表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あたしのせいじゃなーい  作者: わかいんだー
本章~ファンタジックな旅の日常~
31/52

おまけ:綺麗だから斬る

街道を進むアルフ一行。

藪で見えないが、左の坂上に町が在るようで、賑やかそうな音が僅かに届く。


すれ違いかけた男が、突然驚いたように飛び下がる。


「おぉ? お前は、もしやベルタか?」

ベルタ「はい? どちら様ですか」


ベルタとの遭遇が予想外という雰囲気の男。

観察するようにベルタを見た後、意を決したようにベルタを指差す。


冒険者「ついてるな。俺は無名の冒険者だ。手っ取り早く名をあげたいんでな。お前に一騎打ちを申し込む!」

ベルタ「お断りします」


即答されて、ずっこけそうな冒険者。


ベルタはそのまま歩き出す。


冒険者「何。逃げるのか」

ベルタ「はい」


予想外の遭遇に予想外の返答。

逃げると言いながらも歩いているだけだ。

混乱しながらもベルタの前に駆け込んで足止めしようとする冒険者。


冒険者「いやちょっと待て。無名の俺から逃げるとか堂々と言うなよ。恥ずかしくねぇのか」

ベルタ「不戦敗て事で結構ですよ」


ただの村娘として生きたいベルタにとっては勇名など害にしかならない。

一騎打ちを受ける事の方が恥ずかしいのだ。


冒険者「だー! そんな事を言っても誰も信じてくれねぇよ」

ベルタ「じゃぁどこかで敗北宣言でもしましょうか?」

冒険者「恥ずかしいのでやめて下さい」


徹底したベルタの否定振りに膝を付く冒険者。

闘わずして得た勝利など、勇名どころか汚名になりかねない。


アルフ「兄ちゃんさ。名を上げたいなら、ベルタに挑むよりは迷宮攻略でもした方が楽だぞ」

冒険者「簡単に言うな。すぐに名が売れるくらいの迷宮ともなれば、抜けるのに何日かかるやら」


冒険者は無名と言いながらも腕には自信がありそうだ。

名が売れる程の迷宮攻略でも、問題視しているのは時間だけだ。


アルフ「ベルタならどんな迷宮でも一撃で消滅するぞ」

ベルタ「変な事を言い出さないでよ。それに、そんな事を言っても理解出来る訳無いでしょ」

冒険者「お前はアルフって奴か? バカだとは聞いていないが、バカなのか」

ベルタ「ほら」

アルフ「否定はしないけど。兄ちゃんには事実しか言ってねぇぞ」

冒険者「うーむ。とにかくだ。一騎打ちを受けてくれるまでは付いて行くぞ」


アルフの発言は明らかにばかげているが、ベルタも否定はしていない。

だが仮に事実だとしても、冒険者はすぐに名を上げる必要に駆られていた。

ベルタとの遭遇はまさに千載一遇のチャンスだったのだ。

アルフ一行の後ろを黙って付いていく。


アルフ「面白い兄ちゃんだな。襲っては来ないんだな」

ベルタ「別に付いて来るのは構わないんだけど。結構危険な旅になってきてるし。巻き込みたくは無いわねぇ」


アルフもベルタも、冒険者の印象は悪く無い。

挑んできてはいるが襲ってはこないのだ。

時間を気にしているので、事情がありそうな事も察する。

さっさと諦めさせる事が良策であろう。


アルフ「要は力の差を教えてやれば納得するんじゃね」

ベルタ「あたしは一騎打ちなんて嫌よ。マアマさんに頼るなら一騎打ちですら無いし」

アルフ「んじゃ、こういうのはどうだ。兄ちゃんの動きを一時間封じる。その拘束を破れるかどうかの勝負」

ベルタ「なるほど。一時間も身動き出来ないなら、確実に負けるって納得してもらえる・・・か・・・」


マアマで拘束するだけなら、傍目にはベルタは関わっていない。

故にベルタの勇名には繋がらない。

その上で、冒険者にも納得してもらえる筈だ。


アルフ「その辺の山をふっ飛ばしても良いんだけど。お前は嫌だろ」

ベルタ「当たり前でしょ!」


