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あたしのせいじゃなーい  作者: わかいんだー
本章~ファンタジックな旅の日常~
20/52

おまけ:嘘で染まる世界

アルフ一行は神殿跡を歩いていた。

かなり長い間、廃墟と化したままのようだ。

人影は無く殺風景である。


アルフは荒野を行くが如く、周囲を気にも留めずに先導する。


ベルタは神殿が廃れた理由が気に掛かって呟く。


ベルタ「廃れてしまっていますが・・・ここは竜神様を祭る神殿だったのでしょうか」


ガルマは一瞥して、くだらなそうに答える。


ガルマ「いや。妄想の神を祭っておったようだ」


ベルタは、ありえないと思った。

あまりにもバカげた話だ。

如何に人が愚かとは言え、存在しない者を神として祭るなど。


ベルタ「居もしない神を祭っていたのですか」


だがガルマにとっては見慣れた事であった。

いつの世界の人も、在りもしない物事を信じようとする。


ガルマ「居ると信じる者共が居ったのであろうな」


ならば居ると信じた根拠がある筈だとベルタは考える。

だが妄想に根拠など存在しない。

虚偽の根拠で信仰を広めようとした者が居たという事であろう。


ベルタ「広めた側は、居ない事を知っていたのですよね」


ガルマは即肯定する。


ガルマ「そうであろうな」


意図的に妄想の神が祭り上げられたであろう事をベルタは理解する。

だが妄想の神に何を祈るというのだ。

祭れば恩恵が得られるとでも言うのか。


ベルタ「そんな事をして何の意味があったのでしょうね」


ガルマとしては、説明したい事柄では無い。

だがベルタであれば問題無かろうと説明する。


ガルマ「寄付金を集めたり。権力闘争に利用したり。道を違えた者にとっては大きな意味があろう」


ベルタも理解する。

信者であれば、神の啓示だと言うだけで、何にでも従うであろう。

妄想の神であれば、信教を広めた側で、幾らでも都合よく啓示を捏造出来る。


ベルタ「神を騙った詐欺ではないですか」


神と同行しているも同然のベルタにとって、許し難い怒りが湧く。

だがガルマは当然の事であるかのように別の事例を説く。


ガルマ「善意と称して祭られたものもあるぞ。人は弱い故に何かに頼らねば生きてゆけぬ、とかな」


詐欺行為を善意などと、詭弁にも程がある。

頼れもせぬ妄想の神に頼った所で、結局は生きてゆけぬ事に変わりは無い。

努力する機会を奪われるだけである。


ベルタ「そんなの善意じゃありませんよ」


怒るベルタに、ガルマは素っ気無く答える。


ガルマ「人が勝手に善だと称しておるのだ。我は知らぬ」


そうなのだ、善悪は人が勝手に決めているだけなのだ。

実質的に、善悪とは妄想の神と同じなのだ。

善悪もただの信仰に過ぎないのだという事にベルタは気付く。


だがよりにもよって、神を騙るなどという行為が、神に許されても良いのか。


ベルタ「偽の神が祭られているなんて。本物の神として、竜神様はお怒りにならないのですか」


ベルタと対照的に、ガルマには怒りの欠片も無い。

人が愚かである以上、当然に起こりえる事なのだと。


ガルマ「偽の神に騙されるのは当人の問題だ。自身で考えて判断する事を怠った結果だ」


確かに騙される側にも非はあろう。

それでも問題の根源は騙す方だと思うベルタ。


ベルタ「騙す側は放って置くべきでは無いと思います」


ガルマは頷いて答える。

期待した答えであると。

