おまけ:最悪の出生
断崖絶壁に立つアルフ一行。
行く手を深い峡谷に阻まれて立ち往生していた。
アルフ「嫌なデジャブを感じる」
ベルタ「奇遇ね。あたしもだわ」
虫除けの魔アイテムを貰った時の状況と似ている。
当時はアルフが安全を軽んじていた苦い経験が脳裏をよぎる。
アルフ「ここも迂回出来ると良いのだが」
ベルタ「視界の届く範囲はダメそうね。まぁ渡るだけなら今回は安全策を使えるし」
ベルタはマアマを見やるが、アルフは周囲を観察している。
アルフが観察するのは、進む方法自体にも意義が有り得るからだ。
観察する内に異変に気付く。
アルフ「なぁ・・・対岸の森って、おかしくね? 揺れているって言うか」
ベルタ「・・・本当だ。まるで森全体が呼吸しているみたいな?」
暫く凝視しないと分からない程度だが、ゆっくり、小さく、森全体が揺れている。
何か有りそうなのは確定だ。
揺れるという事は地下に何かあるのかと崖下を観察するアルフ。
アルフ「なぁ・・・崖下の対岸に付いているのって眼じゃね?」
ベルタ「え? どこにそんなのが・・・ひ! 崖の途中から下が全部眼なのあれ? 底まで見えないわよ」
絶壁の中から眼を探そうとしても見当たらない。
途中からは絶壁自体が巨大な眼で出来ているのだ。
ガルマ「巨人だ」
岩や眼の化け物と言う訳では無く、横になった巨人が土砂に埋もれているのだ。
言葉としては理解出来るが、大きすぎて理解し難いアルフ。
アルフ「え。いや。幾ら巨人と言ってもでかすぎだろ。立ち上がったら雲を突き抜けるんじゃね」
ガルマ「地上に立つ者の中では最大級か」
アルフ「中ではって。追求するとまた訳の分かんねぇ話になりそうだな」
アルフのつっこみを平然と肯定するガルマ。
本当に雲を突き抜ける身長があるのだ。
地上に限定しなければさらに大きな者が居る事まで示唆している。
ベルタ「アルフを呼んでいるのって、まさかこの巨人さんなの?」
アルフ「いや。呼んでいるのはもっとずっと先からだな」
土砂に埋もれた状態から助けて欲しくて呼んでいたのかと察するベルタ。
だが違うようだ。
ガルマ「海で少し寝ている間に陸に埋もれてしまったらしい」
ベルタ「少し寝ている間にですか。そんな事が有り得るのですか」
ガルマ「うむ。ほんの数千年の間に大規模な地殻変動があったのだ」
つっこみどころが別次元過ぎて絶句するベルタ。
数千年は少しでは無い。
おまけに大規模な地殻変動で土砂に埋もれても目覚めないとか有り得ない。
だがマアマは次の世界の創造まで寝ている筈だったという話がある。
数千年の眠りを少しとのたまうであろう存在は初めてでは無いのだ。
つっこんでも仕方ないのだと無理矢理納得する。
ベルタ「・・・それで動けなくなってしまったのですか」
ガルマ「いや。身体の上に森が出来ていたので可愛く感じて愛でているそうだ」
強大な耐久力と長い寿命を持ちながらも優しい性格のようで安心するベルタ。
森など一朝一夕で出来るものでは無い。
自由を長期間犠牲にする苦痛は察するに余りある。
強制された訳でも無いのに自らの意思で選択したとなると極めて温厚なのであろう。
ベルタ「凄い感覚ですね。やっぱりあの森の動きって呼吸なんですね」
ガルマ「森を通る事は歓迎するが、森を害する者には注意して欲しいそうだ」
巨人の言葉を伝えるガルマ。
巨人には口も有る筈だがアルフとベルタにはそれらしい声は聞こえていない。
ベルタ「森を害する者? 人ですか」
ガルマ「森を毒で汚染して生物を石に変える危険な者だそうだ」
種は不明のようで具体的な返答は無い。
毒はともかく、石に変えるという行為は一般人にはムリそうだ。
ベルタ「ひどい。そんな奴を見かけたら当然駆除しますよ」
アルフ「お前完全に感覚が麻痺しているな。そんな化け物が出たら普通は逃げるぞ」
全く動じないどころか頼まれても居ない駆除まで言い出すベルタに引き気味のアルフ。
旅を始めた頃とは逆転している。
ベルタ「勿論駆除するのはマアマさんよ。ねー」
マアマ「ねー」
