俺の恋人【転生者な姉を持つヒロイン】
「岬、緋色は本当に可愛いわね」
「華南、覗き見をしてどうするんだ?」
「可愛いヒロインを覗き見したいのは当然でしょう。ね、麻美」
「ええと、何故私は女帝様と皇帝様に囲まれてヒロインを覗き見しているのか!! 場違いすぎるぅうう」
俺は今、恋人である華南と、後輩である河野と一緒になぜか緋色とその恋人の事を覗き見している。
華南は妹である緋色の事が可愛くて仕方がないらしい。そもそも中等部に入学した時から華南はかわった女だった。最初からなぜか俺のことをじっと見つめていて、変な女だった。
中等部からの外部生だというのに、最初から目立っていた。見た目も美しい少女だったというのもあるけど、俺に対してどんどん話しかけてきた。自慢じゃないが、俺は女子生徒にキャーキャー言われる方で、正直鬱陶しいと思っていた。俺に近づく女に周りが何かしていたりしていたが、俺は興味のない奴に近づかれることが嫌なのでそれは放っておいた。
華南の事は最初はどうでもいいと思っていた。綺麗な顔をしていたとしてもそれだけだった。だけど――華南は俺に近づけさせまいと動いている女たちと真っ向勝負をしていた。……大勢に虐められたとしてもやり返して、口でも言い返して――、その段階で変わった女だなとは思っていた。
そんな華南と話すことは、そのうち楽しくなってきていた。華南は俺と仲良くなっても、俺に助けを求めることはなかった。ただ真正面からぶつかっていって、——俺に対しての好意を隠そうともしなかった。
あまりにも堂々としていて、どうしようもない程強かった。それに勉強も運動も、三橋学園の中でも目立つ活躍を見せていた。特待生は伊達じゃないというべきか、テストでは俺や幼馴染の春日と競い合うほどだった。
そんな華南は中学二年生になった頃、周りに認められるようになっていた。自力で俺や春日の傍に立つことを認められてたというだけでも驚くべきことだ。
そもそも華南は一般家庭の出であるというのに「目指せ、女帝!!」なんていって張り切っていた。
なんでも俺が皇帝と呼ばれているからとかいって。俺に並ぶために頑張って、一生懸命な華南の事が好きだなと思った。
だから、告白をした。
「俺は華南が好きだ。華南も俺が好きだろ」
恥ずかしくてそんな言い方をした告白に、華南はそれはもう喜んでいたものだ。さて、それから数年、高校三年生の今、華南の妹の事を覗いている……。
何で、俺がこんなことをと思う。華南が俺を連れてこなかったら俺はこんなことしない。華南が望むから付き合っているのだ。
……華南と今年入学した河野はなぜか仲が良い。何故仲が良いかは分からないが、何だか楽しそうにしている。俺は華南と二人で過ごす方が嬉しいのだが、華南が仲よくしている河野を邪険にする気にはならない。
「女帝様って、いつも通り華南先輩でいいのよ」
「この場のノリですよ。華南先輩。それにしても、こうしてヒロインと一匹狼君のラブシーンを生で見れるとはいいですね。緋色ちゃんはとても可愛いです」
「よね。私の妹はヒロインな事を抜きにしても可愛いわ。そうだ、麻美も迫られてるでしょ?」
「……いえ、それは気のせいです。私はモブ。完全脇役」
何の話をしているのか、よく分からない。でもまぁ、華南が楽しそうだからいいか。そう思いながら俺たちはこそこそしている。
それにしてもこんなに話していたら緋色にバレるのではないかと考えていたら、緋色が「ああああ!」と驚いた声をあげた。こちらに気づいたらしい。
「お姉ちゃん!! また、何やってるの!! 岬君も、麻美ちゃんも!! あ、でもきっと岬君はお姉ちゃんに連れてこられたんだよね……。いつもごめんね、お姉ちゃんが!!」
「緋色がイチャイチャしているのを覗き見したかったの」
「お姉ちゃん……」
呆れたように、だけど仕方がないなとでもいう風に緋色は笑ってる。
「華南が変な行動するのにも慣れたからな。覗き見して悪かった」
「ごめんなさい。緋色ちゃん。でもヒロインと一匹狼君のいちゃいちゃを見たかったの!!」
「岬君、気にしなくていいよ。……麻美ちゃんは、本当にお姉ちゃんとそっくりだね」
なんだかんだで、緋色は華南の暴走に巻き込まれていたり、華南に振り回されたりしているものの、それでも緋色は華南を姉として慕っている。
俺が華南に振り回されるのを仕方がないなと受け入れて、何だかんだ楽しんでいるように緋色も楽しんでいるのだと思う。
「神崎も悪かったな」
「いえ、気にしなくていいです」
そして緋色の恋人の神崎狼もよくあることなので怒ることなく、そう答えてくれた。
それから緋色たちに見つかってしまったので、結局五人で過ごした。
「ふふふ、緋色と岬君と、麻美と神崎君と五人で過ごすのも楽しいわね。でも麻美にも恋人が出来たらバランスがいいわ」
「華南先輩!! 私はモブです! 気のせい気のせい」
「ふふふ、諦めなさい!!」
「……えー、いやいやいや」
華南は楽しそうに河野に話しかけている。
その隣では、「ごめんね、狼」と緋色がいい、「気にするな。大丈夫だ」と神崎が答え、肩を寄せ合っている。
――華南がいなかったら、こんな楽しい場に俺はいられなかっただろう。
華南に出会えたから、俺は此処にいる。華南と恋人になれたから、俺はこんなにも幸福を感じている。
「あれ、岬、どうしたの?」
「楽しいと思っただけだ」
「私も岬と居れて嬉しいわ!!」
暴走しがちで、俺のことをいつも振り回している恋人。
だけど、俺は華南にふりまわされることが楽しくて、幸せだと感じている。