おまけ:食われたい者
深い霧の森を進むアルフ一行。
呼ばれる方向をアルフが特定出来なければ確実に迷いそうだ。
視界が利かないだけで無く、進行を阻み迷わせるかのように入り組んだ地形になっている。
反面、崖や滑る坂のような危険な地形は無く、獣も襲ってこない。
おまけに戻るのは楽な地形で、障害物を避けていれば自然に戻ってしまう。
何かを隠す為の結界とも思えるが、何も見つからないままに霧の森を抜ける。
抜けた先は林になっていた。
見通しが良く鳥は多いようだが獣は見当たらない。
しばらく進むと獣の大物が待ち構えていた。
アルフ「あれのせいで獣が少ないのかな。罠アイテムじゃきつそうだな」
ベルタ「なら構えておきますか」
グアァアアア
突然細い角を生やして吼える獣。
アルフ「おぉ! 変身か? 角が生えたぞ」
ベルタ「あれ、額に矢を射ち込まれたんじゃない?」
狩人「なんだ? 人か?」
上から声がする。
見上げると木の枝の上からアルフ一行に向って弓を構えている者が居た。
アルフ「おぉ。狩人か」
ベルタ「人ですよ。矢は結構です」
手を振って応えるベルタを見て弓を下げる狩人。
狩人「わりぃ。ここで人に遭うとは思って無かったんでな」
アルフ「やっぱ弓は、かっけー」
ベルタ「上手い人は流石ね。罠アイテムじゃ厳しそうな大物を一発で倒すなんて」
狩人は獣にトドメを刺してから飛び降りる。
弓を背負ってアルフ一行に話しかけながら歩いて近づく。
驚きと心配が混じったような顔だ。
狩人「お前ら、どうやってここへ。親子三人でハイキングに来れるような場所じゃ・・・どわ! 竜人様!?」
アルフ「ガルマさんは俺の旅に付き合ってくれてるんだ。優しいから警戒しなくても大丈夫だぞ」
ガルマに気付いて妙なポーズで硬直する狩人にアルフがフォローする。
ベルタの噂は知らない様子だ。
狩人「お、おぉ。竜人様が一緒なら魔獣も心配する事はねぇか」
アルフ「魔獣? なんだそりゃ。魔法を使う獣がいるのか」
一般に魔獣という言葉は存在していない。
様々な魔物が存在しているが、魔獣と呼ばれる種は知られていないのだ。
狩人「いや。この辺りにだけ居る獣のミュータントなのかな? 妙に強力で狂ってるから魔獣と呼ばれている」
アルフ「さっき倒した獣がそうか?」
狩人「これは普通の獣だ。魔獣も外見は同じだが簡単には倒せない」
先ほどの大物も強力そうではあった。
魔獣はさらに上となるとアルフでは対応出来ない。
ベルタ「外見が同じなら堕ちた獣って意味かな。それなら狂うのは分かるけど強力にはならないか」
狩人「多分マンドレイクのせいだろうけど。詳しい原因は分からねぇ」
アルフ「そのマンドレイクって奴に直接聞けば良いんじゃねぇの」
狩人「マンドレイクは植物だ。食った獣や、さらにその獣を食った獣が食物連鎖でおかしくなるのかなぁと」
ベルタ「そう思わせるような力を持った植物という事ですね」
狩人「あぁ。錬金術の材料として集めに来る奴も居るからな。不老不死の力が在るとか何とか」
納得するアルフとベルタ。
錬金術の信じ難い力は目の当たりにしている。
その触媒の材料ともなれば相応の力が篭っているのであろう。
獣が食べればおかしくなっても不思議は無い。
アルフ「おぉ。あの力の材料か。なら凄そうだな。マンドレイクってどれだ」
狩人「ここら辺にも生えてはいる筈だが、探すのは面倒なんだよな。抜けたのなら小屋にあるが見に来るか?」
アルフ「行く行く」
ベルタ「もう。すぐに寄り道するんだから」
アルフ「この出会いにも意味があるのかも知れねぇぞ」
ベルタ「気にはなるけどねぇ」
狩人「少し待ってくれな」
弓にも錬金術にも興味が有るアルフは即答する。
マンドレイクの効能次第では旅で使える可能性もある。
狩人は獣の肉をざっくりと切り取って担ぐ。
脚一本とモモ肉程度か。
狩人「んじゃ案内するわ」
