おまけ:お持ち帰りはご遠慮ください
鉱山を歩くアルフ一行。
山肌に採掘用の坑道が幾つか見える。
絶え間なく岩を掘る音が聞こえ、たまに爆発音がする。
アルフ「これだけ音がしまくっていると動物は逃げていそうだな」
ベルタ「下手に近づかれても危険だし、その方が良いかな」
見上げながら歩くアルフ一行の左手にゴザを敷いて横になっている男が居た。
男「・・・もしやベルタさんかい?」
ベルタ「はい?」
ベルタが振り向いた瞬間、男の拳がベルタの目の前に止まっていた。
横になっていた状態から飛び込んで、繰り出した突きを寸止めしていたのだ。
ベルタ「きゃ」
驚いて後ずさるベルタの一挙一動を観察する男。
男「・・・失礼した。妙な噂を聞いて勘繰っちまった」
男は踵を返してゴザへと戻る。
ベルタ「え。噂ってどんな」
男「・・・気にしないでくれ。ただの与太話だ。騙された俺がバカだっただけだ。勘弁してくれ」
ベルタの問いかけに、再び寝転がって残念そうに答える男。
アルフ「そうそう。噂なんて聞くだけムダ。行こうぜ」
男を置いて先へ進むアルフ一行。
ベルタ「うーん。やっぱりティアラの光以外にも変な噂が流れているみたいなんだけど」
ティアラの装着を決めた時点で目立つ覚悟はしていたベルタ。
故に噂が立つ事は想定していたが、光が話題になったとしても怯えられたり挑まれたりする事は腑に落ちない。
アルフ「噂って言うのは関係の無い話が混じったりしながら広がるからな。気にするだけムダだぞ」
ベルタ「そうなんだけど。何か物騒と言うか好戦的な感じぽくない? さっきの人もそうだし」
アルフ「ガルマさんへの畏怖の念が絡んでいるとか有りそうじゃん」
誤魔化す事にも慣れて来たアルフ。
でもいずれベルタの耳に噂が入る事は防げないだろうなとも考える。
ベルタ「あぁ。そういうのも多少は仕方がないかぁ」
アルフ「そうそう。ベルタが凶暴だーって噂も有るかもしれねぇけど、そういう事だから気にするなよ」
ベルタ「やめてよね。かよわい娘にそんな噂はありえないわよ」
いざと言う時に備えて心の準備をさせようとするアルフ。
壊れはしなかったものの、有害物質で生まれた化け物に遭遇した時のベルタを見る限りは精神状態が不安だ。
ベルタの反応は微妙だが深追いすると薮蛇になりかねないので自重して話題を変える。
アルフ「さっきのおっさん、凄い動きだったよな。前に会った剣士の人並みじゃね」
ベルタ「速度ではさっきの人の方が上かもね。全然見えなかったもの」
アルフ「おっさんの動きが全然て。剣士の動きは見えていたと言うのか」
アルフにはどちらも全く見えていないので比較のしようが無い。
ベルタ「今斬ったのかな? って程度に分かっただけだけどね」
アルフ「へぇ。世界にはあんな達人がごろごろ居るのかね。一人見ただけでも幸運だと思っていたんだが」
ベルタ「どうだろ。犯罪者の中では国で最上級の技術を有しているって刺客にも大したのが居なかったし」
国が対処しきれなかったほどの刺客の一味を大した事が無いと言いきるベルタ。
また驕りじゃないのかとアルフは疑う。
アルフ「刺客はお前がまとめて拘束したから参考にならなくね」
ベルタ「さっきの人ならどれだけの兵に囲まれていても難無く王様の前に立てると思うわよ」
ベルタは驕っていた訳では無かった。
大した事が無いと言うのはベルタにとってでは無く達人にとっての話だ。
もし達人が刺客に加担していたなら王は生きてはいなかっただろう。
アルフ「あぁ。そういう意味か。確かにそれだけの腕があったら正攻法でさっさと終わらせるわな」
ベルタ「殴ってから即座に逃げたら突然死に見えるかもね。近い域の人を除けば誰にも見えないでしょうし」
短期間に二人もの達人に遭遇したが大勢居る訳では無さそうだ。
アルフ「寝転がっているだけなのに修行好きの剣士と同等以上てすげぇな」
ベルタ「休憩しているだけでしょ。流石に寝転がっていて強くはなれないわよ」
アルフ「おぉ。休憩は大事だな。飯にしようぜ」
ベルタ「とは言ってもねぇ。さっき動物は逃げていそうって話をしたばかりでしょ。お肉抜きにする?」
