おまけ:働かざる者は食われる
山の奥深くを進むアルフ一行。
傾斜は緩いが、人が立ち入る事は殆ど無さそうだ。
大型の獣があちこちを闊歩している故に。
アルフ「これを秘境と言うのかね。むしろ卑怯と言いたい」
ベルタ「あんなのを全部相手にするのは流石に手間ね」
狙われる前から全て処分してしまっては生態系に影響が出る。
罠アイテムで対応出来る相手では無いので無視も出来ない。
個別に対応するには数が多過ぎて手間が掛かる。
ベルタは有効な手を決めかねていた。
隠れながら進める手段でも無いかと周囲に気を配るアルフ。
坂下に小さな村が在るのが見えた。
アルフ「マジか。あんな所に村が在るぞ」
ベルタ「ぶ。よりにもよってこんな辺鄙で危険な場所を開拓したの。たくましいわね」
アルフ「呼ばれている方向では無いけど夜も近いし寄ってみるか。何か対策方法を知っているかも」
ベルタ「賛成」
周囲の過酷さに似合わず、のどかな雰囲気の村に立ち寄る。
山の奥深くの小さな盆地に在る村で、他の集落との往来は無いに等しい。
放し飼いにされた鶏がそこら中を歩き回っている。
アルフ「おぉ鶏が一杯。可愛いけど気をつけないと踏みつけそうだ」
ベルタ「路上に出てきそうよね。小さい柵は作った方が良さそうだけど」
言っている端から路上に出てくる鶏が見えた。
ほぼ同時に、その鶏に向って駆け寄る獣も見えた。
アルフ「村の中に獣が居るぞ」
ベルタ「幾らなんでも無用心過ぎるわね。これじゃ村の中でも獣避けの罠アイテムが必須じゃない」
獣は鶏の前に立つと、路上から鶏を追い戻した。
鶏が戻るのを確認すると家屋に戻って座り込む。
鶏を監視しているかのようだ。
アルフ「あれ。食わないぞ」
ベルタ「路上から追い出したように見えたわよ。まさか獣が放牧しているの?」
アルフ「村の人に聞いてみるか」
放牧を除けば普通の村の様相だ。
まばらに人々が作業に勤しんでいる。
アルフ「お姉ちゃん。俺達は旅で寄った所なんだけど質問しても良いか」
村人「あら旅の方が見えるとは珍しい。しかも口の上手い子ね。おばちゃんでいいわよ。何を聞きたいの?」
アルフ「え。そんな歳に見えねぇけど。まぁいいか。この村の獣は鶏を放牧しているのか?」
幾つくらいからおばちゃんなのかは地域差や個人差があって分かり辛い。
村人「まさか。鶏を放牧しているのは人よ。人が獣を飼って使役しているの」
アルフ「獣は人には懐かないって聞いたけど違うんだな」
弱肉強食の世界で生きる獣は警戒心が強く、懐く事は無いというのが定説だ。
村人「えぇ。私もそう思っていたけどね。獣使いさんが調教すると懐くのよ」
アルフ「おぉ。獣使いってかっけぇな。どこに居るの」
村人「そこの大きなお家に住んでいるわよ。でも人見知りが激しい人だから会うなら注意してね」
アルフ「ありがと。行ってみるぜ」
獣使いという呼び名からして、大型獣への対策にも詳しそうだ。
アルフは指された家の前に期待して立つ。
かなり大きく頑丈そうだが、立派な建物という訳では無くバラックだ。
家の中には大勢居るようで賑やかな声が漏れてくる。
アルフ「おーい! 旅の者だけど獣使いって居るか」
ベルタ「あんたも成長しているとは思うけど、口の利き方は治らないわね」
けたたましく玄関の扉が開くと大勢の子供達が押し出されるように出てくる。
弟子A「いらっしゃーい。あたしが一番弟子よ」
弟子B「また弟子入りか? おいらが一番弟子だぜ」
聞いても居ないのに子供全員が次々に一番弟子を名乗る。
アルフ「一番弟子なら獣使いを呼んでくれよ」
弟子A「そこに居るよ」
