竜に応える者
最初の進化など、分かり辛い部分を少し補足して改定しました。
アルフの先導で進む一行。
それはいつもの光景であった。
もうすっかり慣れてしまった、何気ない旅の日常。
突然アルフが、背を向けたまま静かに呟く。
アルフ「残念。ムリだったか」
ベルタ「アルフ?」
アルフが、全身から儚げな光を放ち、徐々に宙へ浮いていく。
ゆっくりと、まるで光に溶けるように、消えていくのが分かる。
アルフ「俺はな、お前が進化して、大願成就させる機会を与える為に、造られたらしいぜ」
ベルタ「え?え?」
アルフ「俺も今、天啓ってのが聞こえて知った所なんだけどさ。まぁ失敗って事らしい」
ベルタ「突然何言ってんのよ、あんた。全然分かんないわよ」
普段ならスルーするような突拍子も無い発言だが、アルフの尋常でない状態を見てベルタは慌てる。
アルフ「俺は未来で造られて現在に送られた。だから俺の記憶・・・というか過去は、未来にあるんだ。
過去と言っても、成長した状態で竜神様に造られたって事くらいだから、無いに等しいけどな」
理解は出来ない。だが目の前でアルフが消滅して行くのは事実だ。混乱しながらもベルタは問いかける。
ベルタ「あたしの進化に失敗?それでアルフが消えていくの?進化のチャンスなんて、これから幾らでも」
アルフ「あぁ、ここまで来ればベルタが進化する未来の可能性は幾つも出来てる」
ベルタ「だったら」
アルフ「でも大願を果たせる未来が無いんだ」
ベルタ「だから何で、それでアルフが消えていくのよ」
アルフ「言ったろ、俺は大願成就の為に造られたって。
大願成就の未来が生まれる可能性が消えれば、俺が造られた未来も消える。造られなかった事になる。
今までは可能性があったって事だが、もう時間切れなのかな?消えるって事は潰えたって事だろう」
ベルタ「そんな。あたしのせい?あたしが何かしたの?あたしが悪いの?」
アルフはもう手の届かない高さまで浮きあがり、風に流されるようにゆっくり離れていく。
アルフの言葉から事の経緯を理解するガルマ。
この旅は、ベルタに大願を成させる為のクエストであり、アルフはその案内役に過ぎなかったのだと。
だが、失敗?アルフが消える?それで良いのか?失敗と決まったのなら、我が助けても良いのではないのか?
これまで竜に連なる者には無かった、焦りの感情で葛藤するガルマ。
考えている間にもアルフは消えていく。一旦、未来からの干渉を止めてアルフを保護すべきか。
ガルマがそう考え、手を伸ばそうとした時、止める者が居た。
ガルマ「シ、シイタ?位相調査はどうした?何故今まで経過報告してこなかった?」
シイタ「調査結果については見ての通りだ。事を進める為には、お主に報せる事ができなかった」
ガルマ「なんだと?」
シイタ「お主が知れば、無意識にもベルタを助けてしまう。それが成長の機会を奪ってしまう」
ガルマ「なるほど。我が知ってしまった場合の未来も確認したからこそ、報せられなかった訳か」
シイタ「竜神に見えぬ物についても同様だ」
ガルマ「我の注意を、ベルタから逸らしながらも、旅に同行させる仕掛けという訳か」
シイタ「お主がベルタの素養を認める度に、邪魔しに介入すべきか悩まされたわ」
ガルマ「我が仕掛けを見抜けなかったからこそ、望みが繋がれたと言うのか。皮肉な話だ」
シイタ「そして今、この機会こそが、未来を変える唯一の微かな望み」
ガルマ「ここで手を出さねば成就するのか?」
シイタ「未だ、そのような未来は存在していない。創るとすれば、今ベルタが奇跡でも起こすしかなかろう」
竜神は原初より不朽不変の存在であり、唯一全ての位相に存在している。
未確定の無数の未来の中に、一つだけ大願に繋がり得る可能性が生まれた。
それがベルタである。
その未来において、ベルタは唯一、進化を遂げた人となった。
だが進化したベルタですら、竜の話相手となるには程遠く、大願成就する事は無かった。
