旅のレクチャー
野宿で一夜を明かした。
旅の基礎知識は歩きながらガルマがレクチャーする事にした。
ガルマ「まずお主達に出来る事を確認しておこう。何か職業訓練は受けておるのか?」
アルフ「俺は何もしてねー」
ベルタ「あたしも。職業としては農家手伝いだったから、旅で役立つような技能は無いわ」
アルフ「怪力は役立つと思うぞ」
ベルタ「あんたを簀巻きにする時には使えるわね」
ガルマ「では瞬間帰還器などのアイテムを使った事はあるか?」
ベルタ「それならあるわ。今も持ってます。あと携帯食料とか携帯テントとか・・・」
アルフ「おい」
ベルタ「え?」
アルフ「携帯テントってなんだよ」
ベルタ「携帯出来るテントよ。軽いし掌サイズで運べるのよ。すっごいわよねぇ」
アルフ「野宿する為のアイテムじゃねぇのかよ」
ベルタ「そうよ」
アルフ「何で昨日使わなかったんだよ」
ベルタ「今聞かれるまで忘れてたのよ。だって旅なんて親任せだったし気が付かなくても仕方ないじゃない」
アルフ「何時間野宿か宿屋かで議論してたと思ってんだよ」
ベルタ「それで頭に血が昇って考えが回らなくなったんだから、アルフのせいでしょ」
ガルマ「旅ではアイテムを切らすと致命的になりかねない。在庫確認は怠るな」
アルフ「そうだそうだ」
ベルタ「アルフこそ念入りに準備してたけど何もってきたのよ」
アルフ「俺は完璧だぜ。釣竿と網、それに狩猟弓とナイフにバーベキューセット!」
ベルタ「キャンプに行くんじゃないのよ」
アルフ「え?旅って毎日キャンプするようなもんだろ」
ベルタ「遊びじゃないって事よ。そもそも弓なんて、あんた使った事も無いでしょ」
アルフ「いや~狩人の話が格好良くて、やってみたくてさ。それにこれ、そんなに難しいのか?」
アルフは弓に矢を番え近くの木に向けて放ってみせる。矢は回転しながら斜め上に弾け飛んだ。
アルフ「うぉ、どこに飛んでくんだよ。確かにまず訓練しないとあぶねぇな」
ベルタ「ナイフだって単純に見えるけど、下手に使うと反動で自分や周囲を傷つけちゃうわよ」
ガルマ「ナイフの基礎的な使い方はすぐに習得できよう。だが弓は旅を終えてからの修練がよかろう」
アルフ「二日目にして憧れの狩人は絶望的かよ。そんな気はしてたけどなー」
ガルマ「まずは日常的に重要且つ便利なアイテムの使用方法を習得しておくべきだな」
ベルタ「瞬間帰還器とかですよねー。これ危険な時にも一瞬で逃げられるから絶対に手放せない」
アルフ「そういえばガルマさんに最初に話しかけた時も、それで逃げようとしてたな」
ベルタ「そんな事、本人の前で言わないでよ」
ガルマ「常に警戒するのは重要な事。我もいつでも使えるように備えておったぞ」
ベルタ「あたし達、子供相手に警戒ですか?」
ガルマ「お主らは状況の一部に過ぎぬ。何時何が起こるか分からぬから常に備えるのだ」
ガルマの場合、下手に反応すると周囲を破壊しかねないからまず逃げる、というのが本音だ。
だがそこまで言う必要が無いと考えていた。
アルフ「こわ。最初にガルマさんに出会えたのは、すげーラッキーだったんだな」
ベルタ「全くよ。ラッキーなんて続かないんだから今後はちゃんと考えてよね」
アルフ「ガルマさんが一緒なら大丈夫じゃね?」
ベルタ「いつまで頼る気なのよあんたは」
ガルマ「いざという時に自分を守れるのは自分だけだ。ではアイテムの使い方を順に教えるぞ」
アルフとベルタは旅を続ける上で重要なアイテムとその使い方をガルマから教わった。
食事の時間だ。ベルタは鍋を火にかける為に着火アイテムを探していた。
ガルマ「火はいれておいたぞ」
ベルタ「え?もしかして着火魔法ですか」
ガルマ「あぁ、着火アイテムを使ってみたかったか?」
ベルタ「いえ、魔法って便利ですよね。あたしでも覚えられますか?」
ガルマ「む、着火魔法程度ならすぐにでも覚えられる。だが基礎を知らぬであろうお主には教えられぬ」
ベルタ「え?すぐに覚えられるのに基礎が必要なんですか?」
ガルマ「うむ、とても危険なのだ」
ベルタ「着火魔法だけなら大火力は出せないと思うんですけど」
ガルマ「例えばだ、寝てる間、夢の中で着火魔法を使ったらどうなると思う」
ベルタ「え・・・まさか」
ガルマ「寝返りや寝言と同じだ。夢の中の行動は現実に反映される。それは魔法でも変わらぬ」
寝てる間にベッドを燃やす自分を想像して慌てるベルタ。
ベルタ「や、やっぱり魔法は結構です」
