おまけ:光を運ぶ風
美しい森を進むアルフ一行。
動物の気配は多いが、襲って来るような獣の気配は無い。
青々とした瑞々しい植物がこれでもかと言わぬばかりに茂っている。
アルフ「しっかし此処は雲の上だろ。なら雨も降らないよな。よく森を維持出来ているな」
ガルマ「自然を魔法で管理しておる」
大陸全土の地熱を保ったり湿度を保ったり、自然の営みの多くを魔法で補助しているのだ。
アルフ「大陸を丸ごと恒久的にかよ。浮かせているだけじゃ無いんだな。物凄い魔力だ」
ガルマ「シルフの眷属であるエルフの力の根源は風。風を阻む物の無い天空に於いては無尽蔵に近い」
アルフ「おー。魔力で浮かせる事が魔力の供給にも繋がっているのか」
ベルタ「シルフ様の領域ってそういう事だったのか。ノーム様から距離を取る事以外にも熟考した結果なのね」
つまりここに居るエルフは最も力を漲らせた状態に在ると言う事だ。
アルフ「そういやエルフは人よりも強いと感じるのか」
ベルタ「微妙にはね」
アルフ「あれでも微妙なのか」
エルフの狩人の姿を目で捉える事すらアルフには出来ていない。
まさにエルフは文字通り雲の上の存在だった。
ベルタ「困っちゃうわよね。自分より凄い方々が弱く見えちゃうなんて」
無意識に失礼な態度をとってしまいそうで不安になるベルタ。
アルフ「誰にでも平等に接したいと思うんだろ。だったら皆が同じ程度に見える事は丁度良いんじゃねぇの」
ベルタ「あんたは本当にポジティブでいいわね」
確かに皆が同じに見えるのであれば良いのかも知れない。
だが自分よりは遥かに弱く見えてしまう事が問題なのだ。
アルフ「逆にみんなが強く見えたらお前が怯えるだけだろ」
ベルタ「う。それも無論困るけど」
アルフ「弱い者虐めが好きな奴ならやばいけどさ。お前は優しく接しようとするから問題は無いと思うな」
ベルタ「そうだといいんだけどねぇ」
塔で化け物に対してとった態度が気になって仕方がないベルタ。
あれが自分の本性なのだろうなと思うと哀しくなる。
今まで以上に怒りを抑えることが重要になったと認識する。
森の中に妙な装置が見えた。
一風変わったトランポリンという雰囲気か。
アルフ「何だありゃ」
ガルマ「エルフの遊具だな。乗った者を空中に撃ち出す」
アルフ「おぉ。何か面白そうだな。とりゃ」
すかさず遊具に飛び込むアルフ。
撃ち出されたアルフは空中に設置された花のようなクッションに当たっては弾き飛ばされる。
近場で狩りをしていたエルフが、優雅に宙を舞う(実際には弾き飛ばされ続けている)アルフに気付く。
姿を消して気配を殺しながら遊具の近くに転移した後、アルフ一行の様子を伺う。
ベルタ「・・・大丈夫なんですか。あれ」
待っていてもアルフが降りてくる様子は無いのだ。
ガルマ「転移や飛翔魔法で抜けられる者用の遊具だ」
否定も肯定もせずに遊具の説明をするガルマ。
ベルタ「なるほど・・・」
あまりに平然とガルマが答えるので大丈夫なのかなと錯覚しかけるベルタ。
ベルタ「って。ダメじゃないですか。マアマさんお願い」
マアマ「どかーん」
ベルタがマアマを振ると、ふらふらになったアルフが目の前に現れて倒れこむ。
ベルタ「ちょっと。大丈夫?」
アルフ「俺は大丈夫だが世界が回っているぜ。お。収まったか」
脳が揺さぶられて平衡感覚を失っていたアルフだがティアラの光のお陰ですぐに回復する。
