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あたしのせいじゃなーい  作者: わかいんだー
本章~ファンタジックな旅の日常~
6/52

鬼が降る町

アルフの足の向くままに、旅を続ける一行。

道中に大きな町があったので、見物を兼ねて泊まる事にした。

ベルタ「今日はベッドで眠れるわね~」

浮き足だって、真っ先に町に入ったベルタ。

だが町中を見渡してから、怯えるように動きを止めた。


アルフ「どうかしたか?」

ベルタ「この町の娘達、みんなかわい過ぎない?なんかおかしいよ」

アルフ「そうか?まぁ、かわいさでベルタに勝てる奴が居る訳ねぇし。気にしなくても、いいんじゃね」

突然且つ想定外の、告白に聞こえなくも無い発言に、混乱するベルタ。


実際にベルタはかわいい。

修辞の上で、ゴリラが付いてくる事は多いが、そこは好みの問題である。


ガルマ「この町は、色々な美しさを競う事で有名だな。コンテスト等の興行が頻繁で、美容系の店が多い」

アルフ「へぇ。美しさって何だっけ」

舞い上がった気分から、一瞬で覚めて、我に返るベルタ。


ベルタ「アルフ、かわいさの意味は分かってるの?」

アルフ「当然よ、お前が読んでくれた本に書いてたぜ。バカな子ほどかわいいって。つまり」


アルフは突如、何かに殴られて気絶した。

旅を続けますか? っYes

アルフが目を覚ますと、噴水前のベンチに寝かされていた。


アルフ「いって~、いきなり何かに殴られたぞ?」

ベルタ「ただの天罰よ」

アルフは記憶を手繰り、今のベルタの態度から、かわいさの意味が違うのであろう事を推察する。

アルフ「殴らなくても・・・間違ってるなら教えてほしいよな」

ベルタ「間が悪過ぎるのよ。てか、あんたにバカだと思われてるとか、ありえないでしょ」


アルフは不快そうに周囲を見回しながら、自分の鼻を気にしだした。

アルフ「何か・・・臭くね?」

驚いて自分の臭いを確かめるベルタ。

ベルタ「え?やだ、あたし臭う?どんな臭い?」

アルフ「いや、ベルタじゃなくて空気が臭い」

ベルタ「そう?どっちかというと良い香りのような。ちょっときついけど」

ガルマ「香料の臭いかな。良い香りを出すアイテムではあるが、合わない者には臭く感じるな」


アルフ「ぐぁ!今そこを通った人が、めっちゃくちゃくせぇ!俺、臭いで攻撃されたのか?」

ベルタ「あれはあたしでも臭いと思うわね」

ガルマ「常に香料を使っておると、当人の嗅覚が麻痺してしまう。故、どんどんきつくなる傾向があるな」

アルフ「俺もう無理」


アルフは窒息して気絶した。

旅を続けますか? っYes

アルフが目を覚ますと、噴水前のベンチに寝かされていた。


アルフ「うぇ~、気分わりぃ。この町出ようぜ」

ガルマ「ここは隣の区画だ。香料の臭いは薄いであろう」

アルフ「お?確かに。むしろ好きな臭いかも」

ベルタ「そう?汗臭い人が多い気がするんだけど」

ガルマ「ここは肉体美を競う区画のようだな」

丁度噴水の傍で、コンテストが行われていた。


司会「さぁ、もう飛び入り参加する人は居ないかな?賞品は最高級の大地の肉一年分だよ!」

大地の肉は、蛋白質を豊富に含む穀物である。脂質が少なく、肉体美を競う者達には欠かせない食品である。

ベルタの実家も栽培しており、ベルタにとっては主食でもある。

ベルタ「最高級か~、うちで作ってるのよりも美味しいのかな」

アルフ「しらねーけど、取れたてじゃないだろし、味は期待できないんじゃね」

ベルタ「そっかー、でも気になるな」

賞品の説明を読もうと、舞台に近づくベルタ。


司会「お~っと、かわいらしいお嬢さんの飛び入りだ~!」

突然、舞台上に抱き上げられて、混乱するベルタ。

司会「ではまずは着替えてきてくださいね~」

ベルタ「え?え?何?」

状況が理解出来ぬまま、更衣室に案内されるベルタ。


司会は熟練のプロである。数々のコンテストで目が肥えていた。

飛び入り参加者を探していた司会は、会場に来たベルタのスタイルを服の上から見抜き、気に留めていたのだ。

ベルタは明らかに一般の観客とは違う、筋肉の権化である。

司会がベルタを、コンテストへの参加希望者であろうと推測したのは当然と言えた。

司会はベルタに声をかけようとまでしていたのだが、傍らに立つ竜人に気付き、恐ろしくて躊躇していた。

そのベルタが一人で舞台に近づいてきた事で、飛び入り参加だと思いこんで、即座に舞台に上げたのだった。


更衣室でベルタは不安に思う。

どうしてアルフは来てくれないの?

もしかして、あっちでも何かあったの?


