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あたしのせいじゃなーい  作者: わかいんだー
本章~ファンタジックな旅の日常~
27/52

おまけ:あたしの物は○○○の物

ケルピーが護る湖から続く街道を進むアルフ一行。

既に山は下りているが、人通りは皆無だ。


ウンディーネのティアラを装着したベルタは、後光を放つ巫女のように見える。

ガルマと共に歩いているので、本職の巫女よりも巫女らしいとも言える。

背中のリュックと、手に握るモーニングスターを除けばだが。


頭の後ろに手を組んで、後ろ歩きで先導しながらアルフが話しかける。

もう町が近いので、人との接触が避けられなくなる故の相談だ。


アルフ「ティアラ狙いの賊が出るのは確実だろうしさ。マアマと、対処手順を纏めておいた方がいいんじゃね」

ベルタ「そうね。基本は今まで通り。仲間をまとめて拘束かしら」

マアマ「おっけー」


拘束後はケースバイケースだ。

町中の賊なら警備兵に引渡し。

外のゴブリンのような、更生を望めない者は夜まで牢。

外の賊は、町付近でしか経験が無い。


アルフ「あとは拘束後だな。特に道中の賊。牢を作って時間で解放はダメだろ。更生する可能性があるし」

ベルタ「そっか。町から遠いと、警備兵の皆さんを釣ると迷惑をかけちゃうわよね」

アルフ「それは近くても迷惑だと思うけど。まぁいいか」


ベルタの感覚が今一分からないアルフ。

礼儀を大事にする割りに、仕事中の警備兵をいきなり釣り上げても迷惑だとは思わないのかと。


道中の賊の処理を考えてはみるが、案の纏まらないベルタ。

賊だけを町に放り投げても、警備兵が混乱するだろう。

一緒に町へ飛んでしまっては、移動のやり直しになってしまう。

悩んだ末に思い至る。

周囲の力を借りてでも、最良の手を模索しなければならないのだったと。


ベルタ「うーん。幾らでも賊を受け入れてくれるような。施設でもあれば楽なんだけどねぇ」

アルフ「なら次の町から、一度王都へ飛んでみるか?次の町を記録しておけば、すぐに戻れるだろ」

ベルタ「王都か。そうね。あそこなら、どれだけ送っても大丈夫とは思うけど。また王様が飛んできそうね」


広くて施設が充実している、となれば王都以上の場所は無い。

おまけに王とも面識が有る。

ベルタも提案には同意するが、問題もあった。

ガルマは無論、マアマを手にしたベルタが王都に入れば、即座に魔アイテムで検出される。

また必死の形相で王が駆けて来る事は、容易に想像出来た。

国の為に身体を張っている王を、必要以上に煩わせたくは無い。


アルフ「なら俺だけ行くか。見覚えのある警備兵なら、説明すれば分かってくれるだろ」


王都に於いて、特に兵に対しては、アルフ一行は顔の知れた有名人である。

王が飛び出したお陰で、殆どの兵がアルフ一行の周囲に集まっていたのだから。

表向きは活躍していないアルフでも、覚えている兵は多い筈なのだ。


ベルタ「ずるーい。あたしだってノーム様にお会いしたいわよ」

アルフ「おいおい。目的忘れるなって。お前が行ったら、また王やノームが挨拶に来るから先方に迷惑じゃね」

ベルタ「ノーム様でしょ!」


既に目的を見失っているベルタ。

王都からノームを連想してしまったようだ。

自分から心配しておきながら、既に王の事は忘れている。

だがノームを意識した事で、マアマの力を思い出す。

マアマから王への直接伝達には不安があるが、ノームを介せば差配を期待出来る。


ベルタ「・・・あ。マアマさんから、ノーム様にお願いは出来るかしら?」

マアマ「おっけー」

ベルタ「助かります。言わなくても分かっておられるのでしょうけど。一応説明しますね」

