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あたしのせいじゃなーい  作者: わかいんだー
本章~ファンタジックな旅の日常~
32/52

おまけ:隠すべき物

山の麓の森を進むアルフ一行。

歩きにくくはあるが美しく静かで平穏だ。


突然遠くで爆発が起きて地響きがする。


アルフ「おぉ。なんだ。噴火か?」

ベルタ「びっくりしたわね。噴火なら遠くでも見えるんじゃないかな。音も地響きも一瞬だし違うと思うわよ」


既に森は平穏さを取り戻している。

木々の隙間から四方を見渡せるが煙らしきものは見えない。


アルフ「んじゃ砲撃か? 森の中だし爆発するような施設なんて無いよな」

ベルタ「砲撃だとしたら演習かしら。戦争なんてもう何百年も無いと教わったのだけど」

アルフ「マアマが居るから大丈夫とは思うけどやばそうだな」


ザザザ・・・ドス

近くに何か降って来たようだ。

爆発で飛ばされて来たのだろう。

「もがー」


アルフ「ん? 何か落ちた方から人の声がしたような」

ベルタ「え。まさか人が飛ばされて来たの」

アルフ「或いはここに居た人に当たったとか? 見に行ってみるか」


音のした辺りを捜索すると、地面から手足が生えてばたばたしていた。


アルフ「おぉ。未確認生物発見」

ベルタ「これ。頭から地面に突っ込んだぽくない?」

アルフ「普通それ死ぬだろ。どんだけ硬い頭なんだよ」

ベルタ「とりあえず元気にばたついてるから引っこ抜いてみるわね」


足首を握って引き抜くベルタ。

埋まっていたのはじいさんだった。


引き抜かれたじいさんはベルタを見て大げさなジェスチャーで叫ぶ。


「おー! これぞ運命の出会い。我が愛しの女神よ。誓いのベーゼを」


逆さに吊られたままベルタにキスしようとするじいさん。


ベルタ「さぁ行きましょう」


じいさんは再び頭を地面に埋められていた。


「もがー」

アルフ「こえぇなお前。頭蓋が砕けるとか首の骨が折れるとか思わないのか。じいさんだぞ」

ベルタ「埋まってた穴に戻してあげただけよ」


ベルタは先へ進もうとするが、アルフはじいさんの前にしゃがみこむ。

アルフには引き抜ける自信が無いので手を合わせて冥福を祈る。


アルフ「じゃぁせめて墓標でも」

ベルタ「縁起でもない事を言わないでよ。分かったわよ。助ければ良いんでしょ」


再びじいさんを引っこ抜いて、そのまま近くの草むらに投げ捨てるベルタ。


「おちち。照れ屋な女神じゃの。誰もおらんのじゃから・・・て何じゃ男付きか」


アルフを見たじいさんは途端にテンションを下げる。


アルフ「何があったのか知らないけど気をつけろよ。砲弾に吹き飛ばされたのか? よく生きてたもんだ」

研究者「砲弾? 何の事じゃ。ワシは新型罠アイテムの研究開発中で・・・オーマイガー! 失敗じゃ!」


じいさんは研究者だと名乗った。

何をしていたかを思い出して悲嘆に暮れている。


アルフ「おぉう。竜人様ならそこに居るぞ」

研究者「オーマイガー!」


研究者が神を呼んで嘆くので、ガルマを紹介して慰めようとするアルフ。

研究者の悲嘆は驚嘆に変わったが救いにはならないようだ。


ベルタ「何遊んでいるのよ。さっさと行きましょ」

アルフ「このじいさんがさ。ガルマさんに用があるみたいでさ」

研究者「無いわ!」


叫んだ直後にガルマを気にして縮こまる研究者。


研究者「いえ有りませんのじゃ」

アルフ「そか。んじゃ俺らは行くぜ。あんまり危ないは事すんなよ」

研究者「あ・・・」


ベルタが先に行ってしまったので慌てて追いかけるアルフ。

研究者にはまだ話したいことが有った。


研究者「ふーむ。竜人と子供二人。どこかで聞いた気がするんじゃが。いや、それより実験結果を・・・」


研究者はその場から消えた。



