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あたしのせいじゃなーい  作者: わかいんだー
本章~ファンタジックな旅の日常~
22/52

おまけ:風と共に去った機会

広大な平原を進むアルフ一行。

涼しい昼下がりで天気も良い。

平穏と呼ぶに相応しい旅の日常が続いていた。


空を見て考え事をしていたベルタが、アルフに話しかける。


ベルタ「こうして思い返すと。あんたが何かに呼ばれてると言うのも信憑性があるわね」

アルフ「何だよ今更」


今まで信じて無かった。

そう言わんばかりのベルタに、アルフが呆れて振り返る。


ベルタ「今更なんだけどさ。ガルマさんに出会った頃は、星の瞬きがそう見えるとか言う話だったし」

アルフ「あぁ。それは俺も思うな。どうせなら東の町に来いとかなら、すぐに飛べるのに」


アルフも納得する。

示されるのは方角のみなのだ。

何があるか分からないので計画の立てようも無い。


ベルタ「でしょう」

アルフ「まぁ呼ばれなくなったら、やる事ねぇし。いいんだけど」


再び進路に向くアルフ。

何も覚えて無いので、やりたい事も無い。

ただ呼ばれているから行ってみようかというだけの事である。


アルフの気持ちは分かるが、それで良いのかと思うベルタ。


ベルタ「やる事は自分で考えるものよ。とは言ってもあんたの場合は特殊だしねぇ」

アルフ「行き先は言いなりだな。でもそれに従う事を選択しのは俺なんだし。いいんじゃね」


呼びかけに応じたのはアルフの意志である。

強制された訳でも無いので問題視はしていなかった。


ベルタが信憑性を感じたのは、これまでの旅の流れを思い返した結果だった。

ただ適当に歩いていたにしては出会いが濃すぎるのだ。


ベルタ「お陰でガルマさんとマアマさん。ノーム様にまで会えたし」

アルフ「そうそう」

ベルタ「他の人達もそうね。あの幾つもの出会いが無ければ、マアマさんが宿る武器も無かったのよね」

アルフ「そうそう」


考えれば考えるほど出来すぎた流れ。

特定の人達との出会いも大きいが、それだけでは無い。

出会う順序が変わっただけで、挫折していた可能性が高い。

特定の場所へ呼ばれた結果の偶然、と考えるには無理を感じる。

まるで道中に用意された、騒動に呼ばれていたかのような。

違和感を感じてアルフに問い掛けるベルタ。


ベルタ「・・・何か。全部最初から仕組まれてた、みたいに思えない?」

アルフ「そうそう」

ベルタ「そうなの!?」


やはり仕組まれていたのかと驚くベルタ。

詳しく問い詰めようとアルフに迫る。


だがベルタ以上に驚くアルフ。

深く考えずに相槌を打っていただけなのだ。

慌ててベルタの言葉を反芻する。


アルフ「え!?・・・いや。仕組まれてたかは分かんねぇけど。そう思えるかと言われたら肯定だな」


ガルマも同感ではある。

余りにも都合の良い出会いが続く。

だが運要素が強かった流れも多い。

仕組まれていたとは考え難い。


もし仕組んだと仮定するなら。

恐らくは未来を見た上での事であろう。

その未来はシイタが調査に行った。

シイタからは未だ何の連絡も無い。

未来で何かを見つけたという事かもしれない。

対処している最中と考えれば辻褄が合うのだ。



アルフが何も考えていなかった事をベルタは察する。

仕組まれたとしたら何が目的なのか。

旅を始めた頃と現状を比べてみる。


ベルタ「子供だけで不安だった筈の旅なのに。今じゃ王様にまで恐れられてるしねぇ」

ガルマ「ふむ。もはや護る必要が無いのであれば、我はここ迄にしておこうか」


ベルタの呟きに応じ、自然に答えるガルマ。


ガルマとしては同行を続ける必要は無い。

アルフの監視は別行動していても可能である。

必要であれば姿を隠して追う事も出来る。


ベルタの成長を見守りたい気持ちは湧いている。