指差された方を見ると、倒れた人が数匹の獣に貪られていた。
ベルタ「きゃー!」
獣使い「うわ! どうした」
貪られていた筈の人が上半身を起こして獣が四散する。
アルフ「何だ食われていたんじゃ無いのか」
ベルタ「すみません。てっきり獣に食べられているのかと思って悲鳴を上げてしまいました」
獣使いは寝ぼけたような感じでアルフ一行を見やる。
獣使い「あぁ客人か。どんなご用件で・・・って、うわ! 竜人様!?」
アルフ「ガルマさんは同行してくれているだけだ。俺が話しを聞きたくて寄ったんだ」
獣使い「いやムリ」
獣使いは正気になったようだが、座り込んだまま首を振ってアルフの要望を拒否する。
人見知りが激しい人だと村人から聞いていた事を思い出すアルフ。
アルフ「俺とは話しをしたくねぇのか。ベルタなら良いか?」
獣使い「そうじゃなくて。竜人様を調教するなんてムリ」
客の多くは調教依頼なので獣使いは早とちりしていた。
目は覚めていたが、居る筈の無い竜人を見て混乱していたのだ。
アルフ「そんな事は言ってねぇ。ガルマさんは同行してくれているだけだって言っただろ」
獣使い「え・・・あぁ噂で聞いた奴か。いいぜ。俺も聞いてみたい事がある」
竜人と旅をする子供が居るという噂を思い出した獣使いは落ち着きだした。
普段は噂など聞き流す男だが、信じたくなる噂が混じっていたのだ。
アルフ「お。なんか普通だな。人見知りなら初対面は警戒されると思っていたぜ」
獣使い「人見知り? 俺が? ん~好き嫌いは激しいかな。俺や獣を利用しようって腹の奴は即追い出してる」
獣使いを訪ねて来る人の多くが利己的な目的故に追い出されていたのだ。
それが傍目には人見知りに見えていた。
アルフ「そりゃ当然だな。んじゃ早速聞くけど、村で使役されている獣ってお前が調教したのか」
獣使い「おうよ。可愛いだろ」
アルフ「おぉ。懐けば可愛いな。でも獣って普通は懐かないだろ。どうやってんだ」
獣使い「へ。普通は懐くだろ」
不思議そうに答える獣使い。
調教技術については学んだが、懐かせるのに特別な技術は必要無いからだ。
アルフ「そうなのか。俺なんかいつもいきなり襲われているんだが」
獣使い「そりゃ腹が減っているんだろ。何か食わせてやれば大人しくなるんじゃね」
アルフ「そうなのか? 獣は餌付け出来ないって聞いたんだけどな」
獣使い「餌付け? その発想がダメなんじゃね。お前だって上から目線の奴とは仲良くしたくねぇだろ」
アルフ「おぉ。そういう事か」
理屈では納得するアルフ。
言葉は通じなくても態度で感じるものはあるだろう。
アルフ「でも調教って上から目線じゃね」
獣使い「そりゃ調教は俺が先生で獣が生徒になるからな。仲良くなった後にお互いにその気になればの話だ」
アルフ「どの獣でも調教出来る訳じゃねぇのか」
獣使い「そりゃそうだ。気性が荒い奴には狩り、大人しい奴は保育や管理とか、獣の得意で考えないとな」
アルフ「獣と話せるのか」
獣使い「いや。でも見てりゃ何となく分かるだろ」
アルフ「気性が荒いかどうかくらいは分かるけどな。そんなんで決めれるんだな」
獣使い「調教内容が向いているかなんて、よく分からない時は実際にやらせてみれば分かるだろ」
アルフ「何をやらせてもダメな奴って居ないのか。ダメと言うより何もやる気が無い奴か」
堕落してどうしようも無い人を道中で見かけているアルフ。
獣の中にも居るのでは無いかと尋ねてみる。
獣使い「一杯居るぜ」
アルフ「そういう奴はどうすんだ」
人に応用出来る対策を聞けるかもしれないと期待を込めるアルフ。