旅を再開するアルフ一行。


ベルタ「何なのよ。あのおじいちゃんは。手当たり次第なの? あんな人は居なくなれば良いのに」

アルフ「そこまで怒るようなもんなのか。求愛行動なんて人それぞれだろ」


ベルタにとってはファーストキスを奪われかねなかったのだ。

まさに怒り心頭。

察する事の出来ないアルフに、さらに怒りが増す。


ベルタ「あんなの愛じゃないわよ。けだものよ。初対面でいきなりなんて、ありえないわよ」

アルフ「初対面がダメなら次に会った時は良いのか」

ベルタ「もう二度と会わないわよ」

アルフ「そうかな。この先から、さっきのじいさんの声が聞こえる気がするんだよな」

ベルタ「へ。気のせいでしょ・・・」


少し進むと森の中に荒地が広がっていた。

小さな工場のような施設があちこちに建っている。

村では無さそうだ。

その間をさっきの研究者が走り回っていた。


唖然とするベルタ。

今一番見たくない物を見て、マアマを握る手に力が篭る。


ベルタの気配に戦慄したアルフは一人で前に出て研究者に声をかける。


アルフ「ようじいさん。置いてきたのに何でここに居るんだ」

研究者「瞬間帰還器で飛んだのじゃ。おんしらこそワシの研究所に何用だ? ま、まさか竜人様の怒りか」


怒っているのはベルタだ。

研究者にとってはガルマに匹敵する脅威になる。

だがその怒りを爆発させる気の無いアルフは敢えて説明しない。


アルフ「いや。たまたま通りがかっただけだ。じいさんの研究所に拠点があるのかよ。すげぇな」

研究者「おうともよ。罠アイテム開発の重要拠点じゃ」

アルフ「罠アイテム? さっきも言ってたな。色事の研究じゃないのか」

研究者「あいにくと課題が山積みでのぉ。そっちの研究までは手が回らんのじゃ」


色事の研究で爆発は腑に落ちないが、罠アイテムなら納得はいく。

だがこんな色ボケじいさんが? と疑念を拭えないアルフ。

罠アイテムの功績は極めて大きく、個人や獣からの被害の殆どを未然に防いでいる。

優秀な仲間でも居るのかと周囲を見渡す。


アルフ「重要拠点と言う割りに、じいさん以外には人が見当たらないんだが」

研究者「今時の若いもんは軟弱での。数km吹っ飛ばされただけで、すぐに逃げ出しおるのじゃ」

アルフ「数km? そりゃ逃げ出す以前に死人が出るだろ」

研究者「この森には緩衝フィールドを展開しておるのじゃ。強い衝撃ほど軽減するから怪我する事もあるまい」


研究者が頭を地に埋めるほど吹き飛ばされても平気だった原因のようだ。

流石は罠アイテムを生み出すほどの人物である。

ここならベルタに殴られても痛く無いのかな、と余計な事を考えるアルフ。

だが研究者が吹き飛ばされていた現実を思い出す。


アルフ「いや。強い衝撃を吸収するのに数km吹っ飛ぶって。やばすぎだろ」

研究者「あぁ。緩衝するのは衝撃のみじゃからな。押し飛ばされはするのじゃ」


アルフが話し込んで旅が進まないので、いつの間にかベルタが近寄って来ていた。

怒りと警戒は微塵も解けていない様子だ。


ベルタ「殴られても緩衝するからって、セクハラしまくって皆逃げたんじゃないの」

研究者「ごほん。まぁスキンシップを誤解する者も居るには居ったかな」


緩衝フィールドは殴打にも効果がありそうだ、と内心で喜ぶアルフ。


アルフ「一人も残ってねぇって事は。女しか雇っていなかったのか」

研究者「当然じ・・・ごほんごほん。たまたま才能のある者が女性ばかりであったのじゃ」


うっかり認める研究者。

吹っ飛ばされて逃げたのでは無く、全員セクハラで逃げたのだ。


アルフ「ベルタが言う通りのじいさんだったみたいだな」

ベルタ「でしょ。さっさと行きましょ」


去ろうとするベルタを見て過去を思い出す研究者。

何故みんな去って行くのかと苦悩する。


研究者「随分と嫌われたもんじゃな。ワシは仲良くしたいだけじゃのに」

