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恋を語られても私はしがない端末機ですの  作者: 蔵前
マッドティーパーティで踊れ
13/20

記憶違い

 遅れて参上してきた男、アレッサンドロは、シレレイとピニャータのデータ解析に籠ってしまった。

 彼は私のバシアヌスに非常に非常識すぎるぐらいに興味を示し、そこで私は彼に勝手に艦内に立ち入ったら後悔するぞと脅してはいた。

 彼の個人所有の高速船ビイドロのCPを目にして、私は彼を彼の船の外壁に貼り付けたりもしていたから、私の再度の脅しは彼の身に染みている事だろう。


 鈴虫という名のビイドロのCPは、十二歳くらいの少女という形状もさておき、水色の髪に水色の瞳に真っ白な肌の背中には透明な羽がついているという、美少女妖精さんという彼の趣味ど真ん中だったのである。


「あなた、わたくし達を違う目的のお人形と勘違いされていませんこと?」


 彼はすいません!と本気で謝ってきた。


「ごめんなさい。俺は彼女達が性的に見られないようにって、それで敢えてのこのデザインだったんだよ。よく聞くでしょう、パワハラやセクハラ。乗船者に恋を語られて苦労するCPは沢山いるじゃないか!」


 ここでアンセル大佐が物凄い笑顔で私からアレッサンドロを解放し、自分達は今すぐに少将の司令室に行こうと言って私を追い立てた。

 彼こそアレッサンドロがCPに対して抱いていた心配行為を私にしていた本人であり、アレッサンドロの言葉が彼の胸に刺さって痛かったからであろう。



 さて、初めて出会ったアレッサンドロはシレレイとピニャータの記録と違って太りぎみの目立たない外見の男性では無かった。

 整形はしていないが、彼は記録以上に素晴らしい外見へと変化をしていたのである。

 彼は行方不明だった彼女達の捜索を今日までの二か月間ずっとしており、この放浪中に痩せてしまったのだ。


 ただし、外見違いのせいでシレレイとピニャータにはアレッサンドロだと認識されず、仕方がなく私が彼女達に情報更新をしてあげる必要があったが。


 もちろん、データ更新のための情報提供などの手助けをしてくれたのは鈴虫だ。

 彼女はこの捜索のための船旅を、太り気味で不健康だと心配なアレッサンドロの為に、強制ダイエットを船旅の目的に組み込んでしまったのだ。

 よって、今日までの二か月間、アレッサンドロに食事制限と運動強制を強いていたというのである。


「やはり、最高の男が自分の船長の方がよろしいじゃ無いの。」


 口元に手を当ててくすくす笑う鈴虫は十二歳どころか百歳過ぎの計算高い女性にしか見えず、クイーンエスメラルダのリリムを思い出すぐらいだ。

 月の輝きのような金色の髪をもち、誰もがため息を吐くくらいに完璧な造形をした彼女は物凄く物欲が強くて性悪なのである。



「フェブ、君は船が気になるのかい?」


 少将は花柄の紅茶カップに真っ赤にも見える紅茶を注ぎいれると、そのカップを私に差し出した。


「ふふ、大丈夫だよ。格納庫はヒューゴがちゃんと監視してくれている。そうだろう、ヒューゴ?」


「当り前です。マスター。」


 人目が少ない所ではヒューゴが普通にかしこまった所を見ると、少将はヒューゴにあのようなそぶりをわざとさせていたのであろうか。

 私はやはり少将とまでなる人物は測りがたいのだと納得し、少将に微笑んで見せてから自分に差し出された紅茶カップを恭しくみえるように受け取った。


 指令室、どころか、パーティルームと思う程の内装と広さの司令官専用サロンに私達は集まっており、ふかふかの絨毯が敷き詰められた部屋で体が沈み込むほどのソファーに全員がかしこまって座り込んでいた。


 しかし、軍ではそんなに偉くないらしいアンセル大佐が意外と場慣れしている風に、少将の目の前で普通に寛いでいたことには純粋に驚きだ。


 私に性差別等を唱えたベイシア中尉も、少将のボディガードとして部屋に呼ばれたこの基地の軍人であるマックス・バックス大佐さえも、この絨毯に紅茶を零したらどうしようという風に柔らかすぎるソファでおっかなびっくり座っているのである。