だが他にも成長を見込める者が現れているかもしれない。

そんな期待も膨らんでいる。

それにベルタにはマアマが付いてるいる。

流石に二者で見守るのは過剰であると思った。



想定外のガルマの発言に卒倒しかけるベルタ。

今更ガルマに去られては不味いのである。

子供二人だけの時よりも、遥かに危険な状態になっているのだ。


ベルタ「勘弁してください!ガルマさんには居てくださらないと困ります」

ガルマ「ふむ」


懸命にガルマを引きとめようと懇願するベルタ。

ガルマは肯定も否定もせずに応じる。


ベルタ「あたしだけじゃ危険なのです。何時かマアマさんで。とんでも無い事をしでかしそうで」

ガルマ「案ずるな。マアマは暴走したりはせぬ」


マアマに対するガルマの信頼は厚い。

ベルタの護りの意識が崩れぬ以上は、マアマの暴発も無いと考える。


ベルタもマアマの単独暴走を心配しているのでは無い。

マアマを使うベルタ自身の弱さが不安なのだ。

改めてガルマに懸念を訴えるベルタ。


ベルタ「あたしの精神が、まだ脆いままだと思うんです」

ガルマ「そうだな」


ベルタの懸念にガルマも同意する。

ベルタはガルマの存在意義を強調して慰留を試みる。


ベルタ「火事の時の蘇生。あれは、あたしの為だったのではないのですか」

ガルマ「何故そう思う」


やはりベルタは面白い、とガルマは思う。

ベルタを護ったと思わせる素振りは見せていない筈なのだ。

強いて言えば、精神崩壊の危機にあった事を指摘したくらいか。


ベルタ「ガルマさんは人に苦難を乗り越えさせようとしています。見境なく人を助ける事は無いと思うのです」

ガルマ「道理だ」


ここまでの読みは完璧とまで言える。

何のきっかけも無い状態から、ガルマの蘇生に疑問を見出して考えていたのだ。

ガルマは感心する。


ベルタ「でも今のガルマさんは、あたし達を護る目的で同伴してくれている。だからあたしを護る為かと」

ガルマ「お主は実によく考えるな。良い傾向だ」


最後の読みだけは、ずれていた。

だが間違っている訳でもない。

むしろ的中されては困るガルマだった。


ガルマの理解を確認してベルタは本題に入る。


ベルタ「だったら。あたしがマアマさんの扱いを間違えそうになったら止めて下さいますよね」

ガルマ「蘇生時の状況であればマアマでも抑えられたであろう」


マアマに蘇生の力は無い。

だが火事の時は、肉体を修復して気付けするだけで十分であった。

マアマが居れば救出も早くなる。


だがベルタは納得出来ない。

扱う人次第で大陸をも消したという過去がマアマにはあるのだ。


ベルタ「マアマさんの遊びの感覚。それは、あたしの理解を超えているのです」

ガルマ「お主の不安は理解した」


思いつめたベルタの言葉に、ガルマは理解を示す。

同行を続ける必要は無い。

だが別れる必要も無いのだ。

精神を鍛える良い機会になりそうではあったが、不安に潰されてしまっては元も子もない。


ベルタ「改めてお願いします。竜人様の立場を知った今、お願いする事すら無礼と存じてはいますが」


ガルマの翻意に未だ確信を持てないベルタ。

重ねて慰留を懇願する。


頼める立場で無い事をベルタは理解していた。

神そのものとも言える竜人に、護衛をしろと言っているのだ。

我侭にも程がある。

その場で粛清されて、むしろ当然であろう。

だがそれでも頼まなければならない。

マアマの扱いを誤れば、自分の命だけでは済まない事になりかねないのだ。


ガルマ「良い。言ったであろう。我はアテの無い旅をしておる。お主らが望むのであれば付き合おう」


ベルタの言葉を遮って、ガルマは受け入れる。

ベルタの我侭は、我侭たり得ないのだ。

調和の維持がベルタの我侭であるが故に。


ガルマの言葉でようやく安堵するベルタ。

涙を浮かべて感謝する。


ベルタ「ありがとうございます」