マアマ「あい」


ベルタの思考は、マアマに筒抜けだ。

口頭で説明する必要は無い。

だがマアマの口調や、遊びで協力している事を考慮すると、念の為にも正確に伝えておくべきなのだ。


ベルタ「道中で捕らえた賊を、刺客の時のように拘束して、全て送りつけたいので許可を頂きたいと」

王「承知致しましたベルタ様。刺客は全て更生しました。今後の賊もそうなのでしょう。喜んでお受けします」


ベルタがマアマに説明をすると、王の声で返答があった。

何が起こったのかを、即座には理解出来ないベルタ。


ベルタ「へ?」

王「は?」


しばし流れる沈黙。

マアマの遊びだろう、と推測して確認するベルタ。


ベルタ「マアマさん。王様の声になってるわよ」

王「は。マアマ様を通して、ベルタ様と会話出来る、と伺いましたが?」


王の説明で状況を理解したベルタ。

気付かぬ内に、王に対して話しかけていたのだ。

行き場の無い怒りが湧く。

マアマに対して、つっこまざるを得ない。


ベルタ「そんな話は聞いていないわよ!」

王「こ、これは申し訳ありません」


ベルタの怒声に反射的に謝罪する王。

人前では見せたくない姿である。

ベルタの機嫌を損ねれば国が滅ぶ、という認識は変わっていないのだ。


ベルタ「あ、すいません。王様じゃなくて、こっちの話です」

王「そ、そうですか」


今マアマに話しかけると、そのまま王へ届いてしまう。

慌てて自制するベルタ。


ベルタ「それで。賊はどこへ送れば良いでしょうか」

王「闘技場を、常時空けるようにしておいても良いのですが」

ベルタ「ノーム様の障壁の?それは勿体無いです!」


刺客の一味を捕らえた闘技場なら実績がある。

そこで王は闘技場を提案した。

何時来るか分からない賊の為に、常に空けておく事は勿体無い。

だが、ベルタの期待に応える事を優先した。


ベルタにとっても、憧れるノームの障壁をムダにしかねない提案は呑めない。

送るかどうかも分からない賊専用にする事は、極めて勿体無いと判断して否定した。


王「は。では・・・刺客を捕らえていた牢に、直接送っていただく事は可能でしょうか?」

ベルタ「マアマさん。刺客が捕らえられていた牢って分かる?」

マアマ「わかるー」


捕らえられた賊が、全く抵抗出来ない状態で送り込まれる事を、王は既に知っている。

賊を直接牢に放り込んでも、問題が発生しない事を推察出来た。

脱獄や破壊工作に及ぶ可能性を、考えなくても良いのだ。


ベルタも牢であれば異論は無い。

マアマが認識しているのであれば送り込める。


ベルタ「では牢に直接送らせていただきます。事前連絡無しで送り込んでも大丈夫でしょうか?」

王「はい。刺客の時のように、拘束していただけるのであれば、被害が出る事は無いでしょう」

ベルタ「了解しました。ではお手数をおかけしますが、よろしくお願いします」


一安心して通話を終えようとするベルタに、王の方から声がかかる。


王「ところで。お渡しした小切手を使われておりませんよね。やはり御不満でしたか」


小切手は王にとって苦肉の策だった。

国を救ってもらった礼をしたい。

だが、ベルタはほぼ何でも望みを叶えられるであろう状況に在る。

贈って喜ぶ品など想像がつかない。

ならばせめて、旅の邪魔にならずに何でも買える小切手を、と贈ったのだ。

ところが小切手による請求が全く来ない。

不要な物を無理に押し付けてしまったのではないか、と懸念していた。


ベルタ「とんでもないです。とっておきって事で、いざという時に備えて温存しております」


咄嗟に社交辞令で答えるベルタ。

嘘はいけないと思いつつも、相手を傷つけると分かっている事実を告げる事も避けたい。

