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あたしのせいじゃなーい  作者: わかいんだー
本章~ファンタジックな旅の日常~
34/52

おまけ:力の蛇口

暖かい日差しの下、街道を進むアルフ一行。

あくびをしながらアルフが呟く。


アルフ「こう気持ちが良い天気だと一日中寝っ転がっていたくなるよな」

ベルタ「こんな日に運動しないで何時するのよ」

アルフ「いや気分の話な。運動するなら涼しい方が良いかな」

ベルタ「汗を掻くくらいの陽気の方が動き易くて良いと思うけどな。暑過ぎるとダメだけど」

アルフ「こう、いきなり冬になって一面銀世界とかになったら寒いから運動するかもな」

ベルタ「あんた冬の間は暖房の前で震えてたじゃない・・・」

アルフ「そうだっけ」


冬の景色を思い出すアルフとベルタ。

その記憶をなぞるように前方の景色が凄まじい勢いで白くなっていく。


アルフ「なんだ」

ベルタ「こっちに来そうじゃない」


言い終わる頃にはアルフの目の前までが真っ白になっていた。

前方一面が銀世界である。


アルフ「どわ」


驚いて尻餅をつくアルフ。

白くなった道を足で突いてみる。


アルフ「これ、凍ってるんじゃね」

ベルタ「ちょ。大変じゃない。何かの事故かしら」


ベルタはガルマを見るが、やはり平然としている。

街道上では多くの人が凍り付いているのが見える。

即座に解凍すべきであろうが、驕りではないかとの懸念が拭えない。


ベルタ「ガルマさん。これは神罰の類なのでしょうか。マアマさんに頼んで救ってはいけませんか」

ガルマ「好きにするが良い。人の起こした事故だ」

ベルタ「ありがとうございます」


人の起こした事故と言われて形容し難い気持ちになりながらマアマを構えるベルタ。

マアマを使っても問題にならないであろう事は嬉しい。

だが一帯を凍結させるような兵器を人が開発しているとしたら問題だ。

いや事故なら兵器では無い可能性もあるか。


ベルタ「マアマさんお願い。今の事故に因る凍結を解除して助けてあげて」

マアマ「おっけー」


ベルタがマアマを振ると一瞬で景色が戻る。

バランスを崩して倒れる人も見える。


ベルタ「心臓とかが止まったままの人が居るかもしれないから蘇生しないと」


自分の足で見て周るべきか、マアマに頼むべきか。

足で周るには余りに広範囲だし、頼むとしても物理専門のマアマにどう頼めば良いのか。


マアマ「だいじょうぶー」


考えを整理しようとするベルタにマアマは即答する。


ベルタ「え。蘇生までしてくれたの」

マアマ「凍結解除してからー、助けたー」

ベルタ「あぁ。凍結解除と助けるのを分けて捉えたのね。今回は良かったけど気をつけないと怖いわね」

マアマ「あはははは」


未だ街道に倒れている人は見当たらない。

戸惑っている者は居るが支障は無いようだ。

一息つくベルタにアルフがつっこむ。


アルフ「まだ解決はしていねぇぞ。首謀者をほっといたら、またやらかすんじゃね」

ベルタ「そうね。マアマさん、いつもの捕縛をここにお願いね」

マアマ「どっかーん」


ベルタがマアマを振ると、サイボーグと冒険者らしき一行が拘束されて現れた。


冒険者A「くそー。動けねー。捕まっちまったか」

冒険者B「うそぉ。防御結界は維持してたわよ。どんな術式よ」

冒険者C「てぇかココどこだよ。ボス部屋じゃねぇぞ」

冒険者D「ボスも目の前に拘束されているようですね。第三勢力が介入したようです」

冒険者A「んだとぉ! どこのクソボケが・・・」


ガルマを見て一斉に沈黙する冒険者一行。

サイボーグは観念したように黙ったままだ。


仁王立ちのベルタが鬼の如き形相で告げる。


ベルタ「じゃあ説明してもらえるかしら」

アルフ「いや、はしょりすぎだろ。こいつら状況分かってねぇぞ」


まず説明が欲しいのは捕らえられた方だろう、とつっこむアルフ。

怒りと慣れでベルタは配慮が飛んでしまっていた。


研究者「ワタクシハ マドウキノ ケンキュウヲ シテオリマシタ」


まるで状況を把握しているかのように、落ち着いた様子でサイボーグは研究者を名乗った。


アルフ「おぉ。何か変な声でしゃべった」

