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恋を語られても私はしがない端末機ですの  作者: 蔵前
人間でない人形だからこそ矜持だけは守る
18/20

アンセルの怒っている理由

 私の腕の中にいるヒューゴは子供のように背中を反り返っての大笑いを散々にしていたが、急にビクンとすると今度は母親にしがみ付く猿のようにして私にしがみ付き直して来た。


「わあ、閣下様を床に落とそうとするCPは君ぐらいだよ!」


「私は子供の躾には厳しいのですの。」


「もう、君ったら。でも、おかしいくらいに君は彼の事を知らないみたいだね。僕は言わないよ。自分の秘密は自分で語ってこそだもの。」


 私の腕の中の六歳児は、六歳児には出来ない何でも知っているという、それも嫌らしい顔をしてみせた。


「まあ、酷い。でも、そうですわね。ええ、私は有能なCPですもの。きっと彼から聞き出して見せますとも!」


「うーん、それはちょっと彼には酷な気も。まあ、年の計算も苦手なAIさんのようだし、鈍感なのは仕方が無いのかな。」


「あら、計算はバシアヌスがしてますから私が計算できなくとも良いのです。それに、私は自分の間違いがわかりました。後十一年ではなく、あと十年ですわ。あの子の誕生日は十二月二十八日でしたもの。」


「ふふ。アンセル大佐と同じ誕生日だね。」


「まあ、まあ、そうでしたわね。そうですそうです。だから尚更に彼の説得が私の心に響いたのですわ。」


「彼は君に、君を愛する人が泣いている、以外に何て言ったの?」


「今日は僕の誕生日なので、僕の話を聞いてください。私はそれで彼の説得を聞いてみようと立ち止まったのよ。」


 キャハハハハとヒューゴは可愛らしく笑い、そして、自分を笑わせてくれたお礼だからと、私にアンセル大佐が怒っている理由を教えてくれた。


「君はデリカシーが無さすぎる。いつの間にか息をしなくなった君に気が付かなかったと自分を責めて落ち込んでいた彼に、はい、その廃棄物はこのゴミ箱に入れてください!って酷いよ。」


「まあ!」



 私は事態が収束するとみるや、すみやかに壊れた体を捨てた。

 プーペの身体は人間のように怪我が治ったりは絶対しない。

 壊れたらお終いなのである。

 そのことをアンセル大佐は知っているのかと思ったが、彼を出迎えて私の抜け殻を廃棄物用の箱に入れる様に頼んだところ、彼はまるで子供のようにして私の抜け殻を離すものかという風にぎゅうっと抱きしめたのである。


 プーペの身体は意識が抜けるや完全に生命維持機能を失うので、すぐに発泡スチロールのようにぽろぽろに乾いてしまう。

 アンセル大佐に抱きしめられたことで私の肉体はさらに崩壊した。


 つまり、ぼそっと砕けたのだ。


 私は廃棄物用の箱を乗せた手押し車をアンセル大佐の真下に押し込み、私であったものが床に散乱してしまう事を取りあえず防ぐことは出来た。

 彼は自分の無知による出来事を謝ってくれたが、だが、あれ以来彼はふさぎ込んでいる上に私を無視するようにもなっているのだ。


「次は棺桶を持って行けばいいよ。人間はね、大事なものは、それが単なる無機物であってもね、生き物のように愛情をかけてしまうものなんだよ。」


 ヒューゴはやっぱり最高のCPなのかもしれない。


「ありがとうございます。次からは気を付けますわ。」


「じゃあ、出発は明日にしてよ!もっと僕は君と遊びたい!」


 ヒューゴめ。

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