表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あたしのせいじゃなーい  作者: わかいんだー
本章~ファンタジックな旅の日常~
8/52

小さく大きな願い

相変わらず、何も考えて無さそうに、先導して道を歩くアルフ。

アルフは一体、どこへ呼ばれているのだろうか、とベルタはふと思う。

ベルタ「アルフ、何か少しは思い出した?このまま旅を続けていれば、全て思い出せそうなの?」

アルフ「へ?」

ベルタ「へ?じゃないわよ。あんたの記憶を取り戻すための旅でしょ」


ガルマは内心困惑する。

アルフには過去が無いのだから、旅で取り戻せる記憶など、元々存在しないのだと。

何故ベルタは、この旅に巻き込まれてしまったのだろう。

偶然なのか、アルフに関わる力の意思なのか。


アルフ「そうだったの?」

ベルタ「・・・ちょっとそこに座りなさい」

笑顔を保ちながらも、仁王の如く凄まじい気迫で凄むベルタ。


突然のベルタの怒りに訳が分からず、萎縮しながらも、身の危険を感じて牽制するアルフ。

アルフ「ベ、ベルタが読んでくれた本に、暴力はいけないって書いてあったぞ」

ベルタ「あたしは座れ、と言ったのよ。暴力なんて今まで一度たりともふるったことないわ」

え?じゃぁ今まで俺が殴られてたのは何?と口に出しかけるアルフ。


だが普段は冷静なベルタが理不尽な発言をしている。

下手につっこむと、火に油を注ぎかねないと察したアルフは、黙って座った。


ベルタ「あんた、初めてあたしと出会った時に、旅で記憶を取り戻す夢を見たのよね?」

アルフ「おぉ!」

ベルタ「で、あっち?に呼ばれて旅に出たのよね?」

アルフ「おぉ!」

ベルタ「つまり、記憶を取り戻す為に旅に出たのよね?」

アルフ「おぉ?」

ベルタ「おぉ?じゃないわよ!」

アルフ「いや、確かにベルタの言う通り、旅で記憶を取り戻す夢を見て、呼ばれて、旅にでたけど」

ベルタ「けど?」

アルフ「別に記憶はどうでもいいかな」


膝を落とし愕然とするベルタ。

ダメだ、アルフの能天気は、あたしの理解を超えてる。


ベルタ「あたし、あんたの記憶をさっさと取り戻して、すぐ帰るって親父に言ってきたのよ」

アルフ「じゃぁ帰るか?」

ベルタ「はぁ・・・きっかけはあんただけど、旅に出てみたかったのは、あたしもだしね」

ちらっとガルマを見るベルタ。

ベルタ「ガルマさんも一緒に旅できる機会なんて、二度と無いだろうし。旅は続けるわ」

アルフ「よっしゃぁああああ」

ベルタ「はぁ。親父になんて手紙書こう。帰る目処が立たなくなっちゃったわ」

アルフ「じゃぁベルタの親父も呼ぼうぜ」

ベルタ「・・・あんたの能天気が心底うらやましいわ」



再びアルフの先導で、道を歩きだす一行。

街道をすれ違う人が、平静なフリをしながらも、自然に距離を取ろうとして、逆に不自然になっている。

この旅を始めてから、ずっとこんな感じだ。


ベルタ「やっぱり、みんな、あたし達を避けてる気がするのよね」

アルフ「そうか?」

ベルタ「あたしも気のせいだろうとは思ってたんだけど、こないだの武器屋さんの態度もあるし」

アルフ「あぁ~、あのおっちゃんは何かずっと変だったな」


ガルマ「我は人に畏怖されておるからな。我と共に居れば仕方あるまい」

アルフ「トカゲ顔だから?俺達も、最初に見た時は驚いたしな」

ベルタ「だからその言い方は失礼だから、やめいっちゅうに!」

ガルマ「気にするな。我から見れば、人もトカゲもそれほど大きな差は無い」

納得すべきか、人としてつっこむべきか、困惑するベルタ。

ベルタ「そ、そうなんですか・・・」