アルフも本気では無い。

煮え切らないベルタを焚き付けたのだ。

足を止めて冒険者に話を持ちかける。


アルフ「兄ちゃんよ。勝負しても良いが条件がある」

冒険者「お。でも金なら無いぞ」


アルフ「いや。まず一騎打ちはムリだ。ベルタの武器には実質神が宿ってる。つまり神も相手になる」

冒険者「面白え。精霊使いに精霊を使うなとは言えねぇ。全く問題無いぜ」


武器に精霊を宿す戦法を冒険者は知っているようだ。

精霊の遥か上位とまでは思い至らないようだが、それでも受けると言うのはかなりの自信だ。


アルフ「次に時間制限をつける。一時間以内に倒せなければ終わりだ」

冒険者「一時間もあるなら十分だ。それで倒せなければ諦めるさ」


お互いに納得の行く条件が整った。

結果が見えているアルフは街道上で始めようとする。


アルフ「んじゃ早速」

冒険者「いやいやいや。こんな所で勝っても名はあがんねぇって。まず町で公認して貰って、それから」


冒険者の目的は名を上げる事であって、ベルタを倒す事では無い。


アルフにも分かってはいるが、実力差を教えるだけであれば、ここで問題無いのだ。


アルフ「まぁ一回やってみな。それで勝負になったら付き合ってやるからさ」

冒険者「前哨戦て訳か。いいだろう。そういう事ならやってやるぜ」


納得して意気揚々と剣を構える冒険者。

まるで人が変わったかのような雰囲気を醸し出す。

剣先は全くぶれず、呼吸すら止めているかのように微動だにしない。


アルフ「んじゃベルタも準備はいいか」

ベルタ「仕方ないわね。こういうのが頻発しなきゃ良いんだけど」


冒険者の正面に立ってマアマを振りかぶるベルタ。

そのありえない姿に、構えを解いて頭を抱える冒険者。


冒険者「おいおいおい。そんな荷物を背負ったまま俺とやろうってぇの? 哀しくなってくるぜ」

アルフ「やってみりゃ分かるよ。んじゃ始め!」


苦悩する冒険者を他所に開始の合図をするアルフ。


ベルタは無言でマアマを振る。


冒険者「しゃあねぇな。ではお手並み拝見・・・へ? 何だ。身体が全然動かない」


頭を抱えた状態から構え直そうとした冒険者はそのまま倒れ伏す。


アルフ「だろ。ベルタ相手じゃ勝負にもならないんだって。一時間もがいて諦めろ」

冒険者「金縛りの術か。確かにこれを破れずして勝利などありえんな。やってやるさ! ぬがぁあああ」


奮闘する冒険者。

何が起こったのか分からない、という感じでは無い。

既知の術を受けたと思い込み、それを破ろうとしているかのようだ。

これまでの賊とは一線を画する雰囲気ではあるが、マアマの力の前には誤差にもならない。


アルフ「という訳で。飯にしようぜ」

ベルタ「一時間も取ったのは、それが目的だったのね」

アルフ「なんか熱血漢て感じだしさ。それくらい頑張らないと諦めそうに見えないし」


座り込んで飯♪飯♪と歌い出すアルフ。

ベルタがモーニングスターを振ると降る焼肉。

材料も調理器具も見当たらない。


もがきながら冒険者は観察し、考察していた。

自身が拘束された経緯、目の前に繰り広げられる説明のつかない現象、そして驚異的な噂。

状況から判断して、自分の力が通用しない相手であろう事を察した。


アルフ「ほい時間切れ。納得したか」

冒険者「はぁ、はぁ。負けは認める。剣技には自信があったんだがな。自惚れだったと痛感したぜ」


敗北を認めて空を見上げる冒険者。

どれほど優れた剣技でも、発動前に拘束されては無力。

剣技に頼り切る視野の狭さを反省していた。


アルフ「そう悲観すんな。相手が悪過ぎただけだ。名なんて後から付いてくるから焦るな」

冒険者「それじゃ間に合わないんだ。無名だと武術会に参加出来ねぇ。もう残り3日しか無いんだ」


慰めるアルフに事情を話し始める冒険者。

力を使い切ってすぐには動けないし、挑んだ事情は説明するのが礼儀だと考えた。