獣使い「そりゃ食うさ」
アルフ「・・・」
当然の答えだが、獣使いのイメージと期待から外れていたので言葉に詰まるアルフ。
獣使いは言葉を失ったアルフを怪訝に思う。
獣使い「何だよ、当たり前だろ。働かないなら食われるのが役割だ」
アルフ「あぁその通りだ。ただ何て言うか。当然の事を当然に答えられる事に違和感を感じてな」
獣使い「訳分かんねぇよ」
アルフ「先入観てやつかな。獣使いなら獣を食ったりしないのかな、みたいな思い込みが勝手に生まれていた」
獣使い「なるほどな。まぁ獣使いって呼ばれてるけど、俺は人でも獣でも好き嫌いをはっきりさせてるだけだ」
アルフ「獣使いって職を修練した訳じゃ無いんだな。天職てやつか」
獣使いにとっては調教を職としており、獣使いを名乗った事は無い。
周囲が勝手に獣使いと呼ぶのだ。
一般の調教師と違い、人を襲う獣を対象とする上、自ら狩場に赴いてその場で手懐けてしまう故に付いた名だ。
獣使い「おぉ。だから弟子入りしてくる奴は多いんだが、教える事もねぇし勝手に見て習えと言ってある」
アルフ「皆揃って一番弟子を名乗っていたぞ」
獣使い「何の一番だよ。一番を目指すよりも仲良くしろってんだ」
アルフ「サンキュ。知りたかった事は大体分かったわ。そっちの聞きたい事ってなんだ」
真面目な顔つきでベルタを見やる獣使い。
獣使い「そっちの娘、ベルタって言ったよな。纏う光で人を癒すって噂を聞いた覚えが有るんだがマジか?」
ベルタ「癒したい方が居られるなら案内して下さい」
興奮して勢いよく立ち上がる獣使い。
獣使い「マジか。すげぇ助かる。病気持ちの獣が居るから弟子には近づくなと言ってあるんだがバカが居てな」
ベルタ「獣から伝染した病ですか。とりあえず向いましょう」
獣使いの先導で患者の所へ向う一行。
獣使い「あぁ。村の奴は獣に接したりしねぇから、獣の病には無知なんだよ。対処のしようが無くてな」
ベルタ「町へは連れて行かないのですか」
獣使い「だって感染するんだぜ。町中へ運んじゃダメだろ」
ベルタ「あ。迂闊でした。逆にお医者様を呼ぶことは出来なかったのですか」
獣使い「ここまで来たなら分かると思うが、超辺鄙な場所だから難しいな」
ベルタ「そっか。町へは飛べても村には拠点が無いから飛べないんですよね・・・」
瞬間帰還器の課題である。
十分な警備体制を敷いた場所で無ければ犯罪者の逃げ場に使われるので拠点を置けない。
アルフ「そういや弟子の数もすげぇよな。村の子供全員にしても多いんじゃね」
獣使い「町から預けに来る奴も居るんだ。親は汚ねぇ事を考えていそうだが子供がやる気なら預かってる」
アルフ「そんな親ならむしろ引き取った方が子供にも良いか」
獣使い「獣は多いから幾ら手伝いが増えても邪魔にはならないしな」
隔離された小屋には子供一人と獣が数匹横になっていた。
大量の本が無造作に積まれている。
ベルタは獣にも治療の意志を示し、ティアラの光の効果対象に加える。
ベルタ「もう大丈夫だと思います。ここから出られなくて本を読んで過ごしていたのですか」
獣使い「あぁそれは治療方法を調べるのに集めた本だ。今回は役に立たなかったがな。今後活かせるだろう」
辛そうに横になっていた子供が突然跳ね起きてポーズを決める。
弟子X「一番弟子ふっかーつ!」
獣使い「バカタレ! 一番なんて目指して隔離した獣に触るからそうなるんだ。今度やったら破門だからな」
弟子X「らじゃー!」
返事だけは良いが、弟子には全く懲りた様子が無い。
だが獣使いはとても嬉しそうだ。
獣使い「ありがとう。本当に助かった。凄ぇ人も居るもんだな」