 私が違和感を感じながら見守るアンセル大佐は、二重丸をあげたいぐらいの品の良いしぐさでミルクティーを口に運び、ああ、と美味しそうに感嘆の声まで上げたのだ。


「寛ぎすぎです。」


「いいじゃないの。僕はコーヒーよりも紅茶が大好きなんだよ。」


「それは存じませんでした。どうして交換日記に書いて下さらなかったのですか。僕は紅茶が飲みたいっておっしゃっていただければ。」


「そうしたら君は最高の葉っぱを用意してくれるだろう。僕の為に。僕はお客でなく船長という収支も考えなきゃいけないホストの立場でしょう。」


「まあ、心配性ね。安心なさって。安い茶葉でもそれなりの味のものは数多くありますもの。それこそコンシェルジュの腕の見せ所ですわ。ですから、いくらでも食べたいものや飲みたいものをおっしゃって下さいな。予算内で予算以上に感じられる美味しいものを用意して差し上げます。」


「いや。絶対に言わない。」


 彼は臍を曲げたようだ。


 懐具合も心配せずに食べたいものを注文できると知って、どうしてアンセル大佐は喜ぶどころか怒るのだろう。

 意味が解らないのはいつもの事かと考えて、私は別の気になっていたことをアンセル大佐に相談することにした。


「アンセル大佐。アレッサンドロは私の過去のカスタマーに似ていたの。アレッサンドロは褐色の肌に焦げ茶色の髪でしょう。ええ、真っ黒な目はあの子に似ていないけれど、親戚か尋ねてもよいかしら。私に出世払いと言い張って船に乗り込んだお子様なのよ。」


 ガチャンと、アンセルは皿にカップを打ち付けてしまうという、あからさまに動揺している行為をした。


「どうなさったの?」


 彼の目は見開かれ、ああ、あの時のあの子と同じ目をしている。

 船に潜り込もうとしたところを私に見咎められて、そして、私に乗船を許可されたあの時の希望をはらんだ瞳と同じだ。


「ああ、あの。君はその子の事を。」


「ええ。待っているの。でも、まだお子様でしょう。出世払いで船代を払うって言ってくれたけれど、払えなかったら私に会いに来てくれないでしょう。もし、アレッサンドロの身内だったら良かったなって思いましたの。彼は億万長者ですもの。代わりに支払ってくれるでしょう。」


 アンセル大佐は目に見えて落ち込んだ風になり、そして、払わせるんだと、彼はボソッと低い声で呟いた。


「約束は信頼です。」


「君はお金を払って欲しいからその子が会いに来るのを待っているの?」


「あの子が無事だって知りたいだけです。ええ、カスタマーになってくれたら最高ですわ。ふふ、あの子は絶対に出世するはずと分かっております。でも、最短でも十二年と考えますと長く感じてしまいましたの。」


「どうして十二年ですか?」


 あら、珍しくベイシア中尉が口を挟んできた。


「あら、だって。人間が成人と見なされて商業活動が出来るのが二十歳でしょう。」


 落ち込んでいた横に座る男から、意外と冷静な声で呼びかけられた。


「もしもし?」


「あら、どうなさったの?」


 顔を上げたアンセル大佐は、眉間にしわをしっかりと刻んでおり、困ったフクロウのような表情をしている。


「すいません。フェブラリー様。あなたは大破されてから復活されるまで、どのくらいの年月が経ったとのご認識だったのでしょうか。」


「大破して六か月と十一日、ドッグ入りして完全復活まで一年と二日ね。つまり、一年六か月と十三日。あら、そうしたらあの子は誕生日を迎えていたわね。では、あと十一年ね。時間は本当に早いわね。」


 私はあと十一年すればあの子と再会できるのだと、たった一年の短縮でも嬉しい気持ちで一杯になったが、ええ!AIでもこんなに幸福を感じられるのねってぐらいに喜んでいたのに、アンセル大佐どころかサロンにいた全員から脅えを含んだ視線を浴びせられるのは一体どうしてなのだろう。


 ああ、AIなのにあの子の誕生日を忘れていた事?

 そうね、AIにはあるまじきこと、だわ。

 でも私は単なるAIでは無いのだからいいじゃない。

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