アルフ「武術会なんて毎年やるんじゃねぇの?」

冒険者「それがな。今年の優勝者で町の領主が決まるんだ」

アルフ「へ」

冒険者「領土争いが続く土地なんだ。今回、平和的に武術会でけりをつけようって事になったんだ」

アルフ「領主同士の争いなら放っておけば良いんじゃね」

冒険者「それがなぁ。領主の代表者限定、と書かずに公布しちまったもんだからさ。えらい事になってんだ」

アルフ「無関係な他所者まで、領主狙いで参加してきたって訳か」

冒険者「良い町なんで今の領主に任せたいんだが。無名じゃ参加資格がねぇんだ。危険過ぎるってな」


アルフとベルタは酷い領主に遭遇済みだ。

冒険者の懸念はよく理解出来る。


ベルタ「そういう事なら。町で公認? してから負けてあげてもいいわよ」

冒険者「勘弁してくれ。八百長なんてする気はねぇ」


泣いてるのか笑ってるのか分からない顔で、ベルタの提案を否定する冒険者。

町は心配だが汚い事は大嫌いなのだ。


アルフ「ん~。ベルタの名が売れてるんなら、ベルタが兄ちゃんを推薦すれば参加出来ないか?」

冒険者「ベルタの推薦ともなれば、危険過ぎるとは言えなくなる・・・か。だが勝負にもならなかった俺を」


アルフの提案は筋が通っている。

但し、推薦されるに値する力を冒険者が見せていればの話だ。


アルフ「いいじゃん。ベルタに挑んだ勇気は本物だし。実力が足りなければ勝てないんだから八百長でもない」

ベルタ「効果は期待出来ないけど推薦ならするわよ。自分の町の問題に自分で挑めないのは理不尽だしね」

冒険者「・・・恩に着るぜ。ここは頼らせてもらいたい。ベルタ・・・さん」


アルフとベルタの説得を受け入れる冒険者。

そもそも参加資格を勇名で制限される事が理不尽なのだ。

理不尽さだけを打ち砕いてもらって、あとは実力で勝てば問題は無いと考えた。



食休みを終えたアルフ一行。

冒険者も殆ど回復したようだ。


アルフ「んじゃ兄ちゃんの町へ行くか。ところで勝てる自信はあるのか」

冒険者「さっきまでは有ったんだけどな。消し飛んじまった。まぁ全力でぶつかってみるさ」

アルフ「剣技とか言ってたよな。どんな技を使えるんだ」

冒険者「ん~。今となっては見せるのも恥ずかしいが。自慢していた技はこんな感じだ」


冒険者は小石を10個程掴んで遠くに投げる。

その小石は全て宙で粉砕されて消滅した。


アルフ「うぉ? 投げた石が落ちずに消えたぞ。何をやったんだ」

冒険者「だから剣技だって。剣戟で真空波を作って飛ばしたんだ」


剣技と言うが、冒険者が剣を抜いた事すらアルフは気付かなかった。


後ろから見ていたベルタも感心する。


ベルタ「今までに見た体術の中では最高ですね。貴方ほどの人が無名だなんて信じられない」

冒険者「ベルタさんにそう言われると少しは自信も戻るな。無名なのは修行ばかりしていたから仕方ないかな」

アルフ「おぉ納得。本当に強い奴って無名なのかもな」

冒険者「はは。負けた後で言われても皮肉にしか聞こえないが。既知の武術会参加者には勝てると思うぜ」

アルフ「冒険者と言うより剣闘士て感じだな」

冒険者「あぁ。剣士として極めるにも、稼がないと食えないだろ。だからたまに依頼を受けてるのさ」


冒険者が無名なのに強い理由は分かった。

これなら勝てるだろう、と一同が思った所で横槍が入る。


「貴様ベルタだな。武術会に参加しに来たか」


今度の男はベルタに気付いても驚かない。

ベルタが来る可能性を想定していたかのようだ。


それに最近は、ガルマに気付いても畏れない者が増えている。

ガルマが動くなら、ベルタが名を馳せる余地は無いと認識され始めていた。


ベルタ「またですか。知らない人に名指しで呼ばれる事が普通になってきちゃったわね」

「貴様に参加されると不味いかもしれん。おとなしく立ち去るか、ここで消えるかを選べ」

