私達は賞金首
「ああ、すまない。いや、君を疑った事を許して欲しい。」
「いえ。正気に戻られてほっとしました。状況が改善された暁には、直ぐに脳内に埋められた端末は抜き去られる事を提案します。本来でしたらもっと高い防御力を保てたはずのヒューゴの脆弱性は、その端末で他人格に干渉された事によるものなのです。」
私の言葉にレオニダス少将はテーブルに潰されて身動きどころか体を完全に壊してしまったヒューゴを見返し、使い物にならなくなったと脳内から第三者が消えたらしくぼんやりと宙を見つめているだけのヒューゴの姿に溜息をついた。
「ああ、そうなのか。この事態は僕のせいなのか。僕達は双子のように分かり合えると喜んでいたが、それは僕だけの話だったのか。」
他人に頭の中を覗かれて喜ぶと考える変態はあなただけです、とは少将閣下には私は言えなかった。
長くコンシェルジュをやっていれば、言わない方が良い言葉ぐらい理解できる。
私達を襲いかけた第三者の意識は、私達の誰かを殺したり脅したりすることは完全に失敗したが、私達をサロンに閉じ込める事には成功した。
つまり、動けるCPが拘束されていても、AIそのものを制圧してしまった第三者にはシェフィールドなど箱庭同然の玩具となるのだ。
館内放送では、AIの作った少将の映像が私を含めたアンセル大佐によるクーデターだと演説し、自分と同じ姿のヒューゴも私によってウィルスに感染させられたから見つけ次第撃ち殺せとの命令までも下したのだ。
本物のレオニダスを殺し、新たなヒューゴを再生させて最初から目論んでいたシェフィールド簒奪を達成するつもりらしい。
「すいません。駄目です。私達のインカムは全く外には通じません。」
衛兵の一人、赤毛で緑色の瞳をしたエヴァレット・スミスが、アンセル大佐に報告した後に悔しそうに唇を噛んだ。
「俺達は外に出たら射殺ですか!」
イアン・マグレットは相棒の報告に声を上げた。
金髪に青い目の二十代になったばかりの青年は、事態に対して見通しを放棄して、自分の死についてだけ脅えているようである。
そして、この二人の衛兵達は、この部屋で一番助けになりそうなアンセル大佐に妙案があるのではと、必死な目をして彼の言葉を待ち望んでいた。
「いや、大丈夫。何とかなると思うよ。」
重たいテーブルをヒューゴに投げつけたことで、両腕と両足の膝、そして腰の骨までも粉々にした私を紐で背中に縛り付けてプラプラさせている彼は格好の良いものではないだろうが、彼の返答に若かりし衛士達は取りあえず安心した顔を見せた。
「ねえ、フェブ。何とかなるでしょう。」
「かしこまりました。何とか頑張ってみます。」
私はアンセル大佐の肩に頭を乗せて、そのまま力を抜いた。
「だめだって。寝ないで!大丈夫?そんなに痛いの?」
私はアンセルに揺らされた。
私に采配を委ねて置いてなんだその対応はと、私が彼に怒鳴ろうとしたところ、彼は私の采配など望んでもいなかった事実を知った。
彼は単に私に相槌を求めていただけだったようである。
彼の腹心のベイシア中尉が得意そうな顔を私達に向けたのだ。
「大佐、フィグメント教授と連絡が付きました。彼がシェフィールドのAIに干渉してみるとのことです。」
「よし。では、俺達はほんの少しだけこの部屋でかくれんぼしていようか。」
若い衛兵達は歓声は挙げなかったが、両目はキラキラと希望で輝かせた。
「素晴らしいわ。どうやって敵に見つからない通信手段を手に入れたの?」
「うん?君から彼を助けた時に鈴虫さんに通信機を貰った。何かあったら使ってくださいませねって。」
私はぎりっと歯噛みした。
悔しい位に危機管理能力の高い優れたCPでいらっしゃいます事よ!