アルフ「押してもダメなら引いてみろってな。女から寄ってくるように頑張れば良いんじゃね」


落ち込む研究者を励ますアルフ。

アルフにも女性の扱いは分からないが、研究者から手を出す事が原因なのは確かだ。


研究者「金目当てで寄ってくる女なら大勢おるぞ。じゃが、そういうのは好かんのじゃ」

アルフ「女の方も、色目当てで寄ってくる男は好かないんじゃねぇの」

研究者「おおう。そういう事かぁああ。金と色を置き換えると納得出来るぞ。おんし若いのに達観しとるな」


研究者の好色は本気でスキンシップ目的だった。

それ故に、相手を想って迫るほどに嫌われる理由が分からなかった。

だが金と色気は同じく我欲の対象なのだ。

金目当てに寄ってくる者に対する不快な気持ちを、迫った相手に抱かせていたのだと納得した。


アルフ「ベルタも許してやれよ。罠アイテムには世話になっているんだしさ。じいさんは反省してるぜ」

ベルタ「そうね。本当に反省しているのならね。でも半径1m以内には近づかないでよ。不安で仕方無いわ」


アルフに応じながらも全く許していない様子のベルタ。


研究者「拒絶されると一層そそるのぉ。っと言うのもいかんのか。反省反省じゃ」

ベルタ「全然反省しているようには見えないんだけど」

アルフ「この年まで染み付いてるクセなら簡単には抜けないんじゃね」


研究者は反省しているが無意識に言葉に出てしまうのだ。

アルフは察するが、ベルタの理解を得るのは難しい。


研究者「すまんのじゃマイハニー。ワシに一時の時間をくれい」

ベルタ「ダメそうね。馬鹿にされてる気がするわ」

研究者「ワシは真剣なんじゃが侘びるのも難しいのぉ。そうじゃ。ワシが近づけぬなら王都で馳走しよう」


研究者の言葉でベルタの怒りは増す一方だ。

助けてもらったベルタに無礼を働いた、と自覚した研究者は償う方法を模索していた。


ベルタ「王都はダメよ」

研究者「へ。何でじゃ。可愛い娘が大勢・・・おっとと。無意識に口走るのは、どう自制したものかのぉ」

アルフ「ガルマさんやベルタが王都に入ると王様が飛んでくるんだ。王様に迷惑をかけたくないんだと」


アルフの説明でピンと来る研究者。

魔アイテム設置による自動検知システムを構築した張本人なのだ。


研究者「あぁ。以前にそんな話を聞いたな。あれは、おんしらじゃったか。大丈夫じゃ、王には先に伝える」

ベルタ「へ」


研究者は建物の一つへ歩いていく。

通信設備が在るのだろう。

罠アイテムの研究者なら通信設備も携帯化出来そうなものだが。


アルフ「あのじいさんも王様と知り合いなのか」

ベルタ「そうは見えないけどねぇ。でもこんな拠点を任されているのなら有り得るのかな」


王都への瞬間帰還器を持って研究者が戻ってきた。


研究者「近衛兵から王に伝えておいたのじゃ。馳走するだけじゃから王もノーム様も挨拶不要とな」

ベルタ「あーん。ノーム様にはお会いしたかったな。でもお仕事邪魔しちゃダメよね」

アルフ「じいさんすげぇな。王様と面識あるのか」


侘びならノームに会わせて欲しいと内心思っていたベルタ。

マアマに読まれている事を察して、ノームの邪魔をしないように明確に言葉で否定しておく。


研究者「あいつがガキの頃から良く知っておるよ。うちは代々王家に仕える研究職なんじゃ」

ベルタ「そんな家柄なのに、どうしてそんなに品が無いのですか・・・」


想像よりさらに王と親しそうな研究者を訝しむベルタ。

尊敬に値する王に仕える者とはみなし難いのだ。


研究者「うーむ。知識は学んだのじゃが品位は学んでおらぬからかな」

アルフ「あの王様に仕えてるならこんなもんじゃね。馬車の中で暴れるくらいだし」

ベルタ「確かに品位よりは実力を取ると思うけどねぇ」


ベルタも一応納得する。

王は立派だが品位を問われると答え難い。

竜人相手では仕方ないのだが。