元々大願成就の目処は全く存在していなかったので、ベルタの可能性を何とか活かしたいと竜神は考えた。
大願成就の未来が存在しないなら、新たな未来を創り出す必要がある。
そこで未来から現在に干渉する事で、本来は生じえない未来を創り出そうとした。
とは言え下手な真似をすれば、バタフライ効果で唯一の可能性も消えてしまいかねない。
最も注意すべきは、ベルタの進化を阻害せぬ事だ。
傀儡とならぬ進化をさせる為には、ベルタ自身の判断で行動させて、経験を積ませる必要がある。
実際、ベルタの進化する未来が一つしか無かった原因は、竜に連なる者がその可能性を見抜いていたからだ。
竜に連なる者が無意識にもベルタを保護してしまい、進化の芽が摘まれてしまう未来が殆どであった。
苦境を取り除かれてしまっては、自身の力で乗り越えてこそ得られる成長の機会を失ってしまうのである。
だからと言って、竜に連なる者とベルタの接触を断てば、ベルタが知識を得る機会をも奪ってしまう。
故にベルタの可能性を秘めたまま、事を進める必要があった。
そこで造られたのがアルフだった。
ベルタの興味を惹きそうな、無知で能天気な性格で造って間接的に旅に誘った。
天啓をベルタに使えば進化の阻害となる。
そこでアルフに天啓を使い、ベルタ自らの意思で同行を選択させるようにしたのだ。
無知で能天気な性格は、考えて判断させる機会をベルタに与えるのにも適している。
同時に「竜神に見えぬ物」を騙ってガルマの注意をアルフに惹きつけ、ベルタから目を逸らす役割も担った。
それでもガルマはベルタの可能性に何度も気付きかけ、シイタをはらはらさせていた。
アルフは、不安そうなベルタが気がかりなのか、笑顔を作って答える。
アルフ「俺は死ぬ訳じゃないから気にすんな。竜力に戻る。造られなかった事になるだけなんだろう」
ベルタ「ま、待ちなさいアルフ。あんた、突然過ぎるのよ」
少しづつ竜力に戻り、消えるのであろう未来へ還っていくアルフ。
あまりにも突然に訪れた、アルフとの別れに葛藤するベルタ。
あたし?あたしのせいでアルフは消えるの?あたしのせいじゃ・・・
いや、違う!
薄くなってゆくアルフの姿が、ベルタに迅速な決断を促す。
突然過ぎて、状況はよく理解出来ていない。
でもあたしのせいかどうかなんて悩んでる間にも、アルフが消えていくのは間違い無い。
そう自覚したベルタは、事実から目を逸らすのをやめた。
あたしのせいだ!アルフが造られたのも、消えてしまうのも、みんなあたしのせいだ。
アルフを助けるには、あたしが今、ここで、進化するしかない!
薄くなってゆくアルフを見据え、必ず助けると決意するベルタ。
記憶を手繰り、進化に必要であろう要素を纏め上げるベルタ。
今まで否定してきた、根拠の無い願望を捨て、事実をありのままに受け入れ、理解し、その先を見る。
ベルタ「ガルマさん、今なら分かるよ。そうね、愛は欲望の一面だ。あたしには欲望しかない。
それでもあたし達、人を見守り続けてくれた。あるかどうかも分からない未来の進化に期待して。
それはつまり、欲望で進化できる・・・いえ、してみせろって事よね!」
欲望の在り様を理解して、最後の進化の条件を満たすベルタ。
ベルタ「愚かさを否定するんじゃない、あたしは愚かなんだ。それを認めた上で、克服してみせる!」
ベルタに、業克精への進化が始まる。
だがそれとは別に、さらに成長を続けるベルタ。
ベルタ「アルフは言った。進化だけなら他の未来もあるって。つまり、大願成就にはまだその先が要る」
ベルタは自分に足りないもの、その根源となる欲望を模索し、強化を試みる。
ベルタ「ガルマさんは、あたしの欲望が傾いていると言っていた。つまりあたしには弱い欲望がある」
ベルタは考える。自分と他人の違い。滅ぼされた人々と守られている自分達との違い。その欲望の違い。
ベルタ「だめ、絶対にアルフは行かせない」
決して諦めぬ意志:不屈が強化される。