ベルタの必死さのあまり、見ているだけだったアルフが呟く。


アルフ「俺が言うもんじゃ無いけどさ。人の一生なんてガルマさんには一瞬だろ。気にしなくていいんじゃね」

ガルマ「その通りだ」


ベルタとは逆に、親戚のオヤジのようにガルマを扱うアルフ。

ガルマはそれを当然の如くに受け入れる。


ベルタ「アルフったらもう。出会いの時が無知過ぎましたね。気安くなり過ぎちゃいました」


気が気でないベルタ。

折角慰留したのに、無礼で御破算にされては堪らない。


ガルマ「我を敬う必要などない。誰でも気安く接して構わぬ。道を違えた者は、恐れるしか無かろうがな」


ガルマの感覚では、人も動物の一種に過ぎない。

慕われれば悪い気はしない、という程度の存在だ。

敬って欲しいなどとは思いもしない。


ベルタには納得がいかない。

神をも敬わぬなど、ただの傲慢ではないのかと。


ベルタ「ガルマさんを敬わずして、誰を敬えと言うのですか」

ガルマ「誰も敬わずとも良い」

ベルタ「そりゃガルマさんには、敬う人なんて居ないでしょうけど・・・」

ガルマ「我もマアマの経験など敬っておる。敬う必要は無いと言うだけの話。誰を敬うも敬わぬも自由だ」


反論出来なくても納得のいかないベルタ。

矛先をアルフに向ける。


ベルタ「アルフは誰か敬ってるの?」

アルフ「え?勿論ガルマさんもマアマもすげぇし。敬ってると思うぞ」


意外な返答に驚くベルタ。

ガルマやマアマの力は、アルフなりに認めているのだ。

だが言葉と態度が一致していない。


ベルタ「全然そうは見えないんだけど」

アルフ「敬い方ってのが分かってないんじゃね」


正鵠を得た回答に脱力するベルタ。


ベルタ「当人の台詞じゃないわよ。それ。でも、あんたの場合は仕方ないか。はぁ」


一人葛藤するベルタに、ガルマが助言する。


ガルマ「我もマアマも尊敬など求めておらぬ。我らが求めるのは、お主らの成長だ」

マアマ「だねー」


ベルタも察する。

表面上の儀礼など、どうでも良い事なのだ。

如何に大願に近づくかが、ガルマに対する唯一の返礼なのだ。


ベルタ「成長かぁ。具体的な目標があれば努力もし易いのですけどね」

ガルマ「まずは愚かさの克服であろうな」


ガルマは事も無さげに答える。

しかし前人未到の目標を掲げられてもベルタにはお手上げである。


ベルタ「うぅ。その具体的な方法が分からないんですよ」

ガルマ「じっくりと考えよ。経験を積め。物事を成すには順序がある」


具体的な答えは示さないガルマ。

示せない理由はベルタも承知している。

自分で考えなければ意味が無いのだ。


ベルタ「焦っちゃうなぁ・・・マアマさん300kg程追加お願いします」

マアマ「おっけー」

アルフ「何でそうなるんだよ!」


足りない部分を補おうとする時、つい筋力アップに頼ってしまうベルタ。

アルフには理解し難い。


後付でそれらしい言い訳を考えるベルタ。


ベルタ「何でって。こう煮詰まると暴れ・・・じゃなくて体動かして発散したくなるでしょ」

アルフ「ならねーよ!」

ベルタ「あんたは能天気だから煮詰まらないのよ」

アルフ「そっかなー。何かずれてると思うんだけどなー」


アルフが悩んでる隙に、ベルタはマアマを振る。

ベルタの服の重量が加算される。


ベルタ「あぁ落ち着くわー」

アルフ「んな奴は他に居ねーて」


アルフの気持ちを察したつもりのベルタ。

誤解で提案する。


ベルタ「いちいち煩いわね。そんなに羨ましいならあんたの服も重くしてあげるわよ」

アルフ「いや、これ以上ムリ」

ベルタ「遊びなんだから遠慮しなくていいのにねぇ。マアマさん」

マアマ「ねー」


感覚が違い過ぎて話が通じない。

言ってもムダだとアルフは悟る。

代わりに遊びという言葉が気になった。


アルフ「遊びって言えばさぁ。マアマは狩り程度で満足なの?前の持ち主は暴れてたみたいな話だったけど」

