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あたしのせいじゃなーい  作者: わかいんだー
本章~ファンタジックな旅の日常~
9/52

蛙の気持ち

ろくに前も見えないほどに茂った、森の中を進むアルフ一行。

ベルタ「ねぇ、こんな所、通らなきゃいけないの?」

アルフ「いや?ただ、あっちに行こうとしてるだけだぜ」

ベルタ「はぁ、ちょっとは道くらい選びなさいよね」

アルフ「道ばかり歩いてると飽きないか?」

ベルタ「飽きる以前に歩くのも大変じゃない、ここ。視界も悪いし・・・きゃ!」


バチッ!

「キャイーン」


獣がベルタに飛び掛かり、罠が発動したようだ。

アルフ「やった肉だ」

ベルタ「ちょっと。まずあたしを心配しなさいよ」

アルフ「おぉ。ベルタ大丈夫か」

ベルタ「遅いわよ!」

アルフ「すまん。罠アイテムを信用してたからさ」

ベルタ「てか、なんで、あたしばっかり襲われるのよ」


今までに襲ってきた獣は全て、ベルタを狙っていた。

アルフ「なんでって・・・肉だから?」

ベルタ「誰が肉よ」

アルフ「いや、襲うのは肉を食いたいからだろ?ベルタが一番美味そうな肉なんじゃねぇの?」

ガルマ「ここでは視界も利かぬし、恐らくは臭いであろうな」

アルフ「おぉ。俺もベルタの臭いは好きだぞ」

ベルタ「ちょ、変な事を言い出さないでよ」

ベルタは無意識にも、率先して力仕事をこなすので、一番汗をかいている事が多かった。


ベルタ「町で香料アイテムでも買っておけばよかったかなぁ」

アルフ「それは俺が死ぬ」

ベルタ「殺さないわよ!獣に狙われない程度になら大丈夫でしょ」


ガルマ「ではベルタの臭いを分析・強化して、我から発散してみるか」

アルフ「おぉ!そんな事ができるんだ」

ベルタ「や・め・て・く・だ・さ・い!色々恥ずかし過ぎます!」


ベルタは思う。

嗅がれるだけでも恥ずかしいのに、分析て何?その上強化?発散って、どんな羞恥プレイですかと。


ガルマに取れる対策は色々あった。

森の先まで一瞬で運んだり、森を消滅させたりと、根本的な対策も容易だ。

だが今は、アルフに付いて行く事が、目的に到達する為のアテの一つである。

アルフが森を歩こうとする、その過程を飛ばすのは好ましくない。

そもそも人の成長を促す上で、竜に連なる者が過度に手を出す事は避けねばならない。

困難への対処方法は、人に考えさせるべきなのだ。

ガルマが物知りで経験豊富とは言え、人と旅を共にした事は無く、どう配慮すべきか躊躇していた。

そこへ、ベルタが香料の案を出したので採用したのだが、即座に拒絶されてしまった。


ガルマ「恥ずかしさとやらは、獣に襲われる恐怖にも勝るのだな」

ベルタ「そうですよね。ガルマさんには恥ずかしい事なんて無さそうですし、気付かなくても仕方ないか」

アルフ「俺も無いぞ」

ベルタ「あんたは、無知とか能天気とかデリカシーの無さを恥じなさい!」

アルフ「えー」

ガルマ「ではアルフの臭いでやってみるか。強化すれば効果があるかも知れぬ」

アルフ「おぉ!」

ベルタ「それなら、ありがたいかもです」

ガルマは周囲の安全を最優先に、慎重に竜力を行使して、臭いを発散した。


ガルマ「これで様子をみてみるか」

アルフ「よくわかんねぇな?」

ベルタ「たしかに、アルフの臭いを強くした感じはするわね」

ガルマ「ベルタの臭いを少し上回る程度の濃度に調整してみた。獣にとって美味そうかは分からぬがな」

ベルタは思う。あたしの臭いも分析されてたのねと。


バチッ!