アルフ「あれ。肉はそれだけしか持って帰らないのか」
狩人「こんなの全部持てる訳ねぇだろ。毛皮剥ぐ道具も持ってきてねぇし」
ベルタ「じゃぁあたしが運ぶわね」
狩人「へ」
テープで簡単に止血してから獣をリュックの上に放り投げるベルタ。
ベルタ「お待たせしました。行きましょう」
狩人「お、おぉ・・・」
ベルタの怪力に驚愕する狩人。
大人の自分が全力でも持ち上がらないような獣を片手で放り投げて担いでいるのだ。
普通そうなアルフに小声で問いかける。
狩人「竜人様だけじゃなくて、お前らも普通じゃねぇの? もしかして俺ピンチ?」
アルフ「いや襲ったりはしねぇぞ。ガルマさんの加護で護られているから普通よりは強いだろうけど」
狩人「加護ねぇ。やっぱ竜人様ってすげぇな」
狩人は素直に納得する。
ベルタの筋力が特別な事は伏せるアルフ。
ばらした事をばれた時が怖いと学んでいた。
狩人の小屋に着く一行。
他に建物は見当たらず一人で住んでいるようだ。
アルフ「兄ちゃんは一人でこんな所に住んでいるのか」
狩人「あぁ。家は追い出されてな」
ベルタ「家族を追い出すなんてありえないでしょ! あたしが話し合うわ」
突然怒鳴りだすベルタ。
ベルタにとって家族とは最も信頼出来る最愛の存在だ。
それを追い出すなど正気の沙汰とは思えなかった。
ベルタの反応に慌てる狩人。
現状で危険人物に見えるベルタを家族には会わせたくない。
狩人「早合点すんな。喧嘩した訳じゃねぇ。独り立ちの練習みたいなもんだ」
ベルタ「そんなの教えてもらえばいいじゃない」
狩人「教えてもらったさ。でも実際に独りで暮らしてみないと漏れがあっても分からないだろ」
ベルタ「なるほど。親子で納得しているのなら良いのかな」
狩人「親がいつ死んでもおかしくない仕事だからな。独りで生きていけるかの確認が大事なんだ」
ベルタ「獣相手ですもんねぇ。納得しました」
狩人は獣相手の職業なので危険が高い。
弓を使うには軽装にせざるを得ず、獣に不意を突かれた時の存命率は低い。
出会った時の大物に加え、魔獣まで居る地域となれば覚悟の備えも重要になろう。
ベルタの育った環境とは違うのだと理解した。
ベルタ「獣と言えば運んできた獣は何処に置きましょう」
狩人「あぁ助かったよ。小屋の脇の日陰に置いてくれるかな。折角だし焼くから食っていってくれ」
アルフ「おぉ! 食うのは任せろ」
ベルタ「では肉はあたしが捌きましょう。その間に調理の準備をお願いできますか」
狩人「おう。手伝ってもらえるなんて久しぶりだ」
アルフはやる事が無いので周囲を見回す。
小屋の隅に気味の悪い物が積み上げられている事に気付く。
アルフ「なんだこりゃ。小人のミイラ?」
ベルタ「うそ。山積みされているわよ。一体何があったのよ」
狩人「それがマンドレイクという薬草だ」
よく見ると人型の人参のような物か。
触感も植物の根のようだ。
アルフ「これかよ。変な形した植物だな。人みたいだぞ。美味いのか」
狩人「死ぬ程美味いのかもな。死ぬ前に天国が見えるって話だし」
思わず手にしたマンドレイクを放り投げるアルフ。
アルフ「毒かよ。何でそんなもん集めてんだ」
狩人「毒を抽出して矢に塗るんだ。かすっただけでも効果が出るし、矢が効き辛い大型に有効だ」
顔を見合わせるアルフとベルタ。
ティアラの光は積み上げられたマンドレイクにも届いている。
アルフ「・・・て事は毒の効果が消えると不味いよな」
狩人「そりゃそうだが。触ったくらいで消えやしねぇよ」
ベルタ「もう遅いかも」
狩人「何が」
ベルタ「あたしの周囲の光。これは毒とかを浄化するのです」
狩人「ぶ。まじかよ」
狩人はティアラの光を照明程度に思っていたので驚く。
だがここではマンドレイクは貴重でも無いので嘆いてはいない。
ガルマ「その光は害となる要素を浄化する、と言ったであろう。害となるかどうかは状況による」
