表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あたしのせいじゃなーい  作者: わかいんだー
序章~出会いから旅立ちまで~
2/52

旅の始まり

ベルタ「とりあえず今晩の宿を決めないとね。隣町への瞬間帰還器持って来たからそこにしよっか」

アルフ「そっちは逆方向かな」

ベルタ「え、目的地なんて決めてるの?」

アルフ「いや、ただあっちから呼ばれてる気がする」

ベルタ「何よそれ!空が呼ぶ訳無いでしょ!それにどこに泊まる気よ」

アルフ「その辺?」

ベルタ「野宿する気?襲って下さいと言ってる様なもんじゃない。こっちは子供二人よ」

アルフ「そうは言っても毎日泊まれる程路銀は無いし、宿屋だって都合よく現れたりしないぜ」

ベルタ「じゃぁどうすんのよ」

アルフ「だからその辺」

言い争いながら歩いている間に陽が落ちかけてきた。


ベルタ「泊まる場所が無かったら隣町に飛ぶわよ!」

アルフ「なんかそこにでかい木がある。あの上なら獣は防げるんじゃね?」

ベルタ「枝で寝るって事?寝てる間に落ちるわよ」

よく見ると木の下で焚き火をしている者が居る様だ。

アルフ「先客居るみたいじゃん。経験者が一緒なら安心じゃね」

ベルタ「町に泊まらずに野宿なんて、怪しさ満点じゃない。盗賊かも知れないわよ」

話しかけるかどうかで揉めている間に陽が落ちて真っ暗になり、怖くなって折衷案で急いで妥協した。

もし襲ってきたら迷わず瞬間帰還器を使う、という前提で焚き火の主に話しかける事にした。


アルフ「おーい、盗賊の人じゃないですよね!?」

ベルタ「何言ってんのよ!」

焚き火の主「ん?・・・子供二人?旅の途中で親とはぐれでもしたのか」

座ったまま顔をあげて応える焚き火の主の顔は、人のものでは無かった。

夜の闇の中、焚き火で下から顔を照らす感じになっており、例え人の顔でも怖かったかもしれない。

ベルタ「きゃぁああああああ」


即座に叫びながら瞬間帰還器を使おうとするベルタ、その腕にしがみついて止めるアルフ。

全力でしがみついても腕一本抑えるのがやっと、というか抑え切れずに振り回される。

アルフ「おちつけー!気持ちは分かるが、この人は襲ってきた訳じゃない。いや人かどうかもしらんけど」

ベルタ「あ、あたしはおいしくないです!!!!!」

アルフ「それは分かってる」

ベルタ「あ?」

ベルタが落ち着きを取り戻した。


焚き火の主「竜人を見るのは初めてか?まぁ直接見る機会は殆ど無いか」

アルフ「はじめまして、お騒がせして申し訳有りません。俺はアルフ、こいつはベルタです」

ベルタ「ちょ、なんであんたがまともな挨拶できるのよ?」

アルフ「お前が読んでくれた本の中に挨拶もあったんで参考にしてみたぜ」

ベルタ「あんな物語でマナーを勉強してたって言うの?」

アルフ「あんなとは言うが俺にとってはそれが得られる常識の全てだったからな」

ベルタ「へぇ、ちょ~~~~っとは見直したわ」

焚き火の主は不思議そうに二人を見据える。子供がこちらを無視してじゃれあうのは普通だ。

だが会話の内容に違和感を覚える。物語が常識の全て、とはどういう事だ?

