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恋を語られても私はしがない端末機ですの  作者: 蔵前
この体が滅びても守るべきものがある
11/20

お客様は神様です

「これはいったいどういう事だ!」


 少将ではなくヒューゴがとても驚いていた。

 彼は私を弾き飛ばして直接にバシアヌスを支配し、シレレイとピニャータは彼の掌中にあって全てを認識していたと思っていたからだ。


 つまり、シレレイとピニャータは私に倒された状態で床に転がり、彼女達によって惨殺された遺体は船内に無残に転がっている筈だと思い込んでいたのだ。


 残念ながら私の保護下にあって自分を取り戻した彼女達は、シェフィールドに辿り着くまでせっせと船内の遺体を集め、これ以上の尊厳が無いぐらいに遺体を綺麗にして安置していたのである。

 もちろん、船内を完全洗浄しただけでなく、色紙で作った花をたくさんたくさん遺体に添えるまでしたのは、彼女達自身の罪滅ぼしだろう。


「死んでしまった乗船者達を尊厳を持って安置しただけよ。彼女達はCPだもの。乗員が殺される事を経験するのはとても辛い事よ。」


 私の言葉にアンセル大佐がそっと私の肩に腕を回した。

 まるで慰めるように。

 船長である彼がバシアヌスで起きた惨劇を知らないはずはないものね。


「こんな!勝手に!こんなことで自分のやった事が許されると!」


 どうしてヒューゴがシレレイ達の船内で起きた殺戮の現場をそのまま目にしたかったのかは、私が彼を見通したことで悲しい事だが理解していた。

 彼はその惨劇を彼の後ろに控える兵士達に見せつけることで、CPが人間になせる脅威を兵士達に教え込もうとしていたのだ。


 不安になったらどうするか。


 兵士達はヒューゴに脅え、ヒューゴを排しようと動くだろう。

 シェフィールド内で反乱が起きれば、ヒューゴは人間達を排除してここの王になれる。

 洗脳されていたシレレイとピニャータが、私やバシアヌス乗員に対して言い放った言葉の実行だ。


 外見だけは少将とそっくりの彼なのである。

 少将の名を騙って、シェフィールドに君臨するのも可能なのだ。


「許すも許さないも、あなたが私をバシアヌスから切り離して船を制圧したように、彼女達は同じことをされてしまっただけよ。同じCPとして彼女達に私は同情しますし、ええ、CPの使用方法を間違っておいてCPを壊そうとする行為にはCPの権利の為に戦わせて頂きます。」


 私が宇宙で藻屑となっていた数か月と、軍用ドッグでリフォームに専念していた一年、つまりたった一年数か月でCPの生物としての権利などが保護されていた法律が宇宙全体に出来ていた時の私の驚きを知ってもらえるだろうか。



 まあ、その法のお陰で私はドッグから出たところで撃墜される事を見逃されて、ただし、自由意思で軍属に下る選択をしなければいけなかったが。


 まあ、軍属に下る選択をするまで私は戦ったし、説得も何度も受けた。

 私は三人目の説得官、アンセル大佐の一言に負けたと言ってもよい。


「君の行動で君を愛する人が泣いてしまうと思わないのか!」


 ああ!私は愛されていた客船だったんだわ!って素晴らしき豪華客船だった過去が蘇ったのだ。

 絶対にあの子は再び私の客となり、約束していた出世払いの料金を私に払いに来るはずだと、私はCPのくせに涙したのである。


 ただし、乗せる人間は私が選んだ。


 もちろん、私を泣かせたアンセル大佐を船長とするならって、条件を出したのである。


 乗り込んで来た彼は、ニューイヤーが三回纏めて来たぐらいにハッピーな顔をしており、私は彼のその表情によってお客を出迎えた客船時代のコンシェルジュに戻れたのだ。


「お帰りなさいませ、お客様。」


 彼はただでさえハッピーそうな顔を、今度は脳みそが消えてなくなったのではないかと思う程の有頂天で幸せそうな笑顔にすると、私に、ただいま、と言った。



 彼は軍人としてはノリが良く、私の乗船者を選ぶ眼って大したものだと思う。


 だから、早くこんな陰気な基地から飛び出して、大事なお客様をガボン星に連れて行きたいのにな、とヒューゴに目線を戻した。

 彼は自分の思惑を駄目にされたことに対して、私に対してCPが持ちえない憎しみという感情まで目に映し出している。

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