アルフ「今度は賊か。勝てば領主ともなれば変なのも集まるわな」


アルフ一行としては、賊相手の方が慣れているし手間もかからない。

いつものように、と思った所で冒険者が前に出る。


冒険者「ここは俺に任せて貰えませんか。修行ばかりで実戦経験が少なくてね。武術会前に練習しておきたい」

アルフ「お。兄ちゃんかっけー。いいんじゃね。兄ちゃんなら大丈夫だろ」

ベルタ「そうね。ムダに捕まえるよりは練習相手になってもらいましょうか」


ベルタは一応保険でマアマを構える。


アルフはさっき見損ねた剣戟を見せて貰おうと期待する。


冒険者は剣を構えると、呟きながら右回りに一回転して剣を納める。

草地に石を投げたような音が何度か、回転中に聞こえた。


冒険者「それじゃありがたく・・・っと。こんなもんか」

アルフ「お? やらないのか」

冒険者「終わったよ。町へ向おうぜ」


冒険者が先導を始めると、脅してきた男は倒れ、坂上の茂みから男達が転がり落ちてきた。


ベルタ「きゃ」

アルフ「おぉ。死体が転げ落ちてきた」

冒険者「殺してねぇよ! 人聞きの悪いことを言わないでくれよ。当身で気絶させただけだ」


当てに行ってもいないのに当身とはこれ如何に。

説明されてもアルフとベルタにはさっぱりだった。


刃で起こす真空波の応用で、衝撃波を起こして相手に当て、脳震盪を誘発したのだ。

一人に一発放っていたが、アルフには全く見えていなかった。


冒険者は倒れた賊を気にせず先導する。


アルフ「こいつら、ここに放置でいいのか?」

冒険者「あぁ。今はこういう輩が増えていてな。警備兵が時々巡回に来る」


警備兵が来ても賊だと分からずに介抱するのでは無いかと思うアルフ。

だが冒険者が日常茶飯事のように言うので敢えてつっこまない。


冒険者としては賊が介抱されようが捕縛されようが知った事では無かった。

むしろ捕縛されずに再び襲ってきた方が練習になって良い、とすら思っていた。


アルフ「こんなんで練習になったのか?」

冒険者「加減の練習にはなっているかな。失敗しても心が痛まないのは気楽でいい」

アルフ「おお。そういう練習かよ」

冒険者「まともな奴ならこんな所で襲ってこねぇよ。来るのは自信の無いカスだけだからな」

ベルタ「武術会まで3日なのですよね。手加減の練習など必要なのですか」

冒険者「全力は出すけど殺したくは無いからな。手加減と言うより殺さずに倒す方法の練習と言うべきか」


領地をかけた真剣勝負となれば、相当の実力者との死闘になるだろう。

それでも冒険者は相手を殺さずに勝とうとしているようだ。

血の気が多い者だらけの、剣士らしく無い考えだ。


アルフ「殺したく無いなら何で剣の修行なんかしてんだ」

冒険者「そりゃ綺麗だからに決まってるだろ。軌跡も切り口も音も、極める程に惚れ惚れする美しさになる」


剣を抜いて刃を見つめ、うっとりとする冒険者。

アルフとベルタは顔を見合わせて笑う。


アルフ「なるほどな。人を斬っても血脂で汚いだけってか」

冒険者「全くその通りだ。人を斬ろうなんて奴はただのアホだな」

アルフ「どっちがアホかはさておき。そういう考えは好きだぞ」

ベルタ「あはは。本当ね。貴方なら胸を張って推薦出来るわ」

冒険者「え。笑う所じゃ無いと思うんだけど。まぁ推薦してもらえるなら良いけどさ」



町に着くアルフ一行。

派手さは無いが、明るい活気に溢れた良い町である事は一目で分かる。

冒険者の言う通り、町にとっては良い領主なのであろう。


ただ普段以上にベルタへの視線が多い。

武術会の有力候補になり得る者は注目される状況なのだ。


冒険者「あちゃぁ。今日の受けつけは終わっちまってるな。今晩泊まれるかい?」

アルフ「もとよりそのつもりだ。町に寄ったなら宿の飯を味わうべきだろう」