綺麗サッパリ忘れてました、とは言えなかった。


王「でしたら良かった。てっきり、リュックの底に放り込んで忘れてしまわれたのでは無いか、と不安でした」

ベルタ「あ、あはは。まさか。そんな」


図星過ぎて冷や汗を流すベルタ。

マアマが王に漏らしている可能性も0では無いのだ。


王「では。他に御用が無ければ、執務に戻らせていただきたいのですが。よろしいでしょうか」

ベルタ「はい。突然お願いして申し訳ありませんでした。失礼します」

マアマ「おしまいー」


王は嬉々としていた。

突然のベルタからの通話で、話している間は緊張し続けていた。

だが受け入れる賊は、すぐに誠実な労働力に変わる事が保証されているようなものである。

加えて、小切手の懸念を一応は払拭出来た。

結果を見れば極めて有益な通話だったのだ。


一方でベルタは疲れきっていた。

懇願するようにマアマに語りかける。


ベルタ「はぁ。マアマさーん。ノーム様にお願いって言ったのに~」

マアマ「ノームの所に居たー」

ベルタ「あぁ。それでノーム様が、直接話せと差配なされたのね。それならそれで教えて欲しかったです」

マアマ「あはははは」


ベルタはマアマの使い方を、また一つ学んだ。

言伝を頼まなくても、誰とでも直接会話可能なのだ。

マアマの力を知っていれば容易に想定出来る事だが、ベルタには苦手な分野であった。


ベルタ「これで今後は何処で何が出ても、拘束して牢へ送るだけで完了か。準備しておくと気楽ね」

アルフ「だな」


ここまで事前に準備出来たのは、アルフの提案のお陰である。

アルフが成長しているのでは無いか、と思うベルタ。


ベルタ「あんた。普段から結構考えるようになってない?能天気卒業かしら」

アルフ「そうかな?単にパターン化してるからかな。考えなくても思いついてるだけじゃねぇかと」

ベルタ「なるほど。でも嫌なパターンよね。抜け出したいわ」



ウンディーネのティアラを入手後、最初の町に到着するアルフ一行。

あまり活気の無い町だ。

行き交う人の数はそれなりだが、明るさが全く感じられない。


アルフ「辛気臭い町だな」

ベルタ「そういう事は思っても口に出さないの。それに一晩泊まるだけでしょ」


辛気臭い町の雰囲気に合わない男が、アルフ一行に向ってくる。

満面の笑みだ。

だが、下卑た笑いであり嫌悪感を覚える。

裕福なのか、肥え太った様相で、異常に派手な服を着ていた。


商人「はじめまして。私は商いをしている者です。突然ですが娘さん。よろしければ、その額のティアラを」

ベルタ「これは売り物ではありません」

商人「そこを何とか。どうしても、と言う事であれば力ずくにならざるを」

アルフ「早速きたな」

ベルタ「はぁ。マアマさんお願いね」


ベルタがマアマを振る。

隠れていた傭兵もまとめて拘束される。

想定していたとは言え、町に入って早々襲われた事に気が滅入る。

マアマの発光時は、賊が襲ってきたのは町を出てからだ。

先が思いやられる。


ベルタ「さて。あんた達」


何が起こったのかを、拘束した商人達に説明しようとするベルタ。

高貴そうな婦人が、周囲の状況を無視してベルタに近づく。


貴族「そこの娘。良い品を身に着けておるな。私に差し出すが良い」

ベルタ「これは譲れません」

貴族「ほぉ。奪い取られたいと申すか」

ベルタ「マアマさんお願いね」


面倒そうにベルタがマアマを振る。

従えていた私兵もまとめて拘束される。

商人の次は貴族だ。

表向きは賊ですら無い。

それがいきなり町中で立て続けに襲って来た。

血の気が多過ぎるだろう。


ベルタ「さて」


再び説明しようとするベルタ。

顔を隠した男が背後に立って刃を構える。


盗賊「娘。そのティアラを差し出せば命までは盗らぬ」