ベルタ「飛び込む前にどんな遊具かくらいは確認しなさいよね」
アルフ「いや遊具って聞いたら普通は飛び込むだろ」
遊具へ飛び込んだ選択に後悔は無いと胸を張るアルフ。
問題があるのは遊具の方だと言い張るつもりだ。
ベルタ「少しは警戒しなさいよ。人の国じゃ無いんだから。精霊さんがあたしを止めていた訳だわ」
アルフ「だったら先に言えよ」
飛び込むのを止めるどころか、撃ち出されてからもしばらくの間ベルタは見物していたのである。
ベルタ「アルフには勧めていたのよ」
アルフ「ひっでぇな」
精霊がアルフを嫌っていた訳では無い。
ベルタに見せるのには丁度良いし、アルフ当人が試したいのであれば止めるほどでも無いとみなしていたのだ。
ベルタ「でも遊具はこれだけ? 遊技場って訳ではないのかな」
森の中にポツンと一つだけ置かれた遊具はあまりに不自然だった。
ガルマ「遊具に適した地形に散在しておるな」
ベルタ「・・・そっか。転移魔法で移動するから一箇所にまとめる必要は無いんだ」
移動距離の問題が無いなら遊具の特性を最大限に発揮できる地形に設置した方が良いのだ。
突然アルフの方を向いたベルタが神妙な顔つきで問う。
ベルタ「あのぉ。どちらさまでしょうか」
アルフ「へ」
アルフは驚いてベルタの目を見るが冗談を言っているようには見えない。
ベルタ「何か御用でしょうか」
アルフ「・・・何を言っているんだ」
精霊でも居るのかと思ったが、精霊に対して掛ける言葉にしてはおかしいと思い不安になるアルフ。
ベルタ「突然近づかれると、ちょっと怖いのですが」
アルフ「ベルタ? まさかお前も記憶が消えたのか? こんな突然?」
今まで一緒に居たアルフを見間違えるなどありえない。
アルフと同じように記憶を失ってしまったのでは無いかと慌てる。
ベルタ「違うわよ。アルフを間近で観察しているお姉さんが居るのよ」
アルフとベルタの間に姿を現すエルフ。
エルフ「あはは。悪い悪い。人の子を見かけるなんて久しぶりでさ。可愛くて見にきちゃった」
アルフ「うぉ。姿を消せるのか」
突然目と鼻の先に美女の顔が現れて怯むアルフ。
エルフ「うんうん。まさか見つかっちゃうなんてね。あははは」
エルフは謝りながらも楽しそうだ。
ベルタ「脅かさないで下さいよ。邪気が無くても無言で近づかれては警戒せざるを得ません」
エルフ「旅の邪魔をしても悪いと思ってさ。ちょっと見たらすぐに帰ろうと思っていたのよ。ね」
軽い調子ではあるがエルフの説明が事実であると察してベルタは一息付く。
邪気が無い上に筋の通った言動だからだ。
コーッ!
雷光が見えたと思った直後に鶏の鳴くような声が響き渡る。
だが鶏にしてはとんでもなく大きな声だ。
アルフ「どわ。なんちゅう大声の鶏だ。ん? 雲が無いのに雷が見えるぞ」
声の発生源を探すと遠くの空に雷のような光が佇んでいた。
エルフ「あれは不死鳥だね」
エルフにとってはいつもの事のようで平然と答える。
アルフ「死なない鳥なんて居るのか。と言うか鳥なのか。雷が溜まっているようにしか見えねぇ」
説明されても鳥どころか生物にすら見えない。
ティアラの光のような優しい光では無く、雷の如く眩しく放射される光だけが見える。
エルフ「うるさいし眩しいよね。あはははは」
難点を挙げながらもアルフの反応を楽しむようなエルフ。
アルフ「笑い事なのかよ。エルフなら不死相手でも魔法で何とかならねぇのか。鳥なら食えるんじゃねぇの」
