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恋を語られても私はしがない端末機ですの  作者: 蔵前
人間でない人形だからこそ矜持だけは守る
19/20

みんなでガボン星!

 出港はヒューゴの望んだ通りに一日遅れた。

 シェフィールドで一番偉く、尚且つ連合軍においては伝説の元帥閣下ともいえるCP様に誰も文句が言えないというわけではなく、ただ単に格納庫の扉が開かなければ出港できないという現実的な理由である。


 ヒューゴは悪びれるどころか、私にウィンクして見せた。


「一日遅れでガボンに着く幸運が僕からアンセル君へのプレゼントだよ。彼と仲良くね。ボンボヤージュ。」


 一日遅れで着く幸運?

 意味が解らない私は、意味が解らないから頑張った。

 つまり、バシアヌスが最高の客船であることを証明したのだ。

 何があってもスケジュール通りの寄港、だ。

 ところが、今回のバシアヌス乗員はお客様で無いからか、誰も彼もが喜ぶどころか私に対して不満を現わして鼻を鳴らしたのである。


「なぜ喜ばないのですか!スケジュール通りにわたくしは頑張りましたのよ!観光立国であるガボンは、本日二月十四日を愛にガボンのお祭りを開催ですのよ!皆様にお祭りを堪能してもらえるようにと、私は出来うる限りの計算を重ねて重ねて航路も考えに考えてこの日に間に合わせたというのに!」


「一般人は愛にガボン出来るだろが、俺達軍人さんは人手不足のガボンさんに警備員として無給でガボンでしょう。せめて明日到着なら祭りの後に浮かれ残った町を楽しめたというのに!」


 私は両手で口元を押さえた。

 なんてこと。

 私は皆の事を思って頑張ったが、それこそ自分本位な頑張りでしかなく、喜ぶ者など誰もいない余計なお世話という、コンシェルジュとしてやったら無能の烙印間違いなしな事をしてしまったのだ。

 私が今まで打ち建ててきたCPとしての誉を、今日この日に私は自分で全て台無しにしてしまったのだ。


 そうよ!


 お客様第一主義とは、お客様のリサーチを完璧にしてこそじゃないの。

 私はガボンな祭りにお客様をガボンさせる事ばかり考えて、一番大事なお客様が何を望んでいるかを考えることを忘れていたのだわ!

 私は初めての失敗に初めての悔し涙というものに襲われた。


 いいえ、泣いてはいけない、私は現状を打破しなければ!

 でも悔しさが次から次へと、涙として湧き出るのは止められなかった。


「う、う、ううううううう。」


「ごめんなさい!泣かないで!僕が何とかします!僕はこの船で一番偉い人だもの。乗員の反抗的な態度も反省させますから!だから泣かないで!」


 私が現状を打破するよりも、アンセル大佐が打破された方が早かったようだ。

 彼は今日まで私に不機嫌だった事を完全に忘れた様にして、なんと、ガボンと連絡を取り合い、彼等はガボンの警備をするがそれは連合のお大仁であるアレッサンドロ・フィグメント教授の護衛だという設定にしたのだ。


「さあ、これでフィグメント教授を囲んで俺達はガボン出来るぞ!」


 バシアヌス乗員達はアンセルを讃え、戦勝した時のような鬨の声を上げた。


 だが、ものの数分で彼等は再び苦虫を噛み潰すこととなった。


「不要ですわ。アレッサンドロ様には私が付いておりますもの。無粋な事は止めてくださいな。」


 モニターに勝手に映り込んだ鈴虫だ。


「おだまりなさい!自分の妹を見捨ててガボンに行ってしまったあなたの代りに、誰がシレレイとピニャータをここまで連れて来てあげたと思っているの!」


 鈴虫は口元に手を当ててコロコロと笑い転げた。


「その子たちはとっくの昔に売られちゃっての軍属なの。つまり、あなたの先輩ね。あなたは軍属になったばかりなのでしょう。軍では後輩が先輩のお世話をするのは古今東西当たり前の話ですの。では、ボンボヤージュ。」


 ぶちっとモニターの映像は勝手に終わり、私が鈴虫に怒鳴る前にモニターは再びついた。

 それも律義に二分割で。

 シレレイとピニャータは、ヒューゴがするみたいにキラキラした表情をして小躍りしていた。


「きゃう!バシアヌス姉さまがわたくしたちの妹ですってうきゅうですわ!」


「きゅるきゅる!ぽぽぽんっして、一緒にガボンですわね!いいことバシリコ!」


 私は無理矢理にモニターを終了させた。


「ふふ、うふふふ。わかりました。ええ、わかりましたとも。バシアヌス!大砲準備!ガボンがガボン祭りできないようにガボン宙港をガボンしちゃいます!ついでにビイドロも巻き込んで撃沈させてしまいなさい!軍属?軍属のしきたりなんて知った事ですか!」


「待って待って!フェブラリー様!バシアヌス、キャンセル全部キャンセル!わかった、警備する!がんばってみんなでお祭り警備するから!ガボンはやめて!」


 私は久しぶりにアンセル大佐に後ろから抱き締められ、いつもだったらお客様とコンシェルジュというものはと彼に注意をするところだが、なんだか今日は少しこのままでもいいなと思っていた。

 私が一生懸命にガボンを目指したのは、アンセル大佐を喜ばせたかったからだ。

 シェフィールドから出来ていた彼と私の距離を、私はコンシェルジュでありながら悲しいと感じていたからなのだ。


 ガチャリ。


 わぉ、彼から離れなければ彼の副官に私は銃殺されそうだ。

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