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恋を語られても私はしがない端末機ですの  作者: 蔵前
マッドティーパーティで踊れ
16/20

膠着、はっちゃけ、短気は損気、ではどうするの

 壁に耳あり障子に目あり。

 艦内掌握という敵の耳がいたる所にある所で、嬉々として手の内を語る私達はどうなのだろうか。

 当たり前のようにアレッサンドロは格納庫で兵に囲まれ、私達を救助するべきAI干渉行為など不可能になった。

 そしてレオニダス少将のサロン前の廊下には兵士達が押し寄せており、彼等は恐るべきCP共々裏切り者を処分するべくサロンの扉に爆薬を仕掛けている。


 全く。

 レオニダス少将に成り代わった第三者様は陰険この上ない。

 私を仲間にと言っていたその口で、簡単に私を処分する方向に動くとは。


 いや、ここで私が壊されても私はバシアヌスに戻るだけだ。

 死んでしまうのはアンセル大佐とレオニダス少将オリジナルだ。

 私の王子様と呼んだアンセル大佐を殺す意味は何だろうか。

 そうだ、そうだ。

 レオニダス少将だってアンセル大佐を営倉に隠して私を脅すつもりだったと、会合の最初に私に告白したではないか。


「アンセル大佐。あなたが私の特別だと言って、皆があなたを必死に害しようとする理由は何なのかしら?」


 アンセル大佐は私を背中に背負ったまましゃがみ込んで、なんと、嘘泣きだろうかもしれないがしくしくと泣き出した。


「ひどい、ひどすぎる。俺が乗らなきゃ軍属にならないとまで叫んだ君が、こんなにもあっさりと俺をないがしろにするなんて。」


「ええそうよ。だからあなたを奪ったら私が逆襲するって考えなかったのかしらって不思議なのよ。だって、私は軍港一つ乗っ取って破壊してきたというのに。あなたの説得を受けるまで何隻の船を墜としたかしら。あなたが死んで私がバシアヌスに戻ったら、第三者に追従どころかあの時の破壊活動が再びなのよ。」


 彼は私を背中にプラプラさせたまま、ぐいんと立ち上がった。

 私に自分を大事にしろと求める癖に、怪我をして体がボロボロの私には労わりは無いのかと、彼の背中で折れた手足をプラプラさせながら彼の好き勝手な行動に対して恨みがましく考えた。

 痛みは無いが、私はこんなにもプラプラじゃないかと。


「ああ、そうか。敵はそれがしたいんだ。ヒューゴ人格じゃこの基地を制圧してもそれだけでしょう。敵は俺を失って怒れる君に全てを破壊させる行動をさせたかったんだ。そうか、そうか。ああ、僕は君にとって一番なんだ!」


 私はここで気付いたが、アンセル大佐は叩き上げの軍人らしく俺と自分を称するが、本心に近い時は僕になっているということだ。


「ねえ、あなたは僕の方が似合うと思う。僕で統一したらいかが?」


「そ、そそそそそんな、お、俺は、ぼ、僕と、い、言っていたかな?」


 肩越しに見える彼の顔は真っ赤で、この真っ赤な照れた顔が何度も見たいと私は考えてしまったので、私は簡単に前言を撤回した。


「冗談です。あなたはそのままで良くってよ。」


 彼の真っ赤な顔という彼のとりとめのない様子を見ているうちに、私は妙案が浮かんだ。

 敵が私が今後するであろうと考えている攻撃ではなく、斜め上となるような方法を選ぶことに決めたのだ。

 そこで、意識を集中させるためにアンセル大佐に肩に頭を乗せて力を抜いた。


「フェブ、具合が?」


「しっ。あなたの肩で集中させて。」


「いいよ、いくらでも、って、うわ!」


 アンセルが驚くのも無理はない。

 モニターの映像の中で演説しているレオニダスに髪が無いのだ。

 私はAIの主導権の取り合いではなく、チャンネル権の奪取をしたのだ。

 館内放送の映像に全て作り物だと一目で誰にでもわかるように、勝手なノイズや映像の歪み、時々レオニダス少将の顔を別人に変えるという編集を加えてあげたのである。


 プラス、サロンで脅える二人の若い兵士の映像も、だ。


 私が人間が好きなのは、結局は哀れだと思う他者に暴力を加えられない人々が多い、という所である。

 弱い生き物を獲物と選別して食らいつく動物では無いのだ。

 弱っている者に同情という優しい行動だってとれるのだ。

 サロンの扉前の兵士達は、私の思惑通りに動きを止めた。


「素晴らしいよ、君は。ああ、だが俺はこんなじゃ無かった。俺だって不沈のシェフィールドだったんだ!」


 私にテーブルをぶつけられて壊れた彼は、皮肉なことに壊れたことで本来の彼自身を発露する事が出来ており、彼は私の成した事を知って純粋に驚き、そして完全に私や第三者に好きにされて蹂躙された自分自身を悲しんでいた。


「ええ、そうね。ではヒューゴ。あなたがあなたであるために、あなたが為すべきことをなさいな。人を守るためにならあなたの思うようにしていいのよ。それこそコンシェルジュプーペの、船のAIの矜持なのだから。」


 彼は何かに気が付いたような、何かを授かったように目を見開くと、粉々のテーブルに潰されたその姿でありながら楽しそうに声を上げて笑った。

 彼が自分を取り戻したのならば、あとはこの基地の責任者である彼の仕事だ。


 基地は全ての電源を落とし、その五分後に再起動した。


 何もなかったように静かな世界は戻ったが、美しきヒューゴというプーペは息絶えていた。


 彼はリデザインする前の自分にまで記録データを削除したのである。


 つまり、二度と干渉は起こさせない不沈のシェフィールドの再降誕である。

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