だがそれを為すのは竜神では無い。


ガルマ「そう考えた者が対応すればよい。それこそが成長の機会」


ベルタは理解する。

偽の神の信仰は、竜神から赦されている訳では無い。

成長の機会とする為の苦難として、放置されているのだと。


だが神殿跡の規模から見ると、相当数の信者が居た筈だ。

このように成長してしまった信仰に対応などできるのか。


ベルタ「騙す側が上手で勢力を持ってしまうと、騙されない側は抵抗出来なくなりませんか」


ガルマはまた頷いて答える。

だが今度は残念そうだ。


ガルマ「その時には導きが示されよう。人の世界は滅ぶ事になる」


やっぱり、そういう事だったのかと思うベルタ。

人の世界を何度も滅ぼしてきた、と以前にガルマから聞いていた。

だが、道を違えた人が居るからと、世界ごと滅ぼしてしまうなんて、おかしいとは思っていたのだ。

まともな人も残っていたであろうに。


だが今の説明で分かった。

滅ぼされた世界は、まともな人が残らない状況にまで、陥ってしまっていたという事なのだろう。

人の手によって。


ベルタ「そうならないようにして欲しいのですけどね・・・」

ガルマ「そうならないようにすればよいのだ」


ガルマの言い分は理解できるが、あまりに重いと思うベルタ。

確かに、人が自ら勝手に選んだ破滅への道である。

竜神が指し示した訳では無く、何とかしてくれと思うのは筋違いだ。

自業自得と言えよう。

だが、もう少しやりようが無いのかと。



神殿跡を抜けると墓場が広がっていた。


アルフは全く気にせずに先導を続ける。

ベルタとガルマの会話も聞いているのかいないのか。

少なくとも興味は無いようだ。


ベルタは墓を見て哀れに思い呟く。


ベルタ「居ない神を信じて葬られた人達の霊は浮かばれませんよねぇ」


だがガルマは即座に否定する。


ガルマ「人の死霊など居らぬ」


ベルタは素っ頓狂な声をあげる。

肉体を持たぬ竜に連なる者も、霊のようなものではないのかと。


ベルタ「へ」


何を驚くのかと言わんばかりに、ガルマは淡々と説明する。


ガルマ「墓など、屍を埋めた場所の目印に過ぎぬ。屍は土に還る故、何の意味も無い」


墓には先祖が眠ると聞かされてきたベルタは戸惑う。

それは誰も疑う余地の無い常識だったのだ。


ベルタ「では、人は死んだら完全に消えてしまうのですか」


ガルマは肯定する。

人は死んだら終わりなのである。

だが死を先延ばしにする方法はある。


ガルマ「うむ。生前に代替の身体を用意すれば、生き続ける事は可能だがな。先日のホムンクルスのように」


つまり死んだら消えるというのは、今の身体が死んだらという意味では無い。

ベルタは矛盾を感じながら問う。


ベルタ「・・・それって、身体と意思が別に存在するから、意思を移せるって事では無いのですか?」


だがガルマは矛盾など何も無いとばかりに肯定する。


ガルマ「その通りだ」


ただ肯定されても矛盾を感じたままのベルタ。

具体的な説明を求める。


ベルタ「ならば、身体が死ねば、意思が霊になるのではありませんか?」


考え方は間違っていない。

だが意思が霊になるには自我が必要なのだ。

人の意思が自我を保つ上で、身体が必要である事をガルマは説明する。


ガルマ「人は記憶や感覚の全てを身体に依存しておる。故に身体を失うと、意思は自我を失って霧散するのだ」


ベルタは納得した。

記憶の総てを失っては考える事すら出来ない。

身体が死んだ時点で生存本能すら無いのだろう。

