生き物への思いやりは人間の方が向いている
私はフレデリックを応接間から追い払うと、指令室に向かうことにした。
――何でも僕に相談してほしい。
フレデリックの願いを叶えられないのならば、アンセル大佐の願いを叶えてあげるべきである。
つまり、相談だ。
しかし、アンセル大佐は人間特有の軽薄さを持っていた。
私の説明を聞くやものすごく嫌そうに顔を歪め、その上、君はわかってくれないと、無意味に落ち込んで見せたのである。
「あら、相談してほしいとおっしゃったのは大佐でしょう。」
「そうだけどさ。そんな心が折れるような相談は持ってこないでよ。」
「まあ、やっぱり心は折れますわね。でも、レーザーガンは一瞬でした。どんな生き物だってこんな殺され方を望むだろう程に即死でした。」
「そう思うのなら、君がディーン君にそう説明すればいいじゃ無いの。きっと彼はその報告に、ああ、あの子は苦しくなかったんだ、と胸を撫で下ろすだろう。」
「あら、おっしゃる通りですわね。ええ、痛みも感じない位に一瞬で撃ち殺しましたから苦しくは無かったはずです。では。」
私は早速フレデリックに報告しようと踵を返したが、私の左腕はアンセル大佐に掴まれて引き留められた。
「だめ!ごめん!行くのは止めて!わかった。俺が彼に伝える。だから、君は一切その不幸な生き物について彼に語るのは止めてくれ。」
「大佐がそうおっしゃるのなら。ですが、尋ねられたらどう答えましょう。」
「――探索中で。」
「かしこまりました。ああ、そうですわ。解決法として次の寄港となるガボン星でオポッサムを仕入れて渡してあげるのは如何でしょうか。検索してみましたが、ガボン星で同じサイズのものが簡単に用意できそうです。」
アンセル大佐は両手に顔を埋めた。
君は変わってしまった、とまで言い放った。
「君はもう少し人間に寄り添えるコンシェルジュだったじゃないか。」
私はアンセル大佐の物言いに対し、ひと月の私の行動様式を判定してみた。
だが、私が記憶検索をする前から自分に自信を持つとおりに、私の行動の変化は全く見受けられなかったという胸を張れる結果しかなかった。
「乗船された一月一日から二月三日の本日迄、私があなたがお嘆きになるような行動様式の変化は一切ございませんが。」
「違うよ!客船だったあの頃の君だよ!」
両手から顔を上げた彼が初めて興奮した声を私に出したので、私は緊急事態に違いないとバシアヌスの乗船者データをひっくり返して検証した。
これはもう膨大な数でもあるが、とりあえずアンセル大佐の生存年齢期間分なので一瞬で終了できた。
「客船時代のバシアヌスにはアンセル大佐の乗船の記録はありません。」
彼は顔をかなり歪めたが、それは私に初めて見せた表情である。
一か月間に記録されたアンセル大佐のデータ、バシアヌスのサーバーには一切ないアンセル大佐の表情なのだから、それは初めて私が確認したで間違いないだろう。
驚く私をあざ笑うように、船が他船もの攻撃を受けて揺れた。
そうか、彼がとても怒った顔をしたのは敵の出現ね。