アルフ「ぐは。爆薬まで使っているから結構遠くまで逃げていそうだよな」
肉抜きの食事をするか先へ進むか、アルフには難問だった。
マアマなら王都付近の獲物でも狩れる事にアルフは気付いているがベルタに気付かせたいので言えず葛藤する。
キンキンキン
カンカンカン
突然採掘音が激しく一斉に鳴り響く。
アルフ「何だ。これ掘っているって音じゃねぇよな」
ベルタ「何か警告している気がするけど。警告なら叫んだ方が良いわよねぇ」
疑問に思っていると地響きが始まる。
周囲を見回すと、山の上から幾つもの岩が転がってくるのが見えた。
アルフ「落石か」
ベルタ「あれだけ山の中で爆破していれば起きるでしょうね」
ドーン
ズガーン
転がり落ちる岩が次々と消滅する。
アルフ「おぉ。落石粉砕装置でもあるのか」
ベルタ「さっきの人みたいよ。打撃で破壊しているみたい」
アルフ「ぶ。落石で修行していたのか。人の業じゃねぇな。そりゃ鍛えられるわ」
ガィーン
男「ち。危ねぇ! 避けろ!」
破壊できない岩が混じっていたようで男が叫ぶ。
音からして岩では無く精錬された金属の塊のようだ。
避けろとは言うが、でこぼこの岩場を転がっているのでどこへ飛ぶのか分からない。
アルフ「来たら任せるぞ」
ベルタ「まぁあのくらいなら」
金属塊はまるで狙ったかのようにアルフ一行へ向う。
男には跳ねるコースを読めていて警告していた。
金属塊は直径3mほどありそうな上に速度もあるのでかなりの迫力だ。
迫る金属塊を前にしながらも暢気にベルタに提案をするアルフ。
アルフ「やっぱり来るのか。お約束だな。今思いついたんだけど。あれをグールだと思って殴ってみねぇか」
ベルタ「何よ突然。失敗したら押し潰されちゃうじゃない」
アルフ「精神鍛錬の成果確認だ。やばい状況で力まずに力を出せるかの実験だ。失敗してもマアマが護るだろ」
マアマ「まかせろー」
精神鍛錬を続けているつもりではあるが成果を確認する方法が無かったベルタ。
失敗した場合の恐怖は多少有るので絶好の機会と考える。
ベルタ「流石ねアルフ。あたしには思いつかなかったわ。よ~し、弾け飛ぶかも知れないから離れていてね」
アルフ「やべ。そこまでは考えていなかった」
慌ててガルマの後ろに隠れるアルフ。
他の落石を砕き終えて金属塊の行方を確認する男。
金属塊の進路に立つベルタを見て、驚いて反射的に救助に向う。
だが既に男の速度でも間に合う距離では無い。
ベルタ「リラックスした状態から・・・ほいっ!」
ドッゴォォォォォ
金属塊が激突する瞬間にモーニングスターを叩きつけるベルタ。
衝撃音と共に土砂が吹き飛び地響きが轟く。
半径5mほどのクレーターが出来て、その中央に変形して裂けた金属塊が埋まっていた。
マアマの力を借りずともオリハルコンのモーニングスターを使ったベルタの攻撃力は半端無かった。
ベルタ「成功! どう?」
ガッツポーズで自信ありげに問うベルタに拍手で応じるアルフ。
アルフ「おぉ。すげぇな。火事の時ほどでは無いけど、グールをやった時よりは遥かに良いと思うぞ」
攻撃対象が違うので単純比較は出来ないが、火事の時は離れた位置の壁や屋根を風圧のみで粉砕していた。
今ここで同等の力を出せたのなら凄まじい衝撃波も発生していたであろう。
グールは金属塊よりも遥かに脆いので、変形して避けた金属塊を見れば言うまでも無い。
ベルタ「えー。会心の一撃だったと思うんだけどな」
アルフ「十分だと思うぞ。ただまだ伸ばせるってだけだ。精神鍛錬の成果が出ていると思って良いんじゃね」
ティアラの光で晒し者になる恥辱に耐えた甲斐があったと感無量のベルタ。
常にスポットライトを浴びながら人前に出ている状況なのだ。
ベルタ「やったー。でもグールの時みたいな恐怖は無かったからなぁ。同じ状況で出せるかは怪しいかも」
アルフ「今のお前にそれほどの恐怖を感じさせられる奴がどこに居るんだよ。次に試すのは恐怖以外かな」
ベルタ「まぁ居たとしても相手にしたくは無いわね」
精神鍛錬の成果を確認して浮き立つアルフ一行。
しばらく呆然と見ていた男がアルフ一行に歩み寄る。
今の金属塊の質量と速度から考えて、男の突きを上回る破壊力の一撃をベルタが叩き伏せたと判断する他無い。