切れそうなベルタがマアマを振る。

盗賊の仲間もまとめて拘束される。

ようやく賊らしい賊が来た。

だが嬉しい訳が無い。

この町がおかしいのか、ティアラの魅力が高過ぎるのか。


ベルタ「あぁもう。説明してる暇も無いわね」

アルフ「いいんじゃね。説明なんて。更生するまで拘束が解けないってくらいだろ。向こうでやってくれるさ」


説明しようとすると新手が湧いて来る。

最早説明する気が起きないベルタ。

黙ってマアマを振り、まとめて牢へ送る。

不満をぶちまけずには居られない。


ベルタ「賊が来るとは思っていたけど。商人や貴族まで。町中で、どうどうと襲って来るとは思わなかったわ」

アルフ「完全にティアラに気を取られてたな。ガルマさんにも気付いて無かったみたいだ」

ガルマ「欲深き者ほど、強く魅了される。命がけでも奪いに来よう」


ガルマに気付いたとしても、死を覚悟してでも奪いに来ると言う。

奪えたところで、死んでしまっては手放すしか無いというのに。

魅了の恐ろしさを知らないベルタには理解し難い。


ベルタ「精神鍛錬の効果を見る方法なんて無い、と思っていたけど。今は鍛えられてる事を実感する思いだわ」

アルフ「まだマアマが居るだけマシだと思うぞ。居なかったら、どうなると思う」


ぞっとするベルタ。

マアマ抜きでは、即座に瞬間帰還器で逃げるしか無いだろう。

そして逃げた先の町でも、すぐに同じ状況に陥るだろう。

詰みである。


話している端から新手が現れる。

今度は警備兵を連れた、身なりの良い男だ。


領主「娘よ。我はこの辺りの領主である。どうだ。そこの豪邸と、額のティアラを交換してやろうではないか」

ベルタ「お断りします」

領主「この町では警備兵でも我に従う。おとなしく交渉に応じる方が得策だぞ」


警備兵が敵と聞いて躊躇うベルタ。

警備兵を特別扱いしている訳では無い。

町が心配なのだ。


ベルタ「はぁ。警備兵まで拘束しちゃうとなぁ。この町の治安が不味いわねぇ」

アルフ「いいんじゃね。こいつの言いなりの警備兵なんて。治安を悪化させているだけだろ」

ベルタ「官憲の腐敗かぁ。折角ガルマさんが、今の人を評価してくれてたのに。ダメな人はダメ過ぎなのね」


ベルタは町に入る前に、王と話したばかりだった。

上に立つ者として、理想とも言える姿勢を貫く王だ。

その直後に、これである。

怒りを通り越して呆れ返っていた。

地方領主の地位にあるにも関わらず、嘆かわしい行為に及ぶ下卑た存在。

しかも人を護るべき官憲を悪用している。

こんなモノが上に立つ事など、あってはならない。


領主「何をごちゃごちゃ言っておる。我は忙しいのだ。さっさと差し出すが良い」

ベルタ「領主まで捕らえるとなると。先に王様にお願いしておいたのは大正解だったわね」


既に領主の言葉には、耳を貸す気が無いベルタ。

最早、魔物と同等にしか見えていない。

後は、実際に犯行に及ぶ事を確認してから、拘束するだけである。

さっさと終わらせる為に、領主の捕縛を示唆して挑発する。


領主「我を捕らえる?王だと?小娘が何をほざきおるか。もう良い。警備兵よ。こやつらを捕らえよ」


はい確定、と言わんばかりにベルタがマアマを振る。

領主と、警備兵を含めた配下がまとめて拘束される。

あとは牢へ送るだけだが、その後の警備が気になる。

送る前に何かを聞き出したりする必要があるかもしれない。


ベルタ「さぁ。どうしようかな。警備兵の代わりを考えないと」


考え込むベルタ。

一番手っ取り早くて確実なのは王に頼む事だ。

しかし、この程度の些事を相談すべき相手では無い。

とは言え、警備兵の派遣元など知らない。

大型獣と同様に、軍隊に頼るべきなのか?