マアマ「えへへへへー」

アルフ「えへへじゃ分かんねぇよ」

マアマ「べるたー。すきー」

アルフ「なるほど」


アルフには何となく分かった。

ベルタは常時マアマを手にするようになっている。

それはマアマを意識する機会が格段に増えた事を意味する。

意識される事がマアマにとって心地良い事は既に聞いていた。


ベルタとしては悩ましい問題だ。

欲望の傾きが好かれていると理解はしている。

だが意識して作った傾きではない。

傾きが変わったとしても自覚すら出来ないであろう。

マアマが満足するような遊びを切実に知っておきたい。


ベルタ「好いてくれるのは嬉しいんだけど。どう遊べば喜んでくれるのか今一分かんないのよね」

アルフ「だよな。ベルタみたいに全力で暴れたいって訳じゃ無さそうだし」

ベルタ「誰がよ!」


同意しながらも無意識に虎の尾を踏むアルフ。

踏んだとは思わず、ベルタの反応に驚く。


アルフ「おぉ。自覚ねぇのかよ」

ベルタ「全くあんたは。あたしが、かよわい乙女だって事を少しは意識しなさい」

アルフ「・・・」


二の句が継げないとはこの事か、とアルフはベルタをただ見つめる。


ベルタ「何よ」

アルフ「ハイ」

マアマ「あはははは」


理不尽な肯定を余儀なくされたアルフだった。


ベルタには全力を出したいという自覚は無かった。

全力を出そうとした機会を思い出してみる。


ベルタ「全力かぁ。グールと戦った時くらいしか出した覚えは無いなぁ」

アルフ「グールの時は全然、力が入って無いように見えたぞ」


アルフは拍子抜けしたように答える。

決死の思いだったベルタには理解し難い。


ベルタ「へ?思い切り殴ってたわよ」

アルフ「いや。火事で屋根吹っ飛ばした時の方が圧倒的に凄かった」


客観的には火事で見せた力の方が凄かったらしい。

だが意識が半ば飛んだ状態だったのでベルタには思い出せない。


ベルタ「あぁ。あの時は訳が分かんなくなってたからねぇ。意識しても出せない力かも」

アルフ「オリハルコンなら曲がって力を逃がしたりしないだろうし。意識して出せるならグールも一撃じゃね」

ベルタ「あはは。まさか」


アルフの言葉に頷くガルマ。

半身は蒸発するだろうなと推測する。


アルフはマジメに助言する。

本来の力を意識して出せないのは勿体無い。


アルフ「身体を鍛えるより。意識して全力を出せるようにした方が良いんじゃねぇの」

ベルタ「アルフにしてはまともな事言うわね。でもどうすれば良いのかしら」


素直に感心するベルタ。

だがどうすれば良いのかが分からない。


問われてアルフも考える。

提案はしたが方法までは考えていない。

火事の時には、粉砕される屋根が遠くから見えただけだった。

殴る姿は見えていなかったのでコメント出来ない。


アルフ「うーん?グールの時は身体に力を入れすぎて固まってたみたいな?火事の時は見えてねぇ」

ベルタ「それは確かにあったわね。だって怖かったんだもん。火事の時は恐怖は無かったと思うわ」


それだ、とばかりに指摘するアルフ。


アルフ「全身に力を入れてると、逆に動き辛いだろ」

ベルタ「そうね。やっぱ精神の脆さが喫緊の課題かぁ」


マアマを手にした時から指摘されてはいた。

だが具体的な解決方法も無く先延ばしになっていた。

ガルマを慰留しなければならない原因にもなっている。


悩むベルタにアルフが告げる。

自信ありげだ。


アルフ「精神を鍛えたいなら良い方法があるぜ」

ベルタ「へぇ?」


藁をも掴みたい思いのベルタは興味を示す。


アルフ「何があっても怒らないようにするとかさ」

ベルタ「あんたが怒られたくないだけでしょ」


藁くずだったかと落胆するベルタ。

だがアルフは続ける。


アルフ「無論それもあるけどさ。怒りや悲しみとかの感情に流される事が、精神の脆さってやつじゃねぇのか」