ベルタ「身体に付くまでは浄化されないのですか。なんともはや・・・」
薬も過ぎれば毒となる。
同じ物でも害が発生するかどうかは状況に依存するのだ。
そこまで見てから浄化する仕組みにベルタも呆れて言葉を失う。
狩人「一応試しておくか。よっと」
梁に居たねずみに毒矢をかすらせる狩人。
ねずみは落ちて痙攣している。
狩人「大丈夫みたいだぜ。効いているわ」
アルフ「毒で死んだ獲物って食っても大丈夫なのか」
獣を狩るのは主に食用だ。
毒で汚染した肉を食えるのかが気になるアルフ。
狩人「水洗いしてから焼いて食ってる分には大丈夫みたいだな。生で食うならやばいんじゃね」
アルフ「あんまり食いたくねぇな」
狩人「まぁ毒矢を使うのは主に大型獣を駆除する時だ。食用の獣相手では使ってねぇ」
毒が問題にはなっていないが常用もしていないと言う狩人。
場合によっては軍隊すら出動する大型獣の場合、矢のダメージのみで仕留める事は難しい。
だがマンドレイクの毒は幻覚や幻聴を生じさせ、麻痺効果も有るので極めて有効なのだ。
アルフ「あれ? ねずみが居なくなってるぞ。獣が来て食われたのか?」
狩人「かすっただけだから回復して逃げたんだろ。死ぬ事もあるけど致死性はそれほど高く無い毒だ」
アルフ「一時的に痙攣させて行動不能にするだけか。確実に殺してしまうより便利かも」
狩人「効果は獣によって違いがあるから便利と言えるかは微妙だがな。幻覚や幻聴を起こすらしい」
アルフ「天国が見えるってそういう事か。むしろ地獄が見えそうだけど」
毒の効果に感心するアルフ。
ねずみとは言え、かすっただけで一時的に行動不能にした強力な効果。
状況に応じてムダに殺さずに済むのは魅力的だ。
だが魔獣発生の原因がマンドレイクだとしたら毒矢も不味くないか、と懸念する。
ベルタ「アルフの天国の準備は出来たわよ。後は焼くだけなんでお願いね」
アルフ「おお。焼いて食うのは任せろ」
ベルタの一言で懸念が霧散するアルフ。
幻覚よりも現実の天国である。
焼肉天国を満喫する一行。
狩人「残りは燻製にしておこう」
食事を終えて、残りの肉をいぶし始める狩人。
一行は食休みに雑談を始める。
アルフ「そういやマンドレイクを探すのは面倒って言ってたよな。何でこんなに有るんだ」
狩人「歩いている所を見かけたら狩っているのさ」
一瞬聞き間違いかと耳を疑うアルフ。
だが得体の知れない植物である事を思い出して問い直す。
アルフ「・・・歩くなら動物じゃねぇのか」
狩人「な。定義の根拠は知らねぇけど植物らしいぜ」
動物を捕獲して食べる植物も居る。
動けば動物と安直には言えないのであろう。
でも歩いているなら植えられてすらいないと言う事だ。
動く物では無く、植えられた物だ、と言う言葉の定義に釈然としない。
だが今は植物か動物かは問題では無い。
アルフ「あれがワサワサ群生して動いているとか想像すると気味悪いな」
狩人「見かけるのは一株づつだな。花が咲くと歩き出すみたいで、花を散らせると倒れる」
積まれたマンドレイクに花は咲いていない。
射抜かれて散った後なのであろう。
ベルタ「花が咲いてる時だけ歩くとしたら受粉活動かしら」
狩人「かもな。でも他の株を探すというより、ぐるぐる回ってたり全力疾走してたりで意図は分からない」
むしろ受粉を否定するような動きに聞こえる。
アルフは全力疾走が気になる。
何故全力だと分かるのかも気になるが、追われたらどうしようかと。
アルフ「全力疾走・・・気味が悪いと言うよりこえぇな」
狩人「怖いな。あの速度で不意に口に突っ込んで来られると避けられるかどうか」
アルフ「まて。食べられに来るのかよ。マジこえぇぞ」
具体的にどう怖いかまでは考えて無かったアルフ。
毒が意思を持って口にダイブしてきたら明らかに怖い。
しかも想像以上に速そうだ。
狩人「いや来たら怖いなって話だ。ただ、食われるまで歩き続けているようにも見える」