衣装係には、ベルタが戸惑っている事は見て取れた。

コンテスト参加者には、よくある事である。

緊張や不安で挙動がぎこちなくなる人は多いのだ。

まして子供なのだから、リラックスさせてやりたくなる。

緊張をほぐす為にも、ベルタに優しく話しかけながら、似合いそうな衣装を探していた。


衣装係「子供用なんてあったかな・・・体格は大人顔負けだし、これならいけるかな」

ベルタ「え?あたしがこれ着るんですか」


筋肉を魅せる為の衣装なので、生地は薄く露出は多い。柄や彩色は派手である。

辺境の小さな村育ちで、水着も着た事が無いベルタには、異様且つ魅力的な衣装に見えて興味が涌いた。

不安ではあるが、部屋には優しそうな衣装係の女性一人。危害を加えられそうな雰囲気では無い。

ベルタは、目の前の衣装を見ているうちに、着てみたいという気持ちが募り、好奇心が不安に勝った。


ベルタは衣装を着てみた。

軽くて動き易い割りに丈夫そうで、造りや装着感も気に入った。

さすがは大きな町ね、変わった服もあるわ。

普段着もこういうのにしようかな。

などと考える余裕も生まれた。


ベルタの不安が少し和らいだ事を鋭く察した衣装係。

衣装係も司会に並ぶ程に熟練のプロである。

ここだとばかりに機を逃さぬように、優しくベルタに声をかける。


衣装係「ぴったりね、よかった。舞台中央まで歩いていって、そこで格好良くポーズ決めてね」

ベルタ「ポーズ?」

衣装係は、うんうんと笑顔で頷くだけで具体的な説明はしない。

ベルタの肉体があまりに見事なので、コンテストに関する知識が無いとは思えなかったのだ。

困惑しつつも勧められるままに舞台に出るベルタ。


アルフ「ベルタがんばれぇえええええええ」

ベルタにアルフの声が届いた。

声の方向を見渡すと、アルフは舞台正面の観客席からベルタを見物しているではないか。

困っているベルタを見物しているだけのアルフを見て、怒りが涌くベルタ。


ベルタ「あんた何やってんのよ!」

アルフ「え?お、応援?」

応援したら怒られて混乱するアルフ。


ベルタ「あたし突然連れていかれたのよ?助けに来るくらいしなさいよ!」

アルフ「え、え~?」

ベルタは賞品が気になると言いながら舞台に向ったので、自主参加したのだとアルフは思っていた。


ベルタは、自分同様にアルフにも何かあって、追って来れない状況なのだろうと推測していた。

ところがアルフは、何事も無かったかのように、暢気に声援を送っているのである。

あたしが攫われても、居なくなっても、どうでもいいの!?

そう思うベルタに、かつて無い程の半端無い怒りがこみ上げて来た。


アルフに殴りかかるべく、全身に力を漲らせるベルタ。

舞台でポーズを決める事も忘れ、助走をつけてアルフめがけて大きくジャンプする。


突如観客が沸き立ち得点が伸びていく。歓声の大きさが得点になる仕組みのようだ。

司会「最っ高っ得点だ~~~!」

あまりの突然の声量に怯え、怒りを忘れて、しゃがみこむベルタ。アルフは命拾いした。


ベルタの肉体は、他のコンテスト参加者とは異なり、魅せる為に作られたものでは無い。

働く為に作られたものなので、筋肉を魅せるコンテストでは不利だ。

派手さが無く、徹底的に鍛え絞り込まれているので、魅力は低いのだ。

だが筋肉量が少ない訳では無い。

毎日大量に大地の肉を摂取し、力仕事を率先してきたので、仕事で使う部位ではむしろ人並外れて多いのだ。


観客が今まで観慣れてきたのは、全身バランス良く肥大化させた筋肉の静止ポーズである。

ベルタの筋肉バランスはまるで異質に見えた。

しかも子供である。

注目が集まった所で、想定外の大ジャンプ。

元々身体能力が高い事に加え、ガルマの加護で倍増された跳躍力。

拳を引き、エビのように上体を大きく反る柔軟さ。

力を漲らせ、はちきれんばかりに宙でパンプアップする、観た事も無いような見事な筋肉。

その躍動美は強烈且つ斬新で、観客は驚嘆し、思わず歓声をあげたのだった。


賞品の大地の肉一年分は、流石に持ち歩けないので、ベルタの家に送る事にした。

竜人に助けられたから安心して欲しいと手紙を添えて。

これが本当の「親を想う娘心」なのだが、ベルタに自覚は無い。


だがベルタの娘心は、親をさらに不安にさせていた。

竜人が人と旅するなど聞いた事も無いのだ。

それどころか俗説では、竜人は危険な場所に現れ、ただ人を粛清する者なのだ。


アルフ「しっかし、すげぇ声だったな」

ガルマ「うむ。あの瞬間皆には、ベルタが美の化身にでも見えたのであろうな」

アルフ「美?美しさってやつか。そうか、美しさってのは、鬼が降ってくるような見た目を意味するんだな」


アルフは意識を失った。

そのダメージは大きく、翌日に町の外に引きずり出されるまで、旅を再開する事は出来なかった。


一行が旅立った後、町では新たに躍動美コンテストが新設された。

きっかけとなった記念に、ベルタ賞が設けられたが、当のベルタには知る由も無かった。


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