ベルタ「・・・それはそうね。アルフ凄いじゃない。よく考えてるのね」


ベルタは感心する。

怒りを抑える事は精神の脆さの克服に繋がるかもしれない。


アルフ「伊達に怒られ続けてきていないさ」

ベルタ「分かったわ。じゃあアルフ以外には怒らないように注意してみる」


ベルタの理解は得られた。

だがアルフの目的は達成されなかった。


アルフ「待て待て待て。俺にも怒るなよ」

ベルタ「あんたは怒らないと。とんでも無い事するでしょ。王様に何を言ってたか分かってるの」


ベルタの言い分は尤もだ。

だがこのままではアルフが提案した意味が無い。


アルフ「いやだから。そこは優しく忠告するとかだな」

ベルタ「それはいつもしてるじゃない。しても止まらないから怒るのよ」

アルフ「えー」


アルフは撃沈された。

しかしベルタを怒らせるのは殆どアルフである。

アルフを除外しては鍛錬にならないのであった。



一段落したので話題を変えるベルタ。


ベルタ「最近平穏な日が続くわね。ずっとこんな日が続けば良いのだけど」

アルフ「おぉ。聞き覚えあるぜ、こういうの。嵐の前の静けさだっけ」

ベルタ「やめてよ。あんたの言う事って妙に当たるんだから」


ポツ ポツ


当然降り出す雨。

アルフの言葉には言霊が宿っているかのようである。


アルフ「おぉ。マジか」


空に向ってつっこむベルタ。


ベルタ「いや、嵐の前の静けさって。天気じゃなくて、平穏な日々の方の話だったんだけど」


アルフは周囲を見渡すが平原のど真ん中である。


アルフ「雨宿り出来そうな場所も見えねぇな。嵐を吹き飛ばしたりできねぇのか」

ベルタ「出来てもダメよ。地域によっては大事な水源になったりするのよ」


確かにマアマなら嵐を消すのも自在だろう。

だが嵐も自然現象の一つであり消せば良いというものでも無い。


アルフも納得する。

後は嵐の中を進むか、簡易テントで凌ぐか、町へ帰還するか。


アルフ「そうか。んじゃシャワー気分で浴びておくか?」

ベルタ「風が強くなってきたから、色々飛んできて危なそうね。簡易テントを張りましょう」

アルフ「あいよ」


簡易テントは便利だが狭い。

寝るだけなら問題無いという程度の広さだ。

いつまで続くか分からない嵐では使いたく無い。

とは言え、嵐の規模次第では何が飛んでくるか分からない。

簡易テントはそれなりに頑丈なので、歩くよりマシと判断した。


マアマ「あそぶー」


マアマの反応に戸惑うベルタ。

何をする気なのか。


ベルタ「え。嵐を消しちゃダメよ。テントの代わりを作ってくれるの?」

マアマ「バリアー」


無難そうな返事が来た。

簡易テントには不満があったので嬉しい提案かもしれない。


アルフ「おぉ。なんか格好いいぞ」

ベルタ「そうね。嵐の規模次第ではテントでも不安だし。お願いしましょうか」

マアマ「どっかーん」


ベルタはマアマを振る。

アルフ一行の周囲に直径10mほどの透明なドームが作られた。


状況を確認して周るアルフ。


アルフ「おー。よく分かんねぇけど。円の範囲に雨が落ちなくなってるな」

ベルタ「見えない壁を作ってくれたのね」


壁があるであろう場所に手足を突っ込んでみるアルフ。

何も無いかのように素通りする。

壁の外側では強い雨風が当たる。


アルフ「壁って言うけど。雨の落ちる場所へも出られるぞ」

ベルタ「雨風とか飛来物だけ防いでくれてるのかな。雨風の音すらしないわね」

マアマ「えっへん」

アルフ「相変わらず器用なもんだな」


一頻り感心するアルフとベルタ。

ちょっとした運動をするにも、調理をするにも十分な広さだ。


ベルタ「この広さなら窮屈な思いもしなくていいわね。夕食時も近いし食事休憩にしましょうか」

アルフ「賛成。どうせ降るなら雨より肉が降って欲しかったな」


ボトボトボトッ


アルフの目の前に焼き鳥が降る。