研究者「モウシワケナイ  ハツオン ソウチハ テキトウニ ツクッテ シマイマシタ」


研究に没頭するから会話機能はどうでも良いと言う事か。

研究者側で捕らえられたのが一人だけである事が裏付けている。


ベルタ「研究が失敗して凍結事故になったの?」

研究者「カレラガ ケンキュウショノ ゾウフクキニ トウケツノ マホウヲ ウチコンダノ デス」


増幅器に撃ち込まれた凍結魔法の効果が拡散してしまったのだ。

効果がアルフ一行に届く寸前で、マアマが増幅器を消滅させていた。

増幅器の発動が偶発的であったため、首謀者の処分は保留されていた。


ベルタ「あんた達は何でそんな事をしたの」

冒険者A「え。話が見えないんだけど」

ベルタ「あんた達が撃った凍結魔法が増幅されて、この辺りが広範囲に凍結されていたのよ」

冒険者A「え。迷宮のボス部屋に入ったら、やばそうな装置が見えたから、咄嗟に仲間に凍結させたんだけど」


緊張と混乱の中でベルタの問いに答えようとする冒険者のリーダー格。

事故を起こした自覚も、研究所に踏み入った認識も無く、迷宮を攻略していたつもりらしい。

迷宮のボス部屋で放った凍結魔法が、何故か研究所の増幅器に当たった、という事になる。


ベルタ「迷宮のボス部屋? 研究者さんは研究所で撃たれたのよね? 話が合わないわよ」

研究者「マホウノ ヒトクノ タメ ケンキュウショノ イリグチヲ メイキュウカ シテイマス」


唖然とするベルタ。

迷宮は点在しているが、研究所が作っているなどとは聞いた事が無い。


ベルタ「秘匿は分かるけど。警備兵さんとかに頼めなかったの」

研究者「ケイビヘイモ ヒトデ アリ ヒトクノ タイショウト ナリマス」

ベルタ「あぁ。王都やダメ領主の所にもダメな警備兵は居たわね。その可能性を踏まえて迷宮化か」

アルフ「まさに事故だな」


迷宮の存在意義は判明した。

だが内部が迷宮化されているとは言え、冒険者が研究所に侵入する事が許される訳が無い。


ベルタ「それにしても表向きは研究所なんでしょ。何で攻略に入ったのよ」

冒険者A「えぇ? 入口は廃墟だったぜ。あれを研究所と言われてもなぁ」

研究者「ソトヘ デル ヒツヨウガ ナイノデ スウヒャクネン ホウチ シテオリマシタ」

アルフ「どっちもどっちだな」


冒険者は全く気付いていなかった様子で驚いている。

とは言え、驚いているのは一人だけで、連れからは白い目で見られているような感じだ。


研究者も入口が荒れて廃墟同然になっている事は認識していた。


冒険者A「俺達以外にも大勢入り込んでいるぜ」

ベルタ「大勢って。そんなに広いの」

冒険者A「100階層くらいはあったか」

冒険者D「15階層です」


リーダー格のボケっぷりに耐え切れなくなったのか連れがつっこむ。

冒険者のリーダー格はアルフ以上の能天気かもしれない。

100階層もあったと錯覚するほど攻略に苦労していたのではあろうが。


ベルタ「迷宮に挑んだ目的は?」

冒険者A「すげぇ力が手に入るって噂だ」

ベルタ「間違ってはいないわね」


纏めると双方共に事実を話しており、犯意も無いようだ。

ただの事故であり、牢へ送るような事件では無い、とベルタは判断する。


ベルタ「でも手に入れちゃいけない力なのよ。とりあえずその迷宮に入っている人は全部連れてきましょう」


ベルタがマアマを振るとさらに50人程現れた。

ベルタが手を叩いて叫ぶ。


ベルタ「皆さん静かに。皆さんを拘束して迷宮から連れ出したのはあたしです。これから説明します」


迷宮が研究所である事をベルタは説明する。

勝手に侵入してはならないのだと。


盗賊「あぁ? ボスが研究者だろうが何だろうが迷宮にあるもんは踏破した奴のもんだろうが」


盗賊が混じっていた。

拘束された状態で、しかも竜人を前に言えるのは或る意味凄いのかも知れない。


ベルタ「他にも同じ考えの方はおられますか?」


言葉遣いは優しいが、ベルタの冷たくなった口調に場が静まる。

ベルタがマアマを振ると盗賊は王都の牢へ送られた。

拘束された冒険者達には消されたようにしか見えず息を呑む。


ベルタ「じゃぁ、研究者さんは入口の整備を維持する。装置の暴発には万全を期すって事で良いかしら」