アルフ「まぁ毒の心配は無いのだろうけど。石に変えるっていうのは気になるな」
ベルタ「そうね。アルフの真似をして、物理現象だから大丈夫かなぁって考えたけど。ダメかな?」
以前教えられた、アルフの考え方を参考にしていた故に平静だったベルタ。
使い方を間違えていないかを確認する。
アルフ「いや。大丈夫だと思うのは同意だ。それでも俺は怖いけどな」
ベルタ「怖く無いと言えばウソになるけど、それ以上に許せない気持ちが強いかな。麻痺しているのかもね」
アルフ「麻痺するのは驕りが残っているからじゃねぇかな、と俺は思うけど」
ベルタ「うぅ。言われてみれば。そうよね、大丈夫だと思っても過信はダメか」
アルフ「有り得るか分かんねぇけど、生命力を奪った結果としての石化なら物理だけを防いでもダメだろうし」
ベルタ「ちょ。そうよね。見た目が物理現象だからって、それだけとは限らないのよね。確かに驕っているわ」
物理現象だから大丈夫だと考える所までは良かった。
だが物理現象だけだと確信出来る要素は何も無いのだ。
アルフ「強過ぎる力ばかりを見ているとどうしてもなぁ」
ベルタが驕ってしまうのも仕方がないと思うアルフ。
仮に生命力を奪う相手だとしても、奪われる前にマアマが相手を仕留める可能性が高い。
ベルタ「でも生命力を奪われると石化するの?」
アルフ「だから有り得るかは分かんねぇて。ただ死ぬと土に還るだろ。そういう意味で石化もあるかなと」
ベルタ「なるほどねぇ。アルフのそういう発想には感心するわ。長所だと思っても良いんじゃない」
アルフ「いや俺の長所と言うより・・・そういう事にしておくか」
ベルタが脳筋と言いかけて口を噤むアルフ。
ベルタから殴られなくなったのはアルフが学んだ事も大きい。
地響きがする。
崖の下から巨大な岩がせり上がって峡谷の橋となった。
アルフ「おぉ。峡谷が埋まったぞ。どういう仕組みだ」
ガルマ「巨人の指だ」
アルフ「崖が水みたいに削れてたぞ・・・でかさも凄いが力も硬さも半端ねぇ」
巨人の指を渡って森に入るアルフ一行。
ベルタ「流石に巨人さんの体温で地熱が凄いわね」
アルフ「年中常夏なんだろうな。ここに住むのも良いかも」
ベルタ「巨人さんが動けないでしょ」
アルフ「少し寝るだけで数千年なら俺が生きている間くらいは愛でてそうだけど」
ベルタ「あんた一人で住むなら良いかもしれないけどねぇ」
アルフ「そりゃ勘弁だな」
地面が呼吸で揺れてはいるが、人に比べて極めてゆっくりなので余り気にならない。
常時動いているせいか土は耕した田畑のように柔らかい。
森は茂り動物達も活発だ。
よく襲われるという事でもある。
アルフ「幾らでも肉が集まってくるな。今日の飯は豪勢になりそうだ」
ベルタ「でもこの森って巨人さんが愛でているんでしょ。食べちゃ不味くない」
アルフ「それは無いだろ。ここの動物も食い合ってる筈だし。弱肉強食は否定しないと思うぞ」
ベルタ「そっか。家畜とは感覚が違うのね」
森を愛でる事と動物を護る事は一致しない。
弱肉強食が成り立ってこそ森は維持出来るのだから。
アルフ「で。森を害する者ってどんな奴だろな。いきなり襲われるのは避けたいけど」
ベルタ「毒で汚染て話だから木が枯れたりしているんじゃないかな。あとは石になった生物を見かけたらかな」
アルフ「そうか。目立つ痕跡はありそうだな。この森をってくらいだからよほどデカイのか大勢居るのか」
ベルタ「近くに居たらすぐに分かりそうね」
相手の正体は不明だが、森に痕跡を残す特徴は分かっているので警戒はし易い。
10kmほど歩き続けたがひたすら森が続いてる。
アルフ「もう結構歩いたけどまだ巨人の体の上だよな。どんだけでかいんだよ」
ガルマ「目の端から耳の上辺りまで歩いたか」
アルフ「ぶ。これだけ歩いてもそれだけ? 脚を抜けるまでにどれだけかかるんだ」
ガルマ「この方角なら後頭部から降りる事になるな。残りも同じくらいの距離か」
アルフ「なるほど。抜けたい訳じゃ無いんだが、でかさに呆れるわ」