ベルタ「ん~。動けば肉食動物にも狙われて、食べられたら毒で動物が死んで、それを肥料に根を張るとか?」
狩人「花の中に種子があるのなら、そうかもな」
狩人の話しから推論を重ねるベルタ。
食べられる為に歩くとしたら、食べられるべき目的がある筈なのだ。
アルフ「食われる為に歩くのか。植物なら恐怖も痛みもねぇのかな。そもそも筋肉無しで何で動くんだ」
狩人「な。見ての通り形状だけは人っぽいけど組織は普通に植物ぽい」
アルフ「確かにこんなの食って生き延びたら魔獣になるのかもって疑うわな」
マンドレイクも気になるが、よりやばそうなのは魔獣だ。
発生原因よりも対処を纏めておく必要がある。
ベルタ「魔獣が現れた時に注意する事があったら教えていただけませんか」
狩人「そうだな。まず毒が効かない」
ベルタ「マンドレイクの毒で生き残ったとしたら、そうでしょうね」
狩人「次に身体に見合わない筋力。魔獣自身の攻撃で牙や脚が折れる。折れて逃げ出す事も無い」
ベルタ「痛みや恐怖が麻痺してるって事かな? 狂っているとはそういう事ですか」
狩人「あとは死んでも襲ってくる」
ちょっと待て、とジェスチャーするアルフとベルタ。
アルフ「ちょ。それは魔獣と言うよりゾンビじゃねぇの」
ベルタ「流石にそれは信じ難い話ですね」
狩人「だろうな。頭を射抜こうが心臓を射抜こうが襲ってくるんだわ。動かなくなるまで射ち込むしかねぇ」
確かにそのような状況であれば死んでも襲ってくると言えるだろう。
魔獣を作り出しているのがマンドレイクだとしたら。
食べられようとする目的の推論に結びつけるベルタ。
ベルタ「・・・食べられたマンドレイクが操ってるとか?」
狩人「遭遇時点で獣としては既に死んでいるって事か。それはありえるな」
体内からマンドレイクが操っているとすれば、獣の身体の損傷を厭わない行動も理解出来る。
獣の脳や心臓が破壊されていても、仕掛け次第では動かせると推測出来る。
ベルタ「死体を苗床にするんじゃなくて操るのかな。だとしたら何でだろ」
アルフ「さらに苗床を増やしたいとか」
ベルタ「動かなくなるまで死体を増やしてから苗床にすれば良いって事か。考える程に怖い植物ね」
アルフ「まぁ全部妄想だけどな」
推論の辻褄は合ってきているが根拠は何もない。
どれだけ考えても妄想に過ぎないのだ。
アルフ「てかさ。そんなに強いのなら、ここは制圧されて魔獣だけになってねぇか」
狩人「増え続けてるって感じではないな」
ベルタ「死体だとしたらすぐに腐って動けなくなるんじゃない」
アルフ「なるほど。維持は出来ない強さか」
とりあえず辻褄合わせの妄想でも推論を確立しないと暫定対策も立てられない。
一段落した所でベルタが纏める。
ベルタ「推論通りだとしたら気絶とかも狙えないだろうから、確実に動けないようにしないといけないのね」
アルフ「今使っている獣避けの罠アイテムは気絶式だから無効って事か」
ベルタ「拘束式の罠アイテムでも併用しないとダメでしょうね」
捕縛した後はどうするか。
今の推論からすれば食用にする選択肢は無い。
狩人は今までどうしていたのかが気になるベルタ。
ベルタ「魔獣を倒したらどうしています?」
狩人「倒した時には大量の矢でボロクズになっているからそのまま放置だな」
ベルタ「それが繁殖の一助になっているのかも知れませんね」
ボロクズになっても苗床として支障があるとは思えない。
遺体を処分しないと新たな魔獣の素になりそうだ。
狩人「苗床の推測が当たっていればそうなるな。燃やすべきなのか」
アルフ「燃やしてもやばいガスとか出たりして」
狩人「そりゃお手上げだぜ」
埋めても燃やしてもダメとなると死体処理に手間が掛かり過ぎる。
燃やす手がダメと決まった訳では無いが、そもそも林での焼却ですら難しい。