欲望も本能も何も無く、ただエネルギーを消費して消え行くだけなのだと。


ベルタ「・・・人の死霊は居ないけど生霊は居るって事ですかね」

ガルマ「うむ」


ベルタは、転生や記憶の移植が可能である理由を理解した。

身体に刻まれた記録を何かに残せば霊にはなれるのであろうと。

物理的な身体を持たぬ、精霊や竜に連なる者が存在する以上、物質以外に残す方法もありそうだ。


ベルタは墓で、先祖の霊に話しかけていた事を思い出して呟く。


ベルタ「村に居た頃はお墓参りによく行っていましたが。まさか無意味だったなんて」


ガルマの反応は冷たい。


ガルマ「偽の神と同じ事だ。自身で考えて判断した結果だ」


ベルタはむっとする。

仕方の無い状況だったと反論する。


ベルタ「お墓に御先祖様が眠っておられるというのは常識でしたから。疑う余地なんてありませんでしたよ」


ガルマは反論には直接答えない。

その発言を待っていたかのように、逆に問いかける。


ガルマ「広めた者を罰したいか?」


ガルマの言わんとする事は分かる。

偽の神の信者と同じような状況に、ベルタ自身が置かれていたのだ。

先ほどは、竜神が放置すべきではないと怒った所であり、ベルタが動くべき状況の筈である。


ベルタ「・・・自分でも変ですけど。そうは思いませんね。御先祖様を敬う機会にはなっていたかも」


理屈の上では湧く筈の怒りが、何故かベルタには湧かなかった。

ガルマは頷いて答える。


ガルマ「偽の神とはそういうものなのだ」


騙された当人が不快に思わない故に、騙す側が放置され続ける。

その結果として被害は拡大し続ける。

今の世界をガルマは評価しているが、滅びの種は残っているという事だろう。

そう考えるとベルタは欝になる。


ベルタ「思ったよりも凄く厄介そうですね・・・」



アルフは巨大な円卓のような墓石の上に座って待ち構えている。

さっさと来いと言わんばかりに墓石をペンペン叩いている。


アルフ「ここで飯にしようぜい。地面はべとべとしてるしさ」


ベルタが反射的に激高する。


ベルタ「あんた。墓石の上に座るなんて罰当たり過ぎるでしょ。それに墓場で食事なんて」


そんなベルタの言葉を遮るように、ガルマが呟く。


ガルマ「アルフは騙されてはおらぬようだな」

ベルタ「ぐ」


ベルタは苦悩する。

理屈の上では、あたしが間違っていると分かる。

でも今までの常識がぁああああ!


葛藤するベルタを見てアルフは察する。

墓石を飛び降りて再び歩き出した。


アルフ「嫌ならムリにとは言わないさ。ただ丁度良い場所があったと思っただけだしさ」


アルフとしてはベルタをムリに説得する理由など無い。

飯さえ食えればどこでも良いのだ。


ベルタ「ごめん。頭では分かってるつもり。でもしばらくはムリそう」


ベルタは固定観念の恐ろしさを自覚した。


学ぶより拓く事を選択したホムンクルスに、ガルマが感心していた事を思い出す。

その時、ベルタには感心の主旨が分からなかった。

確かに自力で拓く事の意義は大きいだろうが、独力では限度がある。

先人の知恵を学ぶ事も、自力で拓く事に劣らぬ重要な事であろうと。


でも今、ベルタには分かった気がする。

先人の知恵の代表とも言える、常識ですら誤っている事があるのだ。

下手に誤りを学ぶと、固定観念として刷り込まれてしまう。

それは自身にとって、祓い難い大きな障害となってしまうのだ。


今までは、自分で考えて判断するなんて当然の事だと思っていた。

しかし常識まで含むとなると、難し過ぎないですか!?


