ガボンと大人の事情
ガボン星は元々は枯れ地でしかない貧乏ともいえる星だった。
しかし、とある豪華客船がこの星に緊急寄港した事によってこの星は観光立国へと様変わりし、今では誰でもハネムーンや家族旅行にこの星を選ぶほどになっている。
それはなぜか?
「ここはテーマパークですの!」
苦労を知らない金持ちの客がガボン星の生活様式を目にして叫んだという、有名でありとっても失礼なセリフが全てを語っている。
つまり、産業どころか移住者を賄う程の電力さえも手に入らなければ、人々は前時代的な生活をするしか無いという一点につきるのだ。
燃料が無ければ機械など動かせるわけもなく、ガボン星で繁殖していた大型アルマジロを牛馬代わりにして使役し、建築材料が手に入らないからと開拓者達が必ず持っていたテントを家代わりにしての生活様式が、金持ちの考えるファンタジー世界での荒野暮らしそのものに見えたのである。
その後、金持ち連中の間ではガボンの生活を体験することがステータスとなり、旧時代的な生活でも不自由なく暮らせていた工夫が上手いガボンの人達はそれを侮辱と怒るどころか、金持ち連中から落ちてくる金を待つだけでなく金を上手に引き出してガボン星の開発に有効的に使っていった。
気が付けば、ガボンは星が丸ごとアミューズメントパークとなっていた。
住民達はパークのキャストとして一生を終え、耕作できる農地でさえ潰して観光客を途切れさせないようにと新たなアトラクションパークを製作しているのだ。
また、観光客を呼ぶために地球時代にあった祭りを再現してもいる。
有名な二月十四日というバレンタインデーは、愛にガボンの日となっており、チョコレートと薔薇とシャンパンの洪水が観光客を待ち受けるのだ。
さて、花吹雪も、頭に飾られる薔薇冠も、ウエルカムドリンクのシャンパンも、観光客だったら受けられるサービスだが、裏方は一方的に与えるだけの方だ。
しかし、ガボンは私の重装備を目にするや態度を軟化させ、三百人の乗組員を三交代させることで警備をお願いしますと低姿勢に申し出てきた。
頭に血が昇ってビイドロを撃沈させたい気持ちも私は大いにあったのだが、一応は私的な冗談でもある。
しかし、銀河で暴れまわった過去のあるバシアヌスが、大型キャノンを船から飛び出させて宙港に狙いをつけている様子を目にしたガボンのお偉いさんには、肝を冷やすどころの話では無かったようである。
彼らは慌てて連合の偉いさんに連絡を入れ、アンセル大佐は連合から来た連絡に対して状況を素直に伝えた。
「すいません。バシアヌスは乗船者第一主義でして、俺達が祭りを一切楽しめない予定だと聞くや激怒してしまいまして。いえ、俺達は軍人ですからね、ええ、ええ、ガボンに無償で警備仕事をする事には慣れています。ええ、そこが許せないのがバシアヌス様で。ええ、そのバシアヌス様のお優しさに、総員は皆、バシアヌス様とともに沈んでも、というくらいに感激しております」
違った。
自分達を遊ばせないとバシアヌスに好きにさせるぞ、という気持ちを彼は素直に上に報告しただけだ。
連合の上の連中は下っ端連中が加盟国の一つで無体な行動を取る可能性を鑑みて、だが、全く仕事無しでは今後他の兵士にも示しがつかなくなるという権威のありどころも憂慮して、三交代制で兵士をお貸ししますとガボンに持ち掛けたのである。
「よーし!クジだ、クジ!さあ、三交代を決めるぞ!」
「あら、時間が無いから乗船者を無作為抽出して三グループに分けましたけれど。余計な事だったかしら?」
「私と大佐を絶対に同じグループ分けになさらないでしょう。作為的だわ」
私はベイシア中尉の対策はしてある。
同じグループ分けをしても、一緒に行動をするのかは当事者が選ぶべきことであり、また、コンシェルジュとして彼女に楽しい観光も与えるべきなのである。
「そこだけ作為的に同じグループですわ。他の方には黙って下さいませね、ベイシア様」
彼女はぼんっと真っ赤に頬を染めると、お土産は何がいい?とぼそっと私に聞こえるように呟いた。
「無事なお帰りですわ。お客様」