慣れで何とかなるとは思えない程の凄まじい声なのだ。
それが突然響き渡るのだから傍迷惑と言う他は無い。
倒せずとも捕らえて声を抑える事くらいは出来そうなものだ。
エルフ「ムリムリ。どんな魔法も矢もかすりもしないよ」
ニタニタ笑いながらアルフを見つめて答えるエルフ。
アルフ「何だそりゃ。霊の類って事か」
ベルタ「・・・とんでもなく大きくて強いし金色の身体をしているけど・・・鶏みたいよ」
不死鳥を探っていたベルタの最後の一言に、つっこまざるを得ないアルフ。
アルフ「まて。魔法も矢も当たらなくて雷みたいに光っていて死なないんだぞ」
ベルタ「うん。聞いていたわよ。あたしには雷と言うよりも太陽に近いと感じるけど」
アルフ「いやいやいや。それを鶏と呼ぶのはおかしいだろって話。俺も最初は声で鶏だと思ったけどさ」
ベルタ「ねぇ。確かに鶏とは呼び難い能力なんだけど。ガーゴ様の知覚だと鶏なのよね」
鶏の定義が違うのでは無いかと思わざるを得ないアルフ。
だがガーゴが知覚した通り、不死鳥の正体はまさに鶏であった。
絶句するアルフにネタを提供するかのように話しかけるエルフ。
エルフ「ある武器があれば殺せるらしいけどね」
アルフ「不死でも殺せる武器って」
マアマの事も一般のエルフにまで知られているのかと察するアルフ。
エルフ「手に入れるにはあいつの尻尾が要るんだってさ。あははは」
マアマの事では無かった。
しかし鶏が先か卵が先かの話のようなおかしな条件だ。
アルフ「その武器で殺せるかどうかをどうやって確認したんだよ。矛盾していねぇか」
エルフ「ただの言い伝えだからねぇ。尻尾をどうすれば良いのかも分かんないし」
分からないと言いながらも全く困った様子は無くやはりニタニタしているエルフ。
よほどアルフの反応が可愛く見えるのか。
アルフ「手の打ちようがねぇのか。少しは悩めよと思うけどな」
エルフ「役にも立っているからね。狩ろうと思うほどでもないのよ」
アルフの頭を撫でながら狩る意志が無い事を説明するエルフ。
アルフ「おぉ。ありがたい存在なのか」
エルフ「あいつのお陰で夜でも明るいだろ。おまけに邪霊を祓ってくれる光なんだ」
不死鳥が放つ光は浮遊大陸の地表全土を照らし、その光は邪霊を尽く祓っていた。
ベルタ「邪な者の進入を転移紋で阻んでいても邪霊は居るのですね」
エルフ「居るねぇ。どっから湧いてくるんだろうね。あはははは」
今度はベルタを見て笑うエルフ。
何千年も昔に自分も感じていた疑問なのだ。
遥か昔を思い出させる子供達の疑問を可愛くも懐かしく感じていた。
アルフ「明るい姉ちゃんだな」
エルフ「そっか? 最初の百年も生きれば大抵の事には遭遇して慣れちまうからかな」
悩むような事は悩みつくして疾うに久しいのだ。
アルフ「邪霊の元を断とうとかは思わないのか」
エルフ「あたいは神様じゃないからねぇ。邪霊を全て祓うなんて出来ないよ。あんたらに任せよう! あはは」
冗談めかして笑うと、アルフ一行の足を止めてしまっていた事に気付いて笑いを抑えるエルフ。
任せるも何も旅の邪魔をしてしまっているのだと。
エルフ「結局随分と旅の邪魔をしちゃったわね。あんた達はどこへ行く気なの」
アルフ「急ぎじゃないから気にすんな。あっちから呼ばれているんだ。あっちに何があるかは知らねぇけどな」
エルフ「おっけー。遅れた分はお姉さんが埋めてあげよう」
エルフが一回転してポーズを決めるとアルフ一行の身体が浮き上がる。