ベルタ「野放し状態だと生息地域が広がってしまいますよねぇ」
狩人「いや。それがマンドレイクも魔獣も林からは出ないんだ。昔から」
ベルタ「へ」
懸念を否定されて訝しむベルタ。
確かに、これほど危険な魔獣が一般に認知されていないのは不思議だと思ってはいた。
林の外に出ない確証が有るなら繁殖しても問題にはならない。
林を封鎖すれば良いだけの話だ。
狩人「この林自体が多分真円になってる。色々と変なんだよな」
ベルタ「林の外へ逃げれば追って来ないという事ですか」
狩人「あぁ。外から撃ち放題だから弓でも倒せているみたいなもんだ。中だと射抜いても怯まずに寄るからな」
ベルタ「テリトリーが決まっているのかぁ。真円て人為的ぽいけど・・・中心に何かある? それとも」
これまでの会話からヒントを探すベルタ。
人為的に起こす不思議な現象と言えば、もろに該当する言葉が有った。
ベルタ「マンドレイクを錬金術の材料として集めに来る人が居る。そう、おっしゃってましたよね」
狩人「おぉ。それも昔かららしいぞ」
ベルタ「その人か関係者が作った、マンドレイク栽培地では無いのですか。この林は」
狩人「意識した事は無かったな。私有地としての柵もねぇし」
ベルタ「地元では、危険だから近づくなと語り継がれている感じですか」
狩人「そうそう」
ベルタ「代を重ねる内に危険な理由を伝える事が省かれちゃったのかな。推論は出来ますね」
全てが錬金術師の仕業と考えれば簡単だ。
錬金術が絡む時点でどんな事でも辻褄は合う。
ベルタ「となると。ここはこのままで良いのかな。柵と注意書きくらいは欲しいけどねぇ」
狩人「今まではここに迷い込む奴なんて居なかったからなぁ。途中で行動阻害の毒霧が有るし」
それ故に狩人は遭遇時に驚いたのだ。
村から調査や狩りに来る者ならともかく、子供連れが迷い込む場所では無いのだ。
ベルタ「え? そんなの無かったですよ。濃い霧の妙な森ならありましたけど」
狩人「ここからでも見えるぞ。林の向こうは霧がかかっているだろ」
アルフ「ティアラの光で毒を無効化するから普通の霧だと思ってたんじゃね」
ベルタ「あぁ。知らない人が近づけない仕掛けになってはいたのね」
霧の森は対人結界だった。
アルフ一行には霧が通じなかっただけだった。
アルフ「勝手に浄化されるのも問題かもな」
ベルタ「浄化されなかったら危険だったでしょ。こういう事もあるって注意するしか無いわね」
狩人「反対側は村の柵があるから、注意も聞かずに入る人は居ないと思う」
実質的な安全は確保されているようだ。
アルフ「俺達がさっさと出て行けば解決って事だな」
ベルタ「骨折り損だったわね」
狩人「俺は面白かったけどな」
推論とは言え林の謎が解けて狩人は爽やかだった。
アルフ「そうだな。面白かったから良かった事にしておこう」
ベルタ「変な生物が居るって知識が得られたのは良かったわね。推論は推論のままで良いか」
アルフ「昔からって話だからムリに結論出さなくても大丈夫じゃね」
狩人「被害者が出たって話は聞いてねぇな。俺も大丈夫だと思う」
アルフが立ち上がる。
話は纏まったし食休みは十分だ。
魔獣の活動範囲が分かった以上、日が暮れる前に林を抜けておきたい。
アルフ「んじゃそろそろ行くか。また弓の練習をしたくなってきたな」
ベルタ「旅が終わってからの楽しみで良いんじゃないの」
狩人「おっと。ちょいと完成には早いが燻製肉を持って行くかい」
突然立ち上がったアルフ一行に燻製肉を用意しようとする狩人。
一人では持ち帰れなかった肉なので渡そうと思っていたのだ。
ベルタ「ありがとうございます。でも肉は現地調達しているので大丈夫です」
狩人「そうか。じゃぁ気をつけてな」
アルフ「兄ちゃんの弓は格好良かったぜ。またな」
ベルタ「お世話になりました。そちらも魔獣にお気をつけ下さい」
狩人の小屋を後にアルフ一行は旅を再開した。