ガルマ「確かに顔で我を判別しておるのであろう。だが獣人も居るし、顔の造りが怖い訳では無かろう」


アルフ「でもガルマさんは優しいし、顔以外に怖がる要素がねぇぞ」

ベルタ「優しさは初見じゃ分からないわよ。やっぱり伝説のせい?かな」

ガルマ「そうであろうな。我が人の前に立つ時、その大半は粛清が目的であるからな」

アルフ「ガルマさんは人が嫌いなの?」

ガルマ「そんな事は無い。ただ破滅をもたらす芽は摘まねばならぬ。それが導きで示されるのだ」

アルフ「だよな。こうして俺達の旅に付き合ってくれてるくらいだし」


陽が落ちる前に川辺に着いたので、一行は食事を採る事にした。

アルフ「うぉぉおおおおおおおおお」

ベルタ「落ち着いて食べなさいよ」

アルフ「急いで食べないと、全部ベルタに食われる」

ベルタ「人を化け物みたいに言わないでよ」

ガルマ「食料は十分にある。慌てなくてもよい」


ベルタ「そういえばガルマさん、いつも食べるフリをしているだけじゃないですか?」

ガルマ「ベルタは、よく見ておるな」

ベルタ「もしかして人の料理は食べられないのですか?」

ガルマ「いや。ただ食べる必要が無い。お主らの食い残しを処理する時には、味わっておるよ」


ベルタ「ガルマさんて本当に優しいですよね。悪い人しか粛清していないのに、怖がられているのが不思議」

ガルマ「善悪など存在せぬ。我の粛清は導きの示しのみだ。導きを理解できぬ者ら、全てに畏怖されよう」


ベルタ「え?破滅をもたらす芽を摘むとかおっしゃってましたけど、それが悪という事では無いのですか」

ガルマ「善悪は、人が身勝手に定義した基準だ。粛清される側にとっては、我が悪であろう」

ベルタ「人が人を、エゴで苦しめたり、挙句に殺めたりする事すらも、悪い事では無いとおっしゃるのですか」

ガルマ「人に限らず、腹が減ったというだけのエゴで共食いする生物もおるだろう。それらは悪なのか?」

ベルタ「え・・・でも、誰かを傷つけたり苦しめたりするのは悪い事じゃないかと、あたしは思います・・・」

ガルマ「うむ。善悪を定義し、それを元に法を成し、秩序を構築する。それは間違ってはおらぬ」


ベルタ「善悪は存在しないけど、人が勝手に定義するのは構わない、という事ですか」

ガルマ「その通りだ。ただ我は人の善悪に捉われぬ。故に善なる人、とやらにも畏怖される事になろう」

ベルタ「なんとなく分かった気はします」


道を違えぬ為には、善悪を正しく定義する事が必要なのではないかと考えるベルタ。

ベルタ「善悪を、愛する者を護る為に決めていけば、きっと人も道を違えずにいられますよね」

ガルマ「愛か。それは欲望の一面に過ぎぬ。故に、愛で決めるというのも難しかろうな」


ベルタ「えぇ?そ、それは違うと思いますよ。だって愛というのは、自分を犠牲にする事もあるんですよ」

ガルマ「お主も誰かを護ったり、護られたりした事があるのであろう」

ベルタ「はい。あたしも親父に護ってもらった覚えが澤山あります。愛は確かにありますよ」

ガルマ「その親父は、お主の畑で害虫の子、卵を見つけても護るのか」

ベルタ「それは駆除しますけど?」

ガルマ「で、あろう」

ベルタ「?おっしゃりたい事が、よく分かりません」

ガルマ「『自分が』護りたい者だけを護るのは、欲望ではないのか」

ベルタ「あ」

ガルマ「我は、愛が存在せぬとは言っておらぬ。欲望の一面に過ぎぬと言ったのだ」


ベルタ「でも、あたしの認識では愛と欲望は、与える気持ちと奪う気持ちという逆の意味があって」

ガルマ「欲望というものを狭く捉えすぎておるのだ。与える事で、自己満足という欲望を満たしておるのだ」

ベルタ「純粋な愛は別だと思うんだけどなぁ」


ガルマ「そもそも人に限らず、生物は全て、欲望のみで行動しておる」

