不沈船バシアヌス
我がバシアヌスは不死鳥である。
バシアヌスの建造は富豪の男の個人船としてオーダーでしかなかったが、バシアヌスが完成する前に男は死んでしまい、バシアヌスは客船として売られてしまった。
だが、私は覚えている。
オーナーになるはずだった、いや、オーナだったシュルマティクス・ゼメンギリィは、バシアヌスが出来上がるまで何度も、私と一緒にバシアヌスが建造されているドッグの下見をしたのだ。
ダークブロンドに灰色の瞳をした長身の大男は、六十歳という年齢でも若々しく、バシアヌスのデータのどの乗船者とも比べても美しく素晴らしい外見をしていた。
彼は私の手を引いて、子供のような笑顔で私にバシアヌスを指さすのだ。
「フェブラリー、あれが君が乗る船だよ。どうだ、とっても優美だろう。」
「優美何て。まだ外骨格だけじゃないですか。いいえ、完成図のあの姿になれる外骨格です。ええ、ええ、おっしゃる通りに優美で素晴らしい船ですわ。」
私は本当に嬉しかった。
私は船に据え付けられる合成人間、コンシェルジュプーペ(CP)と人間には呼ばれている取り換えの利く命を持つ物でしかなく、人間のような感情など持つはずが無いはずだが、私はとってもわくわくしていた。
私の本体ともいえるデータはバシアヌスの中核に既に出来上がっており、自分自身の完成を見守ってるような素晴らしい体験でもあったからだ。
通常は船が出来上がってから核ともいえる船の制御AIを設置する。
それから船に見合ったCPを作成して船のAIと直結させるという手順であるのだが、シュルマティクスは完全にその逆を行った。
まず、AIを構築し、それからすぐにCPである私を作ったのだ。
私の姿はピンクブロンドに水色の瞳をしており、五歳で病死した彼の娘が十六歳に成長した予想の姿であると彼は笑った。
「あの子は十六歳になったら僕と結婚してくれると言ったんだ。僕はその時には君は違う男の子と結婚したいというはずだねって。あの子はどんな風に成長したかったのか、僕はどうしても見たかったんだよ。」
シュルマティクスは造船を知っている人達からは酔狂だと馬鹿にされた。
なぜならば、建造途中で船が破壊されでもしたら、AI共々AIの端末機でしかないCPまでも死んでしまう。
私達は永遠の航海を見守れるように作成されるからして、船と同じぐらい、いや、船よりも高額なものともなれるのである。
つまり、建造途中でバシアヌスが破壊されれば、シュルマティクスはかなりの損害を被ることになるのだ。
保険があるだろうって?
シュルマティクスが逆の工程を選んだがために、彼の船に誰も保険を引き受けてくれなかった。
彼は私を作り出すために私財の全てをつぎ込んだと言ってもよい。
だが、彼は完成を待たずして死んだ。
彼の身内は期待した財産が私であったがために、私を売り飛ばした。
私はそのことに異議は無い。
プーペのくせにシュルマティクス以外の個人船になりたくは無かったのだ。
彼の身内の誰かの持ち物でいるよりも、様々な乗船者と出会える客船の方が私はむいていた。
撃沈されるまでは。
私は大事な乗船者を守り切れないまま沈んだ。
次に目覚めた時、私はサルベージされて軍のドッグにいた。
その時に私は誓ったのだ。
次は絶対に同じ失敗はしない。
私は、バシアヌスは、シュルマティクスが望んだような船になるのだ!
そして、あの可愛い乗客を再び我が船に招くのだ。
約束だもの!