研究者「そろそろ準備も整うじゃろう。参りましょうかの。飛ばしますぞ」


一行が王都の拠点に飛ぶと、王が使っていたのと同じ馬車が待っていた。


研究者「ここからは、この馬車を使ってくだされ」

アルフ「ぶ。町中で馬車なんか使うのかよ。歩けばいいだろ」

研究者「片付けてもらった刺客にはワシも狙われておりましてな。その時の名残ですじゃ」

アルフ「まぁ良いけど。すげぇ場違いな気がするな」

ベルタ「最初に見たときは呆れたけど。まさかその馬車に自分が乗ることになるとはね」


馬車から町並みを眺めるアルフ一行。

やはり王都は他の町とは別世界の様相だ。

ここで生まれ育った者なら他の町での生活は難しいであろうと思わせる。

やがて馬車は町を抜ける。


アルフ「あれ。町を出ちまったぞ。町の外に飯屋があるのか」

研究者「いや。店じゃなく、うちの者に準備をさせておりますじゃ」

アルフ「じいさんの家か。ベルタが切れそうな物が無ければ良いけど」


これまでの言動からして、見せるべきではない物だらけの家を想像するアルフ。


警戒したままのベルタは予防線を張る。


ベルタ「いかがわしい物が見えたら入らないわよ」

研究者「残念ながらワシの趣味に合う品は持ち込めんのじゃ」

アルフ「自宅なのに持ち込めないのか? あぁ家族の目とかか。そんなのを気にするタイプには見えないけど」

研究者「品物は無いが、本物が一杯居るから問題は無いのじゃ」


本物? とアルフとベルタがつっこもうとした所で馬車の走る音が変わる。

舗装された道から木の板に変わったような音だ。

馬車は大きな掘を渡り城門をくぐる。


ベルタ「え。ここお城じゃないの」

研究者「じゃから王に仕えておると言ったじゃろ。ワシはここに住んでおる」

アルフ「げ。俺、堅苦しいのは嫌だぞ」

研究者「ワシだって嫌じゃ。ワシの区画では誰の尻を触っても文句は言われぬから安心せい」


本物という言葉の意味を察したベルタが殺気を纏う。


ベルタ「言わない訳が無いでしょ」

研究者「すまぬ、また失言じゃ。マナーなんぞは気にせんで良いという事じゃ」


研究者の区画に馬車が到着する。

大勢のメイドが待機していた。

と言うかメイドしか見えない。


アルフ「男がいねー」

研究者「ここに居るじゃろ」


食堂に通される一行。

研究者の言う通り、いかがわしい物は見当たらない。


アルフ「王都は食材も最高なんだよな。ノーム様ばんざいってな」

ベルタ「ここにいらっしゃるのよね。お近くに寄れただけでも満足しなきゃね」


研究成果らしきものが大量に陳列されている。

その中に封術紙を見つけるベルタ。

ノームの傍らに在る事を意識して少し気を良くしたので問いかける。


ベルタ「封術紙は罠アイテムでは無いですよね。魔法も研究されているのですか」

研究者「ほぉ。封術紙を知っておるのか。封術紙は罠アイテムの祖と言うべき発明じゃな」


名誉挽回のチャンスと見た研究者は喜んで答える。


ベルタ「封術紙と罠アイテムに関係があるようには見えませんが」

研究者「封術紙の保護は完璧じゃ。どんな魔法も安全に発動出来る。だが発動した後の魔法は脅威なのじゃ」

ベルタ「どんな魔法でも封じられる便利さが仇という事ですね」

研究者「うむ。そこで特定の魔法を封じてから配布する魔アイテムを開発したのじゃ」

ベルタ「瞬間帰還器とかですよね」


ベルタの一言で一瞬言葉に詰まる研究者。

得意満面に説明していたが、ベルタにも相当の知識が有ると察する。


研究者「秘匿情報も知っておるのじゃな。なら話しても問題無かろう。罠アイテムも魔アイテムの一つじゃ」

ベルタ「なるほど。そうじゃないかって気はしていました」

研究者「魔法を秘匿しておる以上、おおっぴらに魔アイテムとは言えぬしな。それに魔法を使わぬ物も含む」

ベルタ「魔法を含めた混成装置ですか。通りで便利な訳ですね」