悩むベルタの肩を叩いて、邪魔をするアルフ。


アルフ「もしかしたら。考えなくても良いかもな」

ベルタ「何を言っているのよ。町の人達が危険に晒されるわよ」

アルフ「その町の人達を見てみろよ。何かおかしくね?」


周囲を見回すと、一人残らず立ち止まって、ベルタを凝視している。

かなり気味が悪い。

すぐに襲ってくる様子は無い。

だがベルタを見つめる雰囲気は、捕らえた者達と同じ感じだ。


ベルタ「げ。何よこれ。マアマさんが光っていた時でも、ここまで酷くは無かったわよ」

ガルマ「ティアラは直接ウンディーネが作った品だ。加えて武器では無く装飾品だ。魅了の度合いが違う」


マアマの発光時よりも、やばい状況だと言うガルマ。


魅了の恐ろしさを理解し始めるベルタ。


ベルタ「流石はウンディーネ様。って喜んでる場合じゃ無いわね」

ガルマ「お主を変だと言うほど適合者が居なかったのだ。恐らくは出会う人のほぼ全てが魅了されるであろう」


ほぼ全ての人が対象、と聞いて息を呑むベルタ。

町の人々を見れば疑いようが無い。

今後行く先が全てこうなるのか。


ベルタ「精神鍛錬どころじゃ無いわね。出会う人全てを犠牲にする訳にはいかないわ」

アルフ「今の話だと。魅了の力は光じゃなくて、ティアラ本体にあるんだよな。なら帽子でも被って隠せば?」

ベルタ「ウンディーネ様のティアラを隠すなんて・・・うぅ。でも他に手は無いかぁ」

アルフ「元々、外して持ち歩く予定だったんだろ。仕舞っていれば、隠しているも同然じゃん」

ベルタ「額に仕舞っているって言い訳?無理筋だけど。分かっていただくしか無さそうね」


ティアラを隠す意図を、ウンディーネに誤解されたく無いベルタ。

見た目が気に入らないから隠している、などとは絶対に思われたく無いのだ。

大事に仕舞うならともかく、装着しておいて隠すのであれば、見た目が問題だと言っているに等しい。

実際に見た目の問題なのだが、その問題が魅了の力にある事を、伝える手段が欲しいのだ。


ガルマ「魅了される事も自業自得」

ベルタ「そうなんですけどねぇ。賊ならまだしも、襲ってこない人にまで影響しては辛いのです」


ガルマは問題視していない。

ティアラが無差別に魅了している訳では無い。

我欲に駆られた人が、勝手に魅了されているのだから。


ガルマの言い分は、ベルタにも理解は出来る。

だが流石に、ほぼ全ての人が対象になるのは厳し過ぎて、対処せざるを得ない。

その時ふと、アルフも対象外である事に気付く。


ベルタ「そういえばアルフ。あんたは平気なの?」

アルフ「俺?綺麗だなって思ってるぞ」

ベルタ「魅了されない、という事は。あんたも変なんだ」

アルフ「そうかもしれない。でも違う気がする」

ベルタ「何がよ」

アルフ「俺の場合。ベルタの物は、俺の物って感じ。だから気にならない、みたいな?」


仰天するベルタ。

とんでも無い屁理屈が来た。

既に自分の物も同然だ、とアルフは豪語しているのだ。

確かに、そう思っているのであれば魅了されないのかもしれない。

だが別の意味で、納得する訳にはいかない。


ベルタ「何よそれ!あたしの物は、あたしの物よ」

アルフ「いや。そうなんだけど。俺の荷物も全部持ってくれてるし。お前の物は、俺にも使ってくれてるし」

ベルタ「・・・言われてみれば。どっちが持ってても同じような状況ね」


実質的に専用となっている物は装備品くらいか。

ほぼ全ての物をベルタが運んでいる。

装備品であるマアマやティアラも、アルフに恩恵を与え続けている。

アルフの感覚では、全てが自分の物も同然なのだ。


アルフ「だから俺が魅了されない事は、参考にならないのかも」

ベルタ「となると帽子かぁ。麦藁帽子なら有るんだけど・・・やっぱ動き回るなら。これよね」