ベルタ「あたしの欲望は、この程度じゃない」
際限無く求める意志:渇望が強化される。
ベルタ「例え、例え竜神様に抗ってでもアルフは護る!」
竜にすら抗う意志:抗竜が強化される。
欲望の種類は多いが、概ね、和を求める欲望と我を求める欲望で対を成している。
ベルタは元々、和を求める欲望である赦し・恵み・調和の維持が強かった。
今、我を求める欲望である不屈・渇望・抗竜を高める事で、欲望のバランスを保って全体の傾きが補正された。
欲望は活動の根源である。
如何に生命力に満ちていても、生きたいという欲望すら無ければ、生ける屍となる。
欲望の強さと安定は、あらゆる能力の根幹に影響するのだ。
自らの欲望を認めて強化し、バランスをも保ったベルタは、能力を限界まで引き出す下地を作り出した。
常に冷静さを維持しながらも、大胆に考え、即座に決断し、全力で行動する事が可能になったのだ。
その過程で、並行して進んでいた業克精への進化も難無く終える。
ベルタがあまりに簡単にこなした為、あっけなく見えるが、過去にも未来にも他者には無い偉業である。
アルフ「ベルタ、やっぱりすげぇ」
喜び、称えながらも、アルフの消失の進行は止まらない。
ベルタ「まだよ!」
アルフ「え」
アルフへ向って走り出すベルタ。
ベルタ「分かってるんでしょ。もう隠さなくていいのよ。あたしは気付いたのだから」
アルフ「ベルタ、まさか」
ベルタ「これで終わりじゃない。あたしが行かなきゃいけない旅の到達地点は、もっと先にある」
アルフ「うん」
ベルタ「そしてあんたがまだ消えきって無いという事は、消えかけた可能性がまだ残ってる」
アルフ「そうだ!」
ベルタ「だからアルフ」
アルフ「おぉ!」
ベルタ「あたしに」
アルフがベルタの方へ手を伸ばす。
ベルタ「あたしに力を貸せぇええええ!!!」
凄まじい跳躍力でアルフ目掛けてジャンプするベルタ。
アルフ「まかせろ!」
消えかけたアルフの手をベルタが握る。
業克精に進化した瞬間、ベルタには今の状況を概ね理解する事が出来ていた。
天啓の意味、アルフが消えるまま抵抗しない訳、自分がこれから為すべき事。
進化直後に、ベルタがアルフに向って走り出したのは、可能性が見えたからだ。
存在しない未来を新たに作り出すには、本来は現在に存在しない要素である、アルフが鍵となる。
だがアルフ自身でどうにか出来るものではないのだろう。
出来るのであれば、天啓を受けたアルフであれば、自分で何とかしている筈だからだ。
それでもアルフは、あたしに何も求めてこない。
完全に可能性が消えているなら、アルフも完全に消滅しているだろうから、まだ手は残っている筈なのに。
それはつまり、あたしが自分の意思で気付いて決めなければ、未来は変わらないという事なのだろう。
だったら簡単な話だ。アルフがあたしの為に造られたのなら、あたしならアルフという鍵を使える筈だ。
その鍵の使い方は、アルフが竜力で出来ているという事から考えれば・・・
瞬時に竜力と化し、光の帯のようになるアルフ。それを羽衣のように纏うベルタ。
ベルタ「あたしに足りないのは、竜の力、竜の知識」
アルフを自身に受け入れようとするベルタ。
ベルタ「それは如何に人が進化しても到達しえぬ領域」
ベルタに同化を始めるアルフ。
ベルタ「ならば借りればいい、受け継げばいい、竜そのものから」
アルフを媒介として、竜神と繋がるベルタ。
ベルタ「大願は竜の望み。だったら貸してくれるわよね竜神様!」
アルフを介して凄まじい勢いでベルタに竜力が注がれる。
流入する無限の竜力で崩壊しそうになるベルタを、竜力である自身を削りながら護るアルフ。
ベルタ「ぐ・・・同じ竜力のアルフでも削れられていく。ガルマさんが調整に苦心する訳だわ」
ベルタは思い出す。ガルマが竜力を生命力として、肉体を操る事があると話していた事を。
ベルタ「人の進化系であるあたしに竜の力は直接扱えない。なら、換えればいいだけのこと!」