ベルタと初遭遇時は、突きに反応も出来ない素人と判断したが、それは誤りだったのかと思い直し問いかける。
男「・・・何と言う力。人の業では無い。ベルタ。俺の拳はわざと避けなかったのか。受けきれたと言うのか」
アルフとベルタは再び男が仕掛けてくる展開を警戒する。
次は恐らく寸止めしないと予想する。
その場合、男はマアマによって消滅させられる事になるだろうと。
ベルタ「へ。いえ、全然見えない動きでしたよ」
アルフ「こいつは力が強いだけで武闘家じゃないんだ。対戦相手なら他を探してくれ」
アルフとベルタは手を振って闘う意志の無い事を示す。
男は少し考える。
男「・・・いや。これほどの力であれば策を弄するより良いか」
アルフ「何を言ってんだ」
怪訝そうなアルフに頭を下げる男。
男「・・・手を貸してほしい」
アルフ「いきなりそんな事を言われてもな。冒険者の仕事を奪うような事はしたくねぇし」
アルフは慈善活動をしている訳では無い。
ベルタの力を借りてそんな真似をすれば救われる人も居ようが、一方では多くの人々の職を奪いかねない。
救われた側も圧倒的な力に依存して堕落する危険が有り、最悪の場合は悪い結果しか残らない。
ベルタが驕りに悩む様を見てアルフもそれなりに学んでいた。
男「・・・飯を食わせる程度の礼しか出来ぬ故、冒険者を雇うには」
アルフ「乗った」
飯と聞いて応諾するアルフ。
色々と学んではいても結局は能天気だった。
ベルタ「あんたねぇ」
男「・・・世話になっている者が落石に閉じ込められたのだが破壊出来ぬのだ」
ベルタ「案内して下さい」
結局ベルタも応諾する。
男は偶然にもアルフとベルタの心のツボを突いていた。
一行は現場に向うべく鉱山を登る。
アルフ「でも閉じ込められた人が居るなら町に救援要請を出すべきじゃなかったのか」
切羽詰った状況にしては、寝転がっていた男の態度が気になるアルフ。
男「・・・人では無いのだ」
アルフ「あぁ。そりゃ要請し辛いな。動物か? 助けた瞬間に襲われるとやばいな。どんな奴だ」
この旅を思い返すと、魔物や妖怪でもおかしくない流れなので警戒せざるを得ない。
男「・・・鉱山の妖精だ。人のように採掘をする。襲ってくる事は無い」
アルフ「おぉ。精霊は見たけど妖精は見てねぇな」
精霊なら恐ろしい話も多々あるが、妖精では思い当たる話が無いだけマシと言える。
ベルタ「世話になったって言っているし、人に協力してくれている存在なら助けないとね」
アルフ「お前は妖精には興味がねぇのか」
ベルタは興味を示す、と思っていたアルフには予想外の反応だった。
ベルタ「ん? どんなのかなぁとは思うわよ」
アルフ「精霊に会う時とはテンションが違うと思ってな」
アルフにとっては精霊も妖精も似たようなものである。
ベルタ「四大元素精霊様が世界を支えてくれているってお話に憧れてるからね。妖精の話はピンと来ないかな」
アルフ「なるほど。話に出てくる妖精は主にイタズラ好きな奴か」
ベルタ「そうね。特に威厳も脅威も無かったから、あんまり覚えていないのよね」
要は精霊が云々では無く、大きな力を持つ者にベルタは惹かれていた。
脳筋らしいとは思うが口には出さないアルフ。
アルフ「そういや、何でおっさんが妖精の事故を知っているんだ? 一緒に居たなら連れ出せたと思うんだが」
男「・・・落石の影響を確認しに行ったら妖精が集まっていた。その岩の奥から叩く音が聞こえたのだ」
アルフ「それで推測したって訳か。その仲間じゃ助けられそうにないって事なんだな」
男「・・・恐らく間に合わない。掘り始めの坑道に見える故、中には食料はおろか通気孔も無いだろう」
アルフ「掘っていたら入口を塞がれたって事か。急がないとやばそうだな。その割りにはのんびり寝ていたな」
話しを聞けば聞くほど、寝転がっていた男の態度が気になるアルフ。
あわてふためけとは言わないが落ち着きすぎだろうと。
男「・・・一つには策を練っていた。もう一つには頼れそうな者が現れぬかを見ていた」
アルフ「それでいきなり力試しか。確認の仕方が悪かったな」
ようやく納得するアルフ。