二人が落ち着いた所で話しかける。


焚き火の主「我はガルマ。旅の途中だ。何か用件があるなら聞こう」

アルフ「実は初めての旅に出た所なんだけど、野宿のやり方が分かんなくて、今晩世話になりたいなーって」

ベルタ「何でいきなりずうずうしい口調になるのよ」

ガルマ「なるほど。子供二人で旅とは訳有りそうだな。その辺りを聞きながら旅のレクチャーをしようか」

アルフ「やったー、下手したら喧嘩しながら一晩過ごす所だったぜ」

ベルタ「んな訳ないでしょ!そもそも初対面の人を、そんな簡単に信じていいの?見るからに怖いんだけど」

アルフ「そうか?俺の友達のトカゲと似てる気がして安心出来るぜ」

ベルタ「ちょっとあんた、なんて失礼な言い方」

ガルマ「気にするな。むしろ友人と似てるなどと言われるのは初めてで嬉しいぞ」

ベルタ「いえ、こいつ記憶が無くて、昆虫や爬虫類も覚えて無かったのか喜んで追いかけまわしてて・・・」

下手に説明する方が失礼な結果になりかねないと察してベルタは口を噤む。

ガルマ「ふむ、その辺りの境遇についても聞こうではないか」

アルフ「えーと、旅をしたらいろいろ思い出す夢を見たんだ。それで今日呼ばれた気がして出発したんだ」

ベルタ「はしょり過ぎで分かる訳無いじゃない!」

アルフ「えぇ~?う~ん、旅に関係する事って他にあったっけ」

ベルタ「あたしと出会う前の事は殆ど覚えて無いんでしょ。ならその後の事を話しなさいよ」

アルフ「そか、んじゃベルタ任せた」

ベルタ「何でそうなるのよ!」

遅々としながらも状況の説明は成された。


ガルマ「記憶が無い、か・・・」

ガルマはアルフを診てやろうとした。

事故による記憶喪失なら簡単に治してやれる可能性が高い。旅に出る必要も無くなるだろう。

ガルマ「な!?」

アルフ「どした?」

アルフをじっと見つめていたガルマが小さく呻いた事に驚いたが、アルフには自分が診られている自覚は無い。

ガルマに見えたのは記憶の消失では無く、過去の消失であった。

ベルタに出会う前の日、アルフはこの世界に存在していなかったのだ。


個人の記憶は個人の脳に記録される。消すも治すも個人レベルの話だ。

だが個人の過去は個人で持つ訳では無い。アカシックレコードに記録されている。

過去を消したり治したりというのは個人レベルの話では無く、歴史そのものの改竄に当たる。

簡単に治してやれるものではないのだ。


そもそも過去が存在しないとはどういう事なのか。

消された?成長した状態で造られた?どちらにしても何故言葉は覚えている?

人の因子を持つ竜である竜人のガルマに理解出来ぬ人の状態、それは本来ありえぬ状態であった。


過去が無いなら未来は?

診ようとしても霞んで見えない。

邪魔する力があるのは感じるが、その力の根源が自分にあるかのような妙な感覚。

我が探していたのは彼なのか?いや彼をこのような状況に陥れた者が他に居るのか?