ベルタの発想にアルフが応じる。
流入する無限の竜力を片端から生命力へ換えていく。
だが全て受け取れば、如何に生命力に換えられたとは言え、膨大すぎて崩壊する事に変わりは無い。
ベルタ「突然過ぎて後手になっちゃったけど、忘れてはいませんよ。護りを第一に考えるのですよね」
崩壊を防ぐには力を受け入れる器を用意する必要がある。だが造り方を考えている時間が無い。
ベルタ「多過ぎるなら減らせばいい。換えた力をぶつければ相殺できる筈!」
ベルタは生命力に換えた力を、流入する竜力の奔流にぶつける。
相殺には成功した。が、かなり無謀であった。
一歩間違えれば反発してふっとぶ所だったが、竜神も介入して対消滅になるように仕向けられたのだ。
ぶつける量を調整する事で、ベルタは流入する力を溢れさせずに使い放題となった。
だが今もアルフの消失の進行は止まっていない。時間が無い事には変わりない。
ベルタ「アルフが消える前に終わらせる。到達してみせる」
とは言え現状は未知の状況なんてレベルではない。
このまま対策を考えても、あまりに情報不足で間に合う訳が無い。
だが欲望を強く安定させた今のベルタは、この程度で焦って取り乱したりはしない。
自分に無いなら助けてもらえばいい。利用出来るなら何であろうと利用すべきだ。
ベルタ「知識ならあるじゃない、目の前に。ねぇ竜神様!」
ベルタはアルフを介して竜神に知識を求める。
竜神が応じ、知識はすぐに必要になるであろうものから順に整理されて提示された。
ベルタ「大丈夫、竜神様も助けてくれてる。やれない訳が無い」
得られた知識と換えた力で、ベルタは自らの再構築の準備を始める。
だが竜の知識にも、さらなる進化の条件は見つからない。
一瞬途惑うベルタ。
ベルタ「条件が無い?そりゃそうよね、竜神様が創れない未知の存在なんだから」
だがすぐにベルタは笑う。
ベルタ「上等じゃない。無いなら創れってんでしょ。もう分かってるわよ!」
条件を整える事で発生する受動的進化では無く、自らの意志で発生させる能動的進化。
そんなものは存在しない。
ベルタが新たに創りだすのだ。
まずは無限に流入する竜力を受け入れる必要がある。
相殺は時間稼ぎの一時凌ぎでしかないのだ。
借りた竜の知識と力を活用してどうにかするしかない。
ベルタは自身の意思と力と肉体を分離して独立させた。
ガルマのように分けておかないと、膨張した自分の力で世界を呑み込んで崩壊させかねないからだ。
力の器は竜神の傍らに造る。常に傍に在る事は竜神の望みでもあるからだ。
溢れそうになる力そのものを凝縮して壁とし、その壁を造りだし続ける事で、無限に拡張する器とする。
それは自らを不朽の存在へと変える事でもあり、完全且つ恒久的に崩壊を防ぐ事に成功した。
次にアルフだ。
竜力変換の仕組みを新たに造って竜神と繋ぎ、アルフを役割から解放して休ませる。
ベルタに同化したアルフの竜力を、換えた力と置換し、既に消えた竜力分も補充する。
これで未来からのアルフへの干渉を防ぎ、消失を免れる事が出来た。
間に合ったのだ。時間的制約からは解放された。
後は知識だ。膨大過ぎる知識を全て脳で受け継ぐのは難しい。
ガルマは普段は肉体を使っていないと言っていた事を思い出す。
知識は力として蓄える事が出来たのだ。
為すべき課題は全てクリアされた。
ベルタ「借りるだけじゃ不完全よね。借りたものは返して、これでおしまい!」
ベルタは、流入を続ける竜力の奔流を止めるのでは無く、換えた力を竜力に戻して竜神に循環させる。
大願は成就した。
竜神とは独立しながらも、竜神と繋がりを持ち、竜神に抗い得る者が誕生した瞬間である。
ベルタは自らの機転で「竜に応える者」竜結姫に進化したのだ。
ガルマの目の前に降臨するベルタ。
ベルタ「ふぅ」
ガルマ「こ、これは・・・ベルタは我に並ぶ力まで得たと言うのか!?ありえぬ。だがこれは現実・・・」
驚愕するガルマの前で、ベルタはクスクスと笑う。