突然の力試しも焦りから生まれたと思えば納得出来る。
男「・・・噂に惑わされた未熟。恥じ入るほか無い」
アルフ「凄い奴ほど自分を未熟って言うんだよな。未熟の意味が変わりそうだ」
ベルタ「自分の未熟さって凡人には分からないのよね。あたしも痛感しているわ。分かれば対策も出来るのに」
アルフ「お、おぉ。お前の場合はガルマさんを基準にしているから未熟の次元が違いそうだけどな」
ベルタは既に悟りを開いていそうで怖くなるアルフ。
鉱山の中腹に在る巨大な岩の前に到着する一行。
ベルタでも持ち上げられるかは怪しいが、転がす程度なら出来そうな大きさだ。
妖精たちが挑戦していたのか、少し削った痕がある。
男「・・・ここだ」
アルフ「でかいけど、これただの岩じゃね? おっさんなら叩き壊せそうだけど」
男「・・・崩れると中の妖精が危ない」
中の様子が全く分からないのだ。
岩に与えた衝撃で中の坑道自体が崩れる可能性もある。
アルフ「そうだった。ただ壊せば良い訳じゃなかったな」
ベルタ「そういう事なら、岩を動かさずに妖精だけを助け出した方が良いですね。マアマさんお願いします」
マアマ「どっかーん」
男「・・・む?」
突然聞こえたマアマの声と、空き地に向ってモーニングスターを構えるベルタに怪訝そうな男。
ベルタがマアマを振るとコップ程度の大きさの小人が現れた。
疲れきっているのか倒れているが呼吸は安定している。
ベルタ「きゃー!」
アルフ「どうした!」
突然悲鳴をあげるベルタに驚いて反応するアルフ。
だが反応した瞬間にデジャブを感じる。
ベルタ「かわいい!」
アルフ「・・・またかよ。その喜ぶ時の悲鳴は紛らわしいぞ」
ベルタは小人を膝の上に抱いて癒す。
すぐにティアラの光で回復した小人が起き上がる。
周囲を見回すとどこかへ走り去った。
ベルタ「あー。行っちゃった」
アルフ「助けたかった妖精ってあの小人の事か?」
男「・・・そうだ。ありがとう。驚いた。岩を動かさずに助けられるとは思ってもみなかった」
男は荷をおろし飯の準備を始める。
男「・・・さっき捕獲した動物と近くに生っている木の実だが構わんよな」
アルフ「それ最高! だけど、この辺りに動物が居るのか? 爆発音とかで逃げたと思っていたんだが」
男「・・・逃げた。が戻ってきたようだ。慣れたのだろう」
アルフ「ずっと続いていれば慣れもするか」
肉を焼いていると何やら大勢が近づいてくる気配がする。
焼肉の臭いに惹かれた獣かと思いきや、楽しげな音楽も聞こえる。
アルフ「音楽? 獣じゃ無さそうだけど人にしては気配が小さ過ぎるような」
ベルタ「楽しそうな演奏だけど知らない楽器を使っているみたいね」
音のする方を見ていると、岩陰から大勢の妖精が現れた。
見たことの無い料理を担いでくる。
アルフ「うぉ。増えた」
ベルタ「きゃー! 何これ。少し持って帰りたい」
アルフ「品物じゃねぇって」
沢山居るから、と分けてもらえる物では無いのだ。
悪気が無いとは言え、妖精から見ればかなり失礼な発言だ。
男「・・・珍しい。妖精は見られる事を嫌う。それでも出てくるほどに感謝しているのか」
ベルタ「えー。こんなにかわいいのに見られるのが嫌だなんて。意地悪ね」
妖精にも色々居るが、この鉱山の妖精は人に姿を見られる事を極度に嫌う。
故に鉱夫達は妖精を見かけたら立ち去るようにしていた。
アルフ「妖精にとっては普通なんだろ。お前だってティアラを付ける前は注目されるのを嫌がっていたじゃん」
ベルタ「あぁ。そうね。確かに注目を浴びるのは嫌ね。体験しないと相手の気持ちって分からないものね」
アルフ「持って帰りたいなんて言い出す奴まで居るしな。自己防衛も兼ねているんだろうよ」
ベルタ「え。無理矢理連れ去る気なんて毛頭無いわよ。少しだけ一緒に来てくれたらいいなぁと言うか・・・」
アルフの指摘を痛感しながら言い訳を考えるベルタ。
妖精は料理をアルフ一行の前に置くと一斉に音楽に合わせて踊りだした。
ベルタ「いやー! かわいすぎる。全部持って帰りたい」
アルフ「今言った事をもう忘れてねぇか。まぁ踊るなら見せる気だろうから良いけど。これ食って良いのかな」
