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こんなはずじゃなかった【とある公爵家令嬢の実情】

「なんてことをしてくれたんだ! 折角、ミナーティアをとどまらせていたというのに……」


 私、サティア・ブンダソンは異母姉であるミナーティア・ブンダソンのことを追放した。


 お姉様が謝ってさえくれれば私はお姉様を許すつもりだった。私のことを嫌っていて、嫌がらせをしてきて、それで冷たい目でいつだって私を見ていたお姉様が謝ってさえくれれば許すつもりだった。

 お兄様だってお姉様が謝るなら――って追放の言葉を口にしたのだって、それでお姉様が泣きついてくると思っていたからだったという。


 だけど、お姉様は見たこともないような嬉しそうな笑みを浮かべて、追放を受け入れた。


 私は訳が分からなかった。それは私の友達であった皆も同じだった。食堂内は唖然としていて、お姉様を断罪するつもりだった私だって茫然とした。



 本当に追放を受け入れるわけがない。きっと公爵に泣きつくのだと王太子がいい、それもそうだと思い、お父様の元へと私たちは向かった。


 そこでお父様に言われた言葉が、先ほどの言葉だ。




「なんてことをとはどういうことだ。公爵!! ミナーティアはどうした? どうせ、貴様がかくまっているのだろう。公爵令嬢が追放を簡単に受け入れるはずなどない!!」

「何を言いますか! ミナーティアならば意気揚々と追放されるに決まってます!! もうきっとミナーティアは王妃などやってくれないでしょう。折角陛下と二人でミナーティアを引き留めてたというのに……。王太子殿下の目は節穴のようですね」

「何を言う!? この私が節穴だと? しかもミナーティアが喜んで追放されるとはどういうことだ」

「はぁ……そのままの言葉通りですよ。ミナーティアは王妃になりたくないと私と陛下に相談してました。しかしミナーティア以上に王妃に相応しい令嬢はいないと私と陛下で引き留めていたんです。そのミナーティアが嫉妬してサティアに嫌がらせをした? そんな面倒なこと、あの子がするはずがありません。そもそもあの子は王妃の地位にも、王太子殿下にも、サティアにも興味がありませんからね」



 ……お姉様が王妃になりたくないと相談していた? そして私に嫌がらせをするはずがない? 私に興味がない?

 お父様の言っていることが理解できなかった。

 皆と仲良くなってから起きた嫌がらせがお姉様が指示を出している。王太子と仲よくしている私が邪魔なのだと。そう聞いていたのに。興味がない?


「父上……それはどういう……」

「ホッゾ。何度も言ったと思うが、ミナーティアは名の知れた冒険者だぞ。本気でサティアのことを邪魔だと思うのならば実力行使で誰にも悟られずに殺すぐらい簡単に出来る。そんなあの子が嫌がらせをすることはありえない」

「冒険者……? え、あれは冗談なのでは……」

「はぁ? 本気にしていなかったのか? 冗談などではない。ミナーティアは公爵家令嬢ではあるが、冒険者でもある」



 ……意味が分からない。お姉様が冒険者?

 公爵家令嬢でありながら、名の知れた冒険者である? 冒険者って、魔物を退治したり、護衛依頼をこなしたりするようなそんなかっこいい存在だよね。

 いつもすました顔をして、表情が動かず、淡々と過ごしているお姉様が冒険者だとは結び付かない。




「ミナーティアが冒険者だと!? なんだ、それは」

「そのままの通りですよ。我が娘のミナーティアは《氷の剣姫》と呼ばれる冒険者だ」

「はぁ!? 《氷の剣姫》とは、最高ランク目前と言われている!? それがミナーティアな訳がないだろう! 嘘を吐くな!!」

「嘘じゃありませんよ。ミナーティアはその《氷の剣姫》です。王妃としての勉強も、冒険者としての仕事も全てこなした。そんなありえない存在がミナーティアです。それだけ優秀な娘だったからこそ、王妃としてこの国に留めたかったのですよ。でももう連れ戻そうとしても戻ってくれないでしょうね……」



 お父様はため息交じりにいった。


 《氷の剣姫》の話は私も聞いたことがある。美しく、氷の魔法が得意な存在だと。

 強大な魔物の前に立ちはだかる美しい少女。その少女がある時は魔物を凍らせ、ある時は魔物をその剣を持って切断する。そんな英雄譚を吟遊詩人が歌っていたのを聞いたことがある。



 それが、お姉様?