アルフ「うぉ?俺、魔法使いになっちまった?」

ベルタ「何言ってんのよ。群れが飛んでたのよ。マアマさんにお願いしたわ」


アルフの後ろでベルタが狩っていただけだった。


大喜びのアルフ。

マアマの焼き鳥は町の食事よりも遥かに美味しいのである。


アルフ「嵐ばんざーい」

ベルタ「でも、このまま風が強くなると鳥も飛べなくなりそうね」


食事を終えても風の勢いは増す一方であった。


ベルタ「なんか。すっごい嵐になっちゃったわね。マアマさんが居なかったら帰還してたかも」


頷くアルフ。

多少運動出来る広さがあるとは言え、やりたい事も無い。

飛んでくる瓦礫を見るのも飽きた。


アルフ「当分動けそうにねぇな。寝ちまうか」

ベルタ「そうねぇ。まだ早いけど景色見てると色々飛んできて怖いしね」


早いとは言え、雨雲のせいで周囲は闇に包まれている。

眠るには支障の無い状況だった。

アルフ一行はバリアの中で一夜を明かす。


アルフ「あ~よく寝た。お。晴れてるな」

ベルタ「・・・何だか分かんないけど、すっごいチャンスを逃した気がする」


気持ちの良い朝。

だがベルタは何故か不満そうだ。


アルフ「へ?あの嵐の中にチャンスがあったのか?」

ベルタ「そんなのある訳無いわよねぇ。でも何だろこの感じ。絶対逃しちゃいけない機会だったような」

アルフ「気のせいだろ。良い夢見て、忘れてしまったとかじゃねぇの」

ベルタ「うーん。まぁどうしようも無いし気にしてもしょうがないか」


強いストレスを感じながらも全く原因が思い当たらないベルタ。

考えても無駄のようなので諦めて気を取り直す。


身支度を整えて旅を再開しようとするアルフ一行。


アルフ「おー。すっげぇ良い風。追い風に乗って気持ちよく行けそうだ」

ベルタ「本当ね。こんな気持ち良い風は初めてかも。まるで・・・!」


ベルタの顔が歪む。

何を逃したのか、その可能性に閃いたのだ。

ベルタはガルマの顔を覗き込む。

ガルマは黙って視線を逸らす。


ベルタ「やっぱり!シルフ様ですよね?いらしてたんですよね?」

マアマ「あはははは」


笑って肯定するマアマ。

寝ている間に去ってしまったようだ。


ベルタ「あぁああん。起こして欲しかったです・・・」

ガルマ「よく分かったな。挨拶に寄っただけだ。起こした所で目が覚める前に去っておったろう」


塞ぎこむベルタ。

ガルマは気付かれるとは思っていなかったようだ。


ぶつぶつ呟きながらいじけるベルタ。


ベルタ「こんな事なら寝るんじゃなかったなぁ。風の強い日は起きてようかな」

ガルマ「マアマが居るのに四大元素精霊にこだわらずともよかろう」


ベルタの心情を理解し難いガルマ。

ベルタはじっとマアマを見やる。


ベルタ「・・・マアマさん。威厳を示せます?」

マアマ「えっへん」


ベルタの期待に応えてみせるマアマ。

脱力して突っ伏すベルタ。


ベルタ「うぅぅ。実力と憧れって違うんですよおぉぉぉ」

マアマ「あはははは」


ベルタが求めるものでは無かったようだ。

アルフにもベルタの心情は分からない。


アルフ「ベルタは威厳が欲しいのか」

ベルタ「そうじゃない・・・と思うんだけど。マアマさんは出会った時の姿がアルフだったし」

アルフ「俺のせいかよ」

マアマ「あはははは」


今解き明かされる謎。

マアマへの憧れが乏しい原因はアルフだった。


ベルタ「理屈では分かるんですけどねぇ。理屈じゃないんですよ憧れは・・・」


能天気なアルフをイメージしてしまっては憧れも飛んでしまうのであろう。


アルフ「物語ではどれも四大元素精霊様々だったしな」

ベルタ「そうなのよ。これもお墓と同じような固定観念ねぇ」


ベルタの憧れは、幼い頃からの物語で刷り込まれていたのだ。

自身の問題と自覚するベルタ。


固定観念と聞いて昨日の精神論を思い出すアルフ。