ガルマ「うむ、まずは正常な精神状態においてのみ魔法を発動させる基礎が必要。それは一朝一夕では叶わぬ」
ベルタ「火をつけるだけでも先に勉強や修練が必要なんですね・・・」
ガルマ「そもそも人に魔法は向いておらぬからな。だからこそアイテム類を発展させてきたのであろう」
ベルタ「向いてないんですか?人以外に魔法が向いてる種族が居るのですか?」
ガルマ「向いておらぬ要素は色々ある。まず第一に寿命だな。高位の魔法であれば一つ習得するのに百年程か」
ベルタ「魔法一つで百年!?」
ガルマ「発火魔法の話と同じだ。先に制御手段を万全にせねばならぬ。それは高位の魔法になる程難しい」
ベルタ「じゃぁ人には高位の魔法は使えないんですね」
ガルマ「いや、真に魔法を極めようとする者共は不死化、機械化など様々な秘術を駆使して体得しておる」
ベルタ「・・・それって人である事をやめてませんか」
ガルマ「人である事を維持した者共も居るぞ。転生や記憶の移植やコールドスリープ状態での睡眠学習や」
ベルタ「向いてないのはよく分かりましたからもういいです」
ガルマ「魔法が向いておるのは我ら竜に連なる者や、エルフのような寿命の長い種族が居るな」
ベルタ「ではガルマさんも寿命が長いのですね」
ガルマ「竜に連なる者に寿命は無い」
ベルタ「え、不老不死なんですか」
ガルマ「ふむ、竜人を見た事が無かったようだが竜に関する知識も無かったか」
ベルタ「はい、竜や竜人の伝説は澤山読みましたけど」
ガルマ「それで容易く我に打ち解けた訳か。よかろう、竜に連なる者というのはな」
追加の焚き木を集めてきたアルフが戻って開口一番
アルフ「飯できたー?」
ベルタ「今作るわよ!折角面白いお話ししてもらってたのに・・・」
ガルマ「ははは、まずは腹ごしらえだな」
アルフ「・・・ベルタに言われて焚き木を集めてきたのに何で怒られるんだよー」
何でベルタはすぐ怒るのだろう。珍しくアルフが考え込む。
ベルタが読んでくれた本に、カルシウムが足りないと怒り易くなると書かれてたのを思い出した。
よし、俺が治してやる、とばかりに釣竿を握り締めるアルフだったが見当違いだった。
ガルマ「旅の基礎知識はこんなものか。次は長旅での自衛や食料調達手段として罠アイテムについて教えよう」
アルフ「罠って動物捕まえたりするやつだろ。かかるまで待つのって暇そうだな」
ベルタ「釣竿握り締めて言う事じゃないわよ。それだって罠じゃない」
ガルマ「狩猟目的でも罠は使うが、旅における罠アイテムの主目的は別にある」
ベルタ「もしかして昨晩の野宿で、ガルマさんがあたし達にもごそごそしてたやつですか」
アルフ「え、お前寝る時にガルマさんとごそごそしてたのか」
ベルタ「ややこしくなるから黙ってろやゴルァ」
ベルタに睨まれてアルフが言葉を失う。
ガルマ「あれは夜盗や獣避けの罠アイテムだな。寝る時だけではなく、今もお主達の体に施してあるぞ」
慌てて自分の体をチェックするアルフとベルタ。
ベルタ「あ、あぶなくないんですか」
ガルマ「うむ、どのような状況においても保護対象には害を為さぬようにフェールセーフが考慮されておる」
アルフ「ベルタは何度も親と町へ行ってたんだろ。何で瞬間帰還器は知ってるのに罠アイテムは知らないんだ」
ベルタ「知らないわよ、そんなのある事すら知らなかったし」
ガルマ「瞬間帰還器は緊急時に自分で使う必要がある。罠アイテムは旅立つ前に親が設置すれば済むからな」
ベルタ「それでかぁ。みんな親父がやってくれてたのね」
ガルマ「罠アイテムと一口に言っても静的・動的、設置型・追尾型・拡散型、護身用に狩猟用等、多岐に渡る」
アルフ「げ、それの使い方全部覚えないといけないの!?」
ガルマ「いや、使い方は形状で分かるように統一されておる。幾つか主流な形状を覚えておけば十分であろう」
アルフ「お、おぉ・・・」
ベルタ「しっかりしなさいよ。記憶が無いなら覚える場所は一杯空いてるでしょ」
アルフ「忘れるのは得意なんだけどなぁ~」
ベルタ「ごはんなら忘れてもいいわよ」
アルフ「えぇ~、それはなんか違うと思うぞ」
ベルタ「まずは覚えないと忘れようもないでしょ。それにほら、こんな罠アイテム面白くない?」
アルフ「お、おぉ、かっけー。俺もやってみたい」
ガルマ「どれも最初は面白く感じるかもしれぬな。仮にも罠だから注意は怠らぬようにな」
アルフ「3・2・1・ファイアぁああああああ」
ベルタ「遊ぶなっちゅうの!」
旅のレクチャーは順調に終わろうとしていた。