ベルタは手拭いを鉢巻にする。

畑仕事の時には、いつも巻いていたので手馴れたものだ。

巫女ぽい容姿が一転して、村娘ぽくなった。

後光が差しているかのように発光しているが。


アルフ「いいんじゃね。明るいままだから、光は透過してるぽいし。癒しの効果も感じる」

ベルタ「この光は透過しちゃうのか。どうしよ。寝る時に邪魔よね」

アルフ「光と言っても眩しい訳じゃねぇし。月明かりみたいな感じだろ。大丈夫じゃね」

ベルタ「そっか。あたしのせいでごめんね」

アルフ「気にしなくて良いと思うぞ。むしろ光の効果で快眠出来そうだ」

ベルタ「あはは。だと良いな」


寝る時には布団を被れば発光を遮られる、とベルタは考えていた。

だが鉢巻をしても光が減衰したようには見えない。

今回もアルフの言葉通りになる事を祈る。


アルフ「町の人達も大丈夫そうだな。光が出てるから目立ってはいるが、魅了は解けてそうだ」

ベルタ「怖い雰囲気は無くなってるわね。問題の一つは解決か」


まだベルタの方を気にしている人は居るが、魅入られたような不気味な雰囲気は無い。

恐らくは発光が気になっているだけであろう。


アルフ「まだ何かあるのか」

ベルタ「警備兵よ」

アルフ「あぁ。襲って来るような連中は捕まえた後だから、大丈夫だとは思うけど」


警備兵の補充方法を検討している途中だった。

だが噂をすれば影、と言わんばかりに警備兵が寄ってきた。

不審者を見るように怪訝そうな顔をしている。


警備兵「お前達。そこで何をしている。通りに大勢で寝転がって何を・・・げ。クソ領主」


警備兵が寄ってきたのは、アルフ一行にでは無く、捕らえた連中にであった。

道端に大勢寝ていれば、不審に思うのは当然だった。

アルフ一行をただの見物人だとでも思っているのか、領主の方だけを見て首をかしげている。


アルフ「お。捕まっていない警備兵も居るじゃん」

ベルタ「今クソ領主って、おっしゃいましたよね?この方達の腐敗を御存知なのですか」


捕らえられていない時点で、領主の仲間では無い。

ベルタの方から警備兵に話しかけてみる。


声をかけられて、ようやくベルタに注意を向ける警備兵。

迷った様子だったが、言い辛そうに官憲の腐敗を認める。


警備兵「・・・あぁ。警備兵の殆どが金に釣られて、逆らえないのだがな」

アルフ「でも捕らえられてないって事は。おっちゃんは釣られてないんだな」


アルフの言葉に、怒るべきか笑うべきか悩ましい感じの警備兵。

それでも、まずは職務を全うしようとする。


警備兵「おっちゃん言うな。お兄さんと呼べ。どうも話が見えない。お前達が捕らえたのか?一体どうやって」

ベルタ「説明がややこしいので、察して下さると助かるのですが。領主とその仲間を捕らえています」


目線を送るだけでもガルマに責任転嫁されかねないので、何とか自力で説明したいと思うベルタ。

だがマアマについて説明するのはかなり手間だ。

官憲の腐敗を知っているのであれば、状況から察してくれないかと期待する。


警備兵は、ベルタの期待通りに察する事は出来た。

だが根拠も無しに受け入れる事は出来ない。

領主の権力にも屈しなかった、意志の強い警備兵なのだ。


警備兵「状況からして事実を言っているとは思う。だが非現実的過ぎてな。法的にどうしたものか」

ガルマ「我がやった、という事にしておけ」


ベルタを見かねてガルマが割り込む。

ベルタは気を使っているが、ガルマとしては押し付けられても問題無いのだ。


警備兵はぎょっ、としつつも事態を纏めようとする。


警備兵「げ。竜人!・・・様。聞いていたよりは随分と優しい粛清だが。竜人様の差配となれば説明は可能だ」