ベルタ「そりゃ虫とかは本能だけで生きてるでしょうから欲望のみかもしれませんが、人は色々考えてますよ」

ガルマ「辛い仕事は対価の為、疲れ果てて自ら生を閉じるのは楽になる為、嫌な事も全ては自分の為であろう」

ベルタ「やりたくても我慢する事だって一杯ありますよ」

ガルマ「小さな欲望を抑えるのは、より大きな欲望を満たす為であろう」


ベルタ「それは・・・穿った見方をすればそうかもしれませんが・・・その、詭弁じゃないでしょうか」

ガルマ「詭弁を弄しておるのは人の側だな。己の欲望でしか動かぬくせに、その責任転嫁の為に詭弁を弄す」

ベルタ「うぅ・・・納得できないというか、したくないです」

ガルマ「そうであろう。人は愚かだ。愚かさ故に事実を認められずに道を違える。故に導かねばならぬのだ」



反論できずに、むくれるベルタ。

でもガルマを見て思う。

無謀なあたし達の我儘に応え、何でも教えてくれて、色々助けてくれて、今も無償で付き添ってくれている。

こんな、ありえない程に優しい人が、欲望以外の全てを否定するような生き方で良いのか。

ガルマ自身は、それで幸せなのだろうかと。


ベルタは哀しそうにガルマに問いかける。

ベルタ「ガルマさん。みんなから畏怖されて、敬遠されて、寂しいとか哀しいとは思わないのですか」


ガルマは驚いたように、大きく眼を見開いて、ベルタを凝視する。

それから一拍置いて、笑い出した。


ガルマ「ふ、ふは、ふはははは・・・そうだな。お主は実に・・・実に面白い」

ベルタ「え?」

ガルマ「竜に連なる者に、そのような問いをかけたのは、お主が初めてであろうな」


思ったままを口にしただけのベルタには、何の事か分からない。

そもそも畏怖されているのだから、問いかけられる機会も殆ど無かったであろう、と脳内でつっこむ。


ガルマ「それこそが、世界を創ったきっかけ、と言えるのかもしれぬ」

ベルタ「竜神様が寂しかったから、世界を、人を創られたと?」

ガルマ「残念ながら今の人では足りぬ。あまりにも未熟なのだ」

ベルタ「でも、竜に連なる者って、他にも居られますよね?その方達ではダメなのですか」

ガルマ「竜に連なる者は一体だ。意思が独立しておるとはいえ、感じ方も考え方も皆が同じなのだ」

ベルタ「人がみんな、あたしと同じになる感じですか。よく分からないけど・・・たしかにつまんなそうかも」


ガルマが優しい眼でベルタを見つめる。

ガルマ「あまりに未熟とは言ったが、お主の問いには驚かされた」

ベルタ「驚くほど大層な事じゃ無いと思うんですけど」

ガルマ「よもや大願の片鱗を見透かされようとはな」

ベルタ「え?いえ、見透かすとかそういうのじゃなくて、あたしだったら寂しいだろなって思っただけで」

ガルマ「もしかすると、我が思うよりも、事は成りつつあるのやもしれぬな・・・」

ベルタ「あの、聞いてます?ガルマさん?」


ガルマは眼を閉じる。

ベルタが旅に同伴しているのは偶然では無いと、この時確信していた。

あくまでも、アルフの補助的な役割であろう、という推測ではあったが。


この時、この旅の真の目的の、ハードルが一つクリアされた。

ガルマの推測の半分は当たっている。

だがもしここで、全てを当てていたなら、大願が果たされる可能性は潰えていた所だった。


この世界は、誰もが想うような、小さな願いで出来ていた。

でもそれは、未だ誰にも叶えられぬほどに、大きな願いであった。

話についていけないアルフは、とっくに眠っている。

ベルタは、ガルマでも勘違いする事があるんだなと思いつつ、寝る事にした。

あたしは何も見透かして無いよと。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