研究者「キモニ メイジマス  ア キモガ ナイ  エート ジンリョクヲ チカイマス」


生真面目なのか、どうでも良い事をわざわざ言い直す研究者。


ベルタ「冒険者さん達は研究所には立ち入らないようにお願いしますね」

冒険者一同「ハイ」

アルフ「みんな変な声になってるぞ」


冒険者の殆どはベルタが噂の主である事に気付いている。

盗賊が消されたのを目の当たりにして、下手に喋れば消されるか食われるとの恐怖に囚われていた。


ベルタがマアマを振るとその場の全員の拘束が解ける。


ベルタ「拘束は解きました。ここで解散にします」


ベルタの言葉を確認して蜘蛛の子を散らすように退散する冒険者達。


冒険者A「だー。折角ボス部屋まで攻略したのに骨折り損かよ」

冒険者D「ついていましたよ。ベルタに拘束されながらも解放されたのですから」


目的達成の直前で妨害されて気が収まらないリーダー格の冒険者。

冷静そうな連れが呆れながら慰めている。


冒険者A「ベ、ベルタ!? こいつが?」

ベルタ「何よ。あたしの事知っているの?」

冒険者A「あ、いえ。お噂はかねがね・・・」

冒険者D「竜人様が一緒の時点で気付いて下さいよ。他の冒険者はもう瞬間帰還器で逃げていますよ」


残っている冒険者は二人だけだった。

ようやく状況を把握するリーダー格の冒険者。


冒険者A「げ。あいつらまで逃げたのか。んじゃ俺も失礼します」

冒険者D「ベルタの噂は英雄説の方が正しそうですね。真相に近づけたのは収穫でした。では私も失礼」

ベルタ「ちょっと、噂って」


リーダー格の冒険者の冒険者が飛ぶのを確認してすぐに連れも瞬間帰還器で去った。


研究者「ザンネンナガラ ワタクシメハ ゾンジマセン」


逃げる必要が無い事を理解しているのか研究者は終始落ち着いた様子だ。


ベルタ「英雄説って何? ウンディーネ様のティアラの光で有名になっているだけじゃなかったの」

アルフ「研究者さんも知らないくらいだし大した事無いって。気にすんな」


話題逸らしを兼ねて研究者に話を振るアルフ。


アルフ「研究者さんは研究所に戻るのか。ここがどこか分かるか? 歩いて戻れるかい」


前方に見える範囲が全て白くなっていたので、研究所はかなり遠いかもしれない。


研究者「マズハ オウトヘ ムカイマス  オウニ セツメイヲ シナケレバ」


王に相談すると言うのであれば心配は無い様子。

国家絡みの施設であれば研究所にも拠点は在りそうだ。


アルフ「数百年振りじゃ王様も代わっていそうだな」

研究者「ツウシンハ シテオリマシタ」


アルフ一行に対して落ち着いてるのは、過去に王から話を聞いていたのだ。


アルフ「なるほど。あの王様が知っている研究なら問題は無さそうだな」

ベルタ「そうね。増幅器って凄く危険そうだけど。突然乱入される事までは想定していなかったか」

研究者「メンボクナイ  ナガイアイダ コウリャク サレナカッタノデ ユダン シタ ヨウデス」


数百年も攻略されなかった迷宮であればサイボーグと言えど警戒が緩んでしまったようだ。


研究者「モシ トメテ イタダカナケレバ ジバク シナケレバ ナラナイ トコロデシタ」


問題大有りだった。

万一の時は研究成果を土に還す手筈を整えていた王なのだ。

配下もそれに順ずるのは当然だった。


ベルタ「ちょ。迷宮を攻略している人達も巻き添えですか。そんな対処はダメですよ」

研究者「セカイノ キキニ チョッケツスル ケンキュウ ナノデス」

ベルタ「そんなのを単独で研究する事自体がムリなんじゃないの」

研究者「ハイ アサハカ デシタ」


反省はしているようである。

同じ過ちは冒さないであろうが、単独研究は秘匿の為とすれば安直に人も増やせない。


アルフ「王様に相談するなら大丈夫だろ。すげぇ心配性だし」

ベルタ「今はノーム様がいらっしゃるから研究所を移す可能性もありそうね」

研究者「ワタクシメモ ソウ オモイマス」


研究者も研究所の移設を考えているようだ。

場所にこだわらないのであればノームの助力で十分な差配を期待出来る。


アルフ「んじゃ俺達は行くぜ。研究者さんもめげんなよ」

研究者「ハ アリガトウ ゴザイマス  デハ ワタクシメモ シツレイ シマス」