ベルタ「人の能力としては貴方の方が凄そうですけど。でも病気の問題は今後が心配ですね」
獣使い「あぁ。あいつらは言っても聞かねぇからなぁ」
考え込むベルタと獣使い。
このままでは今後もほぼ間違いなく同じような状況が発生するであろう。
アルフ「獣医を村に誘致出来ねぇのか」
ベルタ「そうね。直接人を治せないとしても、原因だけでも分かれば対処を考えられるわね」
獣使い「なるほど。獣なら一杯居るから獣医の仕事はたっぷりあるし。村長に相談してみるわ」
獣の医療を志す者であれば理想的な環境かもしれない。
ベルタ「他に病の獣は居ませんか。自然治癒する傷もすぐに治りますよ」
獣使い「やばそうなのは生かしておいても辛いだろうからすぐに食ってる。軽症の奴なら結構居るかな」
アルフ「光を当てるだけだし一回りすれば良いんじゃね」
ベルタ「そうね。よろしければ獣の居る場所を全て案内していただけますか」
獣使い「そいつは助かる。さすがに軽症の奴にまで手間かけさせるのは気が引けて頼み辛かった」
外へ出ると家より大きな獣まで居た。
アルフ「大型まで調教したのかよ・・・」
町に現れたら軍隊が出動するであろう大きさだ。
捕らえるどころか倒すのも至難であろう。
獣使い「あぁ。こいつらは村の警護役だ。見張りをしつつ、獣が来たら追い払う」
アルフ「軍隊並みの警護だな。よく懐かせられたもんだ」
獣使い「ん? 大型の方が大人しい奴は多いぞ。むしろ楽だ」
道中で闊歩する大型の獣を随分見かけたが、大人しそうな個体には覚えが無いアルフ。
アルフ「そうなのか。懐かせる過程で襲われないのか」
獣使い「獣は腹が一杯なら満足して滅多に襲ってこないぞ。人はいつでも襲ってくるけどな」
アルフ「あぁ。そうかも」
大型の獣が闊歩している時は獲物を探している可能性が高い。
当然腹は減っているであろうから気も立っているという事だ。
獣使い「腹が減っている時に近づいたら何をやってもダメだ。まず餌で釣ってひたすら食わせる。それからだ」
アルフ「そうだな。人を基準に考えるからややこしくなるんだな」
腹が一杯でも狩る獣は居るが、遊びの結果として狩れているのであって、襲うつもりがある訳では無い。
怪我をしていたり巣を護っていたりで気が立っていなければムダに戦おうとはしないのだ。
獣使い「人はバカばっかだな。何を考えているのかさっぱり分からん。何をやっても満足しねぇ」
アルフ「ガルマさんのお墨付きだからな。人は最も愚かな種だとさ」
獣使い「ぐは。一番かよ。ろくな一番じゃねぇな・・・」
ベルタが近寄った獣達はみるみる回復して元気を取り戻す。
曲がった脚が治り、病気や毒に侵された器官が治り、身体に巣食った虫は逃げ出す。
獣使い「凄ぇな。皆若返ったみたいに元気になっていくぞ。やっぱあんたも竜人様の仲間みたいなもんなのか」
ベルタ「あたしはただの人ですよ。光を放つティアラを造られたのがウンディーネ様なのです」
アルフ「ベルタが使わないとダメらしいから半分はベルタの力と言えるかもな」
屋内は元気になった獣達と弟子達がじゃれあって大騒ぎになっていた。
楽しそうではあるが、もうアルフ一行に用は無さそうだ。
アルフ「んじゃ俺らは行くか。この村に宿屋はあるのか」
獣使い「宿屋は無い。寝るだけで良いならここに泊まっていけや。ボロだが雨風くらいはしのげるぜ」
アルフ「そりゃ有り難いな」
村に宿屋は無い方が多い。
期待はしていなかったので獣使いの申し出は嬉しい所だ。
マアマに護られているとは言え、大型獣が闊歩する山で寝るのは気が引ける。