目の前に置かれた料理を凝視するアルフ。
初めて見る料理だが直感的に美味い物と判断していた。
ガルマ「うむ。仲間を助けてもらった礼だそうだ」
アルフ「おっしゃぁー。未知の料理いっただきまーす」
助けたと言っても見ていただけなのに最初にがっつくアルフ。
毒見役としては優秀かもしれない。
アルフ「おぉ。味も香りも食感も知らない料理だが美味いぞ」
ベルタ「うん美味しい。でもここまで知らない料理だと食べても大丈夫なのかが不安ね」
ベルタも一口食べてみたが素材も味付け方法も見当がつかない。
他の動物が食べる物にも人にとっては毒となる場合がある。
まして妖精となれば食べ物とは呼べぬ素材が含まれている可能性もある。
アルフ「大丈夫だろ。毒なら浄化されるんだし。お前の大好きなウンディーネ様を信じておけ」
ベルタ「それもそうね。だったら食べるわよぉ」
ふっきれたベルタの食べっぷりに男と妖精達はあっけに取られていた。
食べ終わると妖精達は飛び跳ねながら岩陰に去っていった。
アルフ「おぉ。食ったー。お礼の二倍増しは効いた」
ベルタ「あはは。二度と食べられない味かもだし覚えておかないとね」
とても美味しかったので、二度と食べられないのは勿体無いと考えるアルフ。
アルフ「人に協力的なら料理屋でも人気が出るんじゃね」
ベルタ「ティアラの光が無くても大丈夫かは不明だしどうだろ。何よりも見られる事が嫌いらしいし」
今回安心して食べられたのはベルタが居る事が前提なのだ。
そもそも協力的と言っても採掘活動での話しであろう。
アルフ「そういや見られるのが嫌なのにどうやって協力してくれていたんだ」
男「・・・岩を叩く音だ。鉱脈を教えてくれたり、落石を教えてくれたり、遭難者を助けてくれる」
姿を見せずとも鉱夫にとっては非常に有り難い存在と言える。
アルフ「落石の前の騒ぎって妖精だったのか。そりゃ助けたくもなるわな」
ベルタ「お話ではイタズラ好きな妖精ばかりだったけど実際はそうでもないのかな」
男「・・・嫌いな者にはイタズラをして迷わせたりする」
妖精にまつわる話もでたらめでは無かった。
アルフ「やっぱそうなのか」
ベルタ「何が相手でも嫌われちゃダメですよね。書いた人達は皆嫌われていたのかなぁ」
アルフ「見られるのが嫌なら見ただけで嫌われそうだしな」
見られるのが嫌かどうかなど教えられなければ分からないのだから嫌われた人は多かろう。
ベルタ「それはショックだわ。そういえば口はきいてくれなかったわね」
アルフ「そもそも喋れるのかあいつら」
男「・・・話せる。が、声を聞かれる事も嫌う」
アルフ「なるほど。もっと仲良くなれば話せるかもか。だが見られる事も嫌なら難しそうだな」
今回のような事故が無ければ仲良くなる機会は無いのかもしれない。
ベルタ「あーん。他にも妖精さんが埋まっていないかしら」
アルフ「物騒な事を考えるなよ」
明らかに妖精を心配している訳では無く接触を目的とした発言である。
ベルタは妖精を精霊並みに気に入っていた。
一服を終えて別れの挨拶をする一行。
男「・・・では行くか。世話になった」
アルフ「おう。ごちそうさま」
ベルタ「こちらも良い経験が出来ました」
発とうとするベルタの肩に、いつのまにか寄っていた妖精が飛び乗った。
ベルタ「あら?」
ベルタが助けた妖精だ。
自身も極度の空腹だったので仲間のお礼の時には参加出来ず、遅れて単独で来ていた。
妖精「ありがとー」
ベルタの耳元で囁くように一言礼を言った後に飛び降りて岩陰に去って行った。
嬉しくて叫びそうなので両手で口を押さえるベルタ。
アルフ「どうした?」
ベルタ「声聞けたー! 妖精さんにお礼を言われちゃった」
悲鳴は抑えたが結局叫ぶベルタ。
アルフ「そりゃ良かったな。ベルタにだけって事はやっぱり声を聞かれたくは無いんだな」
ベルタ「声もかわいかったー」
よほど嬉しかったのか妖精の踊りを真似るベルタ。
アルフ「また妖精に会う楽しみも増えたな」
ベルタ「うんうん。早速次の妖精さんを探しに行きましょ」
アルフ「いや旅の目的まで変えるなよ」
鉱山を後にアルフ一行は旅を再開した。