横を向いた巨人の頭部に居るようだ。
これだけ広いとなると、森を害する者には遭遇しない可能性が高い。
危険を避けたかったアルフには嬉しい状況だ。
さらにしばらく進むと森を抜けて広い砂漠になった。
アルフ「森がいきなり砂漠って。なんか不自然だな」
ベルタ「それに嫌な臭いがするわよ。砂に毒でもあるような・・・もしかして森を害する者のせい?」
森の澄んだ空気の直後なので強く感じるが、それほど強い臭いでは無い。
だが砂漠全体から立ち上る上、気分が悪くなるような異臭なので無視は出来ない。
これが砂に染みた毒のせいだとしたら極めて恐ろしい相手だ。
今後草木一本生える事を期待出来ない。
アルフ「だとしたら森を汚染なんてレベルじゃねぇぞ。森を破壊と言うか消滅と言うか」
ベルタ「これはダメね。遭遇しなくても駆除しておかないと自然を維持出来ない」
アルフとベルタは危険を冒してでも駆除が必要だと認識する。
こんな者が森の外へ出たら世界がやばい。
ベルタ「あ、でもまさか・・・」
しかしこれだけの力が有るとなれば、また神獣や精霊のような存在である可能性も高い。
ガルマに目線を送るベルタ。
ガルマ「好きにするが良い。強力ではあるが導きによるものでは無い」
ベルタ「ありがとうございます。お墨付きさえ貰えればあとはマアマさんの出番ですね」
マアマ「でばんだー」
ベルタ「手順はどうしようかな。ここなら広いし毒も問題無さそうだし。まずは賊同様に拘束して釣りますか」
アルフ「へ。マアマならどこに居ようとその場で消滅させられるんじゃね」
なるべくなら遭遇せずに済ませたいアルフ。
わざわざ目の前に釣りだす意図が掴めない。
ベルタ「説得もせずに? 正体不明なのよ」
アルフ「おぉ。確かに。話せる蛇や魚も居たもんな。何か訳有りかもか」
神獣の類では無くても、大儀があって為している可能性はあるのだ。
真意を確かめずに消してしまっては、より大きな問題を招きかねない。
ベルタ「釣った後は・・・相手次第か。じゃぁいくわよ」
ベルタがマアマを振る。
だが何も現れないように見える。
超大物か大群を想定していたので拍子抜けする。
ベルタ「あれ。不発? あたしのイメージがおかしかった?」
マアマ「あしもとー」
アルフ「蛇だ。頭になんか付いてるけど普通の蛇に見えるぞ」
掌よりは少し長いか、という程度の小さい蛇が拘束されていた。
森を砂漠に変える程の強大な力の持ち主には見えない。
だが砂漠の異臭をより強くした臭いを発しているので間違いないだろう。
掌に蛇を掬い上げて話しかけるベルタ。
ベルタ「貴方が毒を撒き散らしたの? どうしてそんな事をするの?」
蛇は威嚇するつもりなのかシャーシャー言いながら周囲を見回すのみだ。
ベルタの言葉に反応しているようには見えない。
ベルタ「ガルマさん。この蛇と意思疎通は可能なのでしょうか」
ガルマ「本能だけで動いているようだ」
ベルタ「だめかぁ。見た目は可愛いのに消しちゃうしか無いのか」
顔の前に蛇を持ち上げて見つめるベルタ。
ベルタの瞳を蛇が睨む。
その時、突如蛇が石化した。
ベルタ「きゃ。何。拘束しているのに何かしたの」
驚いて尻餅をつくベルタ。
ガルマ「視線は動かせるであろう。そやつに睨まれた者は石と化す」
とんでも無い事をさらりと言うガルマ。
そういう事は先に言えとつっこみたい所だ。
ベルタ「そういえば生物を石に変えるとおっしゃってましたね。まさか睨むだけとは。とんでも無い蛇ですね」
アルフ「俺達が無事なのはティアラの光のお陰か」
ベルタの生命力を消費して放つティアラの光は、害となる要素を全て浄化する。
物理だろうが魔法だろうが呪いだろうが関係無い。
浄化能力を上回る力を除けば確実に浄化するのだ。
物理以外に対しても有効な面はマアマに勝るとも言える。
ベルタとウンディーネの合わせ技とも言える効果だが、ベルタ自身はよく分かっていない。
ベルタ「でもどうして蛇が石になっちゃったのですか。蛇が見ていたのはあたしなんですけど」
ガルマ「お主の瞳に映った蛇に睨まれたのだ」