ベルタ「あたし達は宿に滞在しておきますので、明日受け付けが始まってから呼んでいただけますか」

冒険者「承知した。本来ならうちに泊めるべきなんだろうが。客を呼べるような場所じゃなくてな」


冒険者の家は馬小屋より酷い状態だった。

たまに町に泊まる時に寝る程度で、殆ど帰る機会も無いほど野宿生活なのだ。

それ故に武術会の問題を知るのが遅れて慌てていた。


ベルタ「お気になさらず。宿の方がこちらも気楽ですしね」

冒険者「心配は無いと思うが一応警戒はしてくれ。警備は増えているが、今は変な奴が増え過ぎているんでな」

アルフ「おぉ。兄ちゃんも参加が決まったら狙われるだろうから気をつけろよ」

冒険者「はは。むしろ狙ってくれると練習になってありがたいな。まずは明日の参加申し込み頼むぜ」

ベルタ「はい。ではまた明日に」


冒険者は家に帰り、アルフ一行は宿屋に入った。


宿の食堂は賑わっていた。

が、ベルタが姿を見せると静まり返る。


「ベルタだ」

「あれが? マジで小娘じゃん」


ひそひそ話のつもりだろうが、静まり返っているせいで明瞭に聞こえる。


ベルタ「・・・これはダメそうね。お店に迷惑かけちゃいそう」

アルフ「えー。飯は」

ベルタ「宿の主に相談して部屋に運んでもらいましょ」

アルフ「おぉ。食えるなら何処でもいいぜ」


宿の主はベルタの提案を歓迎して受け入れた。

稼ぎ時の食堂で騒ぎを起こされては、たまったものではないのだ。


部屋に案内されてから嘆くベルタ。


ベルタ「本当に有名になっちゃってるのねぇ。ウンディーネ様、偉大過ぎるわ」

アルフ「お、おぉ」

ベルタ「何どもってんのよ。オリハルコンも目立つけど、マアマさんが発光抑えてくれたから影響低いでしょ」

アルフ「ソウダネ」


内心ウンディーネを絶賛中のアルフ。

精神鍛錬もさることながら、ベルタの噂の原因のスケープゴートとしても期待以上の働きだ。


ベルタ「それにしても変よね。ティアラの光が目立つからって、武術会とは関係無いじゃない」

アルフ「そりゃ武器は強そうだし。筋力ありそうな体格だし。警戒はするんじゃね」

ベルタ「武術を嗜んでる人が、その程度で小娘を警戒するのねぇ」

アルフ「ガルマさんが傍に付いている事を忘れてねぇか」

ベルタ「あぁ。そこから色々と想像するのか。それならアルフにも行けばいいのねぇ」

アルフ「よくねぇよ。俺とお前の体格を比べれば、俺なんか眼中にねぇだろ」

ベルタ「そうね。覚悟はしていたけどお店に迷惑をかけるのは辛いなぁ」

アルフ「ここは血の気の多い奴が集まってるから特別だって。今まで大丈夫だったろ」

ベルタ「うん。間の悪い時に来ちゃったものだわ」


宿の主が夕食を運び込んで来る。

短時間の間に顔に少し怪我をしている。


アルフ「おっちゃん顔どうした。忙しいからって、ぶつけるなよ」

宿の主「いやぁ。お客様の料理に変な物を入れようとするバカが居ましたんで、ちょいとぶん投げてきました」

アルフ「投げたって武術会の関係者をか? おっちゃんすげぇな」

ベルタ「申し訳有りません。あたしが狙われているみたいで御迷惑を」

宿の主「いやいや。警備兵が居るんで任せても良かったんですが、腹に据えかねて参加しただけです。はは」

アルフ「狙いはベルタだけじゃ無いだろうしな。客商売は大変そうだ」

宿の主「お気遣いありがとうございます。お客様の安全は絶対に護りますので御安心下さい。では御堪能あれ」


給仕を終えて宿の主は部屋を出る。


アルフ「警備兵だけでなく主まで強い宿って安心出来そうだな」

ベルタ「そうね。少しは気が楽になったわ。あたしが居なくてもここは大差無いのね」

アルフ「そういう事。そもそも迷惑かけてるのはお前じゃなくて狙ってる側だ。気にすんな」


食事を終えたアルフ一行は眠りに就く。

就寝中にも外で騒ぎがあったようだが、厳重な警備で治安は保たれていた。