アルフ「うぉ」
ベルタ「きゃ。何」
エルフ「転移しないって事は散策もしたいって事でしょ。だったら飛んで行くのが楽よ」
緩やかな風に載せられた様相でふわふわと運ばれるアルフ一行。
アルフ「おー。なんかこんな遊具の話もあったな」
くるくると回転しながら空を移動する一行。
飛んでいると言うよりも明らかに飛ばされている姿勢だ。
ベルタ「あれは浮いたりはしないわよー」
アルフが言っているのは地上で回転移動する遊具の事であろうと察するベルタ。
似ても似つかないと言わざるを得ない。
エルフ「中空で回転しながら景色を見た方が分かり易いだろ」
動かずとも周囲を見渡せるのは楽かもしれない。
優雅に回って見えるが移動速度は上がっていく。
アルフ「絶景ではあるな」
ベルタ「楽しいけど落ち着かないわね」
ガルマも一緒に飛ばされてクルクルと回っている。
何事でも無いかのように平然としたままである事がかえって滑稽に見える。
アルフ「・・・ガルマさんをも飛ばしているのか。竜人様が怖くはねぇのか」
エルフ「へ? 飛ばされるのが嫌なら魔法を無効化するだけでしょ。怖がる要素なんて何も無いわよ」
アルフの疑問を疑問に感じて答えるエルフ。
アルフ「へぇ~。王や皇太子だけじゃなくてエルフ全てが賢い感じなのかな」
エルフ「そんな大層な事かい? 神様が狭量ならこんな世界はとっくに滅んじゃってるわよ。あはははは」
アルフ「そりゃそうだな」
エルフが賢いと言うよりも人が愚かなのだ。
あまりにも当然の簡単な事を理解出来ないのが人なのだ。
エルフ「そろそろ降ろすわよ」
数分の間に10kmほど進んでいた。
エルフ「ここは歩いた方がいいと思うわ。なるべく静かにね。それじゃ楽しい旅を~」
キスを投げてから後方に跳躍して去るエルフ。
軽く跳躍しただけに見えたがあっと言う間に視界外へと消えた。
アルフ「おぉ。サンキュ」
ベルタ「あ。どうもありがとうございました」
すぐに答えたつもりだが礼の言葉が届いたとは思えない。
去り行く動きはまさに羽の生えた妖精を彷彿させた。
降ろされた場所は森を抜けた野原だった。
ベルタ「慌しい方だったわね。性格も風なのかしら」
風のように現れて風のように去って行くという比喩のままであった。
性格にも風の如き気持ち良さを感じていた。
アルフ「むしろみんなあんな感じになれたら良い世界になると思うけどな」
ベルタ「否定はしないけど落ち着きそうに無いわね」
ベルタも好感を持ってはいたが皇太子のように静かな風を感じさせる方が接し易いと思えた。
ベルタ「そういえば静かに歩いた方が良いって言っていたわよね。言動に似合っていなかったのが気になるわ」
アルフ「何か居るって事か」
周囲を見渡すと野原が広がっている。
草むらの中を観察してみるアルフ。
アルフ「お? 光る虫? 虫除けの魔アイテムが効いていないのか」
ベルタ「きゃー。虫じゃないわよ。妖精さんよ。すんごく一杯居る! すっごーい」
無数の小さな存在にベルタは気付いていたが、少し変わった精霊であろうと認識していた。
アルフに言われて視認してようやく妖精だと気付く。
アルフ「鉱山で見た奴よりもさらに小さいのか。不死鳥と言いコイツらと言い此処では光る事が流行りなのか」
生えている草によじ登って手を振ったりしている妖精。
人に見られる事を拒まない種だ。
ベルタ「やっぱり妖精さんは可愛い過ぎる~」