獣使い「そろそろ飯時間だし食堂で待っていてくれ。おい弟子、この方たちを案内しておけ」
弟子X「らじゃー!」
ベルタ「料理ならお手伝いしますよ」
獣使い「いや大丈夫だ。弟子や獣の分を一緒に作っているから数人客が増えても変わらないんだ」
ベルタ「そうですか。ではお言葉に甘えます」
獣使い「おう。弟子の命の恩人だ。気合入れて作ってくるぜ」
当番が決まっているのか、配膳は弟子の一部がやっていた。
獣たちにも専用の長テーブルが用意されており、弟子達よりも行儀が良いくらいに並んで座っている。
獣によって与えられる餌は異なり、当然ながら肉食の獣には生肉が与えられる。
アルフ「あれって元仲間の肉だよな。なんかこう不思議な光景に見える」
ベルタ「あたしは獣が並んで座って待っている方が不思議な光景に見えるわ」
獣使い「そうか? 外でも食い合いしている連中だから気にしないだろ。行儀は調教の成果だ」
アルフ「理屈ではそうなんだけどさ。能天気な俺の方が理屈ぽくなっているな。勘狂うぜ」
獣使い「さぁ、じゃんじゃん食ってくれよ。食いきれない程に作ってあるからな」
アルフ「それはそれで勿体無くないか」
獣使い「余った分は処理して家畜の飼料に足すんだ」
アルフ「おぉ。ムダがねぇな。なら遠慮なく」
当然肉にかぶりつくアルフ。
既に弟子や獣は食事を始めている。
アルフ「お。大味だけどなかなか」
獣使い「俺に上品な味付けはムリだぜ。大抵のもんは塩振って焼くだけで十分だ」
アルフ「同意だ。むしろ素材が良ければその方が旨い」
何となくアルフが二人居るような錯覚をするベルタ。
ベルタ「あんた達は相性が良さそうね」
アルフ「そうかもな。何かこう気安く話し易くはあるな」
ベルタ「あんたは王様に対しても気安いでしょうが・・・」
獣使い「俺も話し易いな。人が皆抱えているような嫌な感じがお前らからはしねぇ。獣みたいだ」
アルフ「誉めているのか。けなしているのか微妙だぞそれ」
ベルタ「あはは。言葉だけ見るとね。でも好意は分かるわよ」
獣使い「気安くなり過ぎて竜人様の存在を忘れそうで怖いわ。全然喋らねぇし」
ガルマもアルフの隣に座って食べているように見えるが終始無言だ。
実際にはマアマや獣たちと意思疎通しているのだが人からは分からない。
アルフ「ガルマさんが喋る時は難しい話だからな。話し出したら覚悟した方がいいぞ」
獣使い「やっぱ竜人様こえぇ」
ベルタ「あはは。獣使いさんなら怖がらなくても大丈夫な筈ですけどね。あたしも最初は怖かったし」
アルフ「お前は顔を怖がっていただけだから意味が違うと思うぞ」
ベルタ「だからそれは本人の前では言わないでって」
テーブル上の皿は殆どたいらげた。
獣使い「満足してもらえたかい」
アルフ「おぉ。満腹だ」
ベルタ「十分に堪能させていただきました」
獣使い「良かった。実は残りの量が結構危なかった。獣が全部元気になった反動で食欲が凄かったわ」
アルフ「嬉しい誤算だな」
獣使い「全くだ。明日からの働きに期待出来るってもんだ」
一服して後片付けした後、干草だらけの広間に移動する一行。
足元はふかふかしており干草の香りで満ちている。
全員ここで就寝するようだ。
獣使い「んじゃ消灯すんぞー。雄はこっち、雌はあっちな」
アルフ「雄雌かよ」
獣使い「あぁ。繁殖期だけ分けるのも面倒だしな。常に分けている」
アルフ「いやいや。弟子も居るんだから雌雄じゃなくて男女・・・ってお前は人と獣を区別していなかったな」
分かれると言っても、広間の半々に離れるだけで敷居も何も無い。