質問が無くなった事を確認した上で、研究者も瞬間帰還器で飛び去った。


アルフ「罠アイテムもそうだったけど。研究機関て王都の外にも結構在るんだな」

ベルタ「そうね。多分ノーム様に協力して頂く前から在る施設はそのまま使っているのでしょうね」

アルフ「研究だと途中で中断して場所を移すのも大変そうだしな」

ベルタ「それにしても秘匿の為に迷宮を作るなんてねぇ。国家経営の魔物の巣よ。信じられない」


排除すべき対象を使役していたという事実を受け入れ難いベルタ。

毒をもって毒を制すと言う事か。


アルフ「実際に見てみないと断言は出来ないけどさ。侵入者を殺さずに排除するようにはしているんじゃね」

ベルタ「まるでアトラクションね。それであんなに冒険者が集まっていたのかな」


しばらく進むと遺跡のような場所に警備兵と作業員が集まっていた。

アルフ一行に気付いた警備兵は敬礼している。


アルフ「研究所ってこれかな」

ベルタ「対応が早いわね。王様らしいわ」


確かに研究所には見えない様相だ。

看板らしきものも残ってはいるが廃墟にしか見えない。

冒険者が気付かずに侵入する事も頷けた。


アルフ「確かに見た目はアレだけど。街道沿いに迷宮なんて怪しいと思えよと」

ベルタ「あはは。そうよね。こんなのまで在るとなると、一口に迷宮と言っても目的は色々ありそうね」

アルフ「折角だし、さっきの話を確認しておくか」


警備兵に近づいて話しかけるアルフ。


アルフ「兄ちゃん。ここって研究所の入口の迷宮だよな」

警備兵「は。先ほど皆様に救っていただいた研究所です」

アルフ「入口は迷宮なんだろ。魔物は侵入者を襲うのか」

警備兵「は。一階は誤って入った者を追い返す威嚇のみ。二階は瞬間帰還器を取り付けて強制送還、三階は」

アルフ「あぁ。分かった。ありがとう。やっぱそういう事か」

ベルタ「流石にこれは攻略中に気付いて欲しいわね」


迷宮の魔物はアルフの予想通りの仕様だった。

他の迷宮を経験している冒険者であれば、まともな施設である事に気付いて然るべきだろう。


アルフ「結局この研究所はどうするんだ」

警備兵「は。設備を移して閉鎖します。秘匿すべき装置が消滅したので良い機会と判断されました」


早くも移設が決まっていた。

増幅器の移設が困難故に維持されていた施設だった。

その増幅器を綺麗さっぱり消されてしまったので憂いも無くなったのだ。


アルフ「消滅? マアマか」

マアマ「あはははは」

ガルマ「魔法はマアマの管轄外だからな。物質である発生源を消滅させるであろうな」

ベルタ「研究者さんが消されてなくて、まだ良かったと思えますね」


ベルタの何気ない一言で凍りつく警備兵。

国家の重鎮が消されていた可能性を事も無げに言われては、どんな顔をすれば良いかも分からない。


凍りついた警備兵を突くアルフ。


アルフ「ベルタの凍結攻撃も強力だな」

ベルタ「あんた、時々訳の分からない事を言うわよね」

アルフ「作業の邪魔になるだろうし行くか。兄ちゃん、がんばってな」

警備兵「は。事故の被害を抑えていただき、ありがとうございました」



研究所を後にして、アルフを先導に歩きながらベルタが懸念を告げる。


ベルタ「大事な事を見落としていたわ。冒険者が凍結魔法なんて使えて良いの?」


冒険者がどこで学んだのかも気になるが、あちこちでぶっぱなしていては秘匿にならないと思うベルタ。


アルフ「知らね。国家から通行証を作れる権利とかを貰えるような冒険者なら教えられるのかもな」

ベルタ「有名な冒険者だったって事か。だったら研究所かどうかはすぐに気付きそうなものだけど」


有名な冒険者にしてはあまりにも間が抜けているとしか思えなかった。


アルフ「仲間は優秀そうだったけどリーダーぽいのが微妙だったから押しきられたんじゃね」

ベルタ「・・・15階層を100階層とか言ってた人か。あんな人に秘匿なんて出来るのかしら」

アルフ「さぁな。実際に事故が発生したんだから、王様が対策するだろ」

ベルタ「あたしが心配する事じゃないか」


今回のような事故や事件を起こさない為の秘匿である。

事故が起きた以上は対策せねばならないだろうが、アルフ一行に責のある話では無い。