妖精の前に指を差し出してみるベルタ。
そこに風が吹いて妖精が一斉に舞い上がる。
まさに無数、万という単位では到底きかない数の妖精が見渡す限りの範囲で飛んでいるように見える。
アルフ「おぉ。これは綺麗だ。俺にも見える妖精でよかったぜ。安全な火の粉が舞っているみたいだな」
花より団子のアルフですら見惚れる雄大な美しさだった。
ベルタ「ス、ステキだけど妖精さんは大丈夫なの。吹き飛ばされているのよ」
ベルタも無論感激してはいるが、指先の妖精が舞い上がる様子を目の当たりにしていて不安を拭えない。
ガルマ「風の妖精だ。風に乗って種子や花粉など色々な物を運びよる」
アルフ「やっている事はやっぱ虫みてぇだな」
鉱山の妖精よりも遥かに此処の妖精は小さい。
能力は大きさに比例するのかと察するアルフ。
ガルマ「似たようなものだ。集まれば竜巻を起こしたりもする」
アルフ「いや。それ全然似てねぇから」
自分の感想を否定せざるをえないアルフ。
個々の力は小さくても、やはり能力としては特殊なのだ。
ベルタ「日も落ちてきたし今日はここに泊まりましょうか」
今が朝でも泊まろうと言い出しそうな顔つきのベルタ。
アルフ「おぉ。妖精も食事の場所とかを教えてくれるのか、ってここが良い場所か」
ベルタ「食事にも寝るにも、うってつけよね。さすがに風の妖精さんだけあってシルフ様を感じさせる風だわ」
あまりにも心地よい風に身を委ねる。
アルフ「歩いた方がいいって、こういう事か」
ベルタ「ここを飛んで過ごしちゃうなんて確かにありえないわね。流石によく分かっているわ」
エルフの意図を理解して満足する。
転移せずに歩く訳は、こういう機会を逃さぬ為であろうと察してくれたのだ。
アルフ「そういえば此処で狩るのは初めてだよな。獣も襲ってこなかったけど食う物はあるのか」
ベルタ「エルフの皆さんが狩っていたのと同じ動植物にしてみましょうか。マアマさんお願いします」
マアマ「どかーん」
ベルタがマアマを振ると焼肉と木の実が現れる。
アルフ「サンキュ。さてとお味は・・・うーん。やっぱそうか」
ベルタ「どうしたの。美味しくない?」
マアマの料理にしては珍しく微妙な反応をみせるアルフ。
アルフ「いや。マアマの料理だし無論凄く美味い。ただ地上に比べると素材の味が薄いというか微妙だな」
ベルタ「あんた料理の評論家みたいね」
美味しければいいじゃないとベルタは呆れる。
アルフ「魔法で肥やしていると言ってもノーム様の恩恵が遠過ぎるのかな」
ベルタ「エルフの魔法が幾ら凄いと言ってもノーム様との直接比較はさすがにね。不満なら地上のを狩る?」
天空に在る浮遊大陸にもノームの力は届く。
だがその恩恵は著しく弱まり、作物の旨みも損なわれていた。
アルフ「いや。これはこれで珍味としては有りだ。未知の味に遭遇するかもしれないしな」
地上には劣ると言うだけで十分に美味いのだ。
数々の珍味に遭遇して感動してきたアルフとしては未知の大陸の未知の味への期待は捨て難い。
漂う妖精を眺めながら食事していたベルタが微妙な変化に気付く。
ベルタ「なんか妖精さん達の光が弱ってきたわね」
アルフ「寿命が短いのか」
アルフも注意して観察してみるが妖精は相変わらず元気そうに、はしゃいでいる。
ベルタ「明るさ以外に変化は無さそうに見えるんだけどなぁ」
アルフの懸念はベルタにもあるが、ガーゴの知覚では妖精の強さに変化は無いのだ。
コーッ!