ようやくベルタに誉められた気がして上機嫌になる研究者。


研究者「じゃろじゃろ? 頑張って研究しとるんじゃ。今は大型獣や銃のような強力な力への対応が課題じゃ」

アルフ「あぁ。強力な力に耐えられるかを試して吹っ飛ばされたのか」


研究者が飛ばされてきた理由を察するアルフ。

あの威力を無効化出来たなら、銃や大型獣にも余裕で対応出来よう。


研究者「そうじゃ。小型軽量の罠アイテムで大きな力に対抗するのは難儀でな。やりがいもあるんじゃが」

アルフ「大きな力なんて、上をみたらキリがねぇしな」


ガルマやマアマの力を知っているアルフには、全ての力に対応出来ない事はよく理解出来る。

だが研究者には際限無く上を要求されるのであろう。


研究者「一般人が遭遇する可能性が高い力への対応が目標じゃ」

ベルタ「王様に仕えているだけの事はありますね。品が無くても人々を護る事が目的なのですね」


それなりに敬意をこめて話している様子だったベルタが、耐えかねたように皮肉を混ぜる。


ベルタの静かな怒りを察して落ち込む研究者。


研究者「品位も学ぶから、もう責めるのは勘弁して欲しいぞ」

アルフ「そういやベルタにしては妙に絡み続けるな」

ベルタ「だってメイドさんのお尻を触りながら言ってるんだもん」

研究者「なんと。無意識に触っておったのじゃ」


研究者は慌てて手を引っ込め、メイドに指示を出す。


研究者「おんしら、今後ワシが触ろうとしたら避けて注意してくれ」

メイド「かしこまりました」


メイドは終始澄ました表情で感情は読めない。

直接問うアルフ。


アルフ「メイドさんは嫌じゃなかったのか」

メイド「親愛の表現以上の事はなさりませんので特には」


アルフの問いにも表情を変えずに答えるメイド。


アルフ「良かったなじいさん」

ベルタ「本心ならね」

研究者「立場上は言えぬか。ワシの方から気をつけねばならんのじゃな」


反省する研究者を見て、一歩前へ出て一礼するメイド。


メイド「一言申し上げます。ご主人様の研究は我々を救っております。その一助になれたなら光栄に思います」


メイドは研究者に対して微笑みかけていた。


アルフ「俺には本心に見えるぞ。でなきゃ黙っていれば良い所だし」

ベルタ「そうね。おじいさんも身を挺して研究している訳だし。事情を知っている人なら気持ちも分かるわ」


ベルタとしても理解者へのスキンシップは認められる。

人前でやる事では無いと思うが。


研究者「ありがとよ。相手の気持ちで考えねばじゃな。罠アイテムの仕様設計と同じじゃ」

アルフ「そうそう。瞬間帰還器なんかも花摘み中は実質的に使えないから緊急避難出来ないしな」

研究者「おぉ! それは盲点じゃった。至急対策を考えねばじゃな。隠蔽機能を付加すべきか」


何気なく呟いたアルフの言葉に、目を見開いて反応する研究者。

喫緊の課題と認識したのか妙に興奮している。


アルフ「出てくる物は臭いまで隠さないとな」

研究者「それは出口を塞がないと根本的な」

ベルタ「何を言い出すのよ! 乙女の前でそういう話をする性格を直しなさい!」


議論を始めたアルフと研究者にぶち切れるベルタ。

話の内容が具体的過ぎてグロい。


アルフ「えー。乙女の意見も反映すべきだろ」

ベルタ「黙って察しなさい」


そうやって意見しないから不完全な仕様なんだ、と不満なアルフ。


研究者「確かに食事を前にしてする話ではなかったのじゃ。まずは食ってくれ」

アルフ「おう。ノーム様の恵み。待ってたぜい」

ベルタ「こういう時はあんたも良い事を言うわよね。まさに至福よね」


研究者が率先してがっついて食べるので一行は気兼ねなく食事出来た。

王城だけあって、食材も味付けも前回の宿を上回っており十分に堪能した。


アルフ「ごちそうさま! まさにごちそうだったな。んじゃさっきの話の続きだけど」