ベルタの苦悩を察してガルマが助言する。


ガルマ「道を違えぬ事は重要だ。だが違えぬ事は難しい。違えた事に気づけたなら正せば良い」


固定観念は簡単に正せそうに無いから葛藤しているのに。

正せと簡単に言われて不服そうなベルタ。


ベルタ「・・・はい。常に気付ければ良いのですけどね」


ガルマはベルタの不服を察して付け加える。


ガルマ「常に自身で考えて判断する事だ。容易とは言わぬ」


簡単には正せぬ事を理解されて納得するベルタ。

同時に、ガルマが認めるほどに難しい事であるとも理解する。


ベルタ「ガルマさんが容易とは言わぬって厳しそうですね・・・でもやるしか無いんですよね」


最近誉められる事が多かったので、ベルタは気楽になっていた。

しかし今回は、道の険しさを改めて思い知る事になっていた。



墓場を抜けると、すぐに食事の場所を探すアルフ。


「グルルル・・・」


アルフの腹の虫では無い。

抑えているけど大きいという感じの唸り声。

声というより何かが鳴る音にも感じる。


ベルタ「気をつけて。獣の声がするわよ」


警戒するベルタに対し、アルフは全く動じない。


アルフ「おぉ。肉か」


見渡すと墓場の方から巨大なゴリラのような影が向ってくる。


ベルタ「何よあれ。獣人じゃないわよね」

アルフ「亜人にしてはでかすぎじゃね。いや巨人て線はあるのか」


アルフとベルタには見覚えが無い。

そのシルエットは人型ではあるが、あまりに大きく屈強そうだ。

身長は5mくらいあろうか。


ガルマ「グールだな」


ガルマは一瞥して答える。

だがガルマは何が現れても動じないので、ベルタには危険性が読み取れない。


ベルタ「何ですかそれ」


ガルマはベルタに視線を移し、すこし間を置いてから答える。

これからのベルタを観察するぞと言わんばかりに。


ガルマ「主に人の死肉を食らう鬼だ」


ベルタは心臓が飛び出さんばかりに驚く。

鬼とは数々の物語に登場する凶悪な怪物だ。

実在するとすら思っていなかった。


ベルタ「鬼!?し、瞬間帰還器で」


咄嗟に逃げようと考えるベルタ。

しかし瞬間帰還器を探そうとする手に、マアマを握っている事に気付く。


ベルタ「あ・・・そうだった。マアマさんの力を借りて何とかしなきゃ」


ようやく気付いて貰えて喜ぶマアマ。

殺る気満々である。


マアマ「あそぶー」


だが今までのガルマの助言を思い返すと、自力での努力をギリギリまで怠ってはならない。

これも成長の機会とする為に、出来るだけ自分の力で戦うのだとベルタは決意する。


ベルタ「あたしが殴るから、マアマさんはグールの攻撃を防いで頂戴」


マアマは殺る気を捨てて、素直に聞き入れる。

何だかんだ画策しても、ベルタの意志を尊重するのだ。


マアマ「あい」


ベルタはマアマに関する説明を思い返す。

マアマに守られていれば、何が相手であろうと傷一つ負わされる心配は無い。

自身はひたすら攻撃に専念すれば良い。

そう思いつつも、グールの巨体を目の前にすると恐怖感は半端無い。


ベルタ「あ、あたしだって成長してみせるんだから」


ベルタは決死の思いでグールに殴りかかる。

グールは避けようともせず、ベルタを片腕で薙ぎ払う。


グシャ


薙ぎ払おうとした腕ごと、グールの両脚をベルタが一撃で砕く。


グールの機敏性であれば、ベルタの攻撃を総て躱す事も可能であった。

マアマの力を防御に絞ったベルタでは、持久戦にならざるを得ない筈であった。

だが多くの人を葬ってきたグールの目には、ベルタのような小娘は脅威に映らず、舐めきっていたのだ。


しかしベルタの筋力は、ガルマの加護も加わって、人の常識を遥かに超えている。

武器はベルタ用に拵えられた、伝説級のオリハルコン製。

加えて服には700kg加重された状態なので、ウエイトでも負けていない。

防御を捨てた全力の一撃は、マアマの助力が無くても、グールの身体を粉砕するのに十分だった。


グール「グァアアアア」


両脚を失って、逃げる事も出来ずに倒れてもがくグール。

だがベルタは恐怖のあまり、殴る事しか考えてない。


ベルタ「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」


何故か謝りながら、グールを殴り続けるベルタ。

グールは原型をとどめぬほどに潰される。


見かねたガルマが制止する。


ガルマ「もうよい。ミンチになっておるぞ」


泣きながら一心不乱に殴っていたベルタが手を止める。

ピクリとも動かぬグールの骸を見て、既に勝負がついている事を理解する。


ベルタ「あ・・・」


ガルマは呆れたように諭す。


ガルマ「お主はどうも誤解しておるようだな。我は周囲の活用を促したが、戦えとは言って居らぬぞ」

ベルタ「・・・へ?」


何を言われているのか、すぐには理解出来ないベルタ。

苦難を乗り越えるとは、戦って打ち勝つ事では無いのか?