ベルタ「ガルマさん。毎度申し訳ありません」

ガルマ「良い」

アルフ「王都だけでなく、現場での説明の簡略化も考えておくべきだったな」


領主と警備兵を捕らえた名分は立った。

だが警備兵は物憂げに葛藤している。

領主はこの地の司法権限まで侵食しているのだ。


警備兵「しかし領主を裁こうにも最高権力を持っている。どう処分したものか」

アルフ「あぁ。更生するまでは動けないぞ。放っておけば自分から裁かれに来ると思うぞ」

警備兵「何をバカな・・・とも言えぬ状況か」


更生するような領主で無い事は、嫌と言う程に熟知している警備兵。

アルフの言葉に唖然としつつも期待したくなる。


ベルタは始めからこの地の司法に任せる気など無い。

今まで領主をのさばらせていた司法なのだから。


ベルタ「領主ともなれば。やはり王様に、直接裁いてもらった方が良いでしょう。送ります」

警備兵「へ」


ベルタがマアマを振る。

捕らえた者達を牢へ送った。


警備兵「き、消えた」


直前に説明されたとは言え、信じ難い光景に呆然とする警備兵。

何を言ってるんだ、と思った直後に、目の前で領主達が消えたのだ。

実際に目にするまでは、信じられるものでは無かった。


ベルタ「王都の牢へ送りました。王様には説明済みです。あとはこの町の警備の補充をお願いします」


ベルタは警備兵をつついて、今後の対応を任せる。


警備兵「あ、あぁ。クソ領主さえ居なくなったなら、どうにでもなる。ありがとう。感謝するぞ」


警備兵も正気に戻る。

憑き物が落ちたような笑顔で礼を言った。

既に諦めていた領主の排除が、目の前で成されたのだから。


礼を言いたいのはベルタも一緒だった。

警備兵が全滅していては、今後の対処に困っていたのだ。


ベルタ「こちらも貴方が残っていてくれて助かりました。警備兵が居なくなっては町が心配ですし」

警備兵「大丈夫だ。二割くらいの警備兵は金に釣られていない筈だ。後の事は心配しないでくれ」

アルフ「二割で大丈夫ってか。にいちゃん、かっけーな」

警備兵「今までは、領主と八割くらいの警備兵が敵だったんだぜ。余裕で任せろって言えるぜ」


本来は頼りになるべき筈の味方が、敵であったのだ。

表向きは味方であるが故、攻撃する事も敵わない。

明確な敵を相手にするよりも、遥かに厄介であった。

それが居なくなったのだから、むしろ警備は強化された状況だと言えた。


アルフ「どの町も、そんな感じなのか」

警備兵「いや。俺も詳しくは知らない。だが他所の腐敗は聞いてないな」

アルフ「ここはたまたまか。ティアラを貰って即ここへ来るなんてな。ついているのか、いないのか」

ベルタ「全くよね。それにしても。結果的には町を救えたのよね。流石はウンディーネ様」

アルフ「それは、もういいから」


幸い、官憲の腐敗が世界に蔓延している訳では無いようだ。

今までに通った町には辛気臭さが無かったので、恐らくは大丈夫なのであろう。


警備兵「では俺は他の警備兵に状況を説明しに行く。良い旅路を」

アルフ「おぉ。がんばれよー」

ベルタ「ありがとうございました」


警備兵は歓声をあげ、スキップを混ぜながら走り去った。


アルフとベルタは、残る課題に取り組む。

捕り物現場での、警備兵への説明の簡略化についてだ。


ベルタ「さて。賊を捕らえた後の説明方法を考えておきますか。とは言え、色々な状況があるだろうし・・・」

アルフ「いっそ、捕らえる場所を牢にしちまえばよくね。説明の必要が無くなるだろ」

ベルタ「あはは。それでいいか。面倒だし。官憲の仕事は、あたし達の責任じゃないものね。丸投げしますか」


簡略化は能天気の基本なのか、アルフが即答した。

ベルタも犯罪者に説教したい訳では無いので同意した。