「キャイーン」


ガルマ「やはり臭いであったようだな」

ベルタ「ガルマさんが居て本当に良かった」

アルフ「でもどうしよ。こんなに食いきれねぇぞ」

ベルタ「全部食べなくてもいいでしょ!捕らえただけなんだから放してあげなさいよ」

アルフ「おぉ!」


ガルマ「お主を襲う獣を放すのか」

ベルタ「そりゃ襲われたくは無いですけど。獣だって生きる為に、必死なのは分かりますし」

ガルマ「やはりお主は面白いな」

ベルタ「変ですか?」

ガルマ「いや。ただお主は、世界の在り様を正しく認識しておるようだ。欲望が『調和の維持』に傾いておる」

ベルタ「傾いてるなら直さないとダメなんですかね」

ガルマ「そうではない。好ましい方向に傾いておるぞ」

ベルタ「へぇ。なら良かったです」


アルフ「きたー!」

ベルタ「どうかしたの?」

アルフ「広場になってる。飯にしようぜ」

ベルタ「はいはい・・・って、何あれ?」

広場の中央辺りに、ピラミッドのような大きな黒い塊があった。


アルフ「なんだろ。でっかい○○○?」

ベルタ「下品ねあんたは!え、とぐろ巻いた形って、大蛇!?」

大蛇もこちらに気付いたようで鎌首をもたげた。


ベルタ「ひ、ちょっとでかすぎ。罠アイテムじゃ吹き飛ばされるというか、丸ごと呑まれそう」

ベルタは一瞬で考える。

走って逃げる?ムリムリ。

普通の蛇ですら移動速度は半端無い。あの大きさじゃ平地を全力で走ってもすぐ追いつかれる。

藪に逃げれば、むしろ蛇の方が有利だろう。木の上でも登って来る。

確か蛇は温度で獲物を見分けるとか聞いたから、女性で肉量も多いあたしが、一番高温で狙われ易いかも。


アルフ「うーん。遂に俺が食われる番になっちまったか」

ベルタ「諦めが早過ぎるでしょ、あんた!かなり無駄足になっちゃうけど瞬間帰還器で戻りましょう」

ガルマ「ふむ。食われるというのも手か」

ベルタ「ガルマさんまで何言ってんですかー」

ガルマ「アルフが食われる選択をした。なら死なぬように、結界を張って食われてみてもよかろう」

ベルタ「いやいや。死なないからって、食べられなくてもいいじゃないですか。戻りましょうよ」

わめいている間に大蛇は、音も立てずに、すぐ傍に忍び寄っていた。


ベルタ「え・・・」

ほぼ真上から見下ろす大蛇。

蛇に睨まれた蛙って、こういう気持ちなのねとベルタは思う。

アルフもガルマも食べられる気満々だし、ここは一旦食べられるしかないのかなと諦めの境地である。


ガルマ「食事なら滝の下のほとりが良いのではないか、と言っておるがどうする?」

アルフ「おぉ!」

ベルタ「・・・は?」

今まさに、食われようとしている時に、何を言っているのかとベルタは耳を疑う。


ガルマ「こやつはこの森の主らしい。我に気付いて挨拶にきたそうだ」

アルフ「行こうぜ!食った後で泳げるかも」

ベルタ「あ、あはは」

へたりこむベルタ。

食事って、あたしが食べられる訳じゃないのね、と安堵して力が抜けた。


ベルタが一息ついて顔を上げると、目の前に大蛇の巨大な顔。

その細い舌がベルタの顔に届きそうである。


ベルタ「ひぃ!?」

ガルマ「頭に乗れと言っておる。運んでくれるそうだ」

アルフ「おぉ!いっちばーん」

大蛇の頭に乗り、一行は滝へ向った。


アルフ「たっけー!はっえー!すんげぇ景色ー!」

ベルタ「はしゃぐと危ないわよ。この高さも速度も、落ちたらやばそうよ」

いくら能天気でも恐怖心くらいは持って欲しいとベルタは思う。


ベルタ「ガルマさんて、大蛇とも話せるのですね」

ガルマ「意思ある者であれば誰とでも疎通は可能だ。話になるかは理性次第だな」

ベルタ「理性の強い大蛇ですか」

ガルマ「人には分からぬか。強弱や質の差はあれ、意思を持つ者には理性や知性はある」

ベルタ「えぇ。家畜とか、なついてくれる動物なら感じるのですが、蛇にあるとは思いませんでした」

ガルマ「小型の蛇であれば寿命も短い。元々の理性が弱い故、強くなる前に土に還るのであろう」


滝に着くと、一行を降ろして、大蛇は去っていった。

滝のほとりは、景観が良く、涼しい風が気持ちの良い、食事に最適なスポットであった。


ベルタ「うわぁ。素敵な場所ですね。さっきまで、あたしが食事になりかけてたのが嘘みたい」

アルフ「おぉ!飯にしようぜ」

ベルタ「水も補給しておけるわね。服も洗っておきましょう。水浴びもいいわね」

アルフ「飯・・・」

ベルタ「ガルマさんが、さっきの獣の肉を焼いてくれてるじゃない」

アルフ「おぉ!」

ベルタ「アルフが臭いに気付かないなんて、どうしたのよ」

アルフ「これ嗅いでた!ベルタにやる」

ベルタ「え、凄く良い香りのするお花ね。アルフにしてはやるじゃない。髪に飾っちゃお」

アルフ「おぉ!食えるかなと思ったけど、不味かったからもう要らない」

ベルタ「あんたを見直した、あたしがバカだったわ」


休息を終え、旅を再開する一行。

花の香りのお陰で、ベルタが再び獣に襲われ出した事は言うまでもない。


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