ベルタ「ねぇ。なんで獣がちゃんと雌雄で分かれているの。獣使いさんの言葉を理解しているの?」
獣使い「それは寝る場所を調教しているからだな」
ベルタ「調教って凄いのね。あたしの村でも家畜に出来たらなぁ」
アルフ「お前、獣全部の性別を確認したのか」
数が多い上に体毛で局部は隠れている。
簡単には確認出来そうに無い。
ベルタ「首輪の色が性別だと思ったけど違うの?」
獣使い「そうだ。青いのが雄で赤いのが雌だ」
アルフ「へぇ。よく気付いたな」
脳筋が改善したのかと感心するアルフ。
だがベルタの村でも首輪や鼻輪で家畜を見分け易いようにしていた経験に基づく判断だった。
ベルタ「ところでベッドが見当たらないのだけど?」
獣使い「あぁ弟子の真似をしてくれ。干草にシーツかけてその上に寝るんだ」
弟子達は部屋の隅に積まれたシーツと枕を運んで好きなところに敷いて横になっていた。
ベルタ「究極の簡易ベッドね・・・」
アルフとベルタも真似て横になる。
寝心地は思いのほか良い感じがした。
獣使い「皆横になったな。んじゃ消灯!」
だがベルタの周囲は明るい。
ベルタ「・・・ごめんなさい」
獣使い「まぁこの位なら眠れるだろう」
アルフ「むしろ眠り易いぞ。安眠効果も抜群の光だ」
獣使い「マジか。便利過ぎだな」
アルフは違和感を感じる。
弟子達が大人しく横になっているのだ。
獣使いに躾けられるタマでは無い筈。
と思っていたら獣が寄って来て覆いかぶさった。
アルフ「ぐほ。なんだ。獣が乗ってきたぞ」
ベルタ「こっちもよ。ふっこふこで気持ち良すぎて避けたくないんだけど。何なのこれ」
獣使い「布団だ」
弟子達が動かなかったのは獣を待っていたのだ。
アルフ「・・・道具扱いって酷くねぇか」
獣使い「お互い様なんだから問題ねぇだろ」
アルフ「そういうもんか。まぁこれはやばいくらいに気持ち良いわ。すぐに眠れ・・・」
ティアラの光と柔らかく暖かい獣の布団で一行はすぐに深い眠りに落ちた。
もし夜中に起きて用を足したくても獣が重くて動けないかもしれない。
ウォーン
コケー
けたたましい朝だった。
夜明けと同時に村の獣や鶏が声を上げる。
アルフ「おおう。びっくりしたけど一発で目覚めたな」
ベルタ「ぐっすり眠れたから気分も体調も快適ね。これはクセになるわ」
ベッド派のベルタも満足の一夜だった。
外へ出ると獣使いが作業していた。
先に起きてアルフ一行の旅立ちに備えていたのだ。
アルフ「快調快調。んじゃ行くか」
獣使い「ありがとな。獣医の方は村長が探しに行ってくれたわ」
ベルタ「手回し良いですね。こちらこそお世話になりました」
獣使い「あちこちに撒き餌しておいたから、しばらくは大型獣もおとなしいはずだ」
アルフ「おぉ。そいつに困ってここへ立ち寄ったんだった。言ってなかったのにすげぇ気が利くな」
おとなしい獣に慣れてしまって、大型獣への対策を考えていた事を忘れてしまっていたアルフ。
獣使い「そりゃ分かるさ。ここに来る奴は全員困るんだからさ。まぁお前らは例外だったかもだけど」
ベルタ「いえ。本当に助かります。なるべく無茶な事はしたくなかったので悩んでいたのです」
獣使いは鶏卵を三つアルフに手渡す。
獣使い「朝飯の時にこれを飲むといいぜ。産み立てのほやほやだ。丸呑みはすんなよ。割って中身だけな」
アルフ「おぉほかほかしているぞ。サンキュ。飯の時まで割れないように俺が手に持っておくか」
獣使い「旅の無事を祈る」
ベルタ「お元気で」
村を後にアルフ一行は旅を再開した。
山を越えるまで、あれだけ闊歩していた大型獣を全く見かけなかった。
食い物の力は偉大である。