ベルタ「お茶飲んでるのよ! それに察しろって言ったでしょ」

アルフ「えー。お前ら乙女の為の話なのにな」

研究者「大丈夫じゃ。おんしのような意見がある事が分かったんじゃ。国民から意見を集ってみるわい」

アルフ「それは良い手だな」

ベルタ「あたしも素晴らしいと思います」


目先の課題に没頭していた研究者だが、より喫緊の課題が他にも存在し得る事に気付いたのだ。

食事しながら課題選択の方法を検討していた。


アルフ「俺からもう一つ。通信設備の携帯化は出来ないのか」

研究者「それは幾度も議題に上っておるな。じゃが利便性よりも悪用のリスクが高くて実用化に至っておらぬ」

アルフ「悪用を封じる方法が先に必要か。なるほどなぁ。便利だから作るって訳にはいかないんだな」


研究者は改まってベルタに向く。

失言に注意しながらゆっくり問いかける。


研究者「ところで。ハニー、じゃなくてベルタちゃんが纏う光はどういう仕組みじゃ? 応用したいのじゃが」

ベルタ「これはウンディーネ様のティアラの光です」

アルフ「付け加えるとベルタの命が燃料だ」

ベルタ「変な言い方しないでよ。生命力よ」

研究者「ひょえ。ノーム様に並ぶ力となれば応用のしようが無いのぉ」


研究者は残念そうに落ち込む。

四大元素精霊の創作を人の技術で応用出来ない事はノームで経験済みだった。


アルフ「おまけにベルタ以外が使うと殺人光になるらしいぜ」

ベルタ「何でそう茶化して言うのかな」

研究者「それは生命力が燃料であれば想像は出来るのじゃ。ワシが知りたいのはエネルギー転移の仕組みじゃ」

アルフ「転移? ベルタの命で発光してるんだから転化じゃねぇの」

ベルタ「あんた、そんな言葉は知ってるんだ」

アルフ「いや。移るんじゃなくて化けるから転化って表現が良いかなぁと。適当に言葉を作ってみた」

研究者「転化の後じゃな。ベルタちゃんの周囲に発光空間を作っておる。つまり空間内に光を転移させておる」


研究者が興味をもったのは光の効果では無い。

罠アイテムの効果範囲を広げたり安定させる方法を知りたかったのだ。

障害物を無視して広範囲に光を保つティアラの仕組みは魅力的だった。


アルフ「おぉ。転化で通じてる」

ベルタ「そういう事だったんですか。ティアラを隠しても照らすし影が出来ないので変だと思っていました」


謎が一つ解けて少し機嫌を直すベルタ。


研究者「罠アイテムに応用出来れば飛躍的に性能改善出来るのじゃが。研究課題追加じゃな」

ベルタ「あ。範囲という事であれば。これ虫避けの魔アイテムですけど参考になりますか?」

研究者「ほぅ・・・」


研究者は測定器らしきもので何かを測る。


研究者「見事な出来ではあるが仕組みとしては拡散しておるだけじゃな」

ベルタ「やっぱりウンディーネ様が作られる物は別格なのね」

研究者「じゃな。まぁ研究する楽しみが増えたと思っておくのじゃ」



お茶を終えて研究施設に戻る一行。


研究者「世話になったのじゃ。埋もれていたのを助けて貰った上に助言まで貰えるとはな」

アルフ「こっちは罠アイテムには世話になりっぱなしなんだ。これからも頼むぜ」

ベルタ「第一印象が最悪でしたけど。今までの功績と、今後の改善の意志は尊重します。お達者で」


好意とまでは行かないが、研究者への印象が改善した様子のベルタ。


一応馳走の成果はあったかと研究者は胸を撫で下ろす。


研究者「そうそう。王都に入っただけで出迎えては迷惑じゃと王には言っておいたぞ。今後は気兼ね無用じゃ」

アルフ「おぉ。そいつは助かるぜ。飯の不味い町なら王都で口直しだな」

ベルタ「こちらが迷惑という訳では無いのですが。お気遣いには感謝します」



研究施設を後に、アルフ一行は旅を再開した。


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