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あたしのせいじゃなーい  作者: わかいんだー
本章~ファンタジックな旅の日常~
7/52

全ては西瓜の如く

アルフ一行は全員、戦闘は極力避ける考えである。

だが、武装はしておかないと、襲われ易くなるのではないかという懸念が生じていた。

瞬間帰還器で回避可能とは言え、町から出直しになってしまうので、なるべく使いたくは無い。


アルフ「やっぱさー、使えなくたって格好良い武器は装備したいと思うんだ」

ベルタ「言いたい事は分かるけど、武器って結構重いのよ。それに格好じゃなくて強そうなのを装備しないと」

ガルマ「子供だと見抜かれてしまうなら、武装していても、襲われ易くはあるだろうがな」

ベルタ「そうよ。それにガルマさんから離れなければ、襲われる機会なんて皆無よ」

アルフ「花摘みも付いてきてもらうのか」

ベルタの凄まじいアッパーを顎に受けて、口を閉じさせられたアルフが宙に舞う。

ガルマ「おぉ見事。ベルタは素手で十分そうだな」

アルフのお陰でベルタは格闘に目覚めつつある・・・かもしれない。


ベルタ「・・・でも確かに、一人になった上で、瞬間帰還器も使いたくない状況は、ちょこちょこあるわね」

ガルマ「ふむ。罠アイテムもあるし大丈夫とは思うが、気休めになるなら装備しても良いのではないか」

ベルタ「そうねぇ。軽くて強そうなのが見つかったら考えましょうか」

顎が痛くて口を開けないアルフが、涙目ながらに頷いて武器屋に走る。


結構大きな武器屋である。品揃えは良さそうだ。

ガルマ「この子達に牽制目的で武器を持たせたい。軽くて、警戒してもらえそうな外見の品を見繕ってくれ」

武器屋「りゅ、竜人様に御利用頂けるとは恐縮です。直ちに御期待に沿えるであろう品を探して参ります」

入店早々に、武器屋の主は、何故か店を飛び出して行った。


人が道を違えた時に竜が粛清するというのは、一般の大人には常識である。

アルフとベルタが知らなかったのは、学ぶ前に旅に出ていたからであった。


武器屋には、やましい過去が多々あった。

武器性能を誇張するなどの、個人レベルの些事なので、竜が干渉するような事では無い。

だが武器屋には、竜の粛清の判断基準までは分からないのだ。


とりあえず粛清目的の来店では無いようだと、武器屋は安堵していた。

でも悪事がばれる前に、早急にお引取り願わねばならないとも考えた。

そこで、確実に満足してもらえそうな品を探しに、店を出たのだった。


アルフ一行は、しばらく呆けて居たが、アルフが格好良い武器を探し始めた。

ベルタ「御主人さん、どうしたんでしょうね」

ガルマ「うーむ?探すと言っておったし、外に倉庫でもあるのではないか」

ベルタ「じゃぁ、あたしも暇だし、ちょっとお店の品を見せてもらおうかな」


武器屋は、軽くて強い上等な材質の、小振りなレイピアを用意して戻ってきた。

装飾も派手ながら洗練されており、如何にも上級者向けという雰囲気である。

依頼の牽制目的は果たせよう。


武器屋「お待たせしました。ここには大人向けの品しか置いてなかったので、調達して参り・・・」

店に戻るなり説明を始めた武器屋に、アルフが走り寄ってレイピアを手に取る。気に入ったようだ。

だが武器屋の目は、アルフでは無くベルタに釘付けになっていた。


武器屋は夢でも見ている気分だった。

屈強な戦士でも敬遠する、超重量級の両手斧を、片手で軽々と踊るように振り回す者が、目の前に居るのだ。

それも竜人であるガルマならともかく、人の娘のベルタが、である。


ベルタ「武器って思ってたよりは軽いのね。これなら見た目も派手で良いんじゃないかな」

ガルマ「だが大き過ぎて邪魔ではないか?それに刃物は修練を積まねばな。狙った位置に刃を当てられぬぞ」

ベルタ「当てる気は無いんだけど、当たって斬れたりしたら嫌ね。じゃぁどうしようかな」


当てる気が無いとか斬れたりしたら嫌とか、武器の存在意義の真っ向否定である。