アルフ「でもベルタがたまたまここに居なかったらどうなってたんだ。研究者の自爆か」

ガルマ「攻撃した冒険者は防御結界で護られておった。自爆より先に増幅器を破壊したであろうな」

アルフ「もう少し被害が広がってからで、凍結した場所は放置って事か。かなり死人が出ただろうな」

ベルタ「やっぱり魔法って危険なのねぇ。マアマさんみたいに抑制する意思が付いてくれると良いのだけど」

マアマ「えっへん」


何の冗談だと言わぬばかりに振り向くアルフ。


アルフ「抑制? マアマが? まぁ力の大きさの割りには抑制していると言えるのか・・・?」

ベルタ「何となくだけど。最近少し、ガルマさんやマアマさんが力の抑制に苦労しているのが分かるのよね」

アルフ「へぇ?」

ベルタ「麒麟様の時に驕りを自覚してからさ。マアマさんの力を過剰に出しそうで怖くてしょうがないのよ」

アルフ「過剰ねぇ。俺の場合は足りない方が多いからなぁ」


ベルタは筋力が溢れているから分かるのかなと思うアルフ。


だがそういう話では無い事を説明しようとするベルタ。

自身でも明確に理解している訳では無いので説明に苦慮する。


ベルタ「人とは力の出し方が根本的に違うと思うのよ。あたし達は力を使いたい時に力を込めるじゃない」

アルフ「そりゃそうだ」

ベルタ「ガルマさんやマアマさんは、普段から抑えるのに大変で、使う時に抑えを緩める感じじゃないかな?」

アルフ「そうなの?」


分からない事を説明しようとしても、やはり分からない説明になる。

察したアルフはガルマに振る。


ガルマ「近いな。だが抑えるのが大変な訳では無い。力を少しだけ出すのが難しい」

アルフ「俺が知っているような物事で例えられないかな」

ガルマ「ふむ。力を水に例えるなら、海溝の底に付けた蛇口を捻ってコップに水を注ぐようなものか」

アルフ「水圧で蛇口がクソ硬い上に、ちょっと捻っただけで凄い勢いで噴出すからコップから溢れるって事か」


アルフとベルタはイメージを掴む。

人とは違い、むしろ全力を出し続ける方が楽なのだ。


ベルタ「筋力とは力の使い方が逆なんですよね」

アルフ「確かにそりゃ難しいし怖いな。だから力を加えて出す方向で世界を作ったのか」

マアマ「えっへん」


様々な試行錯誤を経て創られた世界だが、筋力の制御方法は竜力の逆になっている。

あまりにも扱いが難しく、未成熟な生物では己が身をも滅ぼしてしまうからだ。


ベルタ「魔法は力が大きい割りに人が直接使えちゃうから問題になり易いのよね」

アルフ「制御手段が確立すれば秘匿しなくて済むようになるか。それは研究されていそうな気もするな」

ベルタ「そうね。その過程が魔アイテムなんでしょうね」


秘匿は利益独占の為では無く秩序維持の為である。

その為に可能な限り魔法を活用しようと魔アイテムが生み出されている。

ならば秘匿しなくて済むように制御する研究も進められている筈である。


アルフ「なら大丈夫そうな気がするな。魔アイテム以外の魔法は禁止するフィールドとか作りそうじゃね」

ベルタ「あぁ。緩衝フィールドは凄かったわね。あんな感じで世界の魔法を防げるなら秘匿不要に出来るわね」

アルフ「魔法封じの結界なんてのもあったし。完成も近いんじゃね」

ベルタ「あれは効いてなかったじゃない」

アルフ「まぁ魔アイテムで制限出来ているなら封じる理屈は分かっていそうじゃん。期待してほっとこう」

ベルタ「結局あんたは、ほっときたいだけなんでしょ。まぁいいけどね。ここで議論しても仕方ないし」


アルフ一行は旅を続ける。



国家から冒険者に伝えられる魔法は、研究結果のみであり過程は省かれる。

冒険者に使えはしても原理は分からないので他の魔法に応用は出来ないのだ。

それにより、脅威となるような高位の魔法への派生を秘匿している。

今回の事故は増幅器の秘匿の失敗に因る被害なので、冒険者への伝授は余り問題視されなかった。


魔法封じのフィールドは研究対象ではあるものの全く進んでいない。

魔法自体が研究段階である為、今後の研究次第でどう化けるか分からないのだから封じようが無い。

秘匿は当面続けるしか無い見通しだ。


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