでいるだけと思っていても、宇宙空間で起きる風に流されて航路を外れているという事はよくあることだ。
私のバシアヌスはそんな間抜けではないが、船長が不戦を主張するのである。
「かしこまりました。」
バシアヌスの回線を無理矢理に小さな敵船に繋いだ。
アンセル大佐は忘れているが、客船でしかないバシアヌスが軍船として重用される事になったのは、バシアヌスをサルベージした軍の軍船用ドッグにおいて、私が無理矢理にドッグのシステムをハックしてバシアヌスを大砲や装甲を持つだけでなく足も速い船へと改造強化したからである。
以前の優美な客船の姿を保ってはいるが、迎撃体勢になった今やそこかしこで武器が飛び出しており、まるでハリネズミのようだ。
また、武装した事により私達は単なる船とCPではなくなった。
気に入らない乗客は乗せないという行動も取れるのだ。
私は気に入った乗客だけを船に乗せて航海できるという、最高の最強の船でもあるのである。
「では、回線を繋ぎましたから、どうぞ。」
「早いよ!」
喜ぶどころか早い事に怒り出した大佐は指令室にあるモニターに向かい、そこでモニターに映る青い髪とショッキングピンクの髪をした少女の姿に口をあんぐりと開けた。
「あら、あんな小さな軽巡洋艦でもCPはいるのね。私も驚きましたわ。」
「今や、船の戦闘はCPの手によるものだからね。乗船者の役割は地上戦やCPが使えない戦闘機乗りだけだって知っているでしょう。うん、確かにどこにAIを乗せているのかわからない程小さな船だけどね。それから俺が驚いたのはね、あの船たちに生きた人が乗っていないって所。この攻撃があのCP達の意志によるものだって所に僕は驚いたんだよ。一応は人間が戦闘の指示をCPにするものでしょう。」
私はモニターに映る少女の姿をしたCP達を見返した。
少女たちの後ろでは赤い絵の具がぶちまけられた光景が広がり、そこかしこで人だったものらしき部位も転がっているのが見て取れた。
「まあ、指示を受けるどころか、あなた方は守るべき乗船者を殺してしまったのね。あなた方はコンシェルジュでは無いわ。」
私達CPはコンシェルジュとしての矜持を大事にすべきなのである。