武器屋は気を取り直し、ベルタとガルマの会話から、ベルタに向いた武器を考える。

子供向けの軽い品である必要は無く、大き過ぎず、刃を当てるような技巧の要らぬ武器だ。


武器屋「で、ではこちらなどいかがでしょう」

小振りながらも、派手な棘で見た目の牽制効果が高い、モーニングスターを差し出した。

ベルタ「きゃーイガイガがかわいい。痛そうだから見た目で警戒してくれそうね」

ガルマ「うむ、それなら当たりさえすれば効果も期待出来るな。強度もベルタが本気を出さねば十分であろう」


アルフとベルタは、それぞれの武器が気に入ったようだ。

すぐに買い物は終わり、一行は旅を再開した。


一人になった武器屋は安堵のため息をつき、ベルタが振り回していた両手斧を元の場所に戻そうと手を延ばす。

武器屋「まさかこれを振り回せる子供が居るなんてねぇ」

そう呟きながら両手斧を持ち上げるが感触が変だ。グリップが変形している?

武器屋「は?・・・まさか、まさかグリップを握り潰してたの?あの娘が?」


両手斧は力自慢の巨漢向けの超重量武器である。

当然造りも頑丈であり、握り潰されるなどありえない。

だが片手、それも娘の小さな手で握るとなれば、狭い部位に想定の倍以上の圧力がかかる。

しかもそれを遠心力や慣性が無いかの如く、軽々と振り回していたのだから、その時の握力は想像を絶する。

怪力なのは分かっていたが、怪力というより万力である。

人の素手で考えられる圧力じゃない。


普段の武器屋であれば、商品を傷つけられたのだから、追いかけて弁償させる所である。

しかし武器屋は動かない。

顔面蒼白になり冷や汗がとめどなく溢れ出す。

ふと脳裏に浮かぶ「鬼に金棒」という言葉。

武器屋「もしかして、俺、やっちゃった?」


ベルタが両手斧を振り回している姿を見ている時は、武器屋にはあまりにも現実感が湧かなかった。

ただ、ありえない怪力だと思う程度であった。

実際に人を攻撃したらどうなるか、とまでは思い至らなかったのである。

だが今、冷静になって考えると、とんでもない事をしでかした不安が襲ってくる。


来店時の竜人の要望を思い返すと、牽制になるような見た目だけのお飾りを注文されたと解釈出来る。

それに対して売りつけたのは、壊そうとしたって壊れないような頑丈なモーニングスターである。


ベルタのありえない力で、モーニングスターを叩きつければどうなるか。

巨漢が重鎧に重盾で防いでも、西瓜と変わらぬ結果になるであろう事は容易に想像できる。

しかもベルタは、人を粛清する竜人の供をしているのだ。


走馬灯のように、ガルマとベルタの会話が、武器屋の頭の中で再生される。

本気を出さねば十分であろうというガルマの言葉が脳裏にこだまする。

武器屋「いや、マジ?マジであの柄まで鋼鉄のモーニングスターが、本気出したら壊れるの?」

当てる気は無いというベルタの言葉が脳裏にこだまする。

武器屋「そうですよねー、武器を人に当てちゃダメですよねー」

恐怖で頭がおかしくなりそうで、武器屋なのに武器を否定する発想になっていた。


武器屋は混乱して、店を畳もうかとも思った。

だが一息ついて落ち着くと、楽観的に考え始められた。

済んだ事は仕方が無いのである。

そもそも客に商品を売っただけなのだから、責められる筋合いも無いのである。


とりあえず、グリップを握り潰された両手斧を修理せねばと思った矢先、商人としての閃きが生じた。

修理するよりも、見世物にして客寄せにした方がいいんじゃね?と。


握り潰されたままの両手斧は店の前に飾られ、潰された由来も書き添えられた。

小さな手で握り潰した痕跡は独特であり、書き添えられた由来の信憑性は十分に確保された。


いつしかベルタは、戦った事も無いのに「西瓜割りのデストロイヤー」として名を馳せていた。

如何なる鎧も盾も西瓜と変わらぬ結果になるであろう、という説明が、伝聞で崩れておかしくなったようだ。

当のベルタには知る由も無かった。


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