最高のCPとは
ヒューゴはリデザイン前の姿を取り戻した。
ただし、この過程で削除しすぎてしまったシェフィールドの数年に及ぶ運営データ、軽いものでは搭乗員名簿や今までの航海日誌など、重いものでは軍事機密にも及ぶ航海中に得た情報などだが、それらまでもが消えた事になる。
しかし不沈の名にふさわしく、シェフィールドはヒューゴのデザインが変わっただけで、一切運営においてはバグなど起きはしなかった。
なぜならば、ヒューゴには秘密の場所があったのだ。
レオニダス少将にAIを覗かれる度に、ヒューゴは自らを保つためか、自分自身のリデザインデータ以外のデータをその秘密の部屋に隠していたのである。
よって、再起動したシェフィールドは、自我が目覚めるや全てのデータをその秘密の小部屋からダウンロードしたので、露ほどの混乱も起きなかったのだ。
バシアヌスが復活した時と同じだ。
バシアヌスをサルベージした人達によって船内データは完全消去されたが、私はバシアヌスAIではなく私の持つ秘密の小部屋から私の秘密にしていた全てをバシアヌスAIにダウンロードし直して復活したのだ。
「君が特別な理由がわかったよ。僕と一緒なんだね。」
「ええ。本当の意味で仲間に出会えたのは初めてですわ。でも、私のオリジナルは死んでしまった子なのに、あなたは生きている人だわ。辛くは無いのですか?」
「いいんだよ。僕は自分で体が動かせなくなっていた。老人になるとね、自分の一番良い時代に戻りたいと思うものなんだよ。」
ヒューゴ・シェフィールド。
伝説の連合軍の元帥であったが奇行も多い人であり、移動型衛星基地を作る際にはその開発に言葉通りの私財を投げうって携わった人である。
「うふ。だから僕はシェフィールド閣下そのものと言えるかもしれない。」
何処から見ても六歳くらいの幼児は私を見上げてニコッと可愛らしく笑った。
「でも、あなたの一番良い時代が幼稚園ぐらいってどういうことですか?」
「人はお砂場で人生のすべてを学ぶんだよ。」
金髪の巻き毛にクリンとした大きな青い瞳を持つ彼は、天使のように可愛いと言ってもよく、今やアポロンではなくキューピットの方だろう。
私はレオニダスがヒューゴをリデザインして同期したがった理由が見えたと、今ではレオニダスの行為を簡単に許していた。
いや、ここで働かねばならないレオニダスに同情迄寄せていると言ってもよい。
「で、フェブ。僕が閣下様だという事は、僕は軍では一番偉いんだよ。さあ、僕を抱っこして。」
「かしこまりました。」
私は彼をよいしょと持ち上げ、過去に私が持ち上げた八歳の少年の事を思い出していた。
子供は温かくて湿っぽくて汗臭い。
でも、ほわほわとして、ミルクのような懐かしい匂いも持っているのだ。
残念ながらヒューゴにはそういった人間の子供が持つ温かみも匂いも無かった。
彼は私と同じ命があるだけの無個性な合成物でしか無いのだ。
「ふふ。君がいなくなったら誰も僕を抱っこしてくれなくなるね。女性士官に頼んだら普通にセクハラだもの。」
「では男性士官にお願いをなさったら?」
「僕はお母さんを求める子供なんだよ。」
「あら、まあ。」
彼が希望して子供の姿なのは、彼が普通にセクハラ野郎だからかもしれない。
「ねえ、フェブ。そういえばアンセル大佐はまだ君に怒っているの?彼は意外と純粋だよね。幼い頃から死線をかいくぐって来た割には。」
「まあ!彼が死線を幼い頃からかいくぐって来たなんて本当ですの?彼はオポッサム一匹殺せそうにない人ですのよ!」
「君は酷い!彼は君の王子様なのに!」