アルフ「がんばって払拭しないとな。それも精神を鍛えれば何とかなるんじゃね」

ベルタ「あんたは何の固定観念も無くて良さそうね」


何の悩みも無さそうなアルフが羨ましく見えるベルタ。

アルフは胸を張って答える。


アルフ「おぉ。ベルタ以外に怖いもんはねぇ」

ベルタ「はぁ。課題山積みだなぁ。身体は鍛えてきたけど精神の鍛え方なんてさっぱりだわ」


怒りを抑えようとは昨日決めた。

だが固定観念の払拭には役立ちそうに無い。


鍛えるという言葉から、また何か思い付くアルフ。


アルフ「多分だけどさ。この間のグールとの戦闘なんかも役立ってると思うぜ」

ベルタ「そうかしら。ただ怖かっただけの気がするけど」

アルフ「怖さから逃げずに戦ったって事だろ。それって精神の鍛錬ぽくね?」

ベルタ「何よアルフ。昨日から妙に冴えてる感じよね」


アルフを賞賛するベルタ。

怒りを抑えるのとは別の精神鍛錬手段として有効そうだ。


アルフ「いや普段からこうだと思うんだけど。俺を妙に蔑視してね?」

ベルタ「確かにねぇ。そうか、精神を鍛えるってそういう手もあるのかも」


敢えて問いには答えずに提案を評価するベルタ。

アルフは諦め顔で続ける。


アルフ「スルーかよ。まぁ俗に言う負の感情て奴?から逃げずに向き合う事なんだろうな」

ベルタ「すっごーい。本当に見直したわよアルフ」


ベルタの欲しい言葉を立て続けにアルフが放っている。

もしかすると今までの能天気はただのポーズだったのかと思えてきたベルタ。


アルフ「おぉ。お前が読んでくれた本だ。そんな風な事を書いてあった覚えがある」


オチはただの受け売りだった。

がっかり感と、小ばかにされた感じで、気分が一転するベルタ。


ベルタ「何よそれ。あたしだけ覚えが悪いみたいじゃない」

アルフ「だからすぐに何でも怒りに結びつけるなって。たまたま思い出しただけだよ」


正直に話しただけで怒られるアルフ。

ベルタを悪く言ったつもりは全く無いのだ。


ベルタも機嫌を直して具体的な方法を考える。


ベルタ「でもそれって。自分が負の感情に捉われてる事を自覚しないとダメよね」

アルフ「そりゃそうだな」

ベルタ「まずはそこからか。常に自分の感情を意識・・・いやムリ」

アルフ「何か自覚するきっかけが無いとな」

ベルタ「そうよねぇ。感情に流された後だと何も見えない感じだし。流されないようにかぁ」

アルフ「それだとまた常に意識って話になりそうだな」


考えても堂々巡りになりそうである。

そこでベルタはふと思う。

ろくに考えずに行動しているアルフはどうなのか。

騒動でも殆ど動じていない事を思い出す。


ベルタ「あんたはどうなのよ。常に平静って感じだけど」

アルフ「俺?そんな格好良いかな」


照れるアルフに真顔で返すベルタ。


ベルタ「格好良いとは言ってないわよ」

アルフ「常に平静って格好良くねぇのか・・・俺の場合は気にする事があんまり無いからかな?」


アルフの回答に納得するベルタ。

精神が強いというよりも、何があっても気にして無いだけなのだ。

精神的プレッシャーに耐えているのではない。

感じてすらいないのだ。


ベルタ「そうね。賊や兵にいきなり囲まれても平然としてるし。気にしないにも程がある感じよね」

アルフ「死んだらその時って考え方が抜けきってねぇからかな。先の事は運任せだ」


確かに死を恐れていないなら何があっても動じないかもしれない。

まさに能天気の極みである。


ベルタ「精神力では能天気が最強かぁ。運に逆らえないのは分かったけど任せるのもねぇ」

アルフ「ちなみに俺も常に平然としてる訳じゃねぇぞ。お前が怒った時はちゃんとびびってる」


誤解が無いよう、怖いものがある事を正直に補足するアルフ。

目が点になるベルタ。


ベルタ「何で死を恐れないのに、あたしを恐れるのよ」

アルフ「本能?」

ベルタ「何であんたの本能に、あたしが入ってるのよ」