ティアラの光は害となるまで効果を発揮しない。
つまり反射された視線は浄化されていないのだ。
本来は蛇が相手の身体を見ただけで全身が石化する。
故に瞳で反射される事は無かった。
ベルタ「あたしが蛇を見ていたからですか」
アルフ「遂に睨むだけで魔物を倒せるようになっちまったか」
ベルタ「違うでしょ!」
結果だけを見れば合っているが、つっこまざるを得ないベルタ。
アルフが言うと本当にそうなりそうで怖い、というのもある。
アルフ「効果が石化だけだったのは良かったな」
ベルタ「本当にねぇ。生命力を奪うとかだったら危なかったかも。拘束して油断したのが驕りかぁ。難しいわ」
アルフの指摘で十分に警戒していたつもりのベルタだった。
だが拘束後に警戒を解いてしまった自覚がある。
アルフ「まぁ見るだけで石化なんて想像もしねぇわな。驕っていなくてもこれは仕方がないかもな」
ベルタ「ありがと。でも万全を期しても足りないって意識は常に持つように努力してみるわ」
今回は警戒を解かなくても同じ結果だった可能性が高い。
だが今後も同じとは限らないのだ。
人のやる事に完璧など無いのだから少なくとも決着がつくまでは警戒が必要であろう。
アルフ「でも変じゃね。蛇もティアラの光の中に居たぞ。なんで蛇の石化は浄化されないんだ」
ガルマ「ティアラの光の効果対象は消費する生命力に依存する。今はベルタが護りたい者にしか効かぬ」
そもそも浄化される側にとってはティアラの光が害である。
全てにとっての害を浄化する事は論理的に不可能なのだ。
アルフ「効果対象まで持ち主次第か。でも見知らぬ酔っ払いの酔いまで醒ましていたぞ」
ガルマ「無意識にも人を護りたいと思っておるからな。ベルタが敵意を向けていない人には効くであろう」
アルフ「ベルタの気分次第って事か。まぁその方が便利なのかな」
ベルタ「そりゃウンディーネ様の」
アルフ「はいはい」
石と化した蛇を砂の上に置くベルタ。
手がべとついているので嗅いでみる。
ベルタ「くっさ! この臭い、もしかして毒?」
ガルマ「体液である毒を常に全身から垂れ流しておったな」
ガルマの言葉で、蛇には悪意が無かった事に気付くベルタ。
そもそも本能だけで動いているのであれば悪意など有る筈が無かった。
ベルタ「何か可哀想ね。移動するだけで毒を撒き散らしちゃってたのか。しかも見た相手が石になるなんて」
アルフ「こんなのに生まれちまうのも運てやつなのかね。協調しろと言ってもムリだ」
もし自分がこの蛇として生まれていたなら一体どうしていただろう、と考えざるをえない。
ベルタ「理性は捨てちゃったのかもね。境遇が哀し過ぎて」
アルフ「そうだな。理性を残していたら正気は保てないだろうしな」
ベルタ「石になった事だし、消滅させるのはやめましょうか。せめて土に還してあげましょう」
気持ちだけの問題だが、そうせざるには居られないベルタは蛇を砂に埋める。
広大な森を犠牲にしまったのは確かだ。
だが土に還る事すら赦されないとは到底思えないのだ。
ベルタ「さて。撒き散らされた毒は消滅させたいのですが。マアマさんお願いできますか」
マアマ「どっかーん」
ベルタがマアマを振ると異臭が消えた。
ベルタ「後は自然に任せれば良いのかな」
ガルマ「巨人が礼を言っておる。痒みが取れたそうだ」
ベルタ「痒みって毒のせいかな。森を砂漠に変える程の毒なんですがね・・・」
巨人の皮膚が強いのか鈍いのか判断し難いベルタ。
大規模な地殻変動でも目覚めない巨人に痒みを与えたのだから相応なのか。
アルフ「巨人て亜人なんだろ。直接しゃべれないのか」
言葉を話せぬ蛇や魚ならともかく、巨人がガルマを仲介する理由が分からないアルフ。
ガルマ「口を開くだけでも大地震になって森は崩れ落ちよう」
アルフ「おおぅ。森を気遣っているのか。優しさもでけぇな」
顔に森が載っているとなると口の動きはかなり大きく影響するであろう。
発声による振動も無視できない大きさになる可能性がある。