ベルタ「じゃあマアマさん。今後は賊を捕らえたら、そのまま牢へお願いします。更生可能な人の場合だけね」

マアマ「おっけー」



ようやく町に入ってからの騒動が片付いた。

既に辺りは暗くなっているが、ティアラの発光で視界は確保されている。


しかし考えてみるとおかしい。

光が透過するなら、反射しない筈である。

周囲を照らし出す事は出来ないであろう。

逆に、透過せずに反射しているとしたら、出ている筈の影が見えない。

透過していても、していなくても、説明がつかない。

疑問に思うベルタに、アルフが水を差す。


アルフ「今晩は、この町が一番安全だろうし。宿を決めようぜ」

ベルタ「そうね」


ベルタは光の透過についての謎解きを中断する。

喫緊の課題では無いし、アルフ達を待たせておく訳にもいかない。

近くの宿を訪れた。


ベルタ「今晩は。三人の夕食と一泊をお願いできますでしょうか」

宿の主「お。もしかして。クソ領主を退治してくれたのは、あんたらかい。警備兵が触れ回ってたぜ」


宿の主はご機嫌だった。

アルフ一行を待ってました、とばかりの様相だ。

領主に強い不満があったのは、警備兵だけでは無かったようだ。


ベルタ「あはは。クソ領主に退治って酷い言いようですね。皆さんにとって害獣みたいな存在だったのですか」

宿の主「あぁ。クソ領主と言うのは、あいつの固有名詞だと思うぜ。ははは」

アルフ「更生するまでは戻って来れないから、安心していいぜ」


アルフの一言は、宿の主をさらに上機嫌にした。

クソ領主が、そのまま返り咲いては元の木阿弥だ。

だが、そこまで対策済みだ、とお墨付きをくれたのだから。


宿の主「お。頼もしいな。礼と言っちゃ何だが、今晩は奢るぜ。好きなもん注文してくれ」

アルフ「おぉ。肉。肉を出してくれ」

宿の主「ははは。まかせとけ。とびっきりの肉を食い放題だ」

アルフ「ウンディーネ様ばんざーい」

ベルタ「アルフは食事が絡まないと感謝しないのね」


クソ領主により、町は酷い圧政下にあった。

領主討伐の報せにより、町のあちこちで祝賀の宴が開かれていた。

宿で食事をしていても、あちこちから歓声が聞こえる。


ベルタ「これだけ喜んでもらえるなら。町に入る時は、ティアラを隠さない方が良いのかしら」

アルフ「かもな」

ベルタ「でも。一時的にでも、普通の人まで魅了しちゃうのは良くないわよね」

アルフ「かもな」


食べる方に夢中なのか、返事が適当なアルフ。

ベルタにとっては大事な話なので問いただす。


ベルタ「どっちがいいのよ」

アルフ「俺に聞くなよ。俺たちは世直しの旅をしている訳じゃねぇ。好きにしていいんじゃね」

ベルタ「うーん。不意に魅了されると事故を起こしたりもするだろうし。やっぱり隠すべきかぁ」

アルフ「かもな」


食事を終えた一行は、すぐにベッドに入った。


悶々としながら寝床に就くベルタ。

ティアラを隠すべきか否か、明確な答えが出ない。

だがアルフの言う通り、ティアラの光の効果ですぐに眠りに落ちた。


翌朝から町は賑やかだった。

昨日の辛気臭さは皆無だ。

昨晩から夜通しで開いている宴もあるようだ。


活気付いた町を後に、アルフ一行は旅を再開した。



ベルタが疑問に思っていた、光の透過と反射については、根本的な認識がずれていた。

ティアラ自体も発光してはいるが、癒しの光は周囲に直接発生しているのだ。

ティアラを中心とする、大きな発光空間を形成しているのである。

光が透過していた訳では無いのだ。


当のベルタは、疑問に思っていた事を既に忘れていた。


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