アルフ「ガールーマーさーん!」

アルフに揺さぶられて我に返るガルマ。

ガルマ「すまぬ、少々お主の状態が気になって考えこんでおった」

ベルタ「よかった、硬直したまま微動だにしないし不安そうに見えたので心配になってました」

アルフ「え、不安?ベルタはガルマさんの表情読めるのか」

ベルタ「わかんないけど、なんていうか・・・雰囲気?がそう感じたのよ」


我に不安?ガルマは再び考える。竜に連なる者に不安という感情は存在し得ない。

不安とは恐れである。護れないかもしれない、成し遂げられないかもしれない、そのような負の感情を指す。


だが竜に連なる者が為すべきは竜神の導きに従う事のみであり、それは成されなくても何も恐れる事は無い。

失敗すれば次の導きが示されるであろうし、竜に連なる者が滅ぼされるような事象も実質的にありえない。

仮に自身が滅びたとしても何の悔いも未練も存在しない。

今までに世界を幾度も滅ぼしてきた側であり、何を失おうが滅びようが厭わない。

故に不安を感じる要素自体が存在しないのだ。


しかし目の前にありえない状況が存在するのも確かだ。

偶然迷子に遭遇したと思っていたが、偶然とは思えなくなった。


ガルマ「村からこちらへ向ってきた理由は空に呼ばれた、だったか?」

アルフ「空っていうか、星とか雲とか鳥?なんかそういうのひっくるめて、あっちに呼んでる気がしたんだ」

ガルマ「なるほど」

ベルタ「分かるんですか?」

ガルマ「いや」

むすっとふくれるベルタ。

ガルマ「ははは、ただ何となく想像はつくなと思っただけだ」

ベルタ「想像?」

ガルマ「鳥は移動するし雲も流れる。それが方向を示してるように感じさせる事がある」

ベルタ「星は止まってますよねぇ」

ガルマ「厳密には動いているが止まって見えるな。だがよく見ると瞬いているのが分かるだろ?」

ベルタ「え?えー本当だチカチカしてる」

ガルマ「そういうのを呼んでるように感じたのではないかな、と想像しただけだ」

ベルタ「アルフそうなの?」

アルフ「よくわかんねーけど、そうかも!」

ベルタ「そんな理由で慌てて旅に出て危険冒して野宿する羽目になったのね・・・」

アルフ「お陰でガルマさんに会えたし、結果オーライじゃね」

ベルタ「行き当たりばったり過ぎるのよ!」


偶然我がここに居る時に、偶然空に呼ばれた、か。

ガルマは子供達には誤魔化したが、説明とは全く別の理由を模索していた。

ベルタが切れそうなので、慌ててガルマに話題を振るアルフ。


アルフ「ガルマさんは、どこへ行くの?」

ガルマ「アテは無いな。気の向くままにあっちへぶらぶらこっちへぶらぶら」

アルフ「じゃぁ俺と一緒だ!」

背後にベルタの殺気を感じ身構えるアルフ。

ベルタ「あんたねぇ、それじゃ命が幾つあっても・・・」

アルフ「わ、わかった、考える、まじめに考えるから」


一方的に蹂躙されるアルフを見ながら、ガルマは思いに耽る。

アテが無いのは本当だ。だが目的が無い訳では無い。

目的を達する為のアテが無く、それを探して彷徨っている状態なのだ。

全てを見通す竜神に、見えぬ物が現れた。それが何かを突き止めねばならぬのだがアテが全く無い。

強いて言えば人が関わっている可能性が高い事。人の因子を持つガルマの方角から、見えぬ物が迫っていると。

故に人に混じって活動し易い竜人のガルマ自身が調査に赴いていた。


アルフ「思いついた、いい事考えたから、もう殴るのやめろって、ぐぁ」

ベルタ「はぁはぁはぁ いい事?」

アルフ「ガルマさん!アテが無いなら一緒に行こうぜ。そしたら俺達助かるし!」

ベルタ「あぁんたって奴はぁ!一晩お世話になるだけでも御迷惑おかけしてるのにどこまでずうずうしいのよ」

殴りつかれていた筈のベルタに怒りで気力が漲る。それを見て青ざめるアルフ。

アルフ「いや丁度旅立った日に出会うとか、運命感じね?」

ベルタ「そうね、今日ここで貴方が果てる運命なら感じるわ」

アルフ「おちつけって、そこまで怒ることもねぇだろ!?」

ベルタ「怒るわよ!まじめに考えた結果が他人頼みってありえないでしょ!旅は命がけなのよ!」


ガルマは思う、偶然でも策略でも無く運命か。

アルフの状態と竜神に見えぬ物は現象として似ていると言えなくもない。

そもそもアカシックレコードが改竄されたなら竜神が気付かぬ訳が無い。

だが見えぬ物とやらの先で改竄されたとすれば気付けなかった可能性がある。

どうせアテは無いのだしアルフに付いて観察しながら捜索を続けるべきか。


ガルマ「嬉しい話だ。我も一人旅には飽きてきておったのだ。しばらくお主に付き合ってみるか」

アルフ「やったー!ほらほら」

ベルタとしては赤の他人に対価も無しに保護を求めるような行為は恥ずかし過ぎて耐え難い。

だが子供二人だけの旅は余りに無謀過ぎる事も分かっていた。

ベルタ「・・・御協力頂けるならもの凄く助かります。本当に申し訳無いのですがどうか宜しくお願いします」


ガルマは子供達に自身の加護を分け与えた。身体能力を二倍程にしたので旅の間は大人並に動けるだろうと。

実際にはアルフはようやく同年代の子供並、ベルタは元々ゴリラ並だったのでとんでもない事になっていた。

三人の旅が始まった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