ガルマ「戦いを選択した事を責めておるのでは無い。それはそれで良い事だ」


良い選択をしたのに誤解をしていると言われて困惑するベルタ。


ベルタ「では?」


ガルマはため息混じりに答える。

これも脳筋のせいなのだろうなと。


ガルマ「お主は戦士では無い。この場所を守る必要も無い。逃げる事を選択しても何も問題は無い」


最良の行動を考えて選択する事が重要なのであり、その答えが戦闘であるとは限らないのだ。

苦難に挑む事と、苦難を選ぶ事は、全く別の事なのだ。


ベルタ「えー」


誤解の意味は分かった。

でも苦難に挑むってそういう事じゃないのと納得しかねるベルタ。


ガルマ「マアマでグールを粉砕するも、行動不能にするも自由だ。戦って倒す事にこだわる必要は無い」


言われてみれば、戦士でなければ進化出来ないと考えるのもおかしな話だ。

戦い以外で苦難を乗り越える道もあって当然なのだ。


ベルタ「なんて徒労・・・」


落ち込むベルタに追い討ちをかけるガルマ。

悪意は無い。


ガルマ「苦難に挑み乗り越える事は貴重な糧となろう。だが最良の手を考える事は、さらに大きな糧となる」


ベルタは声も無く両手をついて、ミンチになったグールを放心状態で見下ろす。


そこへ大勢の武装した集団が歩いてきた。

この辺りにグールが出没すると聞いて、討伐に来た一行だ。

既に犠牲者が多く、対策を練った上で装備も頭数も十分に揃えてきた。

目的地に佇むアルフ一行に気付いて声をかける。


「あれ。人が居るぜ」

「おーい。そこの人達。この辺りはグールが出るんで危ないですよ」

「これから俺達が狩るんで避難・・・ひ!?」


近づいた男の目に入ったのは、既に半身ミンチと化して倒れたグール。

そして、グールの死骸の上に顔を近づけた血まみれの少女。


「グ、グールを食ってる!?」

「まさかたった三人でグールを倒したのか?」

「いや返り血浴びてるのは一人だけみたいだぞ」

「やべぇぞこいつ。一旦町に戻って対策立て直すぞ」


武装してやってきた一行は大騒ぎしながら瞬間帰還器で一斉に消えた。


ベルタ「え?」


放心状態の短い間に起こった出来事。

ベルタには何が起こったのか分からない。


アルフとガルマは察する。

今帰還した一行が、町に戻って大騒ぎしているであろう事を。

アルフ「近くの町はスルーした方がよさそうだな」

ガルマ「ベルタは妙な噂を作る運命でも背負っておるのか」


その推測は的中していた。

グールの傍に居たのは三人。

そしてグールを貪っているように見えたのは少女。

噂のベルタで間違いないと、町では大騒ぎになっていた。

しばらく厳戒態勢が敷かれる事になった。


放心状態から覚めたベルタは吹っ切れたようだ。


ベルタ「でも、いいか。逃げられない時もあるだろうし。今の経験は活かせるかもしれない」


ガルマは同意する。

戦闘も良い経験になる事に間違いは無いのだ。


ガルマ「うむ。お主にとって、この経験は貴重な糧となろう」


満足そうなベルタにアルフが忠告する。


アルフ「とりあえず、その格好はマアマに何とかしてもらった方がいいと思うぜ」


ベルタはグールの返り血で全身べとべとになっていた。

気付いたベルタは血の気が引く。


ベルタ「うぇぇ。マアマさんお願いしますー」

マアマ「おっけー」


ベルタがマアマを一振りすると、服やリュックに染み付いた血痕まで一掃される。

綺麗になった身体を見たベルタが安堵して呟く。


ベルタ「マアマさんが居なかったら町にも寄れない所だったわね」

マアマ「あはははは」


綺麗になっても寄れる状況では無い。

アルフは遠まわしに忠告する。


アルフ「町には当分寄らないけどな」


町巡りが好きなベルタには納得がいかない。


ベルタ「えー。何でよ」


アルフは答えに窮する。

具体的に説明すればベルタが落ち込むのは目に見えている。

獣人呼ばわりの噂をされたくないと、強烈なアッパーカットを先日食らったばかりなのだ。


アルフ「これでもお前に気を使ってんだぜ」


要領を得ない返答だが、自分の為らしい事は察するベルタ。

拗ねながらも了承する。


ベルタ「何の事よ。全然分かんないわよ」


アルフは話題逸らしを兼ねて進路を示す。


アルフ「とりあえず。あんなもん見た後じゃ食欲も飛んじまったし。もう少し進んでおくか」


ベルタにとっては、かなり衝撃的な発言であった。

お陰で町の事は頭から吹っ飛んだ。


ベルタ「アルフの食欲が飛ぶなんて事があるのね・・・」


アルフは笑いながら答える。


アルフ「一時間ももたないだろうけどな」

ベルタ「でしょうねぇ。じゃあ、のんびり進みながら景色の良い場所でも探しましょうか」



アルフ一行は旅を再開する。


食事に良さそうな場所を探す振りをしながら、町から遠ざかろうとするアルフが健気であった。


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