まさに大気の震える声が轟く。
声の皮を被った衝撃波と呼ぶべきであろう。
アルフ「またかよ! 心臓に悪いわ」
座ったまま飛び上がるかの勢いで驚くアルフ。
ベルタ「あ。妖精さん達が明るくなった」
不死鳥の声に反応したかのように妖精の光は強さを取り戻していた。
アルフ「不死鳥の光を貰っているのか? 明るくなるメリットでもあるのかね」
タイミング的に考えて妖精の光は不死鳥から受け取ったものであろう。
だが何の為に受け取って光るのか、その意図が掴めない。
ベルタ「ん~。例えば陰になっている場所に光を運ぶとか? 邪霊を祓う光なんでしょ」
不死鳥の光が全土に届くとは言え、不死鳥から直線状に放射される光なので陰は出来る。
風であれば陰となった場所にも吹き込める。
アルフ「なるほど。そういや光に邪霊を祓う効果があるって言っていたな」
除霊の様子をベルタが確認している。
ベルタ「さっきのお姉さんが言った通り、光で邪霊は祓われているわ。でも次々に地中から湧いてくる感じね」
ここではガーゴは休んでいるようだ。
手を出すまでも無く確実に除霊されるほどの力が不死鳥の光にはあるのだ。
アルフ「発生源は地中か。ノーム様が居ないと湧くって事なのか」
地中が原因であればノームから離れた副作用ではないかと察するアルフ。
だがベルタは首を横に振る。
ベルタ「・・・湧いてくる方向を追っかけてみた感じだと、地上から浮いてきているみたい」
アルフ「おおう。発生源は地上かよ。そりゃ居るわな。こんな所まで飛んでくるのか」
地上には邪を祓えない人だらけなのだから影響を受けて発生する邪霊も多い。
それが地上を漂うだけではなく天空にまで到達しているのだ。
ベルタ「エルフの皆さんなら邪霊が入り込めないような結界も張れそうだけどねぇ」
むしろ邪霊が入れる状態のままで放置している事が不思議に思える。
エルフの意図を考え始めるベルタ。
アルフ「だよな。まぁこっちの地表に出た時点で不死鳥の光に祓われるんだから、どうでも良いのかもだけど」
ベルタ「あ~。もしかしたら意図的に集めて祓おうとしているのかもねぇ」
アルフ「それなら納得がいくな。エルフはみんな性格が良さそうだったし」
邪霊の侵入を防げないのでは無く、世界の邪霊を減らす為にわざと集めているのだと察する。
ベルタ「でもそうだとしたら秘密の国策とかなのかな。さっきのお姉さんは知らなかったみたいだし」
アルフ「あの姉ちゃんなら聞いていても忘れていると思うぞ。尾羽の使い方とか肝心な部分は忘れていたし」
ベルタ「邪霊が湧く事も笑っていたしねぇ。気にしていないなら忘れるか」
不老とも噂されるほどの長命なエルフにとって、どうでも良い事までは覚えていられないのである。
アルフ「人は邪を祓えないのに地上の邪霊はそれほど溜まっていない。俺もベルタの推測通りだと思うな」
ベルタ「そうよね。ちっちゃい邪霊は一杯居るけど騒ぎにもならない程度だしね。エルフに感謝しなくちゃ」
アルフ「こんな離れた場所で黙って人の尻を拭いていてくれたんだな。かっけー」
ベルタ「そうだけど何でそう汚い言い方をするのよ。まだ食べているのに」
アルフ「おぉわりぃ。でも尻を拭くって言葉で具体的な姿まで想像するのか・・・」
よく使う表現であり、現物の尻など想像していないアルフだった。
食事を終えて一服する一行。
アルフ「食事は微妙だが風が気持ち良過ぎて気分は最高だな」
ベルタ「ねー。このまま寝ちゃいそう」
・・・
コーッ!
目覚まし時計の代わりと言うには強烈過ぎる声が朝を告げる。
アルフ「うぉ。朝か。朝なのか。朝が襲ってきたのか」
ベルタ「あははは。おはよ。気付いたら寝ていたわ。この声も目覚ましにはいいわね。アルフでも一発よ」
夕食の一服中にアルフとベルタは寝入っていたのだ。
アルフ「いやマジで本当に心臓に悪いって。焼き鳥にして食ってやりたくなるな」
ベルタ「味は分かんないけど。アルフの歯よりも硬そうな肉よ」
アルフ「役に立たねぇ鳥だな」
ベルタ「食用以外の役割を果たしてくれているでしょ」
舞い上がる風の妖精に囲まれる中、アルフ一行は旅を再開した。