翌朝。

アルフ一行が朝食を終えた頃に、冒険者が迎えに来た。

一行は武術会受付に向う。

一晩の間にベルタ参戦の噂が広がり、近辺は戦々恐々としていた。


冒険者「武術会への参加を申し込みたい。俺に知名度は無いが、ベルタさんが推薦して下さるとの事だ」

受付嬢「推薦ですか。規約には無いので、主催者に問い合わせて参ります。少々お待ち下さい」


受付嬢は別室の主催者の下へ赴き、状況を説明する。

主催者である領主二人の耳にもベルタの来訪は届いていた。

ベルタの参加は双方が危惧していたが、町人の推薦と聞いて一息つく。


受付嬢「町人の冒険者が、ベルタ様の推薦で参加したいそうです。お認めになりますか?」

現領主「私としては町人の参加は大歓迎だ」

別領主「現領主は町人の支持が高いからな。私としては嬉しくは無いが、あのベルタの推薦か・・・」


別領主は思案する。

認めた場合、敵になる可能性が高い。

だが敵になったとしても無名の冒険者だ。

雇った高名な剣士の相手にはならぬであろう。

それに推薦者が居るならベルタ自身は参加しない、と推測出来る。


逆に認めなかった場合はどうなるか。

ベルタの推薦を断れば、ベルタ自身が参加表明する可能性が高まる。

ベルタは高名なので規約上は断れない。

噂を聞く限り、雇った剣士でも勝てるかは怪しいだろう。


別領主「良かろう。認める」

受付嬢「かしこまりました」


受付に戻った受付嬢が申請の受理を告げる。


受付嬢「参加は認められました。組み合わせは当日会場にて抽選が行われます」

冒険者「おっしゃぁああああ」

アルフ「まるで優勝したみたいだな」

ベルタ「おめでとうございます」

冒険者「はは。ありがとう。俺にとってはここが最大の難関だったからな。これでもう思い残す事は無い」

アルフ「本番はこれからだって言うの」

冒険者「冗談だ。ベルタさんのお陰で自惚れは消えた。折角貰った機会。必ず生かしてみせる」

ベルタ「頑張ってください。あたしもここは良い町だと思います。領主さんを支えてあげて下さい」

冒険者「おう。ベルタさん達も旅の無事を祈るぜ。また近くに来たら是非寄ってくれ」

ベルタ「はい。ではまた」


周囲の視線が気になるベルタは手短に別れの挨拶を済ませると、アルフを押し出すように外へ出る。


冒険者は残って手続きをしているようだ。


ベルタ「本当にあたしの推薦で受けてもらえたわね。有名と言っても、目立ってるだけなのに変なの」

アルフ「お、おぉ。ベルタの推薦ならガルマさんも認めてるみたいに思われてるんじゃね」

ベルタ「あはは。無言の圧力か。ガルマさんならそれくらいの影響はありそうね」


アルフ「思うんだけどさ。今までの旅の流れから言って、ベルタが武術会に参加すべきだったんじゃねぇの」

ベルタ「えー。流石にそれは無いでしょ。真面目に戦おうって人達をマアマさんで蹂躙しろって言うの?」

マアマ「あはははは」

アルフ「そうだな。マアマ抜きじゃ、あの冒険者の方が強いだろうしな」

ベルタ「手が届く前に斬られちゃうわね」

アルフ「あれなら何人相手でもすぐに片付きそうだ」


ベルタ「町が好きなら自分で領主やれば良いのにね」

アルフ「修行したいんじゃね」

ベルタ「あはははは。そうよね。それに違いないわ」


町を後に、アルフ一行は旅を再開した。



武術会は冒険者が圧勝し、新領主の座を現領主に委任した。

冒険者の全試合が秒殺で、会場の雰囲気が凍りつくほどの強さだった。

その後急速に知名度をあげたが、自身は極めて未熟だと語り続け、決して驕る事は無かった。


冒険者が名を馳せるほどに、冒険者が畏敬するベルタの噂の脅威は増す。

当のベルタには知る由も無かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