アルフ「あれだ。孵化した雛が最初に見た、動く物を親とみなすやつ」

ベルタ「人にはそんなの無いわよ。でも何となく分かったわ。要は考えるから感情も動くのよね」


賊や兵に対する恐怖は、アルフには経験が無い。

だが半年の村生活で、ベルタからの恐怖は身に染みている。

つまりは、経験に基づいて先を考える事が、感情に影響するのだろう。


アルフ「まぁ。ベルタのゲンコツが飛んできても、当たると考えなければ怖くないかもな」


アルフも納得する。

何も考えなければどんな感情も湧いてこないかも知れない。


ベルタ「なら考える事をきっかけにして、感情を意識すべきかも」

アルフ「何か考える度に感情確認か。俺にはムリだと思うけど。挑戦してみるのはいいんじゃね」

ベルタ「あたしも出来ると思ってる訳じゃないけどね。感情を意識する練習の仕方としてね」


全ての状況での適用はムリだとベルタにも分かっている。

だが考えようとする時点で、冷静な意識が保たれている可能性が高い。

ならば感情に意識を向けるきっかけになる可能性も高い。

意識できる時だけでも意識していればクセが付くと考えたのだ。


アルフ「ならいいんじゃね。強そうな奴に喧嘩売りながら鍛える訳にもいかねぇしな」

ベルタ「そもそも、その方法だと恐怖心くらいしか鍛えられないでしょ」

アルフ「だな。ベルタの場合は怒りや悲しみへの耐性を上げる事が先だろうし」


アルフの言葉で憂鬱になるベルタ。

鍛えるには経験して耐える必要があるのだろう。


ベルタ「どっちも味わいたく無いわね」

アルフ「悲劇を目の当たりにすれば、どっちの感情も湧くだろうけど。起こす訳にもいかねぇしな」

ベルタ「ありえないわよ」


マアマにアイコンタクトを取ってガルマが助言する。

武器に宿ったマアマも、ガルマには直接見えるのだ。


ガルマ「直接負の感情に向き合うのは効果的だが機は少ない。苦痛に耐える事で精神力を鍛えてもよかろう」


待ちに待ったガルマの助言。

それもベルタに向いた手段でやれそうなニュアンス。

悲壮だったベルタの顔が一気に明るくなる。


ベルタ「ありがとうございます!それなら出来そうな気がしますね」


アルフには疑問が湧く。

ベルタに一番の課題は精神が対象である事だ。


アルフ「苦痛って。肉体的じゃなくて精神的なやつだよな?」

ベルタ「う」


恐る恐るガルマに視線を移すベルタ。

ガルマは案ずるなと言わんばかりに説明する。


ガルマ「肉体的な苦痛も、耐えるのは精神だからな。感情の揺れに対しても、ある程度は耐える鍛錬になろう」

ベルタ「なるほど。個別の感情を抑えるのでは無く、精神の耐久力を上げる訳ですか」


納得して気力が湧くベルタ。

肉体的な苦痛であれば、あまり気にならない性格である。

精神の耐久力が上がれば、固定観念を払拭する役にも立ちそうな気がする。


ガルマ「ある程度の時間を耐えられれば、その間に感情の暴走に気付いて抑える事もできよう」

ベルタ「わかりました!マアマさん500kg追加お願いします!」


早速行動しようとするベルタ。

だが即座につっこむアルフ。


アルフ「いや。それは違うくね?それで精神が鍛えられるなら、お前既に無敵だろ」

ガルマ「喜んで受け入れていては苦痛と感じぬであろうな」

マアマ「あはははは」


ガルマとマアマもアルフに同意する。

ベルタも理解するが、今回は特に落ち込まないようだ。


ベルタ「そっか。喜んじゃダメですよね。でもこれなら方法が見つかりそうなので考えてみます」


話はまとまった。

ベルタの精神修行は進みそうである。


アルフ「んじゃ行くか。シルフ様とやらの残した風が背中を押してくれる間に」

ベルタ「そうね。ムダにするなんてありえないわ。進みながら考えましょう」


アルフ一行は旅を再開した。


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