ベルタ「ふふふ、ガルマさんらしくないですよ」
ガルマ「ぬ?」
ベルタ「よく力の根源をご覧ください」
ガルマ「・・・竜力か」
ベルタ「はい。あたしは竜神様の力をお借りしているだけです」
ガルマ「変換しながら循環を続けておるのだな」
ベルタ「共に在り続けたいとの、竜神様のお気持ちに応えました。循環は維持しています」
ガルマ「見事であったぞ。実に。お主は、この一瞬で、どれだけの奇跡を起こし続けたのいうのか・・・」
ベルタ「大願は竜の望み。竜神様を始めとする全てがあたしに味方してくれたお陰です」
ガルマ「我は呆然と見ているしか無かった。許せ」
ベルタ「何を言われますか。殆どはガルマさんから頂いた知識のお陰ですよ。本当にありがとうございます」
ベルタは軽く一礼して微笑む。
ベルタ「ところで如何ですか?つっこみを受けたお気持ちは」
ガルマ「ぬ?おぉ、同等レベルの種でのみ可能な言葉の干渉、つっこみか。悪く無い、いや素晴らしいぞ」
ベルタ「もう一方的に言いくるめられたりはしませんから、覚悟しておいてくださいね」
ガルマ「舌戦というやつだな。楽しみだ」
ベルタ「本当は、旅をしている間にも、つっこめる機会はあったのですがね」
ガルマ「なに?それは本当か。どこだ」
ベルタはまたクスクスと笑う。
ベルタ「もちろん教えてあげますよ。そのようなお話を楽しむ為に私達は導かれたのですから。
これから永遠の時を共に過ごすのです。ゆっくりとお話しましょう。
ですが、その前に少々為すべき事があります」
ベルタは竜神に向って一礼する。
物理的な方向では無いので、傍目には何も無い所への一礼に見える。
ベルタ「永劫とも言える永き間、大変お待たせいたしました。竜神様」
竜神の知識を受け継いだベルタは、如何に永い間、竜神がベルタを待っていたのかを理解していた。
最初に世界を創った時からずっと待ち続けていたのだ。
竜神「よくぞ我が元まで辿り着いてくれました。今、貴方が見せた奇跡は、我の期待を遥かに超えていました」
ベルタ「ありがとうございます。早速ですが、愚かなる人から進化した故の戯れをご覧にいれます」
ベルタは、ベルタに同化しているアルフを、目の前に顕現させる。
アルフ「ん・・・ゴ・・・リラ?」
ベルタ「おはようアルフ」
アルフ「ベルタ?あれ、何で俺、顕現してんの?」
ベルタの為す様を見ていた竜神が問う。
竜神「既に目的を達し終えたアルフを、何故顕現させるのですか?」
ベルタ「克服した愚かさの一つ、後悔を使いました。
アルフは私の進化の為に造られましたが、私はアルフを助ける為に進化を選びました。
アルフの意思が消えてしまっては後悔が残ります」
竜神「貴方は愚かさを克服している。なのに何故?」
ベルタ「愚かさが過ちを生み出します。ですが、愚かであるからこそ生まれる喜びもあるのです。
人であった私から、竜神様に進言できる最初の意見。それが愚かさの価値であると考えます」
竜神「長い間、愚かさには辟易していたのだけど、それが我の望みの一端であったとはね」
ベルタ「勿論、懸念なされる通り、度を越しては害にしかなりませぬが」
ベルタは優しい目線でアルフを指して続ける。
ベルタ「人を経た者として申し上げると、バカな子ほどかわいいという言葉もございます」
竜神「なれば、人という種を全て進化させてしまうのは、好ましく無いかもしれませんね」
ベルタ「おっしゃる通りだと思います。愚かさが度を越さぬよう、枷となる術は必要かもしれませぬ」
竜神「分かりました。我が大願は果たされました。それを維持する上で必要な措置という事ですね」
ベルタ「彼らの未来が、竜神様を楽しませる事を確信しております」
竜神「そうね。貴方を生み出したのは彼ら。信じますとも」
竜結姫の誕生により大願は成就した。
それは既存の世界の存在意義の消滅をも意味していた。
本来なら全て無に還される所であったが、ベルタによる愚の価値の進言により、世界は維持される事になった。