 王妃の勉強もしながら、冒険者としても活躍していた? 意味が分からない。でも本当にお姉様がそう言う存在なら私に嫌がらせなんてしない気がする。


 お姉様は嫌がらせなんてしていなかった……? と漠然とした気持ちになった。



「ホッゾ。君に公爵家を継いでもらうことはもうしない。サティア、君も、このままで済むと思わない方がいい」

「父上!? 何を……」

「お父様!? どうして……」


 お父様がお兄様と私の方を向いていった言葉に私は驚いた。意味が分からなかった。



「私も陛下もミナーティアを王妃にしたかったのだ。君たちは王の決定に逆らったのだよ。私としてもミナーティアが公爵家からいなくなる原因になった者に公爵家は継いでほしくはない。血縁者から後継者を選ぶとしよう。

 サティアにも婚約者を探すつもりだったが……、ミナーティアを冤罪で放逐させるような頭の弱い子を貴族にやるわけにもいかないからね。学園卒業後は、ホッゾもサティアも自由にするといい。ただし、ブンダソンの名を名乗ることは許さないよ」

「なっ、公爵!! なんてことを!!」

「王太子殿下、貴方もですよ。陛下の決めた婚約を勝手に破棄し、ミナーティアを追放なんてした責任は陛下が貴方に取らせるだろうね。他の者たちも親が黙っていると思わない方がいい」



 お父様はそんな恐ろしいことを口にする。

 悪いことをしたお姉様に謝ってほしかっただけだった。そう思って起こしたことなのに、責任を取らなければならない?


 私は学園卒業後、ブンダソン公爵家の名を名乗れない? お兄様が公爵になれない?



「お父様!! それはあまりにもひどいのではないですか」

「ひどくはないさ。寧ろ甘いぐらいだと思うよ。ミナーティアが自分から望んで追放を受け入れたことが分かっているからこそ、これだけで済んでいるんだ。そうでなければ病死してもらったかもしれないね。ひとまず、王太子殿下たちは家に戻った方がいいのではないでしょうか? 此処で時間を食うよりも言い訳一つでもしたほうがいいと思いますよ」



 お父様がそう言うと、お兄様たちは顔色を悪くする。


 病死してもらったかもしれないってどういうことなのだろう。私には分からなかったけれど、お兄様がこんな風に表情を変えるぐらいな酷い事なのだろう。



 お父様の言葉に皆慌てたように去っていってしまい、残されたのは私とお兄様とお父様だけになった。





「父上……その、ミナーティアを連れ戻すことが出来れば、公爵を継ぐことは出来るでしょうか?」

「ははは、何を言うかと思えばそんな馬鹿なことを言うのかい? ホッゾはもっと頭が良いと思っていたのだが……。ミナーティアは公爵令嬢という枷を外れたんだよ。喜んで冒険者生活をしているだろうね。誰が引き留めても戻ることはないし、頼み込んでも王妃なんてやろうとしないだろうよ。第一、ホッゾたちが追放したんだろう? 追放した君たちが連れ戻そうとするなんてみっともない真似をするんじゃないよ」

「……はい。申し訳ありませんでした。父上」

「それは私ではなく、ミナーティアに言おうね。さて、ホッゾもサティアも卒業後の身の振り方はきちんと考えておくんだよ」



 お父様はそう言うと、仕事があるからと私とお兄様の前から去っていってしまった。





「どうして、こんなことに……」




 私は何も考えられない。意味が分からない。何でこんなことにって。



 何も考えられない私は、侍女たちの手によって部屋に連れていかれた。自室で茫然としていれば、お母様がやってきた。


「全く、何をやっているの。サティア」


 お母様はあらあらとでもいうように、困ったように告げていた。



 お母様の言葉も頭に入ってこない私は、どうしてこんなことになったのだろうとそのことしか考えられなかった。

 お母様が部屋から出ていき、その後、皆が跡取りから外れたりされた話を聞いた。



 お姉様が望んで出て行ったから、まだ甘い処理をしたんだって。学園卒業までは面倒を見てくれるらしいけど、その後は自由にするようにって。

 それに学園では、お姉様のことや跡取りから外れたことがもう広まってるんだって。

 ……私たちは笑いものになっているんだって。正直学園に行きたくなかったけれど、お父様に「自分がやったことをちゃんと実感するんだよ」といって、学園に行かされた。




 学園に行って、一人のクラスメイトが教えてくれたことだけど……、私が遠巻きにされていたのは婚約者のいる子息とばかり仲よくしていたからだって。そして私に嫌がらせをしていたのはお姉様じゃないって。

 その令嬢たちも皆が跡取りから外れたりされたから興味を失ったのかもう嫌がらせも何もしてこないんだって。



 ……私たちは見当違いの断罪をして、罰を受けた笑い者になってしまった。学園を卒業するまでこれに耐えなければならないのだ。




「こんなはずじゃなかった」




 私は思わずそう呟いてしまう。



 こんなはずじゃなかった。私はお姉様に謝ってもらって、それで学園で皆と楽しく生きる予定だった。

 そして卒業をしたら誰かに嫁いで、幸せに貴族夫人として生きる予定だった。





 でも、そんな未来は私にはもうない。







『とある公爵家令嬢の実情』の異母妹の話です。

甘い処罰なのはミナーティアが自分から望んで去っていったことを大人たちが把握しているためです。

公爵はミナーティアこそ王妃に相応しいと思っていたのと、娘を自国に留まらせておきたかったのですが、ミナーティアは喜んで飛び出していきました。


サンティアは甘い考えを持った子なので、笑い者にされているだけでも大分メンタルがやられています。



企画に参加してくださった読者様はありがとうございます。希望の短編で企画とは別に書こうと思っている作品は別枠で普通に短編として投稿する予定です。

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