だからと言って強制されても居ないのにそこまで我慢するとは思ってもみなかったアルフ。
ベルタ「蛇も助けてあげたかったのかな」
アルフ「注意しろとしか言ってなかったしな」
ガルマ「気にするな。巨人にも救えなかったのだ」
巨人も実質一人だ。
蛇の辛さを理解して哀れんでいた。
自身は周囲に害を撒き散らさずに協調出来るのだから、蛇よりも恵まれているとすら思っていた。
故にガルマが来たにも関わらず、愛でている森を侵食されていても、駆除を頼まなかったのだ。
だが駆除された事を恨んでは居ない。
余りにも危険であり、今後の犠牲の拡大を考えれば仕方が無い事だと理解していた。
複雑な心境で駆除への礼は言えず、痒みが取れたと婉曲に礼を述べていた。
砂漠を進むアルフ一行。
時折動物の石像が墓標のように立っている。
アルフ「石化している動物は、もう死んでいるのかな」
ガルマ「石化直後なら助けられたであろうがな。砂漠化前からの物だ。既に意思は霧散しておる」
ベルタ「助かるとしても身体が欠けているのばかりで痛々しいのよ」
今にも動き出しそうな石像は助けられそうにも見えるが既に遅かった。
アルフ「それはえぐいな。安らかに逝けたならまだ良いんだが」
ガルマ「最も楽な死に方をしている。何も気付かぬ内に即死していたであろう」
アルフ「せめてもの救いか」
弱肉強食の世界で、生きながらに食われる思いをせずに逝けた事は幸せなのかもしれない。
砂漠を抜けて再び森に入るアルフ一行。
やはり森の中は生物の楽園の様相だ。
アルフ「肉だらけなのは良いけどさ。こう襲われっぱなしだと飯を食う場所がねぇな」
ベルタ「お昼時か。マアマさんにバリアをお願いしましょうか」
マアマ「おっけー」
ベルタがマアマを振る。
バリアが形成され、ついでに果物や野草が集められた。
ベルタ「肉は襲ってきた獣を罠アイテムで捕獲した分で足りるわよね」
アルフ「おう十分だ。肉食の獣はあんま美味くねぇんだが、なんかここのは美味そうに見える」
ベルタ「見た目で味なんて分かるの。あたしには肉付きの良し悪しくらいしか分からないわ」
アルフ「なんとなくだ。本当に美味いかは食ってみないと分からないから捌いてくれ」
ベルタ「はいはい」
手際よく肉を捌くベルタ。
マアマに任せても良いのだが、任せきりだと捌き方を忘れてしまいかねない。
襲ってきた獣を捌くときは自身でやる事にしていた。
ベルタの捌いた肉を焼いてかぶりつくアルフ。
アルフ「おぉ! ジューシー! 王都の肉に匹敵するかも」
ベルタ「うそぉ。王都の食材にはノーム様の恩恵があるのよ」
アルフの言葉を素直には信じ難いベルタ。
アルフが味にうるさい事は知っているが、巨人の上に在るというだけでノーム相当の恩恵が得られるものかと。
ガルマ「巨人の皮脂・汗・体温で養分・水分・温度が維持されている上に常に呼吸で耕している状態だからな」
植物は栽培されているに等しい状態である事を説明するガルマ。
巨人の代謝が人手の代わりになっているのだ。
試しに果物を齧って納得するベルタ。
甲乙つけ難い最高の旨みが口の中に広がる。
ベルタ「巨人さんも凄い。本当にノーム様の恩恵に匹敵しているわ」
上質な食材を堪能して一服する。
アルフ「やっぱここに村を作れたら最高なんだけどな」
ベルタ「村を作ると何代も住む事になるでしょうからさすがにねぇ」
アルフ「だな。水も肥料も要らないし耕さなくて良いから農耕も楽そうなんだが」
ベルタ「農耕は難しいかな。獣害や虫害を防ぐには屋内栽培しか無さそうだし。揺れるから建物はねぇ」
狩りや収穫には最高の環境だが、農耕や畜産には他所が良いだろう。
アルフ「そうか虫も居るんだったな。虫避けのせいで忘れてたわ」
ベルタ「魅力は認めるけど巨人さんの大事な森だしね。そもそも顔に住もうなんて失礼過ぎるわ」
アルフ「なら食うもん食ったし行くか」
森の出口に到達するアルフ一行。
やはり深い峡谷になっているが、ガルマの言う通り後頭部なので髪に土砂が積もって橋となっていた。
巨人の森を後にアルフ一行は旅を続ける。