ベルタがアルフの方を向いて話しかける。
ベルタ「さぁアルフ」
アルフ「おぉ!」
ベルタ「今日が貴方の命日よ」
アルフ「おぉ?」
にっこりと笑って応えるベルタ。
ベルタの笑顔の意味を、恐怖と共に思い出すアルフ。
何かの間違いである事を願いつつ問い直す。
アルフ「め、命日?再生の日とか、顕現の日と言うべきじゃね?」
ベルタ「さっき目覚めた時の貴方の言葉、覚えてるわよね」
笑顔の真意を確信して慌てるアルフ。
アルフ「ちょ、ちょっと待て。俺、顕現したばかりなんだろ」
ベルタ「何を慌ててるの?そんなに怖がる事は無いでしょ」
アルフ「え?でも命日って・・・」
ベルタ「心配しないで。今のあたしならすぐに貴方を造り直せるから大丈夫よ」
アルフ「いや、だから、その笑顔やめて」
ベルタ「これから、永遠の時の中で、何度でも逝かせてあげるからね」
アルフ「うっそだろ~」
猛ダッシュで逃げるアルフ。だがその顔は笑っていた。
アルフ一行の旅は、全員無事に目的を達成して終わったのだ。
ベルタは竜神の方へ向き直す。
ベルタ「もう一つ、愚かな行為をお赦し下さい」
ベルタは過去の位相から、進化する直前の人であったベルタを複製し、その後の経緯と為すべき事を教える。
竜神「それは?」
ベルタ「愚かさの一つ、未練でございます」
ベルタは、人であるベルタを、生まれ育った村へ向わせる。
ベルタ「これからのあの子の生き様は、竜神様をも楽しませてくれるとお約束します」
竜神「ふふ。当人のお墨付きなら期待するしかないわね」
人の世界でも竜結姫の誕生は広く知られる事になった。
だが伝聞で、流血鬼という呼称に変わって知れ渡っていた。様々な妄想の武勇伝と共に。
ベルタの噂であるが故の、いつものご愛嬌といえよう。
畑を耕すベルタの親父に、駆け寄るベルタ。人である方のベルタだ。
ベルタ「親父~!」
ベルタの親父「ベ、ベルタ!」
ベルタがベルタの親父に飛びついて一緒に倒れこむ。
ベルタ「ただいま!」
ベルタの親父「よくぞ無事で。たくましくなったな。アルフの記憶は戻せたのか」
ベルタ「アルフなら大丈夫だよ。もう村には戻れないだろうけどね」
ベルタの親父「そうか。無事ならいいさ」
ベルタ「竜人様と旅してたんだよ」
ベルタの親父「あぁ手紙は読んだぞ。安心しろと書いてたが絶望しかけたぞ」
ベルタ「話す事一杯あるよ。今度、親父も連れて行きたい」
ベルタの親父「良い経験を積んできたようだな。ゆっくり聞かせてもらうよ」
ベルタの親父は立ち上がり、ベルタを抱き上げようとする。
だが、重すぎて持ち上がらなかった。
ベルタは立ち上がり、片手でベルタの父親を担ぎ上げ、家に向って歩き出す。
ベルタの父親「え・・・俺の娘こんなだっけ・・・」
ベルタ「あたしの成長、こんなもんじゃないわよ!」
ベルタの父親「成長と言えば、ちょいと納屋へ寄ってくれ」
ベルタ「ほい」
納屋に着くと荷物が溢れ出した状態だった。
ベルタ「何よこれ。要らない物は捨てなさいよ」
ベルタの親父「いや、それがな。お前宛に送られて来たもんなんだよ」
ベルタ「は?」
荷を見ると、ベルタのファンを名乗る人からの贈り物やらお礼の品やら献上品?なる怪しい品目まで。
確かにベルタ宛ではある。
ベルタの親父「処分して良いか分からないし、納屋は溢れちまったし、困ってたんだわ」
ベルタ「こ、こんなの、あたしは知らないわよ」
ベルタの親父「いや、だってほら、ちゃんとお前宛だし。旅で色々あったんだろ?」
ベルタ「色々あったけど、あたしが英雄て何よ?モデル?デストロイヤー?身に覚えが無いわよ」
ベルタの親父「へ?だが、お前が何とかするしか無いんじゃねぇか?」
山のように詰まれた荷を見上げ、うんざりして叫ぶベルタ。
ベルタ「えー。こんなの、あたしのせいじゃなーい!」
本編は、シナリオにあまり影響しない旅の話をのんびり追加する予定ですが、とりあえず完結です。




